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よくある話

「あにぃ! すっごいきれいだね!」


「そっか、ありがとう。カヤミ」


 カヤミは、兄弟子の打った刀を見て、はしゃいでいた。


「出来はどうだ」


「師匠、やはり竜の素材を組み込むと、刀身に強度が増しますね」


 タケミは、自分の弟子の青年の打った刀を手に取り、丹念に調べた。


「確かに、悪くないな。ただ……」


「一歩及ばない……と言ったところでしょうか……」


「まぁ、そうだな……詰まる所、やはり『神鉄』といったところか」


「やはり、そこに行き着いてしまいますか……霊峰……」


 兄弟子の青年は、高くそびえる霊峰を窓から眺めた。


「お師匠、刀鍛治教えて! あにぃも!」


「おうおう、わかった。ちょっと待ってろ」


「ハハ、師匠は相変わらずですね。普通、鍛冶場に女性を入れたりしないですよ?」


「お前だって、カヤミに教えてるじゃねぇか。知ってるんだぞ?」


 タケミと兄弟子の青年は、笑い合う。


「仕方ないですよ。僕は、師匠の弟子ですから」


「ちげぇねぇな、ハッハッハ」


「お師匠! あにぃ! 早くぅ!」


「「わかった、わかった」」


 鍛冶場には、明るい空気満ちていた。




「本気で行く気か?」


「えぇ、師匠。『初代』に追いつくには、同じ『神鉄』を使わない限り無理でしょう」


「一人なのか?」


「誰も本気で(・・・)勇者様さえも命を賭けて行くような場所へは、行きたがりませんよ」


 苦笑しながら話をする青年を見て、タケミは顔を険しくした。


「お前は、剣士としての腕も悪くない。だが、一度や二度で成功するとは思わずに、しっかり生きて帰ってこい」


「お師匠! 大丈夫だよ! あにぃは、すっごく強いしカッコイイもん! 絶対、神鉄取って帰ってくるもんね!」


 目をキラキラさせながら、青年が失敗することなど一欠片も思っていない瞳を、カヤミは兄弟子に向けていた。


 青年は、カヤミの頭を撫でながら、力強く約束をする。


「あぁ、そうだな。しっかり『神鉄』を採って帰ってくるから、楽しみにしてるんだぞ?」


「うん! あにぃ、頑張ってね!」


「……師匠、もしもの時は、カヤミに『継承』をお願いします」


 小さく青年は刀工タケミに、頼んだつもりだったが、カヤミはしっかり聞いていた。


「嫌だよ! あにぃが、次の『刀工』だよ! 絶対、あにぃなんだから! そんなこと……言わないでよぉ……」


 カヤミは、我慢して明るく振舞っていたが、ついに涙が溢れてしまった。


「ごめんごめん、そうだな。絶対に帰ってくるから、泣くな。な?」


「ぐす……うん、絶対だよ! わたしが、あにぃの次の(・・)刀工になるんだから!」


 それを聞いて、青年と刀工は目を合わせて、そして笑った。


「あぁ! 笑ったなぁ! わたしが刀工なる時は、二人よりうんと凄い刀打つんだからね!……だから、それまで(・・・・)ちゃんと教えてよね!」


「笑って悪かった。僕も師匠もカヤミがいずれ刀工に至ると分かってるさ。今笑ったのは、そう言ってくれた事が嬉しかったのさ」


「そうだ。馬鹿にしたんじゃないぞ。嬉しかったのだ」


 そして、青年は神鉄を求め、霊峰へと挑んでいった。


「あにぃ……大丈夫だよね? お師匠……」


「あぁ、あいつは絶対に帰ってくるさ」




「カヤミ! 回復薬(ポーション)をありったけもってこい!」


「あにぃ! あにぃ! 死んじゃいやだぁ!」


「早くとってこい!」


 カヤミは泣きながら、回復薬(ポーション)を取りに走り出した。


 タケミは、ボロボロに傷ついた青年の装備を外して、傷を見た瞬間絶句した。


「これは……」


「師匠……すみま……せん……少し欲張って……しまいまし……た……」


 そして、青年は口から大量の血を吐き出した。


「もういい! しゃべるな! 今、カヤミが回復薬(ポーション)を持ってくる! それまで(・・・・)持たせろ!」


「はは……そうですね……カヤミとの約束を果たさないと……」


 そして、カヤミが回復薬(・・・)持って走ってきた。


「あにぃ! 回復薬(ポーション)だよ! お師匠! これで大丈夫だよね!」


 カヤミはタケミに回復薬を渡し、問いかける。


 タケミは、回復薬を傷口に直接かけるが、効果は薄かった。


「傷がやはり……大きすぎる……カヤミ、こっちに来なさい」


 タケミは、いよいよという事を悟りカヤミを兄弟子の側へ呼んだ。


「……カヤミ……か?……ただいま…」


 青年は、既に目が見えていなかった。


「あにぃ……おかえりなさい! ちょっと休んだら、直ぐに鍛冶教えてね!」


 カヤミは、目から流れる涙を止めることは出来なかったが、精一杯にいつもの声を出したつもりだった。


「そうだな……そうだ……これ……約束だったろ?」


 青年は一握りの鉱物を、カヤミに手渡した。


「あにぃ……これは?」


「まさか……『神鉄』か?」


「これだけしか持ってこれなくて……ごめんな…….」


 青年は、カヤミにそれを手渡すと静かに目を閉じた。


「あにぃ! わたしは、あにぃの次の(・・)刀工になるんだよ! ダメだよ! わたしがお師匠より、あにぃより凄い刀打つまで見てくれるって……約束したんだからぁあ!」


 青年は、カヤミの叫びを聞き、少し困った顔をした。


「あぁ……見ているよ……」


 そして、最後の力を振り絞り笑顔で、そう言った後、青年は二度と目を開けることはなかった。





「カヤミは、兄弟子が死んだ後、鬼気迫る勢いで鍛治の鍛錬を続けた。俺はそんなカヤミを指導するために、暫く仕事はしていなかった。それが、世間的には引退と思われた時期だろう」


 タケミ自身としては、世間で思われているような、兄弟子が亡くなったショックで引退した訳ではなかったらしい。カヤミの鍛錬に集中する為に、自分の仕事はしていなかったそうだ。


「そして、カヤミは俺も兄弟子も超えた」


「は? カヤミって俺と同じくらいか少し上ぐらいにしか年は見えないんだが、そんな歳で師匠や兄弟子を超えるものなのか?」


「そうか、お前はこの世界の『鍛治』を知らんのだな。初代の残した伝承にあるような異世界の鍛治では、無理かも知らんが、この世界の鍛治とは魔力を使い、芯となる素材に幾つかの素材を融合させていく。何より、その感覚がものを言うのだ」


 そして、その感覚というのが、カヤミはずば抜けていたらしい。


「そして、俺の本当の引退とは、俺をカヤミが超えたと感じた時だ。そしてその時に、俺のジョブが『刀工』から、ただの『鍛治師』となった」


「なら、今の『刀工』は……カヤミか?」


「その筈なんだがな……あいつは、それを認めない。本当にジョブに表れていないのか、わからん。ただな……俺の体から力が抜けていく感覚があった日から、あいつは刀を打つ事を止めちまいやがった」


「カヤミも身体の変化に気づいた……かもしれないか」


 静かにタケミの爺さんは頷いた。


「だからな、今の俺には、お前さんが全力で振れるような刀は打てん」


「まぁ、そうなるよな。現『刀工』に頼むしかないか……上手く説得できる気がしないが」


 俺には、親しい人をまだ失った事は無かったし、こんな話は漫画や小説なんかでは、お約束(テンプレ)の類いだ。創作の話であるならば、今更何とも思わなかっただろう。



 ただ、コレは(・・・)現実だ。



 兄弟子を追いかけ、追い越す事を夢見ていた少女



 そんな自分を、尊敬する兄弟子に見届けて欲しかった少女



 身体と技術は成長しても、自分を認めたくない少女



 だから、俺は自分に出来る事(・・・・)をしよう。




「その『神鉄』ってのは、その霊峰とやらにあるんだよな?」


「あぁ、そうだが?」


「なら、俺が好きなだけ鍛治の鍛錬を、『神鉄』を使って出来るくらい採って来てやる。兄弟子を超えたくないと思っているのか、超えられないと思っているのか知らんが、取り敢えず鍛錬しない事には始まらないからな」


 それを聞いて、三人から「流石、鍛錬バカ」と聞こえた気がするが、全く気にしないったら気にしない。


「あのなぁ、アメノの奴の書き方だと腕には自信があるんだろうが、霊峰は言わば迷宮だ。そして、神鉄が取れる最深部にはそれを守るように竜が住み着いていると言われている。威勢だけは買ってやるが、やめておけ。それに問題は、『神鉄』だけじゃねぇ」


「あぁ? 他にも何か素材がいるのか?」


「違う。『火』だ。刀を打ち鍛えるには『火』が必要だ。『初代』が『神鉄』を打った際は『獄炎』を使用したらしいが、その時の初代の言葉が残っているのだ」



『神鉄は獄炎でさえ、完全に鍛える事は出来なかった』



「俺たちは、先ずは初代の作った刀に追いつく(・・・・)為に神鉄を手に入れようとした。だから打つ時は獄炎魔法の使い手を雇って打つつもりだったのだ。初代の神鉄で打った刀は確かに素晴らしい。だが、当時の俺たちでもあと一歩という出来まで迫っていた。それは当然お前さんが持つ『烈風』『涼風』も同じだ」


 口ぶりからすると、アメノ爺さんが所在不明とされる『初代』『刀工』の『神の刀』とも呼ばれる刀をタケミ爺さんは知っているかのような口振りだった。


「だが、そのあと一歩という刀が完全にお前さんの力についていけていない。望みは叶えられんよ。諦めて、アメノにくれてやった俺が作った刀を、力を抑えて使うんだな」


「もし、獄炎よりも強力な『火』があれば、『神の刀』を超えられると思うか?」


 俺のそんな問いかけを聞いて、タケミの爺さんは鼻で笑う。


「ふん、そんな『神の火』とも言えるような『火』で『神鉄』を鍛えるのであれば、『神の刀』なんぞ出来やせんわ」


「え? 出来ないのか?」




「もはやその刀は、『神殺し』と呼ばれる刀となるだろうな」




 俺はその言葉を聞いて、全身に鳥肌がたった。


「フフフ、そうか、『神殺し』か! あのクソヤロウをブッタ斬る刀か! アッハッハッハ!」


 俺のその様子を見ていたタケミが、三人に問いかける。


「おい、こいつの頭は大丈夫か?」


「この人の頭は、大丈夫とは言えませんが、問題ないですね」

「主様の頭は、まともではありませんが、問題ないです」

「ヤナ様の頭は、最終的には問題ないですから」


 俺はそんな四人のやり取りを聞きながら、腕輪と指輪を外していた。


「ならカヤミには、初代すら超えてもらおう。『神殺しの刀』を打ってもらってな!」


「全く話を聞かん奴だな。だから、神鉄があっても鍛える火がな……」


 俺は両腕をいっぱいに広げ、静かに唱える。


「『神火の清め(アブルーション)』」


 俺は、この家全てを『神火の清め(アブルーション)』で包み込んだ。


「なん……だ……これは……『火』なのか?……それに何て神々しい気を放つんだ……」


 タケミ爺さんが神火を見ながら、驚愕しているので説明しようと俺が口を開いた時だった。


「これはな……」


「お師匠! これは一体!」


 勢いよく俺たちが居た部屋の扉が開き、そこにはカヤミが息を切らしながら立っていた。



「これが、『神の火』だ」



 その言葉に、老鍛治師と女鍛治師は絶句している。




「さぁ、創ろうか『神殺し』の刀を」


↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)

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