これは夢か現実か
「何であの偽物に、あんな事を話してしまったのだ……」
私は、兄が挑み散った霊峰を見に麓の山道の出入り口に行った。すると、あの偽物が立っていた。
目かけた瞬間は、すぐ頭に血が上ってしまったが、逃げる様子もなかったのと、兄の墓前とも言える霊峰の前だったので、何とか堪えた。
あの偽物は、自分の刀を打ってもらいに来たと言っていた。恐らく本物の漆黒の騎士様に憧れているのだあろう。そこだけは感心だ。
「まぁ、打った刀でまた名を騙ったら、今度こそ斬るがな」
私は、そんな独り言を呟きながら、村内に異変が無いかを調査していた。
今回、本来の仕事であるヴァレリー様とマイナ様の護衛任務から外れ、単独で先見隊としてここに来させて貰った。今回の事を、ロイド伯爵様に提案してくれたヴァレリー様のご配慮に報いる為にも、気合が入っていた。
実際は、目撃情報のあった漆黒の騎士様の捜索だった。
「未だ『見えない糸』はある筈……必ずや、一太刀を入れてみせる」
昼になり、一先ず村内の調査を一区切りし、取っておいた宿に向かって村内を歩いていた。
すると、騒がしい声が聞こえてきた。
「性懲りもなく、鍛冶場に来るとはいい度胸ね! よほど叩き鍛えられたいのね、その空っぽの頭を!」
「頭が空っぽだと、お前に言われたく無いわ! 先ず、話し合おうという選択肢は無いのか!」
「無い!」
「あってくれよ!?」
目の前を、さっきの偽物の男と、大きなアレを揺らしながら追いかける女性を眺めながら、呆れて呟いた。
「あの偽物は、私以外にもちょっかいを掛けて嫌われているのだな。全く、救いようが無い奴だ」
私が、その二人が走り去っていくのを見てから、再び宿屋と向かった。
そして、宿屋の扉を開き、中へと入ると見知った顔とすれ違った。
「また、結局追いかけられているみたいね」
「主様に、話で説得する話術があるとは思えないのですが……」
「きっと、何とか……なるのでしょうか?」
何処かで見た覚えがある様な三人だったが、よく思い出せなかった。結局そのまますれ違い、三人は宿屋の外へと出て行った。
そして、宿屋の食堂で昼食を取ろうとしたが、宿屋には食堂が無い事を思い出し、先ほどの三人と同じように外へでて、村内の飯屋へと向かった。
「勇者様方ではありませんか!」
「あ! ディアナさん! こんにちわ!」
コウヤ様を始め、ルイ様、シラユキ様、アリス様とお供のミレア殿と挨拶を交わした。
「勇者様達は、もう目的の鍛冶屋へ?」
王都へ救援に行く際に、魔族との戦闘でシラユキ様の剣が破損したとの事は、王都でお会いした際に、聞いていた。
「えぇ、王家御用達の鍛冶師には会えたんだけど、ちょっと妙な事になっちゃって」
どうやら、今度行われる闘剣大会に、その鍛冶師と共に出場して欲しいと頼まれたそうだ。
「別によろしいのでは? 腕試しに丁度良いかも知れませんよ?」
「別に出るのは良いし、その鍛冶師も腕はいいんだけど、ちょっと問題が……」
「問題?」
私が聞き返した所で、飯屋の扉が開いて作業着を着た青年が入ってきた。そして、いきなり叫びだした。
「ここにいたのかい! 私の姫君よ! さぁ、共に最強の剣を作ろう! そして、そのまま一緒になろう!」
「……アレは?」
私は、頭を抱えて悶絶しているシラユキ様が余りにも気の毒だったので、アリス様に尋ねた。
「アレが王家御用達の鍛治師よ。名前はナルシー。名は体を表すって言う感じの奴ね」
「確か王家御用達の鍛治師は、彼ではなかったと記憶しているのですが、確か彼は……」
私の記憶では、まだ王家御用達の鍛治師ではなかった筈だった。
「えぇ、最近代替わりするらしくてね。今回もシラユキの新しい剣を打つ事を、その師匠から認められたらしいのよ。そこで、シラユキとアレが対面した際に……」
『一目惚れだ! 是非私と伴侶の契約を!』
『ごめんなさい!』
『即答か! しかし! その決断力に、また惚れ直したよ! さぁ、私の打った剣で闘剣大会で優勝して、皆に私たちの愛を見せつけようじゃ無いか!』
『何この人!? 面倒くさい!?』
「それは……お気の毒に……」
私は、ガヤガヤとナルシーに騒がしく言い寄られるシラユキ様を見て、気の毒に思う反面、少しだけ思う所があった。
「私もジェット様に、言い寄られたい……」
「んん? 乙女な気配が! そういえば、ディアナちゃんは、何故ここにいるのかなぁ?」
ルイ様がニヤニヤしながら、私にここの村にいる理由を聞いてきた。
「私は、任務ですよ!? ロイド伯爵様方が、闘剣大会を観覧されに来ますから、その先見隊としてきているのです!」
「本当は?」
「漆黒の騎士様の捜索です!」
「きゃぁ! やっぱり!」
私は私で、ルイ様やアリス様に漆黒の騎士様の事を聞かれ、騒いでいると、シラユキ様の方では大きな声が聞こえた。
「何故! 何故、私ではダメなのだ!」
「だから、そんな初対面の人と『伴侶の契約』なんて、するわけ無いでしょう!?」
「は!? まさか、既に心に決めている男がいるというのか!?」
「なななななな何をいてててるのよ!?」
シラユキ様は、顔を真っ赤に染めながら、動揺していた。
「「「わかりやす……」」」
他の勇者様方が、息を揃えて呆れていた。
そして、そんな時だった。
飯屋の扉が開いて、あの偽物の男が入ってきたのだ。
後ろに、先程見かけた美しい少女達を引き連れて。そして、男は疲れたように呟いていた。
「あぁ、酷い目にあった。取り敢えず、飯だ飯」
私は、その偽物の男に問いただした。
「貴様、まさかその少女達を騙しているのでは、あるまいな」
「げっ! なんでここに! って、そりゃ今昼だし飯屋にいるよな……って、何でそうなるんだよ! この三人は、旅の仲間だ!」
偽物男がそう答えると、獣人、エルフ、人と種族の違う三人の少女達は私に向かって微笑んだ。
その少女達は微笑みは、正に信頼と親愛が滲み出るような微笑みだった。
「ヤナ君!」
「お前らも飯だったか。どうだシラユキ、そっちの剣は打ってもらえそうか?」
その偽物が、シラユキ様に聞くや否や、鍛治師のナルシーが大声をだした。
「おい貴様! 勇者様、特にシラユキ様向かって馴れ馴れしく話しかけるとはどういうことだ! 新品同様の革鎧を着ているような、戦いも碌にしていない臆病者の初心者が、身を弁えろ!」
「ちょっと! ナルシーさん! 何を言っているの!彼は、とても強いわ! それに彼は……別にこの態度で良いのよ、馴れ馴れしくても、嫌ってわけじゃないし……」
私は、そう偽物を擁護するシラユキ様の様子に絶句した。何故なら、その表情は『想い人』を庇う乙女そのものだったのだ。
「そうだよ! ナルシーさん! ヤナ君は、少し頭が打たれ過ぎちゃってるだけなんだから!」
「おい……ルイ、お前は俺をどんな風に見てやがる……」
「えへへ」
更に、ルイ様が冗談を言って、偽物の男に笑顔をむけていた。それは、見る人を悶えさせるような、照れ笑いだった。
「ルイ様まで……何で、あんな偽物男に……?」
私は、そんな五人の美しい少女達から想われている男の様子に、何故か心がざわついた。
私の、そんな不思議な感情の籠った呟きは、更に大きな声にかき消され、誰にも聞かれる事はなかった。
「シラユキ様……まさか……己ぇええ! 貴様ぁ! 既に何人もの美しい女性達を侍らせておきながら、更にシラユキ様まで、毒牙にかけようと言うのか! 許さんぞ! 貴様! シラユキ様を賭けて私と勝負しろ!」
私は、その物語の一節のような場面を目の当たりにしながら、尚も続く心のざわつきを、不思議に思うのだった。
「おい、誰か状況説明をしてくれ……何なんだ、このお約束男は?」
俺はいきなり、作業着姿の青年に喧嘩をふっかけられて、困惑している間に、話が勝手に進み始める。
「シラユキ様、先程は闘剣大会に私の打った剣で出ていただき優勝して貰いたいと申しましたが、申し訳ないが撤回させて戴きたい」
「別にいいけど?」
「おい貴様! 今回の闘剣大会で、この件の決着をつけようではないか! 今回は出るつもりはなかったが、ちょうど良い! 公衆の面前で叩き潰して、シラユキ様は私が戴く! では、逃げるんじゃ無いぞ! 精々それまでに、腕と武器を揃えるんだな! ハーハッハッハッハ!」
その青年は、それだけいうと飯屋を出て行ってしまった。
「何?……アレなの? 最近、俺の話を無視するのが流行ってるの?……良い加減泣くよ?」
俺が、余りに残念な対応をされ続けることに落胆していると、ルイが励ましてくれた。
「ヤナ君! 元気だしなよ!」
「ルイ……ありが……」
「これは、完全にラブコメだよ!」
「お前もか!? やかましいわ!」
俺は何やら巻き込まれた感に辟易していると、シラユキが申し訳無さそうな顔で謝ってきた。
「ヤナ君、ごめんなさい……訳も分からず巻き込んじゃって……」
事情を聞いても、何故俺が絡まれたのか分からんかったが、兎に角、シラユキが迷惑そうな男に絡まれている事はわかった。
「あいつが何で俺に絡んで来るのかは、よく分からんが、シラユキはあいつと契約なんてしたく無いんだろう?」
「当然よ! そんなの当たり前じゃない……」
シラユキが珍しくもじもじしているので、少し笑いながら口を開いた。
「では、この新米冒険者が、姫ちゃんを狙う凄腕の剣士から、命を賭してお守りいたしましょう」
俺は恭しく一礼をシラユキにしながら、騎士のように堂々と告げた。
「だだだだだ誰が姫ちゃんよ! それに、命を賭してなんて……まるで……ん? 凄腕の剣士? あの人は鍛治師だけど?」
「鍛治師? そうだったのか、でもアレはかなり強いぞ? 俺のみに、向けてきた威圧と剣気は相当だった」
「え?」
するとその様子を見ていたディアナが、あの青年について口を開いた。
「シラユキ様、ご存知なかったのですか? 彼は前回の闘剣大会の覇者です。自分で剣を打ち、且つ自分でその剣を使い、鍛治師でありながら本職の武芸者を打ち倒し優勝したのです。彼が打った剣の強さはもちろんの事、彼自身の強さは際立っておりました」
「そんな……」
「シラユキ様、こんな偽物男ではなく、コウヤ様に代わりに戦ってもらったほうが良いのでは?」
ディアナが、真剣な眼差しでシラユキに、俺がコウヤと代わった方が良いと提案していた。
「……ヤナ君……大丈夫なんだよね?」
シラユキが不安そうに俺を見てくるので、俺はできるだけ自信満々に不敵に嗤いながら答えた。
「俺が倒されると? 約束した筈だが?」
「うん……知ってる」
「なら、何の問題はないな。シラユキはきちんと自分の剣を打って貰うだけでいい。俺の背中は案外広かっただろ? 心配するなよ。それに、大体ちゃんとあいつとシラユキをかけた勝負なんて、受けていないし、シラユキが了承しなきゃ良いだけの話だろ」
「「「背中?」」」
他の勇者達が一斉に、シラユキ様を見た。
「べべべべ別に、心配なんかしてないわよ!」
「シラユキちゃぁん? 背中ってなぁにぃ?」
ルイが、じっとシラユキを見つめていた。
「なななな何でもないわよ? 別に! 特に! 何も! ないわよ!? ごちそうさま! ちょっととと外の空気を吸いに行くわね!」
「あぁ! 待って! シラユキちゃん!そこんとこ詳しく!」
シラユキが耳まで真っ赤にしながら、飯屋を出て行き、それをルイが追いかけて出て行った。
コウヤとアリスが苦笑しながら、それを追いかけていき、ミレアさんがブツブツ呟きながらに出て行った。
「狙ってやっているのか……それとも天然なのか……恐るべし……私も気をつけよう……」
何を気をつけるというのか、気になったが、聞いてはいけない気がしたので止めておいた。
何故かディアナにじっと見られたが、特に何も言わずに食事を終えた後、ディアナも飯屋を出て行った。
俺たちも昼飯を食べた後は、村の外で全員で鍛錬をして過ごした。流石に、午後またすぐにカヤミの所に行っても、怒りが収まってなければまた襲われると判断し、話し合いはまた明日に期待した。
そして、夕食を食べるために飯屋に入った所までは、しっかり覚えている。
そして気付いたら、何故か二人の美女が下着だけの半裸状態で、俺を挟むように寝ていた。
「朝チュンですね、流石マスター」
「……は?」
俺は時が止まったかのように、硬直した。
↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)





