表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノビムに約束の花園を  作者: 山波斬破
ノビムの初めての願い
10/14

ノルンとノビムとノブフの花・9

 山の中を走ることは、体力の消耗が激しくなる行為だ。只でさえ道が悪いのもあるが、魔法生物がいないかなどの警戒もしなくてはならない。



 チットはその足を加速させる一方で、周囲への警戒はグランティスカに任せることにしたらしい。



 グランティスカの能力は武器としてにとどまらない。これはレティシィルにも言えることだ。ノビムは今頃、その相棒の力をいかんなく発揮させていることだろう。



 それだけに、チットが追いつくのは骨が折れるような大変な行為だ。子供の足といえど、ノビムはその体を神臓で強化されている。チットも魔臓で強化はされているが、差が開くのは当然だ。性能が違う。



 ノーブフが住まう山は、ドラゴンの縄張りであることも忘れてはならない。国が簡単に討ち滅ぼされるくらい、ドラゴンの力は強大だ。ドラゴンと一騎打ちをして勝つような者が居るのは、物語の中だけだ。



 最弱種と言われるドラゴン。その代名詞を持つスレイプスですら一騎打ちなんかをした日には、喰われて終わりだと言われている。それだけに、ノーブフはドラゴンの縄張りを日々、把握することに務めている。



 簡単に、縄張りは広がったり移ったりはしないが、ドラゴンの繁殖期は別だ。ドラゴン同士の子を成すための、パートナーの奪い合いは熾烈を極めるものである。



「ちっ、嫌な予感がしやがる。殺気があたりからピリピリと漂ってきやがる。何が起こっている?」



 チットは両腕をさすりながら、ぶるりと震えた。気のせいではない。これは、山で何かが起こっている。そうチットは確信した。



「馬鹿な人間でも入り込んだか? クソ。ドラゴンの覇気を感じる。面倒な」



 チットはこの殺気を、ドラゴンのものだと結論づけた。つまり、ドラゴンが暴れている。子供たちが心配という気持ちが先を立つが、面倒と思う気持ちが一瞬だが、勝る。大幅にドラゴンの縄張りも変わることに繋がり、また縄張りの調査をしなくてはならなくなるからだ。



「こんな時にラグマイア共が来やがるとは、ほんとに愚図な野郎共だな」



 チットはドラゴンの暴れている方角に向けて走り出した。ドラゴンを鎮めるのもまたノーブフの務めだからだ。ドラゴンを鎮める音色を奏でるオカリナ。龍笛とも言われるそれを片手にチットはひた走る。


「こっちか……」


 濃密なドラゴンから漂う獣臭。だが、普通の動物が放つ臭いよりもずっと強烈だ。近くにいることをチットは確信した。


「た、たすけてくれぇ!!」


 男の悲鳴が響き渡る。どうやら本当に人間が入り込んでいたようだ。チットは駆ける。たとえ人間といえどもドラゴンに喰わせる訳にはいかない。味を覚えてノーブフまで襲われては、かなわないのだ。


「ちくしょう! この子だけでも! うぁああ!」


--子供連れかよ?! 何だってこんなとこに子供を連れてきたんだ!


 チットが駆けつけた時には、男は虫の息という有様であった。それに、ノルンとノビムと同じくらいの年頃の子も傷だらけだ。生きているのが不思議なくらいである。


「ん?! あの子供は」


 チットが目を瞠るのも無理はないことだった。子供の髪は〝黒髪〟だったのである。


「っ!」


 脳裏でノビムとこの子を一瞬重ねてしまうほどの、衝撃だった。胸が脈打ち、頭の奥までどくどくと震える。汗がぶわりと滲む。息も苦しい。チットは何とか落ち着かせようと呼吸を深くする。そして、龍笛を口に当てた。



 震える吐息で吹く龍笛でも、どうやら演奏に問題はなさそうだとチットは安堵する。



「----」


 ドラゴンの先程までの荒ぶりようが、嘘のように引いていく。赤く充血していた瞳も、本来の深い青みのある色合いに戻っていく。そのドラゴンはスレイプス。鱗は翠の輝きを放ち、瞳は青、四肢は太く逞しく胴体は辺に生えている木々の高さと同じくらい。まさにドラゴンであった。翼の皮膜はボロボロで、飛べそうにない。


 縄張り争いに敗れたスレイプスなのだろう。大人しくなると、我を取り戻したかのように山の奥深くへと歩き去っていく。


 どっとした疲労がチットを襲った。けれど、休んではいられない。治療をしてやらなくては。


--クソ、なんでラグマイアがこんな時に……。二人とも頼む。無事でいてくれ。


 手際よく人間と子供を治療していくチット。その手の動きに迷いはない。命は助かりそうである。それに並行して、チットは狼煙を上げた。そして、狼煙の上がった火元に不思議な粉を撒き散らす。これは、ノーブフの氏族ごとに違う色の狼煙を上げるためのものだ。これで、ニヘトあたりが気がつくとチットは信じることにした。


--はぁ、早く来てくれよ? ニヘト……。


 地べたに座り込むとチットは、疲れを癒すことに集中し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ