1 2-4 bullseye
秋の家に迎えに来たのは、パトカーではなく、ワゴン車にサイレンが取り付けられたものだった。警官は三人いて、皆若かった。恐らく今日の事件で市内の警察官は皆現場へ駆り出されているのだろう。事件の全容を聞いてきたが、場所が場所なだけに、現時点での事情聴取は秋が断った。
警官三名を含む五人はワゴン車に荷物を詰め込み、秋の家を後にする。ラルドは警官に家に荷物を取りに行くよう示談するが、安全上の理由で却下された。コンビニで下着は用意できるそうなので、置いてあることを祈るばかりである。
いくら護衛車といえども、事件による交通規制のため、渋滞に巻き込まれてしまう。サイレンを鳴らして無理やり進む事も出来なくはなかったが、渋滞の中を進む事は極めて困難なため、鳴らすメリットもない、と警官は伝えてくれた。住宅地を抜け、繁華街の街道に差し掛かった時、ラルドは気付いてしまう。
車窓からある人影が見えてしまった。
長い金髪にハイヒールで闊歩するその淑女。
彼女だ。
先程の恐怖は、再び彼を支配した。
彼女は知っている
惨劇の真相を
彼女はラルドを見つける。
目が合った。
彼の心臓は一瞬だが、確実に止まった。
彼女は笑ったのだ。
「逃げっ…。」
ラルドが叫び終わる前に、ワゴンは急停止する。
信号が変わり、交差点を曲がろうとしたワゴン車の前に、突然人影が現れたのだ。
その人間は、ボンネットに右腕を差し込み、
腕力だけで投げ飛ばす。
ワゴン車は数回転がり、止まった。その人間は車へ歩き出す。
警察官のうち、運転手は未だ意識が戻っていなかったが、他の二人は横転したワゴン車から抜け出し、その人間に拳銃を構える。
ラルドは車から秋を引きずり出し、ワゴンの陰から人間を確認する。
彼女だ
”両手を上げなさい”
警官は忠告する。
彼女は右手を上げて、
指を鳴らす。
彼女を中心に、世界から音が消える。
周りで鳴り続けていた車のブザーは消え失せる。
ラルドはすぐそばを運転していた車の運転手が気を失っていることに気付く。
違う。逆だ。
今この場所で意識を保っているのは、彼と彼女だけだった。
意図的に、彼女はラルド以外の意識を奪ったのだ。
彼女が歩み寄る。
ラルドは秋をワゴンのそばに寝かせ、彼女と対峙する。
彼女は待ち焦がれたような笑顔で笑いかける。
「はじめまして。」
別に初めてではないが、下手に口は開かなかった。
カレンフェルト
彼女は名を告げた。
「君も薄々気付いているだろうが、私は普通の人間ではない。まぁ、私みたいに普通ではない人間は意外と多くいる。人々は私たちを能力者とか呼んでくれたりしているが、それで統一されているなら、別に他にかっこいい名前とか考えたりしなくていいんだけど、…能力者、そう私は能力者だ。」
予想していたよりも良く話すことに、少年は驚く。
「名前は?」
「はっ?」
「いや、君の名前。」
意外だった。会話を続けるらしい。
「桜崎…ラルド」
名を告げる。
「ラルドか。なるほどそういう事か。君は自分の事をどれくらい理解している?」
「理解?」
どうしたものか。人に語れるほどの人格など持っていない。
「なぜ、そんな事を聞くんだ?理由は一体なんだ?」
「ああ、なるほど。君は何もわかっていないんだね。」
「何を?」
「君自身を。」
彼女は続ける。
「私には嫌という程わかるのだけど。」
「俺の事をか?」
「君の事を、だ。」
彼女は少年の胸倉をつかんで、顔を近づける。
「君と私は同胞だ。」
皮肉を孕んで笑い飛ばす。
「俺は人を殺さない。」
「馬鹿、だから何もわかってないと言っているんだ。」
彼女は少年を睨み付ける。
「君は能力者だ。」
後書きに何を書くべきかいまだによくわかりませんが、もうしばらく続きます。
明後日には・・・。