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パレヒスVRにいざログイン

 お風呂も入った、ご飯も食べた!

 課題も、明日の準備も終わってる!

 歯磨きもして、うっかり寝落ちしても大丈夫!


 私はVOISEのセットをパソコンに繋いで、ヘルメット型のヘッドギアを装着した。


 パソコンには『パレスセレスト・ヒストリーVR』の画面が広がっている。

 ソフトはパソコンの方にインストール。

 引き継ぎアカウントの入力なども済ませてある。


 一応、パソコンで仮想世界におけるプレイヤーの行動範囲十五メートルほどが画面で見られる仕組みになっている。チャットのログも、パソコンの画面が起動していれば現実世界の誰でも見られる状態。


 さらに使用ユーザーのパソコンからのみ、現実から仮想世界にいるユーザーへメッセージの送受信ができる仕組みになっている親切設計。


 こういった機能はパレヒスがVRゲームとして後続の立ち位置にあるからこそ追加されている機能だから、こういうとこは他のVR型オンラインゲームに遅れていて良かったのかもしれない。お母さんにゲームのやりすぎ! って怒られることもなくなるはずだもの。


 私はパソコンの画面を最後にもう一度確認して、ベッドにあがった。

 二メートル以上もあるケーブルが首に絡まないように注意して、寝転がる。

 VOISEのヘッドギアのスイッチをオンにして目をつむる。


 マニュアルに書いてあったことを思いだしながら、ようやく、待ちに待った仮想世界へ入るためのスタートコマンドを唱える!


「ボイス・ログイン!」


 キュイン――……

 機械独特の起動音の後、人工音声による定型文が流れ出す。


『ユーザーによる起動を確認。ユーザーセーフティ設定により、日本標準時間25:00に強制ログアウトをいたします。仮想世界をどうぞお楽しみください』


 音声認識によるコマンドによって、VOISEが仮想世界と私の意識をつなげてくれる。

 意識がケーブルの中に吸い込まれていく。


 ようやく、だよ。

 憧れた仮想世界へと、私の意識は落ちていく。






 ◇




――――――――――


 創世(はじまり)(うみ)だった。

 何億もの星屑を(うみ)は取り込んで、大地ができた。

 やがて大地は子を産んだ。


 生命(いのち)を与えられた子は大地を蹴った。

 大地を蹴った子は(うみ)とは違う(そら)になった。


 (そら)はやがて宮殿を築く。

 その宮殿より産み落とされし数多の生命(いのち)が大地に降り立ち、魂の世を築いた。


 やがて魂の世しか知らぬ者が生まれ始め、その者らを大地の民と呼ぶようになり、天上の民と区別がされ始める。

 大地の民は天上の民に慈しまれ、大地はだんだんと豊かになっていく。

 その横で未だ(うみ)は何億もの星を取り込み、新たな生命(いのち)を生む。


 だがそれは、必ずしも大地の民や天上の民の望むような生命(いのち)の在り方ではなかった――


――――――――――




 暗闇の中、男性とも女性とも分からない声が響く。

 聞き覚えのある文言。


 あぁ、これ。

 これは、オープニング画面に出てくる、パレスセレスト・ヒストリーの世界観を説明した文言だ。


 こーゆーところまで律儀にやるんだなぁ。

 つらつらと長い文言を聞き流していくけど……これ、どうやってスキップするんだろう?


 じっと身を固くしながらナレーションが終わるのを待っていると、視界がまばゆい光に覆われて、自分の体の感覚が生まれた。目を開くと、そこは深くも明るい蒼色に染まっていて。


 とてもきれい。

 まるで、水族館のアクアリウムにいるような。


 息を吐き出せば、こぽこぽと小粒ほどの泡が浮き上がっていく。たぶんこれは、ゲームのマップ上で時の海と記されている、創世の蒼?


 ゆっくりと瞬きをする。

 視界が滲むように溶けて、蒼色にぼんやりと浮かぶ女の子を見つけた。


 豊かな金髪に、純白のドレス。顔以外の肌に複雑な紋様が彫り込まれているその少女は、パレヒスのイメージキャラクター・天上の民セイレーン。


 まるでビスクドールのようなその女の子に、私は思わず声をあげそうになったけど、言葉は出なかった。


 こぽりと泡が吐き出されるだけで。

 身体の自由も効かない。VRゲームって初めてだから、こういうもの、なのかな?


 セイレーンがその血の気の通っていない小さな唇をかすかに動かした。

 声が、私の頭に直接響いてくる。


『何億もの星より生命と成りし者よ、パレスセレスト・ヒストリーへようこそ』


『これは時の海から流れ着く、あなたたちの物語』


『何も持たないあなたたちが、天上宮殿「パレスセレスト」に辿り着いて天上の称号を戴けることを我々、大地の民は祈っています』


『そして我らの授けし力で、大地の民を日々襲うモンスターからどうぞお助けくださいませ』


『さぁ、天上の称号を目指す旅へ、いざ───』


 こぽこぽと少女が、悲しみを覚えた人魚のように泡となって消えていく。

 思わず彼女の身体に手を伸ばそうとしたら、一気に水流が私の体を浮上させた。


 驚いて目を閉じる。

 次の瞬間には、ざわざわとした雑踏の音を聞いた。






 そろそろと目を開けてみると、水の中なんかじゃなくて、立派な大地、詳しく言えば浜の砂を私は踏んでいた。

 辺りを見渡すと、背後は海で、目の前には大きな石で組まれた遺跡。私の他にも何人ものプレイヤーっぽい人たちがこの浜に立ちつくしていた。


 この見覚えのある景色というか配置というか……もしかしなくともプレイヤーが一番最初に出現する『蒼世の遺跡』かな?

 そして目の前の石組みの遺跡が、はじまりの村へと続く転移装置「ラスタシオン」なのかも!


 頭の中で、目次から奥付けまで読み込みまくったマニュアルのページをめくる。


 確か、はじまりの村である『ヴィラージュ』まで転移してからじゃないと、プレイヤーの意思でメニューウインドウが開けなかったはず。

 この蒼世の遺跡はいわゆるチュートリアルのための場所で、配置されてるNPCからこのゲームでの遊び方を伝授してもらうんだよね。


 ふむ、とゆっくり三秒考える。

 でもね、私の答えは最初から決まってた。


 NPCは無視!


 チュートリアルなんか必要ない。自分で動かして覚えるのみ!


 私はさっさと目の前の階段を上って、石組の遺跡の中央に立つ。淡い光の粒子が、足元からこぼれ出てくる。

 これが確か、転移オーケーの合図。


「転移・ヴィラージュ!」


 事前に発売前PVを見て予習していた転移コマンドを発声すると、音声を認識した光の粒子が私の体を包み込む。

 一瞬の光の奔流の後には、四方を森で囲まれたラスタシオンの上にいた。


 ラスタシオンから降りる。

 辺りを見渡して、マップの確認。

 ラスタシオンの正面に一本道。これはたぶんヴィラージュへ至る道!


 プレイヤーも何人か見かける。初期装備の人もちらほらいるけど、圧倒的に熟練プレイヤーと思われる装備の整った人のほうが多いかも。私と同じく、引き継ぎアカウントを使っている人たちかな?


 私は邪魔にならないように端へと移動した。村に入る前に色々と確認しておこうっと。


「えぇと、メニューウィンドウは……」


 マニュアルを思い出して、おもむろに宙に「〆」を描いた。

 ポロロロと電子的な音を立ててメニューウィンドウが開く。


 おぉ〜! ゲームっぽい!

 にんまりと笑ってそこからステータス画面を開くと、自分のステータス値、称号、装備の一覧が見れた。


――――――――――

 Name:ナノ

 HP4350:ST1400:MP4125

 アイテム重量0.773/1.400(kg)


 称号ランク

 白魔導師SS


 装備

 頭・蛍光の簪(神聖+3、恒常スキル:蛍の光:周囲3メートルを常に照らす)

 胴・皚皚のローブ(精神力+2、回復+8)

 腕・離郷の蔦花(召喚+13)

 腰・ラルムの腰布(回復+6)

 足・コネッサンスのレボットゥ(精神力+4、恒常スキル:叡知の足:移動中MP回復量×1.2倍)

 アクセサリ1・花嫁魔女のヴワル(破壊+9、暗黒+10、恒常スキル:花嫁魔女のはな唄:歌スキルによるデバフ耐性×1.2)

 アクセサリ2・プラティーヌの紋様(恒常スキル:プラティーヌの守護:物理被ダメージ×0.7倍)

 武器1・雪結晶のクレ(精神力+2、魔技+3、恒常スキル:魔力の蓄積:60秒間魔法を一つチャージできる)

――――――――――


 ふーん。

 装備は一通り記憶にあるものと一致しているけれど、称号が変わってるね。


「確か、天上の称号はVRには引き継げないんだっけ……やっぱりまた、天上宮殿を攻略しないといけないのか」


 元々、私の持っていた称号は「天上の白魔導師SS」。

 それがただの「白魔導師SS」に戻ってしまっている。


 それのせいか、「天上の白魔導師SS」だけが使用できる固有魔法も消えているみたい。ちょっと残念かも。


 「天上」の称号は、割り振れるスキル上限値が限界に至ることで参加ができるようになるイベント「天上宮殿の試練」にクリアすることでもらえる。


 月に一回しかなかったイベントだし、他の称号のように、スキル値を上げることで自動的に付与されるものとは格が違うんだよね。

 でも、VRで新サーバーとして運営が始まったパレヒス。次の天上宮殿の試練はいつになるのやら。


「ま、焦らなくていいよね。始まったばっかりだし」


 気を取り直して、自分のスキル値を確認する。細かい数字は覚えてないけど、最近見直してなかったスキル値を見直す良い機会だ。画面越しだった時とはまた感覚が違うだろうから、いざとなったらスキル値をいじる覚悟もしている。


 イメトレしまくった操作の通り、ステータスに出てる自分のアバターをタップした。ポーンと軽い音がして、細かいスキル値のウインドウが出てくる。


 わぁ、スキル一覧、初期表示状態……!

 自分に関係ないスキルまで表示されてるから、項目が膨大すぎて見きれないよ〜!


 えぇと、どこかに絞り混み機能があったはず。たしか……あ、ここだ! ここのボタン押せば、と。


 絞り込み機能が作用して、一気に項目が減る。自分が0.1でもスキル値を上げたものだけが表示された。うん、これは見やすい!


――――――――――

 生命力 43.5

 筋力 14.0

 精神力 52.4 (60.4)

 治癒力 26.0

 破壊魔法 83.4 (92.4)

 回復魔法 92.2 (106.2)

 召喚魔法 40.8 (53.8)

 神聖魔法 74.5 (77.5)

 暗黒魔法 00.0 (10.0)

 魔法技術 65.3 (68.3)

 戦闘技術 25.9

――――――――――


 修練数値の隣が、装備による付加数値だよね。

 うんうん、こんなものだよね、あははー。


「……じゃないよ!? 回復魔法キャップオーバーしてるじゃん!!!」


 すっかり気づいていなかった自分の馬鹿さ加減に耐えきれず、突然力強く叫んだ私。あっ、あっ、そんな目で見ないで。何叫んでるんだこいつっていうその目をやめて!


 周りのプレイヤーの視線が痛い。すみません、テンションが上がりました。許してください。

 いたたまれなくなって、こそこそともっと端の方に寄って、改めてウインドウを開く。移動すると自動でウィンドウが消えるみたい。歩きながらは使えないんだね?


「えーと、装備、装備……うーん、ラルムの腰布が余分だね……別のに変えたいけど、今の所持アイテムは……」


 メニューに切り替えて、アイテム欄を開く。

 手持ちのアイテムを見て、ため息をついた。


「うーん、筋力ないからあんまりアイテムを持てないんだよね……装備類は全部、銀行(バンク)の中だったはず」


 仕方がないとぼやいて、ウィンドウを全て閉じた。

 スキルキャップは全てのスキルが上限100.0に設定されている。一応、アイテムでの数値の付加も可能なんだけど、悲しいかな、たとえアイテムで上限値を越えようとも、100は100として扱われるんだよね。


 称号や職業ランクは、アイテム無しの数値で付与されるものだから、アイテムの恒常スキルや複数ある付加スキル値、見栄えなどなどのためにわざとキャップオーバーさせるプレイヤーもいるけど……


「あーもう、腰装備の分、何のスキルに回そうかなぁ」


 魔導師ジョブである私のスキルはわりとあっちこっちに振ってあってカツカツなので、キャップオーバーはできるだけ避けるべし!


 今の今まで気づかなかった自分に腹が立つ。

 ああ、もしかしたらこのキャップオーバー分、他に当てていたら今までの狩りで楽だったこともあっただろうに……。


 そう思いつつも、今すぐには装備も変えられないのが悲しすぎる。

 ヴィラージュにいけば銀行もあるから装備が倉庫から引き出せるけど、自分の手持ちに魔導師向けの腰装備は他にあった記憶がない。悲しさ倍増。


 これ以上はいいやと、私はとぼとぼとはじまりの村へと足を向けて歩き出した。とりあえず、この先で待っている四人のギルドメンバーと合流しないと。


 こんなところで時間をとっていたら、この後の「お楽しみ」の時間が減っちゃうしね!



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