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第三世界で終わる君へ  作者: 尾張 東水
First Of The Year
3/16

1 1-3 mashed potatoes

人類は産業革命により、戦争を局地から全域へと範囲を拡大させた。その史実がやがて資本主義の発展とともに植民地争奪戦、世界大戦という概念が生み出したのは必然なのかもしれない。そして人類は二度の大戦を経て”国際連邦”を作り上げることで、世界を法治する事を選択した。だがその実情は、戦勝国が国際上の優位を保つ、形だけのものだった。更に問題なのは、明確なる敗戦国を除く全ての参戦国を国連に加盟させたため、国際的法治組織において、資本主義と共産主義が共存する歪な状態が続いた。というのも、この組織は”世界を一つに”というグローバリズムに基づく最上位組織として位置付けれられたといえども、管轄は常任理事国によるため、結局のところその国の主義、及び政策に依存してしまう。つまり、常任理事国内で、相反する二大思想が極立しているため、結局この組織による機能不全は必然であった。そのため、当時世界で筆頭していた米国とソビエトは互いに対立し、核による冷戦時代を迎えた。その後は、僥倖にも一度もそれは使われず、人類は21世紀を迎えた。


結局、世界は三度目の戦争を経験する。

発端は、アジアの大国、中央共和国から始まる。共産主義でありながら、一部の資本運営を容認することで、かつてのソビエトを凌ぐ大国となった。一見聞えが良さそうだが、実際は共産主義を掲げながら貧富の差が拡大した格差社会だった。さらに国民は、自身で資本を持つことが許されず、自国に還元されるため、一部の上層階級は国外へ資本を流した。それでも世界で最も多い人口を所有する大国であり、安い人件費により多くの大企業がグローバリゼーションに則り、この国に生産拠点を置いた。そうして中央共和国は輸出指向型経済により、一時は世界第二位のGDPを記録する。

中央共産党の一党独裁は、第二次世界大戦以降ずっと続いていた。中央共産党は以前より隠蔽体質を持っており、中央共和国のバブルが弾けたとき、当然その事実を共産党は隠蔽した。この年中央共和国の輸出額は低迷したのにも関わらず、経済成長が続くデータを国連に提出したのだ。よって多くの大企業は疑念を抱き、生産性資本を中央共和国から東南アジアへと撤退させた。

これが引き金となり中央共和国の経済は低落する。悪くなった経済に対してとった中央共産党の政策は、南アジア海への軍事基地拡大だった。これは自国領海を広げるための布石である。というのも、この国は経済政策が不安定になった時、軍事政策に乗り出すことで、共産党の威厳を保とうとするのだ。当然国連から南アジア海からの撤退するよう警告が出されるが、中央共和国はこれを無視、アジア諸国との大きな衝突が目立ち始めた。この時中央共和国内のチベット地区内での治安情勢が悪化する。その後チベット地区で起こった内戦が、更に自国の経済に負荷をかける。そんな中で中央共産党のとった策は財政による自国通貨の価値の回復ではなく、中東王国への経済侵略であった。

中東王国は、二十一世紀初頭、アメリカとの宗教戦争を終え、新たに建国された国である。中央共和国は中東王国に眠る石油資本に目を付け、自国に資本を受け入れるよう圧力をかける。共産党による国営の石油精製企業を作り、世界への輸出ルートへ展開するプランを中東王国に提案するが、中東王国はこれを棄却する。中東王国内には中央共和国からの移民が多いため、中央共和国との共同発展を主張させるため工作員を使い、中東王国内での印象操作を展開するも、中東王国は自国資本をグローバリズムに則って輸出するより、国内インフラの整備、生活水準の向上のために資本を運用することが重要と考え、中央共和国との同調発展という従属ではなく、国連への加盟により、国家としての経済発展を望んだのだ。中央共和国は依然干渉を続けるが、中東王国は先進国の石油メジャーに自国内での事業展開を依頼する。中東王国は、石油を資本化する基盤を築きつつあった。

時を同じくして、中央共和国内で爆発事件が発生する。それは南京での一般人を巻き込んだ爆発事故で、死者は100名を超える規模だった。世界での認識は、ウイグル又はチベット自治区民による自爆テロ行為と思われていたが、中央共産党はこの事件を中東王国の人間によるものと断定。国際連邦の常任理事国であった中央共和国は調査団を派遣し、この事件のレポートを提出する。そのレポートでは、南京での爆発テロは中東王国の人間によるものであり、テロリストの入国履歴や経歴を公表した。中東王国側はそのレポートの一切を否定するも、中央共和国は中東王国に対し、報復措置と称し宣戦布告する。


中央共産党に対して、向かって犯行できる国家は数少ない。それは中央共和国の抱える資本力が、中小国家の市場基盤を揺るがしかねないためである。そのため、できたばかりの小国家に対して擁護する国家は、中東王国の石油資本の見返りも期待できないため、存在しなかった。そこで、中東王国はアメリカと日本の民営団体に南京爆発事件の調査依頼を申請する。

日米共同調査隊は再調査の末、南京爆発事件は中央共産党による自作自演によるものであることを結論付け、国連にレポート(南京レポート)を提出した。

使われたC-4が中央共和国の国防軍で使われているものと同一であること、事件前日、共産党幹部らがこぞって南京市から出ていたこと、また当時共産党会議が、中東王国が共同発展を破棄した後に突然計画されたこと、その他提出された資料にあったパスポートの入国スタンプの成分が本物のものと違っていたことなど、中央共和国側のこれまでの主張が全般的に矛盾しているため、中央共産党側の工作であると判断したのだ。

国連はこの南京レポートを受諾し、中央共和国に対し、中東王国への宣戦布告の即時撤回を要求する。だが中央共産党は一方的な軍事干渉としてこれを無視し、中東王国へ進軍する。


中東王国は、当時建国から僅か数年で、同盟国と呼べるものも持っていなかった。そこで、国連軍の派遣を申請するが、これが仇になる。国際連邦軍を戦地に派遣するには、常任理事国会議での全ての国の了解を得なければならないのだが、常任理事国には、中央共和国が入っていたのだ。つまり、中央共和国の進軍による国連軍派遣は、事実上不可能なのである。当然諸外国は中央共和国に厳しい経済制裁を加えるも、中東王国への進軍を止めることはできなかった。

そこで、中東王国は水面下で、南京爆発事件を再調査した日本と米国に対して、石油の輸出優先権、国営企業による採掘権、更に三国間のみでの経済特区開発を条件に、参戦を要求した。米国は軍を派遣、日本は国産の艦隊、潜水艦を提供、また支援物資の援助、そして自衛隊を条件付きに派遣した。

中東王国への二国による支援は、他の資本主義国家の援助を促進し、始め二十倍と言われた中国軍との戦力差も、ほぼ均衡に至るまでのものになった。

一方中央共和国にソビエトが支援を開始し、冷戦時の対立構図の延長線をなぞる戦争が始まり、激化の一途を辿った。中央共和国は、自国の経済崩壊に加え、他国からの輸出制限、経済制裁、さらに戦争による資金流出など、今後中央共和国が国際社会での生存するためには、中東王国の侵略が必要条件になっていた。


開戦から1年、世界を巻き込んだ三度目の対戦は、皮肉にもテロリストによって終結する。


中央共和国の首都で、中央共産党党首を暗殺し、駐在していた国防軍を虐殺した。テロリストは共産党幹部を処刑し、犯行声明もせず、党首の首を天安門広場に投げ捨て、その姿を消した。中央共和国は戦争を放棄、事実上敗戦した。この終戦は世界を恐怖で塗りつぶした。


前回の戦争に比べ、被害者数は極めて少ないため、一部では世界大戦と呼ぶことを誇張だと指摘する人も少なくないが、常任理事国に名を連ねた大国が崩壊するまでの影響力をこの戦争は孕んでいる。当然中東王国は国土の2/3が戦争の被害に遭い、多くの人々が亡くなった。特に開戦時中央共和国が初めて進軍してきた北部の町では、虐殺により、生存者は確認されなかった。日本や米国は中東王国への復興支援を今でも続けている。日本は常任理事国に入り、崩壊した中央共和国の後にその席を置く。またチベットなどの自治区は希望する限り独立させ、国連に独立を認める様申請する。また多くの国連アジア支部を日本に移した事で、アジア経済の中心は、極東の地、日本に移行した。


これは過去の歴史ではなく、二年前の史実である。




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