見てはいけない事もある
俺は二人が泣き止むのをじっと待っていたが、二人が泣き止んだタイミングで頭から手を離した。
「もう大丈夫そうだな。それじゃ、ちょっと回収してくるから、ちょっと待っててな」
俺は、二人が倒した氷雪竜と氷雪竜から生み出されたモドキ達の死骸を、俺の鞄に黒炎の自動人形達を使って、そそくさと回収した。そして、全ての回収を終えると、ヤナビ達『黒炎の自動人形達』も解除した。
「よし、じゃあ行くか」
「「……」」
「マスター……冒険者としては、何も間違ってはいないんですが……」
二人に半眼で見られ、ヤナビに何故か呆れられたが、素材の回収は大事だろ?
「ヤナ、奥に行く前に、少し尋ねたいことがあるんだが?」
ディアナが俺を見ながら、不思議そうな顔をしていた。
「なんだ?」
「ソレは、どうしたんだ?」
「ソレ?」
ディアナが俺の身体を指差して、首を傾げていた。
「あぁ、何故ヤナが、漆黒の騎士様と同じ黒い鎧を身につけているのだ?」
「え?……え?」
「だから、何故ヤナが、漆黒の騎士様と同じ黒い鎧を身につけているのだ?」
「え?」
「貴様……おちょくっているのか?」
ディアナの額に青筋が見え始めたが、俺の頭の中は、完全にパニックになっていた。
「マスター、冒頭で凍りのブレスからお二人を守る際に、紅蓮の鎧から黒炎の鎧に切り替えしてますからね? そのあと、戦いに興奮して紅蓮外套脱ぎ捨ててましたよ? その鳥頭じゃ、もう忘れているでしょうけど」
「あ……」
「まさか……ヤナ……貴様……」
「えっと! その! あの! ここここれには理由が!」
「ヤナは……そんなに漆黒の騎士様の事を、慕っていたのだな!」
「は?」
「流石、安定のお約束な勘違い娘ですね、マスター」
現実にそんな勘違いをするような女子がいるなんてと、俺が絶句していると勝手に話が進む。
「うむ、それならばヤナが、漆黒の騎士様の名を騙ろうとしていた理由が理解できる! さすれば、ヤナはいわば同志だな!」
「お、おう! そうなんだよ! いやぁ、格好いいよな漆黒の騎士って!」
「うむ! その通りだ!」
俺が背中にビッショリ汗をかきながら、ディアナの話に合わせていると、カヤミが呆れながら俺たちに声をかける。
「お二人さん、もういいかしら? 先に進まない?」
「そうだな! 早く、先に行こう! さぁ、行こう!」
「マスター、焦り過ぎです……」
そして、俺たちは改めて最奥へと続く道を進み始めた。
暫くすると、大きな空間に行き着いた。
すると、カヤミがその光景を見て呟いた。
「ここが……これが……あにぃの見た景色……神鉄の採掘場所……」
俺もディアナも、その光景を見て言葉が出なかった。
大きな空間の壁の全てが、荘厳に神々しく輝いていたのだ。
「すごい……な」
「あぁ……これが神鉄……」
なんとか縛り出すように、俺とディアナが呟くと、カヤミは一人静かに神鉄の壁へと歩き出した。
「これが、あにぃの見た景色なんだね……私も見れたよ。あの二人に助けてもらって」
そして、カヤミは俺たちに振り返った。
「二人とも、ありがとう!」
カヤミは屈託のない純真な笑顔で、俺たちに礼を言った。
「……ごふ……卑怯だ……」
「何を悶えているんだ、ヤナは……こちらこそ、二人とも改めて、ありがとう」
今度はディアナが俺たちに向かって、深く頭を下げた。
「私一人では、まずここには来ることはなかった。そして、二人がいなければ氷雪討伐もなし得なかった。これで……私もまた、歩き出せる」
そう言いながら、顔を上げたディアナは顔一杯に、心から晴れ晴れしたような笑顔が広がっていた。
「……がはぁ!……くそ……負けるか……」
「ヤナは、さっきから何を悶えてるのよ?」
「お二人とも気にしないでください。マスターは、今自分の中に流れるシスコンの血に、必死に抗っているのです……要するに変態なんです」
「「………」」
「やめろ! ジリジリと、離れるな! このまま、良い雰囲気で行かせろ!……ったく、俺は自分のしたい事をしただけだから、二人が気にすることは何も無い。俺のしたい事の道の上に、偶々二人が立っていた、ただそれだけだ」
俺は、二人の本当の笑顔が見れた事が嬉しく、自然と顔に笑顔が浮かんだ。
「……くっ……ここで、それは卑怯よ……」
「……わ……私には、ジェット様がいると言うのに……くそ……」
「お前ら、何を悶えてるんだよ? ほら、神鉄を採掘して、凱旋しようぜ」
俺は、頭を抱えて悶えている二人に向かって、呆れながら声をかける。
「「あんたの所為だ!」」
「えぇ!? 何で、そうなるんだよ!?」
「マスター……残念です……残念な人って、本当にいるんですね……」
二人にいきなり怒られ、ヤナビには残念扱いされ、理不尽さを感じていたが、ふと疑問に思いカヤミに尋ねる。
「だが、どうやって神鉄を採掘するんだ。なんか道具を、持ってきているのか?」
「道具は使えない。と言うより、神鉄を砕く事の出来る道具なんてないのよ」
「え? ならどうやって、採掘するんだ?」
「『鍛治師の極意』『全ての素材は我の手に』」
カヤミがスキルを発動すると、両手が淡く光だした。
「それは?」
「『鍛治師の極意』の『全ての素材は我の手に』は、どんな鉱物をも採掘出来るスキルよ。鍛治師でコレを使えるのは、私の兄弟子とお師匠しか私は知らない。もし、あと使えるとしたら、ナルシーでしょうね」
「ナルシー? って誰だっけ?」
「マスターとラブコメの真っ最中の、お約束好敵手の王宮の御用達鍛治師ですよ」
俺は、シラユキとの一件を思い出し、思いっきりしかめっ面をした。
「……その、淡く光っている素手で、もしかして、採掘するのか?」
「マスター……思いっきり棚上げしましたね……知りませんよぉ〜」
俺は、ヤナビの言葉をスルーして、カヤミの答えを待った。
「この手で……こうするのよ!」
思いっきり、カヤミが神鉄の壁を殴りつけた。
「……豪快だな……少なくとも、アレで殴られたくは無いな……」
「マスター、見事にフラグを立てましたね」
カヤミが殴りつけ、轟音が部屋中に響き渡ると、突然神鉄の壁からゴロリと、人一人分程の神鉄もの塊が二個壁から崩れ転がり落ちた。
「カヤミが壁を殴ったら、いきなり塊が落ちてきたが、どうなっているんだ?」
ディアナも不思議そうに、カヤミに尋ねた。
「この『全ての素材は我の手に』は、どんな鉱物でも採掘する事が出来るの。ただし、使い手がその鉱物を扱う事が出来る力量が無いと採掘出来ない上に、必要とする分のみしか採掘出来ないの」
そう説明するカヤミの顔は、神妙な面持ちと成っていた。
「という事は、その二振り分の刀を打つ量の神鉄が採れたという事は、それを打つ力量がカヤミにはあるという事だな?俺の『神殺しの刀』を打つだけの技量が」
「……そうなるわね。でも、私は『刀工』ではないの……」
「本当にそうなのか? 本当にそう思っているのか?」
俺はじっと、カヤミも目を見ながら問いかける。
「……少し考えさせて」
「あぁ、じっくり考えてくれ。俺の命を預け、この世界を救う刀だ」
俺は、そう告げると転がり落ちた神鉄の二つの塊を持ってみた。
「ぬぉ……本当に、重いな……どうするかな」
俺が運搬方法を考えていると、ディアナが話しかけてくる。
「ヤナと私で、担いでいけばいいんじゃないのか? スキルを使えば担いでいけるぞ?」
「それだと、あの奈落から飛んで行く時に二人を担いで、更にその神鉄を担ごうと思うと手が足りないからな……まぁ、奈落の底まで行ったら、全員で飛べるやつを創ればいいか」
俺がそう呟いた時だった。
「オォオオオオオオオン!」
何かの咆哮のような音が鳴り響いた。
「なんだ!? 揺れてるぞ!」
咆哮のような音が聞こえた直後に、霊峰全体が振動しているかのような衝撃が全員を襲った。
氷雪竜がいた部屋まで、取り敢えず両脇に神鉄を担いで出ると、天井がパラパラと崩れ始めていた。
「まずいわ! このまま、振動が続くとここが崩れそうよ!」
「なに!? 折角竜無しで神鉄が採掘にこれるようになったのに……仕方ない! こうなったら、脱出最優先だ!」
「だが、神鉄の塊を二つもあっては、移動速度は限られるぞ! どうするんだ!」
ディアナが叫び、それを聞いたカヤミも顔を苦渋の決断をしようとするような表情をしていた。
「ここまで来て……でも、しょうがないわ。運が、悪かったと諦めて……」
俺はそんな二人の様子を見ながら、腕輪と指輪を外した。
「なぁ? このままだと、どっちにしろここは崩れるよな?」
「そうよ? だから神鉄は諦めて、脱出しようと言っているんじゃない」
カヤミが、なにを当たり前の事を言っているのかと、言わんばかりの表情を見せる。
「だったら、多少早めに崩れてもいいよな?」
「は? 何を言っている?」
ディアナが、訝しげな表情で俺を見る。
「『神火の断崖』『形状変化』『神火の荷車』」
俺は正に人力で物を運ぶと言ったら、これしかないという『神火の荷車』を創り出し、荷台に神鉄を乗せしっかりベルトで固定した。
「ほら、時間ないぞ。二人も荷台に乗って、しっかりベルトで身体を固定してくれ」
「これって、荷車よね? なんか当たり前の様に、私達を荷物みたいに縛り付けてるけど……なんで?」
「こんなに、しっかり固定されたら、いざという時身動き取れないんだが……何をする気だ?」
二人が取り敢えず俺に言われた通りに、『神火の荷車』に乗り込んだ為、備え付けてあるベルトでぐるぐるとしっかり固定した。振り落したら大変だからな。
「さてと、怖かったら目を瞑っててもいいが、叫ぶと舌を噛むかもしれないから気をつけろよ?」
「は? 何を言って……」
「どうして、そんな事になる……」
そして俺は、全力でリアカーを引いた。
「ヤナカーいっきまぁああす! うぉりゃあああああ!」
「な!? 急に加速しないやぁああああああ!」
「ぐぁ!? 加速で身体が後ろにぃい!」
後ろで二人の叫びが聞こえた気がしたが、今の俺には何も聞こえない。
「フハハハハ! 久しぶりの、全力ダッシュだぁああ! ヤナビ! ナビで奈落の底までナビゲーション頼むぞ! 距離優先だ!」
「距離優先なんですね? 知りませんよ? 右! 左! ぐるっと回って真っ直ぐ!」
「ぐえぇえええ! 目が回っ……うぷ」
「うぇええええ! 右左に揺れ……うぷ」
来るときは戦闘しやすい道を選んで来ていたが、今は兎に角早く脱出する事を優先した為、右に左に曲りくねりながらも、突き進む。
「気分は峠の走り屋だな! 攻めるぜコーナー! 壁面、天井! 俺に走れない道はねぇ! フハハハハ!」
実は、後々の事を考えて、走りだす前に靴の裏を形状変化でスパイク仕様に変えていたのだ。よって、何処でも走れるのだ。
「やめ……止めて……うっぷ……」
「くっ……殺してくれ……うっぷ……」
暫く走っていると、奈落の底にたどり着いた。
「よし! 奈落の底だ!」
俺は一瞬立ち止まった。当初はここで全員を乗せて飛べる物を創る予定だったが、そんな時間はなかった。すでにかなり崩れてきている。
「……着いたのね……下ろして……」
「……後生だ……頼む……下ろしてください……」
「さぁ! こっからが、本番だ! しっかり掴まっておけよ! 上に走るぞ!」
「……ちょっと待って……だって途中に氷竜とか…出るんじゃ……」
「……戦えないぞ……こんな状態じゃ……」
二人が不思議な事を言うので、振り返り安心させる様に嗤う。
「何を言っているんだ? 竜が来たら、このまま避けるに決まっているだろう? 心配するなって、ちゃんとしっかり避けるからさ」
「……避ける?……このまま?」
「このままって……まさか?」
「あぁ、これまでの比じゃないくらい前後左右に、揺れるからな。でもまぁ、その為に逃げられないくらいにしっかり固定したから、落ちないし大丈夫だ。任せておけって、しっかりお前らを守って、家に帰ってやるさ!」
俺は、二人を落ち着かせようと微笑みかける。
「……あんた……覚えておきなさいよ……」
「……貴様……この仕打ち、忘れぬぞ……」
「いやぁ、こんな事普通だって、恩に着なくていいから、直ぐ忘れていいぞ? じゃ、行くぞおお!」
「そうじゃなぁいいいい! いやぁあああ!」
「恩に誰が思うかぁあああ! きゃぁああ!」
俺は全力で上に向かって走り出した。
「ちっ! やっぱり出てくるか! 雑魚竜め! さぁ、アトラクションの始まりだ! ぬぉおおお!」
俺は、雑魚竜からの攻撃を神火の荷車を引いたままで、兎に角避けに避けまくりながら上へと目指した。
「……無理……もう……うっ……」
「……騎士である私が……そんな……うっ……」
後ろで、何やら嗚咽が聞こえたが、今更止まる訳にもいかないので、そのまま上へと走り続けた。
そして、暫く走り続けて、奈落を駆け上がると同時に、奈落の周りが崩れて始めた。
「やばい! 最後のダッシュだぁああ!」
「「………」」
俺は最後に今日一番の踏み込みで出口へと最短距離で駆け出した。
そして、入り口が崩れるまえに、霊峰の外へと脱出に成功したのだった。
「ふぅ、何とか無事に出られたな。このまま、タケミ爺さんの所にいくか」
俺は、アシェリ、エディス、セアラに呼出し、霊峰から帰ってきたからタケミ爺さんの所に来てくれる様に伝えた。
そして、俺は神火の荷車を引いて、タケミ爺さんの家へと向かった。
「おっ、丁度三人も着いたところだったか。おぉい、ただいまぁ」
玄関の前にいた三人の元へ、神火の荷車を引いて、向かった。
「あなた、おかえりなさい」
「主様、ご無事で何よりです」
「ヤナ様、安心しました」
三人が安堵した様な顔をしてくれたので、俺もホッと一息着いたところで、後ろが静かな事に気付いた。
「あれ? そういえば、やけに静かだな後ろが」
「そういえば、カヤミとディアナと霊峰に行ったんでしょう? 二人は?」
エディスも二人の事を思い出し、俺は後ろ荷台にいる事を伝え、全員で後ろの荷台を確認した。
「「「「げ……」」」」
後ろは地獄絵図と化していた。二人から出てきたであろうナニかで、二人は汚れていた。そして、更に白目を剥いて気絶していた。美人がアレに汚れて白目を剥いて気絶する様は、誰得だという状態だった。
「あなた……何したの?」
「主様……これは見てられません……」
「ヤナ様……私でもこれは、無理です……」
「……『浄化』……」
俺は、そっと『浄化』をかけて、全てを見なかった事にするかの様に、綺麗にした。
「う……ここは……?」
「うぅ……止まってる?」
二人がフラフラしながら、立ち上がり周りの状況を確認していた。
「おきたな、カヤミの家に着いたぞ。いやぁ、中々大変だったが、何事もなく脱出出来て良かった良かった、はははは」
「「………」」
二人は俺の言葉を聞くと、自分の服や荷台の様子を確認していた。まるで、何かに汚れていないかを確認する様に。
そして、一通り確認すると静かに荷台を降り、小さく呟く。
「あんた……動いたりしないわよね?……『暗殺者の想い』『陽炎の舞』」
「貴様……そこを動くなよ?……『恋せよ乙女』『乙女の決意』」
「は? 冗談だよな? そんなマジなスキル使って……俺が、何かしたか?」
俺が、そう口に出した時、確かに聞こえたのだ。二人から『ブチッ』っと何かの緒が切れるかの様な音を。
「ふざけるなぁああ! 『愛に堕ちる暗殺者』!」
「両断してくれるわぁあ! 『乙女は夢を諦めない』!」
「ぎゃぁああああ!?」
「「「やっぱり……」」」
「マスター……」
家の前の騒ぎに気付いたタケミが、止めに入るまで、ヤナは狂化した二人にボコボコにされるのであった。
「……た……たずけで……」
神鉄を採ってきたことを、完全に忘れる一行であった。
"オォオオオオオオオン!"
そして、招かざる登場人物が、舞台へと乱入するその時は、刻一刻と迫ってきていた。
↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)





