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ヒーローは負けない

「これが『神殺し』の刀か……改めて手に取ると、刀身に魅入られそうな雰囲気があるな」


 俺は、二振りの出来上がった刀を鞘から抜き、刀身を見つめながら呟いた。


「その刀は、生まれたての赤ん坊のような状態よ。これから、あなたの心に応じて刀も成長していくわ」


「そうなのか? 刀が成長する?」


「えぇ、伝承では神鉄を用いた『神の刀』は使い手に応じて、成長したとあるわ。おそらく『神鉄』事態が最も穢れなき材質と言われる通り、使い手に応じて染まりやすいでしょうね」


「マスター、正に俺色に染めてやるぜって奴ですね。遂に今度は刀を成長させて擬人化ですか? いやはや、変態の鏡ですね、ただただ感服致します」


「やかましいわ! 流石に擬人化になったり……人みたいに変身したり、しないよな?」


 俺は、ヤナビの件があった為、完全に刀が擬人化する事を否定できずに、カヤミに確認する。


「あのねぇ、どうしたら刀が人に変身するっていうのよ。そんな事、聞いた事も見た事もないわよ。流石に成長するって言ったって、そんな事は起こる筈無い(・・・・・・)じゃない」


「……ヤナビ、今のって」


「えぇ、マスターのご想像通りに、フラグが完璧に立ちましたね」


 俺が、カヤミが立てた擬人化のフラグに戦慄していると、カヤミは姿勢を正し口を開いた。


「兎に角、『神殺し』の刀を私に打たせてくれて、ありがとう。この恩は一生忘れないわ」


 カヤミは真っ直ぐ俺を見ながら、そう告げると頭を下げた。


「頭を上げてくれ、別にカヤミの為にした事じゃない。偶々、俺が『神殺し』の刀を欲していた所に、カヤミなら打てる可能性があると聞いた。そして偶々、俺は『神火魔法』が使え、偶然にも『神鉄』の在りかも分かっていた。ただ、それだけの事だ。気にするな」


「例えそうだとしても、貴方がいなければ、この刀は打てなかった」


「そっくりそのまま、返すよ。カヤミがいなければ絶対に創られる事がなかった刀だ。もっと言えば、これまでの代々の鍛治師が腕を磨き、カヤミの兄弟子が神鉄の存在を証明しなければ、何もここには無かった。生きる意味なんてものは、いつ分かるかわからんものさ」


「ヤナ……」


「まぁ、兎に角、創り出せて、皆幸せって事で良いだろ?」


「……そうね。私も『弟子を作る契約』をヤナとしたし、まぁいっかな」


 そう呟くカヤミの目が一瞬、獲物を狙う肉食獣の目に見えたのは……気のせいだよな?


「……そうそう、この二振りの『神殺し刀』だが、名はあるのか?」


「決めてないわね。ヤナが決めて良いわよ」


「おいおい、軽いな」


「だって、もうヤナの刀だもの。ヤナが名付け親になれば良いわよ」


 俺は、カヤミにそう言われ考えるが、名付け親と言われ、軽々しくつけては行けないと思うと中々思い浮かばなかった。


「少し考えてみる。きちんとつけてやりたいからな」


「マスター……私の時と、違うのですね。私の時なんて、超ダサい名前を一瞬でつけたくせに」


「……さぁ、タケミ爺さんやアシェリ達に、『神殺し』の刀が出来上がった事を伝えに行こう!」


 俺は、二振りの『神殺しの刀』を持って、母屋に向かった。




「おぉ……これが『神殺し』の刀か……自分で言ったのも何だが、これなら確かに神をも斬れそうだな」


 タケミ爺さんは、刀を見ながら呟いた。


「それとな、頼みがあるんだが」


 俺は『烈風』と『涼風』をタケミ爺さんに差し出しながら、頼み事を告げた。


「こいつらを、しっかり供養してやってくれないか? 今回の氷雪竜と戦った際に、恐らく最後の仕事だと思ってくれたかもしれないが、何とか持ってくれた。だが、戦いの直後に二振りとも、刀身がヒビだらけになってな……頼む」


 氷雪竜討伐の際に、全てに戦闘が終わった直後、『烈風』と『涼風』が仕事を終えたと言わんばかりに刀身の至るとこ亀裂が入ったのだ。


「任せておけ。こいつらも、最後まで砕けずに主人と戦えた事を誇りに思っているだろう」


 タケミ爺さんは、そう優しくも誇らしげな表情で自分の打った刀を労い、俺から受け取った。


「それじゃ、三人にも『神殺し』の刀が出来上がった事を伝えてくる」


 そう言って、俺は刀工の家を出たのだった。




「カヤミ、見事な『刀工』としての、初仕事だったぞ。あやつもきっと、お前の仕事を見ていただろう」


「お師匠……ありがとうございます。私もそんな気がしています。あにぃは、見ていると約束してくれましたから」


「あぁ、そうだったな」


 タケミは、天井を仰ぎみて静かに涙するのであった。


「つきましてはお師匠、ご相談が」


 カヤミは、少し照れながらタケミ声をかける。


「どうした?」


「実は……」


 カヤミの相談にタケミは多少驚きはしたが、すぐに納得し許可を与えた。


 そして、カヤミの顔はヤナが出て行った扉を見ながら、頬を染めるのであった。




「……ひぃ!?」


「マスター、いきなりどうしたのですか?そんな肉食女子に追い詰められた、草食系男子みたいな怖がり方をして」


「いや、いきなり身の危険を感じたんだが、別に死神の(危険/気配)慟哭(自動感知)は何も感知していないし、気のせい……の筈?」


 俺は、若干の寒気を感じながら、三人が鍛錬をしているという村の外へと足を運んでいた。


 アシェリ達は、俺とカヤミが刀を打っている間、折角だからと勇者達と一緒に鍛錬をしているらしい。


 村の外からすこし離れた草原に、三人と四人が集団で戦闘しているのが見えた。




「セラ! ルイ様を結界で隔離! アシェリ! アリス様を速攻で落としなさい!」


 エディスが二人に指示をだし、自分はコウヤとシラユキを同時に相手取るらしい。


「させるかぁ!」


 その指示を聞いたコウヤが、セアラの元へと駈け出す。


「かかりましたね!『ずっと(設置型)待ってましたよ?(捕縛結界)』『作動』!」


「しまっ……ぎゃぁ! やっぱり捕縛だけじゃ終わらないんだねぇえ! 潰れるちゃうぅう!」


 セアラの結界は大抵、捕縛と言いながら、即圧殺を狙ってくるから恐ろしい。しかも、俺との鍛錬により、結界自体の強度が格段に増していたのだ。コウヤ……合掌。


「シラユキ! アシェリちゃんをお願い!」


「わかったわ! ルイ! コウヤを結界中でも回復し続けて! そのうち出てくるでしょ!」


「わかったよ! 頭以外なら潰れても大丈夫! 心配しないで!」


「心配してぇえええ! ぐげぃいいい!」


 シラユキがアシェリとエディスを牽制し、アリスがやや戦線から離脱したかと思うと、詠唱を始めた。


「我の呼びかけに 我の誘いに 我の願いに 応え その真なる力を示せ『雷王轟火極砲(ミラクルビーム)』!」


 アリスが明らかに魔法の呼び方(ルビ)を弄っている魔法を、アシェリ達に向かって放った。


 シラユキは阿吽の呼吸で、アリスが『雷王轟火極砲(ミラクルビーム)』を放つ直前に、戦線から離脱していた。


「セラ! 正面! お願いします!」


「わかりましたよ! エディス! アシェリ! 私が止めたら速攻ですよ! 『私に触れていい(魔法特化)のは貴方だけ(遮断多重結界)』!」


 雷王轟火極砲(ミラクルビーム)』を真正面から『私に触れていい(魔法特化)のは貴方だけ(遮断多重結界)』が受け止め、轟音と共に魔法が結界に直撃したと同時に、周囲に雷と火の海が瞬時にして出来上がった。


 更に、セアラの結界に閉じ込められていたコウヤの雄叫びが聞こえると同時に、コウヤがスキルを言い放った。


「うぉおおお! 『勇者の覚醒』! せりゃあぁあ!」


『勇者の覚醒』状態のコウヤは、結界を内側から破壊し脱出した。


「アシェリ! 合わせて!」

「はい!」


「「はぁああああ!」」


 セアラが結界をトンネルの様に延長し、その結界のトンネルを使いと火の海から脱出したエディスとアシェリがコウヤに向かって、同時攻撃を仕掛けていた。


「私も忘れないでよね! 『流星の如き剣尖(メテオスラッシュ)』!」


 そこへシラユキが、剣戟を放ちながらエディスを迎え撃った。


「僕も、負けないよ!」


 コウヤも結界脱出直後に既に戦闘態勢に入っており、アシェリの剣戟を迎え撃った。


 そして、その時にルイの声が現場に響いた。


「はぁい! そこまで! ストップ! おしまい!」


 その掛け声で、剣と拳、聖剣とナイフとで斬り合っていた四人が停止する。


「ふぅ、全く、毎回私かルイが止めないと、誰も止まらないんだから」


 アリスが苦笑しながら、そんな事を言っていた。


「私達は、いつも止める人が誰もいませんからね」


 アシェリも苦笑しながら、それに答える。


 戦いを終えた三人と四人にミレアさんが近づいていき、戦いの講評をしていた。


 ひとしきり、それも終わったところで声をかけた。


「お疲れさん。中々いい鍛錬になってそうだな」


「「「「ひやぁあ!」」」」


「いやいや、驚き過ぎだろ」


 俺が気配を消すのをやめて、声をかけると正に全員が(・・・)悲鳴をあげた。


「流石マスター、気配を隠し全員が戦っている様子を間近で覗き見るという行為。あの(覗き)時に癖になったんですか?」


「はぁ!? はぁああ!? ちょ! 何言っての!」


「そう言えば、あなた? 有耶無耶になってたけど、あの夜(・・・)は何処にいて何をしていたの?」


 エディスが、思い出さなくてもいい事を思い出す。


「は? え? 霊峰にカヤミとディアナを連れて神鉄を採りにいって、帰ったら一泊してそのまま刀を打っていただろ?」


「主様、霊峰に出発する前日の夜の事ですよ? カヤミ様とディアナ様と一緒に飲まれ、宿屋に帰らなかった日の事ですよ?」


「「「「ほほう」」」」


 勇者達が一斉に俺を見る。


「確かヤナ様は次の朝になって、そのまま霊峰に向かいましたよね? カヤミ様とディアナ様に激怒される言葉を吐かれながらでしたよね? ナニをしたら、あそこまで女性が怒るのでしょう?」


「……ハハハ、嫌だなぁ。空耳じゃない?」


 全員に何故か半眼で見られたが、ここは絶対に黙秘だ。


「マスター、お二人のアレに挟まれて固くなってましたものね」


「はぁ!? アホか! あいつら寝ぼけて、あんな格好で抱きついてきたら、そりゃ……そりゃぁ……そう言えば、『神殺し』の刀が出来たんだ! 見るよな! そうなんだよ! これが『神殺し』の刀だ!」


 俺は腰に下げていた『神殺し』の刀を高々と掲げた。


「うわぁ……刀が神々しい分、余計にヤナがゲスく見えるね」

「折角の『神殺しの刀』のお披露目を、ゲスい行動を誤魔化す為にするって、どうなのあんた?」


 コウヤとアリスは呆れたという感じで、俺を見てくる。


「ヤナ君……寝ぼけている相手にナニしたの?」

「流石に、フォローできないかな」


 シラユキとルイには、G(黒い悪魔)を見つけた様な目で見られた。


「酔わせれば、もしかしてイケるのかしら?」

「確かに、それは在りかもしれませんね」

「後で、作戦会議ですよ!」


 三人は、もうよく分からなかった。


「ヤナ様、元気を出してください」


「ミレアさん……」


「ヤッちまったもんは、しょうがないですって!」


「表現も言い分も、ゲスいわ! それにヤッてねぇよ!」


 取り敢えず、『神殺し』の刀のお披露目は、散々なものとなったのであった。


「マスターに似て、ゲスい刀に成長しないといいですね」


「ゲスい刀って、どんな刀だよ……」




 俺たちは、村へと戻り、宿へと戻る道で見覚えのある一行に出会った。


「ヤナ! ここにいるという事は、刀が出来たのか!」


 ディアナが俺を見つけるなり、駆け寄って来た。そして、俺が腰に下げている刀を見て尋ねる。


「あぁ、今朝な。ディアナとカヤミのお陰だよ。ありがとな」


 俺は、感謝の気持ちを表す様に笑顔でお礼を述べた。


「ぐっ!……私にはジェット様が……」


 何やら悶えているディアナの様子を見ていた伯爵令嬢の、姉の方のヴァレリーが呟いた。


「まさか、漆黒の騎士(ジェットブラック)様に好敵手(ライバル)!? 最初は毛嫌いしていた相手と少しづつ距離を縮めて行き、気付いた時には、心の中にもう一人の存在が居座る様になり……」


 姉が妄想の世界へと旅立って行ったので、横にいた妹のマイナに目配せすると、顔を横に振って呟く。


「これであなたの方も(・・・)、姉様の頭の中の登場人物(キャスト)に採用されたね」


「嘘……だろ……?」


 俺がマイナの言葉に絶句していると、勇者達は以前にヴァレリーにもマイナにも会っている様で、お互い言葉を交わしていた。


 そして、去り際にディアナが思い出した様に、俺に告げた。


「そう言えば、ヤナも明日の闘剣大会に、出場するだったな。先ほど、ナルシー殿と会ったが、随分気合が入っていたぞ。ヤナも、しっかり全力で頑張るんだな」


 それだけ言うと、伯爵令嬢の一行は俺たちと別れ、歩いて行った。


「明日……」


 シラユキが、一人ごとの様に呟いた声が聞こえたので、俺は何でもない様に話す。


「屋台で食べ物でも買いながら、観戦しといてくれや」


「そんな、食べ物なんて食べられないよ……」


「ヒーローショーだと思えばいいのさ。『戦えヒーロー! 姫ちゃんを守って!』てな」


 宿に向かって歩いていた俺は立ち止まり、シラユキ向かってポーズを決める。


「ふふ、このヒーローバカ」


「あぁ、俺はヒーローバカだよ。だから分かるだろ?」


 シラユキは、微笑みながら呟く。


「うん、ヒーローは負けない」


「そうだ。(ヒーロー)は負けない」




 そして、闘剣大会当日を迎える。




 最高潮(クライマックス)に向かって、物語は加速する


↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)

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