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ノビムに約束の花園を  作者: 山波斬破
ノビムの初めての願い
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ノルンとノビムとノブフの花・5

 この季節だけに咲く花、ノブフの花。しかし、ノルンの元には、遅々として情報が集まらなかった。一番長生きしているチット国のノーブフでさえ知ってはいなかった。けれど、有力な情報はいきなり舞い込むものだ。



 ノルンとマグスが寛いでいると、意を決したようにニッケが発言した。


「ノルン様、聞いてくださいよ。お姉ちゃんがノブフの花の情報を手に入れたみたいなんですよ。しかも書物に残っていた情報らしくて情報としては確かみたいですよ」



 ノルンはニトイモで作られたお菓子を食べながら、ニッケの言葉に目を輝かせた。



「え? 本当か? ニッケ。それで、どんな情報なんだ?」



「それが、月が満ちし深夜--オガの風穴に吹雪の降りそそぐ時--淡く輝く光に飲み込まれて--大地の精霊の声を聞くだろう。なんて、詩文みたいな暗号で書かれていたらしくて。よくわからないんですよね」



 ニッケは威厳を出そうと、暗記してきた詩文を読み上げる。しかし、その声は若い。威厳は、どうにもない。



「月が満ちし……満月かなぁ? オガの風穴っていうのがわからないなぁ。それに大地の精霊の声を聞くって、その声を聞くことが咲く場所へのヒントが聞ける? ってことなのかな。分からないだらけだね」



 ノルンの疑問の声に答えを返せはしないが、マグスが願望を告げた。


「もういっそのこと神様だよりしたいですよね。都合よく知識の神様が現れてくれたらいいのですけど」



 それをヒントに、ピンと来たノルンが得意げに笑った。



「神様かぁ。神様--ねぇ! オガってあれかなぁ! オガト様の事かも! 伝説のノーブフ! 大地に穴を空けたノーブフの伝説の戦神と呼ばれた人!」



「「!!」」



「でも、そうだとすると。すぐに行ける距離だけど、立ち入りが難しいね。ケト国の領地だから」



「……ケト国ですね。古き風習を重んじる、チット様とは仲の悪いことで有名なケト様かぁ……無理じゃないですか? これ」



 マグスが眉根を寄せて、お手上げのポーズをする。


 ケト国はチット国の隣国でありながら、交流が一切ない国だ。チットの力の及ぶ場所ではない。



 むしろ関係が悪く、更に他の国とも交流を持たない氏族最高主義の国。



 この場合の氏族とは純粋な「赤髪黒角」のノーブフの事を指す。先祖代々、氏族である者だけを住まわせる国なのだ。



「僕なら行けるかもしれない。お父様の名前を告げなければいい。それに詐欺にならないよ。僕も氏族だからチットを名乗る必要はないからノルンで押し通せるし」



「「おぉ!! その手がありましたね!」」



「過去、類を見ないくらいに僕の姿かたちは純血よりも純血らしいって長老からのお墨付きもらえてるし!」



 自らの案にノルンは頷いて見せた。



「確かに、ノルン様はすごくノーブフらしい見た目をしていますよね! 特にその角はすごく立派ですよ。でも、僕は不思議なんですよね。髪が黒いのはダメなのに角は黒ければ黒いほど立派だなんて……」



「それはそうだよねマグスも、気になっていたんだね。んーと……」



 ニッケがどこか歯切れが悪そうに言った。



「それはさ種族的特徴だから、らしいよ。角の方が面積が小さいし、それに昔のノーブフが本能的に決めたことだってお父様から聞いたことがあるよ」



 どこか、空気が重くなる。それもそのはずで、ノルンの姉ノビムのことは一部の人間は知っているのだ。生まれた時に城にいた者が、信用の置ける者だけに話したのだ。それは、チットも許可している。



 誰も存在を知らないよりは、知っているものがいた方がいいと直感したのもあるが、そうしなければあの場にいた者を殺さなければならなくなっていたからだ。



「なんで姉ちゃんは、そんな風習のために閉じ込められなきゃいけないんだろう--」



 ノルンはそっと目を閉じて、顔を天を仰ぐように上向けた。ニッケとマグスはどこか居心地が悪そうに、共に目を閉じて黙ることで肯定するのだった。













「へぇ、ノブフの花がオガト様の空けた穴に咲いているかもしれない? よくそんな情報を手に入れたね、ノルン」



 ノビムは花が咲いたような笑顔を浮かべてノルンを労った。ノルンも嬉しそうに笑顔を浮かべている。頑張ったことを評価されることは嬉しいことだ。



 それに、大好きで大切な姉からの褒め言葉ならば喜びも一入(ひとしお)だろう。



「これで、お姉ちゃんにノブフの花を見せてあげられるかもしれない!」



「そう言えば満月は今夜だね。今から急げば行けるかもしれない。ノルン、頼みがあるんだ」



 ノビムが意を決したように、真剣な眼でノルンを見据える。そこには覚悟の色が見て取れた。



「なに? お姉ちゃんのお願いなら喜んで僕は受け入れるよ」



 屈託のない笑顔でノルンはノビムを見つめる。その目がノビムの心をきゅっと締めつけた。これから言わなくてはいけないことが、残酷な事だからだ。この弟の好意が今ほど、愛おしくも苦しいと感じたことはないと、ノビムは思った。



「私がケト国へ行くことを許して欲しい。そして、お父様には内緒にしてほしいんだ」



 ノビムの目は真剣で、その声音は緊張で震えていた。



「なぁんだ! そんな事なら任せてよ! 僕にドンと頼ってくれていいよ! もし、バレてしまって、怒られる時は僕も一緒に怒られるよ。いつも僕らは一緒、姉弟だもん」



 ノビムの心がチクリと傷んだ。これから、ノルンにする仕打ちを思うとノビムの心は張り裂けそうだった。



「ありがとう、本当に。ノルンは大切な弟だよ。誇りに思う」



 ノビムの目に涙が滲んだ。



「お姉ちゃん?」



 ノルンが心配してノビムの顔をのぞき込む。けれど、ノルンは笑顔を浮かべて「さあ、早いところケト国へ行こう」そう、切り出した。



 二人は家族に内緒で、ケト国へと向かっていった。ノビムは心に固い誓いを胸に抱いて。ノルンは姉の満面の笑顔が、見たくて--

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