ノルンとノビムとノブフの花・8
短いかもですが、随時……加筆修正していきます。
静かな夜。虫も鳴かず、夜行性の動物たちも黙り込んでいる。極度な静寂は耳が逆に痛くなる。チットは自分の口から漏れる息づかいと、どくどくと脈打つ心音でさらに不安が押し寄せてくるのを自制心で抑えつけようと必死になる。が、土台無理なことだった。
ニヘトの家にたどり着いた頃には、使い古された雑巾のようにヘトヘトに疲弊していた。しかし、自らをチットは鼓舞してニヘトの家の門を叩く。
「ニヘト! いるか! チットだ!」
「こんな時間にどうしたんです?」と、ニヘトが扉を開けるとチットは掴みかかるような勢いでニヘトに詰問した。
「ノルン! ノルンを見なかったか?! どこを探してもいないんだ!」
そのチットの叫びに答えたのは、ニヘトではなかった。
「ノルン様が?! ……まさか。あそこに本当にいったんじゃあ?」
ノルンが居なくなったことを聞かされたニッケが、青ざめた顔で叫び上げた。
「知っているのか! ニッケ! なんでもいい、知っている事があったら教えてくれ!」
チットは藁にもすがる思いでニッケに詰め寄る。しかし、それをニヘトが制した。
「落ち着いてくださいよ、チット様。ニッケが怯えちまう。そんな剣幕で詰め寄ったら、話せるものも話せなくなりますよ」
「しかし……」そうチットが言葉をもらすと「しかしもヘチマもありません!」なんて威嚇するように言い放った。
たとえ主従の関係でも、子供が絡めばニヘトも遠慮はない。チットもそれは理解している。だが、チットも子供が絡んだことなのだ。親ならば、感情的にもなる。
「だが! こうしている合間にもノルンが! 俺は親失格だ……! こんなことになるなんて、どうして……」
チットは思考の海に落ちていく。あの時こうしていれば、誰でもない自分が気がつかなくてはいけなかったんだ、もう大人への第一歩を踏み出したとはいえ子供は子供なんだ。
そんな暗い考えで、頭がいっぱいになる。
「甘ったれないでください。チット様、あなたがそれでどうするのですか。あなたが悪いわけじゃない。誰も悪くない。生き物すべてに言えることです。何かを行動するのには理由がある。それを尊重してやりましょうよ。でも、心配なのはわかります。……ニッケ、わかることがあるなら教えなさい」
「お父さん……うん。えっと、チット様。多分ですけど、ノルン様はケト国に向かったはずです」
意を決したように、ニッケが怯えながらそう言った。
チットの中で点に線が結んだように、答えが導き出されていく。
--そうか! ノブフの花! くそっ! 簡単な答えじゃないか。今までの子供たちの行動を思えば、当然の答えだ!
「ありがとう、ニッケ。すまんな、ニヘト。俺はケト国に向かう! 少しの間、国は任せたぞニヘト」
言うが早いかチットは駆け出した。子供の足ならまだケト国には着いてはいないだろう。ならば、全力で走ればまだ間に合う。
--早くしねぇと、ケトの奴にうちの子を殺されちまう。ノビムが一緒なら尚更だ。間に合ってくれ。