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悪役令嬢、おばあちゃんの知恵で大聖女に?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜   作者: 小早川真寛
最終章

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すべての愛をこの一日に

 黒竜の手という大きな壁がなくなると同時に、目の前にいたはずの火竜が姿を消していた。逃げたのではない……黒竜に吹き飛ばされたのだ。森の中へ一本の道を作るようにして吹き飛ばされた跡があり、そのはるかかなたに火竜が居るのが分かった。


『さすが黒竜よのぉ。追いつけなんだ』


 愉快に笑いながらそう言って空から舞い降りたのはクリムゾン様だった。父を中心に視察団の中からはどよめきが起こる。獣人や魔物の存在にも驚いていた彼らだが、伝説の生き物が目の前に現れ驚きを隠せないのだろう。


『黒竜は、卵から孵るのもドラゴンの姿になるのも普通のドラゴンよりも魔力が必要なのじゃよ』


「だから私なんですか?」


『その通りじゃ黒竜の卵は大聖女でなければ孵せない。だから大聖女の従魔となる定めなのじゃよ』


 大量の魔力を使用することができる大聖女だから……ではなく、大聖女でなければ黒竜の卵を孵すことはできないのか――。


『大変な仕事だとは分かっていても、卵を孵す作業をそなたに託させてもらった。久々に黒竜が見たくなってのぉ。どうじゃ、この立派な姿』


 クリムゾン様の視線の先を見ると、火竜の二倍はあるであろう黒竜の姿があった。黒光りする鱗が規則正しく並ぶその身体は、神秘的でありながら堅牢な城壁のようでもある。


『母上、お怪我はありませんか?』


 その言葉に中身はカルだということを思い出させてくれる。


「カル、ありがとう。それと黒竜になれてよかったわね」


 一日も欠かすことなく、クリムゾン様の元へ通っていたカル。言葉には出さなかったが黒竜になりたく焦りすら感じているのを私達は知っていた。


『母上とクリムゾン様のおかげです!』


「そんなこと――」


「おいおいおい。何だよそれ。そんなもんまで隠し持っていたのか」


 アルフレッドの声に私はにわかに現実に引き戻される。地面に突っ伏していたアルフレッドは、ノロノロと起き上がり近寄ってきた。


「なぁ、グレイス。やっぱりお前と俺は結婚するべきなんだよ。なぁ、これからでも遅くない結婚しよう!」


「ですからキース様と結婚させていただきますと申し上げましたでしょ」


 私は反論しながら、キースさんの胸に抱きつく。言っても分からないならば見て理解してもらいたかった。


「そんな形だけの第一王子の何がいい。あぁ……ティアナの話だな。分かった。側妃は迎えないよ。だが王妃教育を受けておきながら、そんな心が狭いとは思わなかった」


 あまりにも話が通じていないことに思わず言葉を失う。それをアルフレッドは肯定と受け取ったのか二人の距離を縮め始めた。


「近づかないで」と叫びたかったが、泥まみれになりながらフラフラと近づいて来るアルフレッドの姿が恐ろしすぎて言葉が喉の奥から出てこない。あと数歩で手が届く……という時、


『母上に近づくな』


というカルの言葉と共に再び大きな手が私の前に現れ、勢いよくアルフレッドを吹き飛ばした。火竜ですら森の奥に吹き飛んだ威力だ。軽く触れただけなのだろうが、アルフレッドは血を吐きながら地面に突っ伏す。


『母上に害をなすものは許さない!』


「ダメ!!」


 止めようと叫んだが、間に合わずカルの腕が振り下ろされた瞬間、目の前に真っ赤な塊が飛び込んできた。


 オリヴィアだった。


 カルの手はアルフレッドではなくオリヴィアの喉元をさっくりと切り、勢いよく血しぶきが飛ぶ。火竜の咆哮があたりに響くと同時に、人型となったオリヴィアが現れた。慌ててその人としては巨大すぎる身体に私は駆け寄り回復するように念じる。


「ごめんね……。私バカだからぁ……」


 そんな私に弱々しくオリヴィアは微笑む。


「喋らないで。大丈夫。直ぐに良くなるから」


 そう元気づけるが、その言葉とは裏腹に私の手元は何時ものように温かくならない。念じ方が足りないのかと、改めて意識を集中させるがやはり反応がない。


「オリヴィアって名前……本当に嬉しかったぁ……。ここに居る時は女の子みたいになれて……楽しかったな……ありがとうねぇ」


「何言ってんのよ。こんな傷、大聖女の私に治せないはずないでしょ」


 強がってみるがやはり反応がない。どんどん私の中で焦りが大きくなる。早くしないと本当に死んでしまう。ポンッと肩を掴まれた。その方向を見ると背後に立っていたキースさんが力なく首を振っている。まるで「もう無理だ」と言わんばかりの彼の表情に身体の底から静かな絶望が這い上がってくるのを感じた。


「ど、どういう――」


「グレイスちゃんに会えてよかったぁ~~」


 その言葉を最後に私の目の前から霞のようにオリヴィアが消える。私は彼女の残像を見ていたのか――。私はこの日、産まれて初めて断末魔のような叫び声をあげた。


「いやああああああああああああああ!!!」


【御礼】

多数のブックマーク、評価をいただき本当にありがとうございます。

6時にもう一話更新いたします。


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