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イベントの告知

 パレスセレスト・ヒストリーVRサーバー開放から一ヶ月。

 さすがにVRサーバー開放直後、一週間くらいは撫子さんもスイさんも姿を見せてくれなかったけど、二週間目の頃、時々ログインしている様子がみられた。


 そうして一ヶ月経った土曜日。

 ようやく撫子さんとスイさんが私たちの召集に応じてくれて、ギルド「ガーデンナイツ」の前に姿を見せた。


 毎週土曜日がギルドの集会の日。それはVRに移ってからも変わらない。VRに移ってから撫子さんとスイさん抜きで三人で集まっていた集会で、ようやく二人も参加すると聞いて、乙さんもしーももろ手を上げて喜んでくれた。


 ギルド集会とは言うけど、正式なギルド登録をしたわけでもないし、旧サーバーから引き継いできた人数は変わらないまま。ギルド登録をきちんとすれば、ギルド集会所がもらえるらしいんだけど……今はまだ五人だけなので、ヴィラージュ村にある酒場に集まることに。


「スイさん、撫子さん、来てくれたんですね!」


 乙さんとしーと三人で先に卓についていると、酒場の入り口に二人の姿を見つけて、私は席を立つ。

 二人ともちょっと苦笑気味。そんな二人に対して、乙さんもまた腰をあげると深々と頭を下げて。


「この間はすみませんでした。私のせいでお二人に要らない傷を追わせてしまいました」


 頭を下げる乙さんに、スイさんも撫子さんも頭をあげるように言う。


「良いんだ。ゲージが減りきる前に回復するのがヒーラーの役割だからな。乙は悪くない」

「個チャでもめちゃくちゃ謝られたし、一ヶ月経つし。もう良いって」

「でも……」

「俺らが許すって言ってんだ。これ以上気にかけられても居心地が悪いんだって」


 撫子さんの言葉に乙さんは力なく項垂れて、席に座り直した。

 五人が顔を合わせてそろうのはサーバー開放日以来。しこりは残るけど、こうして五人また集まることができて私はほっとした。


 撫子さんとスイさんが席についたのを見て、私もまた座り直す。


 それでは。


「今日、集まって貰ったのはギルドの恒例行事素材ツアーのため……ではなく」


 もったいぶった言い方に全員が苦笑する。そもそも、素材ツアーにするなら現地集合が基本だから、こんな酒場に召集したりしないし。スイさんと撫子さんへ改めて謝罪の場を……という理由もあったけど、本題はこっちです!


 私はメニューウインドウを開く。

 お知らせのウィンドウを開き、さらにそのうちの一番新しいバーをタップ。

 新しいウィンドウが開いて、私は皆にも見えるように机の上に展開した。


「これです!」


 全員が私の開いたウィンドウに目をやる。

 それはイベント告知の内容で。


 ――――――――――

 イベント【花嫁魔女の指輪探し】

「魔女フローリアは自分の結婚式で交わされる指輪を探している。それは愛と幸福と夢と希望をあしらった特別な指輪。魔女たちの間で噂されるその指輪を求め、フローリアの花嫁試練が今、始まる――」


 開催期間

 20XX年7月1日~7月31日


 クエスト概要

 ヴィラージュの協会にてフローリアよりクエストを受注後、一定条件クリアでドロップする「愛の欠片」「幸福の欠片」「夢の欠片」「希望の欠片」を入手し、フローリアに渡しましょう。

 欠片を100個集めることで石の生成が可能となり、4種の石を集め、指輪を作ることでクエストが達成され、報酬が受け取れます。


 クエスト報酬

「花嫁魔女のエンゲージリング」

 治癒力+7、精神力+2

 恒常スキル:花嫁魔女の祝福:生活スキルを使用すると成功率が+10%

 ――――――――――


 待ってました、花嫁魔女のイベント!

 花嫁魔女はパレヒスにおいて年に数回行われる、恒例イベント。しかも今回のこのイベントは、旧サーバーで数年前に行われたというイベントの復刻とも言えるもの!


 私はこの花嫁魔女のイベントが大好きだったり。数あるイベントの中でも花嫁魔女のイベントのストーリーは私の乙女心をくすぐってくる。それに何より、装備が可愛いし強い。恒常スキルはそれほどだけど、割り振られるスキルポイントが大きいからとても欲しい。


 しかし、しかし、だ。

 実はこの花嫁魔女の指輪を入手するイベントは、私がパレヒスをプレイしていなかった頃に行われたイベントだった。話に聞くだけで、復刻もなく。やったことがないイベント。そしてまた、トレード売買不可のイベントアイテムが報酬。二度と手に入らないと惜しんでいたものが手にはいるチャンスなわけで……!


 ここは是非とも参加したい、いや、絶対参加する。そのためにはギルドのメンバーに協力を乞わねばならなかったから、スイさんと撫子さんにもダメもとで召集をかけたのです!


「旧サーバーで行われていた花嫁魔女イベを踏襲しているなら、このイベントではどこかで大型モンスターとの戦闘が予想されます。もう皆気づいていると思うけど、大型モンスターは一人で勝てるほど甘い戦闘じゃないです。私一人じゃできないので、できれば皆にもイベントの参加をお願いしたいです」


 皆、普段からイベントの参加率は高かった。それに加え、私が花嫁魔女のイベントのときは、自ら進んでギルドに進言していることも知っている。


 乙さんとしーは無条件で私の言葉に頷いてくれた。


「私は異論なし」

「僕も!」

「ありがとうございます」


 私は二人に深々と頭を下げた。

 それから顔をあげて、スイさんと撫子さんを見て。


 二人は沈黙したまま。

 私はごくりと喉をならして。


「お二方はどうされますか。もちろん断っていただいても大丈夫です。でも、参加してくれれば私も嬉しいし、しーや乙さんも嬉しいと思うんです」


 あんなことがあったばかりだもん。一ヶ月経ったとはいえ、しばらくログインができないくらいのトラウマを二人には負わせてしまった。今回も大型モンスターがいるから、あの時の二の舞いにならないとは言い切れなくて。


「……無理に、とは言いません。今回のイベ、見送っていただいても問題はないですし……それでもお二人がギルドに参加してくれれば」


 それでも、二人がいてくれたら嬉しい。一緒にゲームができたら、きっと楽しい。そう期待しちゃうのは悪いことかな……?


 沈黙が耐えられなくてさらに言葉を重ねようとしたら、不意に撫子さんが手を振って。


「落ち着けって。俺は参加するから、そんな焦らんくっても良いって」


 一瞬、理解が遅れたかもしれない。

 つい、え? と撫子さんの顔を穴が開くくらい見つめちゃう。


「参加、してもらえるんですか?」

「おうよ。イベントならやっぱり参加しときたいしなー」

「俺も、参加する」


 撫子さんにつられたのか、スイさんも参加の意思表明をしてくれた!

 わぁ……! 嬉しい!


「お二人とも、ありがとうございます……!」


 お礼を言えば、撫子さんとスイさんは少し恥ずかしそうに表情を崩した。

 その様子を見ていたしーがぼそりと一人ごちる。


「ナノちゃん僕にも笑ってよぉ……」


 別に笑う必要のないところで笑う意味はないよね?

 しーが一人ぐてっとテーブルに伏せると、乙さんが何か慰めるようによしよしと背中をさすっていた。


 まぁいいや、しーは放っておいて。

 私は撫子さんとスイさんと、ここ最近のことを互いに話しあう。たった一ヶ月とはいえ、ほぼ音信不通だったんだもん。ここで溝を埋めておきたい。


「ここ一ヶ月でだいぶ戦闘にも慣れました。この辺りにいるモンスターの間合いはだいたい把握できて、魔法の扱い方もつかめてきました」

「そっか。俺はもっぱらスキルあげに費やしてたなー」

「俺もだ」

「お二人とも、初日にデスペナを貰いましたよね? どんな感じでしたか」


 少し無遠慮だったかな? でも聞いておくに越したことはない。

 初日のように不馴れなプレイを繰り返すことはないけど、それでもまだ死というものはつきまとう。できれば死にたくないと思って安全プレイをしてきた私にとって、ゲーム内での死というものはまだまだ未知のものだった。


「んー、死んですぐに、意識だけ、暗い部屋みたいなとこに飛ばされるんだ。そこにウィンドウが二つあってさ」

「一つはモニターだな。パソコンで写ってる画面みたいに魂の炎のあるマップを俯瞰的に写してた。たぶんパソコンの画面と連動してると思う」

「そうそう。それで、もう一つのウィンドウには蘇生可能時間とホームポイントへの転送ボタンがあった」

「あ、それ、蘇生がくると魔方陣みたいなのが足元に出て来て、ラスタシオンみたいに転送されて魂の炎のとこにアバターごと戻るんだ」


 最後、机から顔を上げたしーが補足を加えた。それにうんうんとスイさんと撫子さんも頷いている。


「ホームポイントへの転送も同じような感じだった」

「そう……なんですね。ちなみにお二人のデスペナは何だったんですか?」

「俺は戦技と刀剣がマイナス一ずつ」

「俺は格闘術がマイナス二だったな」


 二人に与えられたデスペナルティが結構厳しくて、ついつい表情が曇ってしまう。


「高ランクスキルの低下は、戻すの大変ですよね」

「あー、その事だけどな?」


 撫子さんがぽりぽりと頬を掻いた。スイさんもまたはははと困ったように笑っている。


 二人のその様子にみんな注目して。


 二人はゆっくりと立ち上がると、勿体ぶったように装備ウィンドウを開き、しまっていた武器を取り出した。


 シャン、と音が響き、空間がブレて二人の武器が召喚される。


 撫子さんの手には弓が。

 スイさんの手には銃が。


 それぞれの獲物が、全く別のものにすり変わっていた。


「……」

「……えーと」

「あらま」


 三者三様の反応をしちゃう。


 その反応を見て、二人がこの一ヶ月間で自身に起きた一番の変化を教えてくれて。


「俺たち」

「ジョブチェンジしたんだ」


 たっぷり三拍かけて、私たちは二人の言葉を噛み締める。


 あぁ……えーと……これは……。

 私は額を押さえて考える。


 それから視線をしーのほうへ向けた。察した乙さんも撫子さんもスイさんも、しーのほうを見た。


 ただ一人、状況の分かっていないしーだけがキョトンとしている。


「つまり今いる前衛って……」


 調合師のしーだけ?



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