1 1-1 mashed potatoes
彼女はきっと変わらない
それは僕が始めて彼女に会った日も
それは彼女と別れた最後の日も
変わらずずっと『彼女』だった
僕も変われなかった
結局僕は最後まで僕のままだった
だからこの物語は、この結末は、この解答は、
きっと必然なんだ
変われない僕たちが導いた終局は
皮肉にも、骨髄までとは言わずとも
その終局に収束する
だから真実を語るのだろう
まぁ、そう謂えど大した話ではないのだが...
「ラルドくん!」
他の誰でもない。少年の名である。
少女の黄色い声が、少年の散在した意識を覚醒させる。
彼の視神経は、赤橙に染まる夕日に刺され痛みを覚える。
クラスの最前列で机に突っ伏し寝込みを決め込んでいた。
「ずっと寝てたね。もう帰る時間だよ。」
「ああ、そうなの。今何時?」
「四時半位」
睡眠から時間が経っていないためか、霞む視界で少女の輪郭を捉える。
どうやら少年はクラスに最後まで残ってたようだ。
「随分長く寝てたねぇ、午後の授業聞いてないでしょ。」
「そうでしょ...。」
少年は荷物をまとめて帰る支度を進める。
「ラルドくん、これから暇?」
少女の栗色の髪の毛は少年の頬を撫でた。
近くに顔を寄せたのだ。
「ああ、お前には悪いけどこれから布団とランデブーにしゃれ込むから無理です。」
「よかったー、暇だね。クレープ屋行こ。」
少年の意向は完全に無視された。
「...どこにあるの?」
「ホテル前のでかい駐車場。」
「駅より遠いじゃねぇかよ。」
「良いじゃん、行こうよ!食べたいよ!行くの!行かないと死ぬの!」
少女は少年の左手を握って上下に揺さぶる。
「あーもう、だったらくたばり給へ。」
彼は荷物を持って教室を後にする。
「えっ、待って。本当に行かないの?」
「だから帰るって言ってるでしょ。じゃぁね、また明日。」
引き戸に手を掛け教室から出ようとした瞬間、
少女に右手を握られる。
「(...かわいい奴め)」
そして少女の右足は少年のみぞおちに食い込んだ。
前駆姿勢になった彼の頭は自然と低くなる。
その上空を少女の右足は空を切る。
掴んでいた右腕を主軸に少女は体を回転させ残った左足で少年の胸部を地面へ叩きつける。
そしてその間に彼女は右足を倒れる体から抜いてみせた。
右腕は彼女にホールドされている。
一本
そして一言
「クレープ行こ。」
「ぶっ殺すぞテメエェ」
少年は痛みのあまりちょっと泣いた。
「眠気飛んだでしょ?」
「打ち所悪けりゃ死んだわ!!」
少女は彼から降りる。
少年はため息混じりに立ち上がる。
「よしわかった、付き合ってやるよ。」
それは可愛い彼女に頼まれたからであって、しょうがなく付き合うだけなのだ。
別に彼女に綺麗に技を掛けられて悔しいわけでも、その恥ずかしさをごまかすためではない。
「やったー、ひゃっはぁぁぁー」
世紀末のバイタリティあふれる暴走集団のような歓喜だったが、果たしてこの例示はいつまで通用するのか、わかったものではない。
「おいちょっと待て、お前金あるよな?」
少女は財布を見る。
少年を見る。
財布を見る。
沈黙。
「...おごって下さい。」
「やっぱ帰ります。」
「うわー、ラルドくんせめてお金貸してぇ、お願いします。」
涙目に訴えられても正直帰りたい。
少年は悲願する彼女を横目にある事を思い出す。
そういえば先日教科書見せてもらったり、はたまた忘れた宿題写させてもらったり、何かと迷惑を掛けてしまっていた。今日は日々の恩を返す良い機会じゃないか。
幸い今日は財布も潤ってる。
一人分のクレープをおごるくらい訳ないのだ。
「致し方ない、おごってやろう。」
「かたじけない。」
少女は荷物をまとめる。
「やっぱり女子高生におごるのは、男子高校生にとってかなりのステータスだとおもうよ。」
「お前の場合たかりだけどな。」
「ひでぇ」
ケラケラ笑いながら少女は歩む。
少年は教室を後にする。
少女は彼を追いかける。
「帰るぞ、秋。」