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ドラゴンを従魔とすることについて

 ドラゴンの生態についてもう少し詳しく知りたかった……と痛感するまで、カルが生まれてから一週間もかからなかった。


「かぁさん、今日も診療所なの?」


 朝早く起きて身支度をしていると六歳ぐらいの少年に成長したカルが私のスカートのすそを引っ張る。


「そうよ。今日も診療所。カルはクリムゾン様とドラゴンになる練習をしていらっしゃいね」


 獣人は意識するだけで簡単に人型になったり、魔物の姿になったりすることができる。勿論、それは火竜であるオリヴィアにおいても同じことなのだとか。ところが、カルはこれができない。


一週間もしないうちに六歳児程度の行動ができるようになったが、どうしてもドラゴンに変身ができない。パウラ達も獣人でありながら、魔物の姿になれないが似たような状態なのだろうか……。そこで平日の日中はカルの面倒を見るついでに、クリムゾン様がドラゴンになる練習を付けてくださっているのだ。


「かぁさんは、僕がドラゴンになれなかったら捨てちゃうの?」


 その言葉に振り返ると、今にも泣きだしそうな表情でカルが私を見上げていた。


「大丈夫よ。絶対捨てないわ。だってこんなに可愛いんですもの」


 小さなその顔を私は両手で包み、カルの額に自分の額をくっつける。


「クリムゾン様には内緒だけどね。正直、ドラゴンになられるとあんまり嬉しくないの」


「なんで?!」


「だってカルが大きなドラゴンになっちゃったら、一緒にベッドで寝られなくなっちゃうでしょ?」


 カルはクルリと部屋の隅にあるシングルサイズのベッドに視線を移して、なるほどとうなずく。


「本当だね。ドラゴンになっちゃったら、僕お外で寝なきゃいけないね」


 そもそも黒竜になれたとしたら、王都内で生活ができない可能性の方が高そうだが……。この純粋な瞳に見つめられると、現実逃避をしたくなってしまう。


「でもね、ドラゴンになれる練習はしておいた方がいいと思うわ。だってこの可愛い羽で空を飛べるようになるんでしょ?私、空を飛ぶのが夢だったの」


 背中でパタパタと動く羽を触ると、カルはくすぐったそうに身をよじった。


「空が飛べるようになったら、かぁさんを一番に乗せてあげるね」


「お願いしますね」


 そう言いながらカルの服を着替えさせようとすると、「僕できる!」と私の手を振り払って自分でパパっと服を着替えてしまった。来週にはドラゴンになれなくても、料理を作り始めているかもしれない。




「ドラゴンの子育てってこんなに簡単なんですね」


 温泉宿に訪れたエマはパクパクと一人で食事をするカルを感心したように見つめる。三日前まで手づかみで食べていたカルだが、既にスプーンとフォークは器用に使っている。エマには二歳の娘と息子がいるが、乳母が二人いないと生活ができないと何時も嘆いている。


「本当に驚きましたわ。正直、数ヶ月は寝られないものだと思っていましたもの」


「私は少なくとも眠れませんでしたわ」


 エマは貧民街での子育てのことを思い出したのか大きくため息をつく。


「同じドラゴンだけど知らなかった~~。これなら安心して私も子供作っちゃおう~~」


「え、オリヴィアって子供産めるの?」


「エマったら意地悪ぅ~~。カルちゃんみたいな可愛い男の子見ていたら、私も欲しくなっちゃったのよぉ~~」


 そう言いながらオリヴィアがカルを抱きしめようと身を乗り出し、それを避けるようにエマが素早くカルを抱き寄せてくれた。


「ちょっとカルに手を出したら私が承知しないわよ!」


「なによ!あんたなんて可愛い女の子だけじゃなくて、男の子までできたくせにっ!! 生意気なのよ」


 何だかんだと言い争いながら仲の良さそうな二人を見て私は不思議な気持ちになる。村長はオリヴィアが私の従魔になったというが目に見える変化はない。どちらかというとエマと一緒にいる時の方が楽しそうな気もする。


 コロもカルも私が名前を与えたため『従魔』と分類されているが、明らかに従僕というような関係性ではない。そのためオリヴィアの関係も変わらないのかもしれない。何にしろ、いざという時のために色々確認しておいた方がよいのかもしれない。


 鍾乳洞のテラス内……という爽やかな雰囲気の中で私は静かに現状について思い悩んでいた。


【御礼】

多数のブックマーク、評価をいただき本当にありがとうございます。


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