表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆ホラー?  作者: 手那
3/3

第3話 引き込む者

 ここは、至って何処にでもある様な普通の街。都会と言う程大きくもなく、田舎という程自然に溢れていたりしているわけもない。スーパー等の日用品といったお店や娯楽系のお店もそこそこある。

 人通りも普通にある、そんな至って普通の街だ。



 最近、そんな街に死亡事故が多発している。


 子供が急に川に落ちて溺れ死んだり、自転車が通行人に急に突っ込んだり、不意に道路に飛び出したりといった事故が多く発生している。

 その事故は人間だけでなく、飼い犬から野良の動物までもが事故で死んでいるのだ。


 目撃者からの共通点は全て、“急”、“不意に”という所と、聴取している側も首を傾げるしかない証言であった。

 目撃者の誰もが、何かに引っ張られたような、押されたように見えた等、まるで見えない何かに殺された様な証言だった。


 調査をしても確かに監視カメラに映っている所を確認しても不可解な動きがある。しかし、証拠もなく、カメラに映っていたその場にいた人間に尋ねても、その時その周辺には怪しい動きをしているような者はいなかっと言う。事故としか処理が出来ない状況だ。




 そんな中、4月になったばかりの時期に1人の少女が真相を解明すべく事故現場周辺を歩き回っていた。少女は高校生になったばかりなのにも関わらず、高校生活の新たな友人と遊ぶこともせず、この事件の真相を少しでも解明に近づければとここ最近毎日歩いている。


 そう、彼女も被害者の1人なのだ。物心ついた頃には一緒にいた愛犬の柴犬のシンバが散歩中に殺されてしまったのだ。

 いつもの様に、いつもの散歩コースを歩いていた。しかし、いつもなら他所の犬にも吠える事もなく、私と一緒にゆっくりと歩いて散歩するのだ。しかし、その日に限り、急に道路に向かって吠えたのだ。普段、家にいる時でも、ゴキブリ以外に吠える事がないシンバが吠えるとは何事かとその方向を見たが、いつもと同じように車が通っているだけだった。


「シンバ、どうしたの!?」


 道路に向かって吠えるシンバ、飛び出さないようにリードを引っ張るので必死だ。


「キャッ!?」

 不意に引っ張る力が抜け、尻餅を付いてしまう。


「キャィン!!?」


 その突如としてシンバの悲鳴の鳴き声が聞こえる。


「シンバ!?」

 鳴き声の方を見ると、道路にシンバが倒れていたのだ。車は逃げ出してしまったが、それよりもシンバの方が心配だ。慌てて立ち上がり、シンバに駆け寄る。


「クゥ~ン・・・」

 シンバを抱きかかえると、消えるような鳴き声と共に、首がだらんとなり、そのまま死んでしまったのだ。


 その日、シンバのリードを握り締め、リードさえ痛んでなければ、切れる事もなく、撥ねられることもなかったのに、私が殺したようなものだとベッドの中でも一日中泣いていた。


 泣き腫らした朝に、リードを見てふと気が付いた。リードの切れた端が、明らかに刃物で切られた跡なのだ。


 事故が多いという噂は前々からあった。まさか、透明人間とかがいるんじゃないのか?それか幽霊?そんな事が頭に過った。


 聞く話によると見えない何かは確かにいるはずなんだ。複数人がそのように見えているんだ、何かあるに違いない。

 そう確信して、毎日の様にシンバが死んだ場所を中心に、事故現場付近を歩いて、何かないか、何か起きた時に何か出来ないかと必死になっているのだ。



 ゾクッ。



『ワン!ワン!』


 一瞬寒気がしたと思えば、聞き覚えのある犬の鳴き声。


(まさか!?)


 道路の向こう側に、死んだはずのシンバの姿があった。その横に見知らぬ髭を生やした老人が立っており、シンバに繋がれたリードを握っている。


 まるで、別れの挨拶をしに来てくれたかのように『ワン!』ともう一度鳴くと老人に引かれて、向こうへと歩き出す。


「シンバ!待って!」


 謝りたかった。何者かがリードを切ったとしても、それに気付かなかった私が悪い。兎に角、もう一度シンバに触れて謝りたかった。その想いからつい、道路に飛び出そうとする。


『ワォーン!』


 直ぐ近くで聞こえた犬の声に驚き、足を止める。と、直後に車がクラクションを鳴らしながら勢いよく通り過ぎて行った。


(はぁはぁ、危なかった。もし、あのまま飛び出していたら車に轢かれているところだった)


 心臓をバクバクと大きな鼓動を立て息が上がる。


(・・・今の鳴き声、きっとシンバが止めてくれたのかな)


 シンバが守ってくれたと思えるような出来事に嬉しくなる。



 しかし、違和感に気付いた。


(・・・あれ?だとしたらさっきの老人と一緒にいたシンバは何?)


 そう、呼び止めてくれた鳴き声は自分の、少女の直ぐ近くから聞こえたのだ。違う犬という事もあり得るが、周囲には犬はいない。そして、少女にはシンバ以外に犬を飼った事がないし、野良犬に餌などあげて実は知らぬうちに恩を感じていてくれた何て可能性もないのだ。

 それに、思い返してみてもあの鳴き声はシンバだ。


(どういう事?)


 兎に角、さっきの老人が何者なのか追いかける必要がある。シンバに心の中でお礼を言いながらしっかりと車が来ていない事を確認しながら道路を渡る。


(まだ、そんなに遠くは行っていないはず)


 走って、老人が行った方向に行くが老人の姿が見渡せる範囲にはいない。


「すいません。柴犬を散歩していたお爺さん見ませんでしたか?」

 前からやって来た人に尋ねる。


「いや、この道は誰も通っていなかったけど?」

「そうですか、ありがとうございます」

 ペコリと頭を下げる。


 脇道にでも入ったのだろうか。


 覗いてみるが、そこは行き止まりだ。


 この辺りに住んでいる人なのだろうか。


 丁度、家から人が出て来た。


「すいません。この辺りで柴犬を飼っている方いらっしゃいますか?」

「柴犬?猫なら隣の人が飼っているけどねぇ。犬はこの辺りで飼っている人はいないよ」

「ありがとうございます」

 頭を下げ、道を戻る。


 ますます、おかしい。鳴き声は両方ともシンバの鳴き声だ。姿が見えたシンバが本物なら後から聞こえた鳴き声は?


 もし、本当に幽霊というものが存在するならあの髭を生やした老人は霊界案内人という事だよね?

 でも、なぜか殺意というか危険を感じた。実際、鳴き声とシンバの姿のお蔭で死に掛けたのだ。後から聞こえた声がなければ死んでいたと思う。


 だとすれば、きっと後から聞こえたのが本当のシンバ、という事になる。まぁ、幽霊というのが実在すればなんだけど。

 だけど、幽霊と考えれば辻褄が会う気がする。

 幽霊に能力があるのかどうかは知らないけど、きっとあの老人が幻覚を今までに見せていたのだろう。シンバがあそこ迄反応するという事はきっとゴキブリが道路にいたのだろう。そこに気が行っている間に、老人が近付いて刃物でリードを切ったのだと思う。相手は幽霊、霊感のない私から姿を隠すなんて簡単なのだろうきっと。



 何故、シンバがゴキブリに過剰に反応するのか。それは小さい頃、ゴキブリが飛翔してきて顔面に張り付いた最悪なおぞましい過去がある。その時は余りの事にわんわんと泣いた。それ以降、シンバはゴキブリを見るとやっつけようと、私を守ろうとしてくれるようになったのだ。

小さい頃からずっと・・・。


 なら、私を助けてくれた後から聞こえたシンバの声を信じるしかない。

 

 もしかしたら、また私の前に現れるかもしれない。あの老人が最近の事故を起こしているというのなら私を殺し損ねたという事になるのだからまた、殺しに来る可能性が高いはず。


 今日はもう遅い。相手は時間を気にしない様だし、また明日来よう。


 そう思い、帰路に着く。

 道路の向こう側に、その後ろ姿を見つめる老人の姿があった。



―――― 次の日


 学校が終わり、昨日老人がいた場所に向かう。


 今日は友達二人も一緒だ。香奈と茉莉だ。ずっと一緒にいようねと約束するぐらい仲が良かった二人だ。


 もしもの時の為に決死の覚悟で頼んでみた。この二人の友達は中学からの友人で、私がシンバの仇を取ろうと放課後に事故現場を歩き回っている事を知っている者達だ。昨日の事情を説明してお願いしたのだ。

 もし、ありえないモノを見たとしても絶対にその場を動かないでと念入りに注意をした。


 今回の一番の目的はあの老人が何者かという事だ。もし、現れて私以外に見えないならそれはきっと幽霊の類なのだろうと思う。


 一番、被害に合う可能性が高い私は道路側を歩く。

香奈が真ん中で茉莉が端、道路側が私だ。

そうする事で、もし友人二人が対象となって道路に飛び出しても止める事ができるかもしれないからだ。

 その幽霊は周りに人がいてもお構いなしに事故を起こしているのだから友人がいても関係なく襲ってくる可能性は十分にある。

だというのに、二人は死ぬ可能性があると言っても付いて来てくれたのだ。こんなに良い友達は今後も出来ないだろうなぁそう思いながら感謝の気持ちで一杯だった。




 いつも通り、人通りもそこそこあり、車も通っている。時間も前と同じぐらいだ。



「その老人?本当に出てくるのかなぁ?」

「どうだろう・・・」

 真ん中を歩いている香奈の問いに自信なさげに答える。


「いや!貴方を信じていないわけじゃないよ!ただ、今日は私達もいるから幽霊的にどうなのかなって思ってさ」

 慌てて訂正するように言う。


「うん、大丈夫分かってるよ。実際、噂だと周りに誰がいようとお構いなしだって聞くし、出る時は出るって感じで思ってるんだけど。それに、私は向こうからすれば殺し損ねたわけだから今度こそ殺しに来るような気がしているんだ」

「自分で言ってて大丈夫なの?警察に言った方が良いんじゃない?」

 香奈が心配そうにしてくれる。


「警察に言っても相手は幽霊だし、この手の話はきっと皆していると思うから相手にもして貰えないんじゃないかなぁ」

「でも、私も少しネットでだけどこの事を調べたけど噂の中に老人を見たなんてなかったよ?」

 茉莉が言ったように、不思議な事件とネット掲示板が作られる程になっている。嘘か真か様々な事が掛かれている。

 その中に、見えない誰かに引っ張られたとか突き飛ばされた等といった事も書かれていたのだ。

 私の場合は、地元という事で実際に見た人に直接そういった話も聞けた事、そして昨日の老人とシンバの不思議な現象を目の当たりしたからこそ、半信半疑だったその辺りの事は本当だと今では思う。



 雑談しながら昨日通った道を辿る。


 ゾクッ。


 急に寒気が来た。あの時と同じ感覚だ。


「出た!?」

「「えっ!?」


 脳内で何度もこの寒気が来たら言おうと何度も練習した。授業もちゃんと聞いていた様な記憶はない程脳内練習を繰り返しただけはある。


 視線の先には昨日見た老人が1人、道路の向こう側に立っていた。


「「どこ!?」」

 私が指を指した方向を見ても友人二人には見えない様だ。道路の向こう側に堂々といるのにも関わらず。


「・・・あんなに堂々といるのに見えないの?」

「見えない・・・」

「私も・・・」


 老人は変わらず不気味にこちらを見ている。


「もしかしたら、狙われている人しか見えないのかも・・・」

「ちょっ!?どうしてそんなに落ち着いているのよ!?」

「マジだったらやばいって!逃げようよ!」

 正直、自分でも不思議なぐらい落ち着いている。恐怖よりもシンバの仇を取りたいからだろうか。


 必死で逃げようと進言してくれている。だが、ここで逃げては何の為に今まで探していたのか。


 必死の決意で老人に駆け寄ろうとする。


「駄目だって!」

 ガッと香奈に腕を捕まえられる。


 その瞬間、目の前を車が通り過ぎていく。


 チッとここまで聞こえてくるような露骨な舌打ちをする老人。


「あ、ありがとう」

「もう、本当に死ぬところだったじゃん。もう、やばいって帰ろう!」

 必死で止めてくれる香奈。さっきまでと違い顔色も若干青い、本気で止めてくれているのが分かる。



でも、ずっと付け狙われることになるかもしれないし、もしかしたら、貴方が狙われることになるかもしれないんだよ!」

 それを言われたら香奈も引き下がるに引き下がれないのか、戸惑う。当然だろう、このまま帰って対象が自分になったら殺されるのだ。できれば、今解決して貰いたいと言うのが本音だろう。しかも、実際香奈がいなければ私は死んでいたのだろうから。それを目の前にしたのだ、香奈の恐怖はかなりのものだろう。


 プルルルル!プルルルル!


 香奈の電話が鳴る。



(シンバ・・・お願い力を貸して!)

 昨日助けてくれたシンバに祈り、今なお不気味に見ている老人を睨み付ける。



 プルルルル!プルルルル!


 香奈が電話の画面を見ると母親からだった。普段、母親から連絡が来るなんて直ぐに連絡を取りたい時だけだ。香奈は胸騒ぎがして、何故だかこの電話は直ぐに取らないといけないと感じた。その間も香奈は私を気にし続けている。


「・・・もしもし、どうしたの?」


 今度こそ車が通らないのを確認しながら渡ろうとする。


「行っちゃ駄目だよ!」

 茉莉が声を上げ、前に立ちふさがる。


「ワオォーーン!!」

 老人の向こう側からシンバが走ってくる。


「シンバ!・・・茉莉どいて!」

 茉莉の横を通ろうとすると茉莉が立ち塞がる。


 その間にシンバが老人に飛び掛かり、その牙を容赦なく老人に向ける。シンバは、この老人が主人の敵と、情けなど掛けてはならない敵だと分かっているのだ。

 老人が必死に抵抗している。


早く、シンバを助けに行かないと!


(車は・・・大丈夫。まだ行ける!)


「ワンワン!」

 シンバが老人を抑えながらこちらに向かって呼んでいる。


「駄目だって!」

 茉莉が頑なに立ち塞がる。


「・・・え!?」

 香奈が驚きの声を上げる。


「貴方、さっき、誰って言った?」

 香奈が声を震わせながら聞いてくる。


「さっき?茉莉の事?それよりも早くシンバを!」

 助けに行きたいのに何で二人とも邪魔をするの?と少しが苛立ち始める。


「今日・・・茉莉は学校来てないよ・・・」

「え?」

 香奈の震える声が続く。


「今、お母さんから電話があって、昨日・・・茉莉・・・は交通事故にあったって・・・」

「え?え?でも、ここに」

 私は香奈の言っている事に理解が追い付かなかった。現に目の前に茉莉がいるのだ。


「キャィン!?」

「シンバ!?」

 シンバが老人に蹴飛ばされたようだ。


「待って!!」

 大きな香奈の声に足が止まる。


「・・・落ち着いて聞いて。・・・茉莉は、そのまま・・・病院で亡くなったって」

「え!?意味が分からない!茉莉はここにいるよ!?」

 茉莉の方を見ると変わらずに立ち塞がっている。


「ワン!ワン!」

 シンバがこっちに向かって泣いている。


「私には、そこには・・・貴方1人見えない」


 ゾクッ。


 思わず老人の方を見る。すると、老人はニタァと笑っていた。こいつが茉莉を殺したんだ。


「貴方、ずっと一緒にいようって言ったよね」

「それは・・・!」

 そんな子供みたいな事を言うなんて、言葉の通り一緒にいるはずがない。ずっと良い関係でいようという意味という事ぐらい高校生にもなったら分かるだろうに。


「キャン!?」

 シンバが老人に蹴飛ばされた。


「シンバ待ってて!今行くから!」

「うん、逝ってらっしゃい」

 茉莉を躱して駆け出そうとすると茉莉はあっさりと道を譲ってくれた。後ろから「駄目――!!」と香奈の悲痛な叫びが聞こえる。それよりもシンバを助けたい一心でシンバに駆け寄る。



「この糞じじぃ!よくもシンバを!」

 言葉が荒くなるが、気にせずに近くによるとすぐさま老人に体当たりをして老人を見事に倒す事に成功する。見様見真似で老人の背中の上にのり、腕を後ろに引っ張り肩の上に体重を動けないようにする。


「何でこんな事を!?」

 老人に尋ねる。


「フェッフェッフェ。ワシの孫が理不尽に殺されたのに他の者が生きているなどこのわしには我慢できぬ。それだけよ!」

「そんな事で!?」

 不気味に笑う老人。


「どけい!貴様に用はない!」

 不意に暴れられ、見様見真似の拘束など簡単に解かれてしまった。


 道路に向かう老人、次の目的は香奈だと思って止めようと肩を掴む。


 が、その道路の向こう側に信じられない物を見た。


「目を開けて!ねぇ!」

「お、俺は悪くない!こいつがいきなり!」

「は、早く救急車を!」

 誰かがトラックに轢かれたようだ。香奈が必死に倒れている女性に呼び掛けている。


(あれ?・・・あれって・・・)

 倒れている女性に見覚えがあった。


「何じゃ?気づいておらんかったのか?貴様は既にこちら側じゃよ」


 老人の言葉で確信してしまった。そう、倒れている女性は私なのだ。


「じゃぁ、今ここにいる私は!?幽霊ってこと!?てか、死んじゃったの?」


「そうだよ。貴方は死んじゃったの。ごめん」

「茉莉!?」


(え!?今私幽霊何だよね!?それなのに会話できる茉莉って・・・え!?・・・そういえば、さっき、香奈が病院で亡くなったって・・・もしかして、そういうこと!?)


 さっき、老人は既にこちら側と言った。つまり、茉莉は恐らくこの老人に殺され、引き込まれたのだろう。そして、私を殺す為に茉莉を駒として使っていた。


「フェッフェッフェ。初仕事としては良くやった」

「ありがとう。おじいちゃん」

 茉莉が老人に後ろから肩を掴んでピョンピョンと撥ねている。


(そんな・・・茉莉が・・・)


「おじいちゃん、ご褒美欲しいな!」

「フェッフェッフェ。良かろう。言ってみなさい」

 まるで孫を可愛がるかのように答える老人。


「ほんと!?ありがとう!」

「フェッフェッフェ。それで何じゃ?」

 茉莉の喜ぶ声にまんざらでもない老人。知らない人が見れば仲の良いお爺さんと孫に見えるだろう。


「じゃぁ・・・消えて」

 懐から取り出したナイフで老人の首を茉莉が掻き切る。


「フェ!?」

 老人が驚きの表情のままそのまま地面に倒れ、粒子となって消えた。


「ま、茉莉・・・?」

「ごめんね。実は私もあのおじいちゃんに殺されちゃったの。でも、私があのおじいちゃんの孫とそっくりらしくてね、一緒に殺らないかって誘って来てね。チャンスをうかがっていたの。最初は、向こうも警戒していてね、殺せるような感じがしなかったんだけど、さっきのは完全に油断してたからね。殺っちゃった!」

 口早に明るく、嬉しそうに殺っちゃったという茉莉。少し、そんな友人に恐怖を覚えてしまう。


「実はね、私。おばあちゃんっ子だっていうのは知ってるよね?」

「うん・・・」

 茉莉の家に遊びに行った時もおばあちゃんおばあちゃんと言っていたのを覚えている。しかし、そのおばあちゃんは交通事故で最近、亡くなったのだ。


「まさか!?」

「うん、実は私もこの事件、このじじぃの事を探してたんだ。その途中にまんまと殺されちゃったの。私のおばあちゃんを使って」

 老人をおじいちゃんなどと呼ばず、爺と憎しみの籠った声で吐き捨てる様に言う。


「それで、絶好の復讐のチャンスだと思って誘いに乗ったの。それでまさかいきなり対象が貴方とは思わなかったけどね」

 まいったなーみたいな軽いノリで言う。


「どうして・・・?・・・どうして、私を殺す事に協力したの!?」

 震える声で茉莉に尋ねる。友達なら殺すどころか助けてくれたって良いはずだ。なのにどうして私を!?そう思わずにいられなかった。


「え?」

 だというのに、茉莉は何を言っているの?という表情だ。嫌な予感がした。いつの間にか足元に寄って来ていたシンバが顔を摺り寄せてくれる。


「だって、ずっと一緒にいようねって約束したから良いかなって思って」

「え!?」


 ゾクッと寒気がすると共に嫌な予感が的中したと感じた。


「だって、私も死んでいるから貴方も死ねばこれからず~~っと一緒に居られるでしょ?それにこっちにはシンバもいるしね。これから二人とシンバ、ずっと仲良く一緒にいましょうね~」

 うふふふ・・・と不気味に微笑む茉莉。


 死んだことが原因か、元々そういう気質があったのか分からないが既に茉莉は壊れていた。


「さぁ、行きましょう!この体なら何処へでも自由に行けるわ!」

 喜々として私の腕を取り、少女漫画の様に走ろうとする。


「そうね・・・シンバも、行こう」

 お父さんとお母さん、それに香奈には悲しい思いをさせちゃってごめんなさい。私は茉莉と共にこっちの世界で生きていきます。


 正直、茉莉から逃げれる気はしなかった。変に逆らえばきっと私を殺して自分も死ぬとか言い出すタイプだ。病んでいるのだ。

 生きている間はそんな事感じさせもしなかったが、死んだことでタガが外れたのだろうか。しかし、それ以外は普通に良い子で何の問題もないのだ。

 ある意味、異世界に来てシンバがいるとはいえ、話し相手がいるというのは大きい。成仏の方法があるのか知らないが、あの老人みたいにもう一度死ねば良いというわけでもない気がするし、そんな勇気は自分にはない。

 そう、自分を言い聞かせ茉莉とシンバと共に、倒れている自分の体をもう一度見て、香奈と親に心の中で謝り、死後の世界へと旅立つのであった。



 その後、不思議な事故死が怒る事はなかったという。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ