レイドクエスト『魔女の試練・踊る角』
私は魔術師ソルティ。
ここでこの石碑を守るもの。
あぁ、これか。これを知らんのか。
これは失われた命を刻んだ石碑だ。
北に進む街道から外れたところに洞窟があるだろう。あそこに葬り去られた魂を刻んだ石碑なのだ。
ヴィラージュは昔からあまりよくない風習があってな……ドルフクーが獰猛になるのは洞窟にいる「主」がドルフクーを怯えさせているからだと言われている。
それをおさめるために、村人が一人、生け贄として洞窟に行くのだ。
何もなければ良し、帰ってこなければ……
この石碑はそういった村人を忘れないために、私が建てた。村人はこれを良くないと思っているようだが……
私は星を読む。今宵、ここにお前たちが来るのを知っていた。
愛らしい魔女の嫁入り道具のために、お前たちが手を貸すだろうということを私は知っていたのだ。
助言しよう、旅人よ。
洞窟の主を倒すならば、お前たちのような屈強な戦士を百人は連れてきた方が良いだろう。
洞窟の中とはいえ、洞窟の主は軍隊を相手取ってやっとというくらいの戦力だと星が告げている。
決してお前たちだけで挑むような無謀なことをしないことだ。
「魔女の試練」とはそういう類いのものばかり。
命がいくらあっても足りない場所へ、彼女たちは命懸けで挑みにいくのだ。
さぁ、どうする。
お前たちは、あれに挑めるだけの力を持っているか?
他人である魔女のために、あれに挑めるだけの勇気を持っているか?
【このメンバーでクエストを受けますか?】
【 ナノ 】
【 しー 】
【 おとひめ 】
【 †nadeshiko† 】
【 sui 】
【 →はい 】
【 いいえ 】
……そうか。仲間がいるのならば、大丈夫だろう。
では私はここでお前たちの健闘を祈る。
花嫁となる魔女に幸あらんことを。
【クエストを受けました。】
【達成条件:「洞窟の主」を倒し、ヴィラージュの花びらを持ち帰る。】
◇
撫子さんの伝言通り、ソルティの依頼を受けに来ると、もうすでに多くの参加パーティがぞろぞろと集まっていた。
私たちもいつものメンバーでパーティを組む。
すごいなぁ、ソルティから受けるクエストがイベント仕様になっている。以前とは違う様子のソルティからクエストを受注してから、人の多く集まるところへ寄っていく。
「多いねー」
「そうかしら? これを毎日やっても、参加できないプレイヤーはいるのよ?」
乙さんの言う通り、一ヶ月間毎日二回レイドをやるといっても、参加出来るのは単純計算して一万人にも届かないだけの人数。
プレイヤー総数を思えば、全員が参加するには足りないスケジュールなんだよね。これ、レイドができなかった場合の救済措置がなかったら、運営も叩かれそうなものだよね。
参加できる幸運さを噛み締めておこう。
「ま、でもこのレイドクエ、裏技があるんだよなー。ほら見ろよ、裏技のために出てきたぞ、あいつら」
撫子さんが見ているほうを見れば、隊列を組んで一分の乱れもなく行進するパーティがいた。
団体行動をするのは、あちこちのパーティからも囁かれている『薔薇の剣世』。
しーが裏技なんてあるの? と耳打ちしてきたので、私はこっそりと教えてあげる。
「抽選が行われるのはボス部屋に入る人だけなの。ソルティクエを受けていれば、洞窟内に出る『エアレーの分霊』を倒せば欠片が手に入るみたい。たぶんそれ目当てだと思う」
ジャルに関する情報も公式チャットに上がっていたから、たぶんそういうことなんだと思う。
要は効率の問題なんだよね。エアレーを倒して一度に欠片を集めきるか、ちまちまと毎日参加してジャルを倒すのか。
薔薇の剣世は初心者プレイヤーの育成サポートもしているというから、きっとその一貫。薔薇の剣世に限らず、おこぼれに預かろうという人は何人もいるわけだけど、ギルド規模でとなると薔薇の剣世がどうしても目立っちゃう。
そんな噂話をしていると時間が来たようで、薔薇の剣世のメンバーの一人が声をあげた。
「諸君、注目せよ! 私はビャクガ。薔薇の剣世のギルドマスターである!」
赤い鎧に身を包み、大きな剣を振り上げて、場にいる全員の注目を集めるプレイヤー。獅子を想起させるような立派な装備が、彼のパレヒスにおけるやり込み具合を物語っている。
赤獅子ビャクガ。
二つ名なんて恥ずかしい……と思っちゃいけない。それが彼の通り名だもん。さすがは大手ギルドマスターと言うべきか、年に一回のランキングイベントとかではいつも上位に食い込んできて、個人としても有名な人。
私たちもまた、声につられてそちらを向いた。撫子さんなんかは嫌そうな顔をしている。顔にはでないだけで、引き継ぎプレイヤーのほとんどが内心迷惑に思っていそう。抽選時にリーダーパーティも決められているはずだけど、今回のレイドクエは全部あの薔薇の剣世が指揮してるって聞くし。
「これより『エアレーの分霊』及び『エアレー』との戦闘に向かう。我ら薔薇の剣世が護衛をし、諸君らを安全にボス部屋まで案内することを誓おう」
「あんなこといって、道中の分霊、全部狩る気だぜ」
ビャクガの言葉にケッと撫子さんが悪態をついている。
「いいじゃないか。俺たちはボスを一度倒せば、イベントに必要な分は手に入る。抽選からもれた奴に譲っても問題はないだろう」
「だからっておんぶにだっこで行けってか? 俺らみたいな引き継ぎプレイヤーをナメてんじゃね?」
スイさんが撫子さんをたしなめているけど、撫子さんは薔薇の剣世の態度が気にくわないようで、口を尖らせたまま。
撫子さんまでとはいかないけど……うん、納得いかないのは私も他のメンバーも同じだったり。
彼らは相談もなく、参加者の意思も関係なく、ただ自分達のギルドの効率と都合だけを求めて勝手に物事を進めているんだもの。
現に、抽選漏れしたけれどクエストに参加するためにやってきたプレイヤーも撫子さんのように、ううん、それ以上の不満を顔に張り付けているし。この人たちも他の参加者同様、薔薇の剣世の後ろに追いやられてしまっている。
先手をとって先に移動してしまおうと思っても、洞窟へ向かう道は、いの一番にやってきた薔薇の剣世によって塞がれてしまっているみたい。抜け駆けしようにもできない。
気づいていないプレイヤーもいる中で、その事実に気づいたプレイヤーはさらに不満を募らせている雰囲気。
まるで、我が物顔のように先頭に立つ薔薇の剣世。
とはいえ、誰かが指揮を取らねばならないレイド戦で、めんどくさい役割を担ってくれるのなら目を瞑っておこう。ぶっちゃけ、リーダーパーティに選出されていたら、私は指揮を取る自信なんて絶対ないもん。
腹は立っても、そうやって自分の利を瞬時に計算しているからか、どのパーティも表だって反抗するそぶりは見せない。これが助長させちゃう原因なのかもだけどね。指揮系統が乱れるよりは穏便だもん。
「ねぇこれ、他の日も同じような感じなのかしら?」
乙さんの一人言には、スイさんが答えてくれた。
「まちまちだな。それこそ、抽選の中に薔薇の剣世が入ってる時だけだが……それでも七割くらいはこうなってるようだ。特に、ログインが多くなる午後のクエストは」
わぁ……もうそれはあれじゃん。完全なる計画犯。
だけど運営が何も言わないということは、行動としては許容範囲なのかな。
どんなにプレイヤーの腹が立とうと、薔薇の剣世はマナーがちょっとないだけで、ゲームとして何も悪と言われるようなことはしていないんだもん。効率は正義。それにいわゆる攻略組っていうのも、薔薇の剣世に多いから、そのおこぼれに預かってる私たちはヒエラルキー的に何も言えないわけで。
「では、とりあえずはこのメンバーでジャルの洞窟へ向かう。ジャルの洞窟へ入ったら、ボス部屋の直前で一度体勢を整えよう。残念ながら、私自身は抽選からこぼれてしまっている。その後のことは当方ギルドより当選した四つのパーティが何とかしてくれるだろう」
ちらりとビャクガが当選したチームに視線をやる。
うぅん。撫子さんじゃないけど、こうまで薔薇の剣世におんぶにだっこだと気がのらない……でも、やらないと花嫁魔女のイベントはクリアできないもんね。
私はぐるりとギルドメンバーを見回して。
「準備はいいですか?」
「もちろん!」
「ええ」
「おうよ」
「ああ」
皆からの返事を聞いて、私はこくりと頷いた。
いけ好かないけど、やらないことには始まらない。
せいぜい自分達も楽をさせてもらいましょうか!




