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ジャルの洞窟

 ヴィラージュの北の街道から少し外れた場所に『ジャルの洞窟』がある。


 最奥は行き止まりになっていて、ボスモンスターの寝床となっているだけの場所。まさしく洞窟の主のために設計されたダンジョンだ。モンスターのドロップアイテムがそこそこ良いので、狩り場にするプレイヤーもちらほらといる。


 そのジャルの洞窟を攻略するため、私たちは洞窟へと潔く踏み込んだ。ここに来るまで、片道三十分。何度もエリちゃんのために立ち止まった。でもそれも終わり。ようやく洞窟に進行することができたんだもん!


「一刀両断!」


 刀専用スキル名を叫んだ撫子さんがシステムサポートで『ジャル』を真っ二つにしてみせる。助走とスキルの使用分、スタミナが目に見えて減少してしまう。


 ジャルはその名の通り、洞窟に巣食っているモンスター。ヤギみたいに細い胴に、毒々しい色味の斑点がついている。イノシシの牙かとも思うような少し反った立派な角が彼らの武器で、全方角に向けて向きを変えられるらしい。正面からの突進だけに注意していたら、横から角の先で切り傷を与えてくるのが厄介かも。


 さすが上級クエストのある洞窟。

 受けるダメージもまぁまぁ大きいし!


 また現れたはぐれジャルに向かって、撫子さんが飛びかかる。刀剣スキル発動前に、戦闘技術スキル「バーサーク」で攻撃威力をあげるのを忘れない。そうして発動した「一刀両断」は奇襲ボーナスも加わって、一撃でジャルを倒しちゃった。


「一刀両断」スキル使用後にはデメリットとして数秒の硬直状態がある。硬直状態が解除されると、撫子さんはドロップアイテムを回収して胸をはった。


「ラクショーだな!」

「ジャル一匹倒して何言ってるんですかー。まだまだ先にうようよいますよ」


 余裕な表情の撫子さんに、乙さんが煽るように言葉をかけた。むっとした撫子さんが、乙さんに言い返す。


「お前のその、のたのたしたバジで今みたいに格好よく倒せるもんか」

「エリちゃんはエリちゃんなりに戦ってくれますぅー。それにエリちゃん今回種族特効あるんで」


 にやにやする乙さんに、撫子さんはさらに食いかかろうとする、けど。


「あ痛!?」

「あ、すまん」


 狭い洞窟のせいで、スイさんの装備アイテム「恒星メテオール」が撫子さんの後頭部を直撃したのを見ちゃった。


 恒星メテオールはふよふよと装備者の周りに大小七つの岩石が漂っていて、戦闘時七パーセントの確率で装備者へのダメージを相殺してくれる装備アイテム。派手でおしゃれで有能な課金アクセサリーなんだけど……そっか、岩石だからごつごつして痛いんだね?


 HPは減らないけど、当たったときの衝撃というか痛みのフィードバックはあるみたい。明かりの心もとない洞窟でスイさんと一緒に行動するなら、ちょっと気をつけないといけないかも。……画面だけでアバターを動かしていたときは気にならなかった弊害だね。


「スーイーさーん……!」

「すまない」


 恨めしそうにする撫子さんに、スイさんは申し訳なさそうに眉を下げた。

 とはいえ、撫子さんも自分の不注意だから、そこまで目くじらを立てることもなく平和に解決。


「それにしても暗いね、ナノちゃん」

「そーね。一応光源あるけど……」


 しーに言われて自分の頭上の光と、前衛二人と一緒に先を歩く乙さんの持つ杖の先端にある光を見比べる。


 私の頭上の淡い光は装備アイテム「蛍光の簪」によるもの。効果は周囲三メートルを常に照らす。

 でも思ってたのとは違って、三メートル全てを照らすというよりは、ぽつぽつと幾つもの小さな明かりが簪からこぼれて行く感じ。昼間はあまり目立たず、夜もまた星の明るさでほんのりと明るくなるだけでそんなに目立たない。ただ、洞窟のような光源のない場所では思っていたよりも役に立つ。よかった、お釈迦様装備みたいに後光が差す系のビジュアルにならなくて……!


 私のと違って、乙さんの光は神聖魔法「ルーメン」。初級魔法で、その効果は「周囲半径十メートルを照らす」というもの。乙さんによると、光の玉はコツがいるものの自在に操れるのだとか。明かりとしては、やっぱり魔法のほうが圧倒的に有能かも。


 二つの光源を持って、パーティは洞窟を進んでいく。


 洞窟らしく足元も天井も土や岩だらけ。時々、天井から水滴が落ちてくることもあれば、足元が泥になっているところもあるし、岩に苔が生えていたりすることもある。

 そうして時々枝分かれした道に行き当たり、死角からジャルが現れることも。


「うわっ!?」

「エリちゃん、ポイズンクロー!」


 先頭にいた撫子さんをスイさんが後ろに引いて、乙さんがエリちゃんに指示をだす。


 指示を受けたエリちゃんの爪が毒々しく色づいて、ジャルを引っ掻きにいこうとするけど、ジャルはエリちゃんよりも俊敏で軽々と避けてしまった。


「パラリジ!」


 ギリ、射程圏内!

 私は素早く魔法印を描き殴り、ジャルに向けて放つ。


 杖の先から帯電した刺のようなものが放たれて、ジャルに命中した。


 威力は低いけど、対象を麻痺させる初級破壊魔法。モンスターによっては麻痺の効果時間が違うんだけどジャルは……


「ジャァァァル!!」


 たった三秒しか効かなかった!

 でも三秒あれば十分!


 攻撃してきた私にヘイトが生まれたのか、ジャルが飛びかかってこようとする。そこを体勢を立て直したスイさんと撫子さんによって阻まれて。


「ウェントスフック!」

居合斬(いあいきり)!」


 スイさんは風を纏った捻りのある拳を。

 撫子さんは速度だけを追求した高速の抜刀を。

 ――ジャルに目掛けて叩き込む!


 死角からの攻撃は奇襲ボーナスが入って、追加ダメージを与えたみたい。ジャルは消滅。


 ピコンとウインドウが開いたスイさんがアイテム獲得権を得たみたい。

 スイさんがアイテムを取得するのを見て、全員ではー……と深く息をつく。


「びっくりしたぁ~」

「びっくりです」

「完全に油断してたな」


 前衛が三人ぐちぐちと言う後ろで、私はちょっぴり口を尖らせた。


「画面越しなら俯瞰カメラで見てるから今の分かったんだろうけど、実際に歩いてみるのは全然違うね」

「あはは……でも皆、とっさに動いたのすごいよ。僕なんか、びっくりしたまま動けなかったから」


 しーは自分の武器である「数奇棍」を握りしめた。

 彼の武器は棍棒。中近距離がメイン。それなのに後衛にいるばかりで何の役にも立てていない。


 表情が曇りつつあるしーに、私は呆れた。


「だってしーのメインは調合じゃん。棒術スキルだってそんなに高くないし、戦うこと前提のキャラじゃないでしょ。……まぁでも、魔法職の私と違って、タイムラグなしで武器扱えるんだから、私を守ってくれるのには期待してる」


 しーの肩をぽんと叩いて、私は前衛の三人を追いかける。しーが気合いを入れるように頬を叩く気配がした。うんうん。根性見せてよね、男子!


 そうやってジャルの急襲を受けながらも、私たちは着実に洞窟の奥へと進んでいく。


 時々、枝分かれした道でジャルと遭遇したり、道の途中に開けた空間に行き当たると、ジャルの群れに遭遇したりもした。

 警戒していた甲斐もあって、なんとかジャルの群れも退治しきることができた。リポップする前にその場を離脱。さらに奥へと進んで。


 そうして辿り着いたのはジャルの洞窟最奥の空間。今まで道中に見た空間とは比べ物にならないほど広く、天井も高い空間だった。


 うん。ボス部屋かな?

 足を踏み入れる前に、全員のステータスを確認しておこう。


――――――――――

 ナノ

 HP 3474(4350):ST 609(1400):MP 1659(4125)


 しー

 HP 3501(5040):ST 2671(5310):MP 265(265)


 おとひめ

 HP 4166(4700):ST 2590(2650):MP 1240(2968)


 †nadeshiko†

 HP 3683(7910):ST 1666(7890):MP 1300(1300)


 sui

 HP 3577(6760):ST 1705(6510):MP 1680(2272)

――――――――――


 思ったより、全体的に消耗が激しいかも。


「突入するのちょっと待ってください。ボス行く前に回復します」


 私の言葉に、全員立ち止まる。

 よし、それじゃ白魔道士の本領いくよ!


「マナスパーリング」


 魔力の消費を抑える魔法技術スキルを使い、スキルの効果が切れる前に素早く回復魔法の魔法印を描く。


「カムラッドヒール」


 全員の体力が全回復する。続けて魔法印を描く。


「カムラッドエナジー」


 全員のスタミナが全回復する……と思ったら、撫子さんとスイさんのスタミナが全回復とまでいかなかった。仕方ない。二人の自然回復量を考えれば、すぐに回復する量だからこのままでいこう。


「スピリートユニタトス」


 まだまだいくよ!

 自分に魔力回復量アップの魔法をかけて、初級魔法技術スキルをまた一つ使う。


「マナラマセ」


 スキルを使うと私の魔力が徐々に回復していく。

 乙さんとスイさんも同じように、魔法技術スキルを使って魔力の回復をした。


 乙さんはエリちゃんの回復や強化のために回復魔法と神聖魔法を。スイさんは自分の攻撃強化のために神聖魔法を使っているもんね。私ほどではないにしろ、魔力の消費が目立っていた。


 よし……そろそろかな?

 私の魔力が完全回復する頃、撫子さんとスイさんのスタミナも完全回復。


 ようやく準備が整った!


「よし、行くか」

「ふふ……いよいよね」

「腕がなるぜ」

「ななななナノちゃんは僕が守るんだっ」

「それじゃ、入りますよー」


 ジャルの洞窟、最奥、ジャルたちの王のいる部屋に、私たちは踏み込んだ。



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