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再戦・洞窟の主

 宣言通り、エアレーの分霊は薔薇の剣世がさくさくと倒していく。


 うーん、これは本当におんぶにだっこ。

 二十パーティもの大所帯に、さらに薔薇の剣世のパーティが加わって、ちょっと圧迫感がすごい。なんていうか、移動がしにくい。


「にぎやかだねぇ」

「そうだね」


 しーはのほほんとしてるけど、そのお気楽さにちょっと毒気を抜かれた気分。

 私たちの後ろでは、撫子さんとスイさんが口数少なく歩いていて。


「二人とも、大丈夫?」

「あぁ」

「まぁ……」


 撫子さんとスイさんのトラウマはやっぱり根深いかも……乙さんが最後尾で二人を見てくれているけど、うーん。


「しー、今回は私、撫子さんとスイさんのフォローに回ろうと思う」

「えっ?」

「しーは安全マージさえとれれば、調合師だしある程度自己回復できるでしょ? 乙さんと一緒に前衛で」

「えぇ……! そんなぁ……!」

「情けない顔をしない。男の子でしょうが」


 ぴぇっと泣きそうなしーの鼻をむぎゅっとつねる。

 しーから恨めしそうな表情を向けられるけど、私はそれじゃ、と少し歩調を緩めて後ろに下がった。


 乙さんたちにも今回の布陣の話をする。撫子さんとスイさんにも了解をもらって、私は乙さんとポジションを交代した。


「それにしても、クリアできるのかね」

「クリアするだけなら簡単だ。時間制限一時間の中で、レイドが全滅しなければ良い」

「あれ? 討伐クリアじゃねぇの?」

「残念ながら、まだエアレーの完全討伐ができたっていう報告は聞かないです」


 そうなんです。

 実はこのレイドクエスト、時間制限つきなので討伐できなくてもクリアはできる。ただしクリア判定ゾーンがあるそうで、一定数ダメージを与えないといけないみたいだけど。


 初日のクエストを思い出す。

 旧サーバーから引き継ぎで、私たちはぶっちゃけ強いほうに入ると思う。パレヒスでの最終地点「天上」の称号を私たち五人は持っていた。スイさんとかは重課金税で装備もめちゃくちゃ強かったし、他のメンバーだって身の丈にあった強い装備を身につけていた。


 それでも削れたのは半分。

 立ち回りが悪かったのもあるけど、それでも火力が足りなかった。主力の前衛がいなくなっちゃった今、今回はどこまで自分たちが貢献できるのか分からないけど……できるところまではやってみたい。


「そういえば、今回の薔薇の剣世はどんなチーム構成なんだ?」

「白魔道士、弓、料理家、音楽家」

「おいおい、嘘だろ……?」


 撫子さんの問いかけに、スイさんが答えた。私もあ然。非戦闘職業のチームが二つ……?


「音楽家はバフがかけられるからいいとしても、料理家チームですか……」

「最初から倒す気のないチーム編成だな」

「戦わなくても報酬が貰えるなら、ある意味効率は良いだろうがな」


 スイさん、撫子さんと声を潜めて頷きあう。薔薇の剣世の人たちに聞かれると厄介だけど、言いたくなっちゃうよね。


「料理家もピンキリだからな。しーさんみたいに最低限自己防衛できる程度の人だったら良いんだがなぁ」


 撫子さんの言う通り、しーみたいに素材調達とかである程度鍛えてる人たちなら揉めることはないけどね。そういう人たちをあえて固めて、戦闘職としてチーム組みしなかったのが気にかかる。


 まぁ、他のギルドのことだし、イベントのクリアさえできればいいので――


「着いたみたいよ」


 乙さんから声がかかる。

 見覚えのある大きな扉の前。

 私たちは顔を見合わせる。


 いよいよ、エアレーとの再戦が始まる……!


 緊張の中、ボス部屋へとパーティが続々と入っていく。

 全パーティが入りきったあと、扉がゆっくりとしまって。


 部屋の奥から、エアレーがのっそりと歩み出てくる。


 全員が戦闘態勢に入る。

 レイドの近接戦闘組が前に躍り出る。


 事前の情報共有で聞いてたけど、盾職が圧倒的に少ない……!


 近接戦闘と盾職が合わせて二十人いるかどうかってところ。

 遠距離とヒーラーが圧倒的に多い。遠距離の火力次第ではタゲ取りが前衛からこっちに移っちゃうから気をつけないと。


 私たちもそれぞれ配置につく。

 エアレーの右前足側。各パーティで狙う部位を決めて、混戦しないようにというレイドの基本。


「エアレー、相変わらずでけぇな……!」

「あぁ……体力バーも恐ろしいことになっているぞ」

「バーが八本。二本ブレイクでイベントクリアよね?」

「そうです。なので無理せず、命大事に作戦でいきます」

「が、がんばる……!」


 リベンジってことで、うちのパーティの士気は高い。撫子さんとスイさん、トラウマ大丈夫かなと思ったけど、二人とも思ったより大丈夫そう。


 すぅ、と息を吸う。

 レイド戦、ファーストアタックは――!


「皆のもの、続けー!」


 薔薇の剣世、弓パーティの一人だった。






 クエストクリアのための、エアレーの体力、バー二本分。このブレイクは早かった。


 数の多い遠距離組によるガンナーや弓たちの火力がいい感じに影響していて、一本目のバーを削り切るのは一瞬だった。エアレーの攻撃が僅かに激しくなって、二本目のバーを削るのには少し苦戦したけど、ここでまだ十五分くらい。拍子抜けするほど簡単で。


 三本目のバーを削っている最中、私の隣りで撫子さんがぽつりと呟く。


「なんか、弱くねぇか? 俺らが戦ったとき、こんな弱かったけか……?」

「イベント仕様で弱体化しているのかもしれない。このペースなら討伐できそうなものだが……」

「油断しないでください、攻略情報みると、これから――」


 エアレーの三本目のゲージがブレイクした。

 その瞬間。


「――■■■■■!!」


 エアレーが咆哮をあげる。

 ビリビリと体が震える。


「来た、エアレーの怒号……! 」


 全体を見渡す。

 やっぱり前衛がみんな膝をついている。エアレーの怒号の付加効果で麻痺してる……!


 立っているのは魔法職と後衛。

 事前情報通りだね……!


 ここからバーを一本ブレイクするごとに、エアレーの怒号が確定で入る。しかも通常のエアレーの怒号と違って、ブレイクごとに麻痺時間と対象範囲が広がっていくとか。


 さらに通常攻撃時にエアレーの怒号が打たれる確率も上がってるって聞いた。これのせいでエアレー討伐の難易度が上がってるんだって……!


 しかも。


「きゃあっ」

「うわっ」

「くっ」


 エアレーが強く、強く、足踏みする。

 ぐらぐらと地震のように床が揺れて、麻痺を逃れて立っていた私も、体勢を崩してしまう。


 この足踏みも厄介だし……!



 ――ギュルルルルルルルル



 エアレーの角が、ドリルのように回転をしだした。


「来やがったな、回旋角(キルクィトスコルヌ)……!」


 撫子さんが忌々しそうに叫ぶ。

 前回、私たちを壊滅に追いやった、高火力武装……!

 眼の前で麻痺になった前衛が、次々とやられていく……!


 このギミックを知っていて距離を取っていた前衛もいたけど、エアレーの怒号の回避距離が足りてない人が多くて、前衛は一気に壊滅した。


 さぁ、どうしよう。

 指揮を任されていた薔薇の剣世の弓パーティがヒーラーに蘇生を命令してるけど、無理だよね。あんな角みたら怖くて前に出れないよ。ただでさえ、蘇生には対象者の魂に触れないといけないっていう条件があるのに。


 残り時間、三十分。

 これで五本もバーを削らないといけないんだから、さすがレイドの難易度って感じ。


 ぶっちゃけイベントクリアのボーダーには達しているので、ここから全滅しないように後衛でガチガチに守備に周ればクエストクリアになるわけだけど。


「――エアレークエスト、リベンジしたい人!」


 私は声をあげる。

 撫子さんとスイさんが私を見る。


 二人だけじゃない、私の周りにいる人たちが一斉に私を見て。


 ……ちょっと声、大きすぎたかも?

 でもいいや、私の目標はエアレークエストのリベンジ。

 難しい敵を倒すのが、ゲームの醍醐味だから!


「一度でもエアレーと戦った人なら分かるはず。エアレーで気をつけないといけないのは、怒号と足踏みと角。それを踏まえて、やってみたい作戦があります」

「作戦があるのか?」


 スイさんが困惑したように聞いてくる。

 もちろん。


「VRサーバー開放日、私たちのパーティはエアレーに対して惨敗したよね。私、撫子さんやスイさんをまたあんなふうにしたくなくて、色々考えてた」


 周囲の人たちが興味深そうにこちらを伺ってる。

 私はエアレーに杖の先を向けて。


「私がタゲを取ります! 私なら、エアレーの怒号も足踏みもきかないし、角だって避けられます!」



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