1 2-1 bulleseye
二人の学生が店の前で騒いでいる。
「ラルド君、私チョコばなながいい。生クリーム増してほしい。」
カウンターから辛うじて頭が見える小さな栗色の少女は、ディスプレイの中にある、食品サンプルを覗き込みながら騒いでいる。
「生クリーム増やせますか?」
隣にいる癖毛の少年はため息交じりに財布から野口を取り出す。
「追加料金になりますが…。」
バイトの女性は栗色に戸惑いながら、営業スマイルで対応する。
「彼氏さんは何かご注文なさいますか?」
癖毛の少年にも一応メニュー表を差し出す。
「ラルド君彼氏だって、よかったね。彼女が私だよ、完璧だよ。」
栗色が少年に抱き着こうと両手を広げるも、少年は右手でその頭を押さえつける。
「ツナサラダ」
「何で甘いの食べないの!?」
少年はお釣りを受け取り、クレープの完成を待つ。
「何なの?クレープ屋来て、何で惣物頼むの?君は焼肉屋でビビンバ食べるの?バカなの?死ぬの?」
「甘いの苦手なこと知ってんだろ。ってか焼肉屋でビビンバは普通食うから。」
「でも、ここのキャベツは作画がいいね。」
「それはレタスだ。」
クレープの生地を鉄板に流しながら、店員は気付く。
単純な話だ。この二人が騒ぐと客が入らなくなる。
「鉄板の上でアイス作る奴あったよね。」
「今からクソ甘いの食うのに、何でアイスの話振るんだよ。」
「あれすごいよね、イチゴとかオレオとか砕いて混ぜるんだよ。」
「鉄板を親の敵みたいに叩きつけるんだろ。あのアイス地味に高いんだ・・・。」
「あっ!」
「「おっ!?」」
店員がアイスの話につられて、クレープにアイスを乗せてしまった。
チョコバナナの方だったなら別にいい。栗色は甘党というかともあり、寧ろサービスになっていた。
だが、店員がアイスを乗せたのは、ツナサラダの方だった。
「すいません、サービスでアイス乗せときますね。」
「お願いします!!」
栗色からの了解は得た。
チョコばななの方にもアイスをトッピングする。
「ありがとうございましたー。」
ドナドナ。
バニラツナサラダは出荷されていった。
二人の学生は町中に消えていく。
「甘っ、バニラこっちにも入ってんのかよ!」
「アヒャヒャヒャヒャ」
ラルドのしかめっ面に、秋は腹を抱えて爆笑する。