予想外
「オヤジ、やっぱりどうにもならんのか?」
「ここまで刀身がボロボロなってはなぁ、大体こんな業物をどうしたらここまでボロボロにできるんだ? ちゃんと手入れしてたんだろうな?」
オヤジは咎める様な目を、俺に向けてくる。
「この間、ぶっ続けで五万匹程魔物を斬ったあとに、続け様に瘴気纏いの大群を斬ったのが不味かったみたいだ。流石に戦っている最中に、手入れまで出来なくてな」
オヤジは驚愕しながら後ろに並んでいた三人目を向けるが、三人は呆れた様な顔をしながら頷いた。
「ガストフが言ってた『変態の中の変態』ってのは、お前だったのか……」
「あの野郎……ここの支部の冒険者共は、変な二つ名ばっかり広めようとしやがって」
「『漆黒の騎士』は、自分で冒険者になった初日に、堂々と名乗ってましたけどね?」
エディスが、何か喋っているが俺には全く聞こえない。
「……まぁ、それはさておき。どうしたもんかなぁ」
俺は、傷つき共に戦えないと宣告された『烈風』と『涼風』を見ながら、呟く。
「そもそもお前、それどうやって手に入れたんだ?」
「ん? これは、師匠に選別で貰ったものだ」
「なら、その師匠とやらにどうやって手に入れたか聞いてみろ。もし、その刀を打った鍛冶屋と知り合いなら、もしかしたらまた刀を打ってもらえるかも知れんしな」
何やら含みのある言い方をするので、オヤジに確認した。
「この刀を打った鍛冶師を知っているかの様な口ぶりだな」
「そりゃ銘が彫ってあるからな」
「有名なのか?」
「お前なぁ……そんな刀なんて持ってるなら、もうちょっとその辺にも興味をもて。それを打ったのは『現』『刀工』のタケミ・カシマだ」
「『現』『刀工』? 刀を打つ鍛冶師は全員刀工じゃないのか?」
俺は『刀工』というのは、一般的に刀を打つ人間が全て名乗れるものだと思っていたが、こちらの世界ではそうではないらしい。
「『刀工』というのは、『継承』されるジョブだからな。勿論、他にも刀も作る『鍛冶師』はいるが、『刀工』には出来がかなわんな。『刀工』は正に刀を打つ事に特化したジョブで、話によると昔の勇者が持っていたジョブらしい」
ジョブの中には、『継承』により正に上位職とも言える様なジョブにつくことがある。スーネリア騎士国の『聖騎士』も嘗ての勇者のジョブであり、これも『継承』により受け継がれていることは知っていた。だが『刀工』もそうだとは知らなかった。
「そうだったのか、ならその『刀工』に頼めば打ってくれるのか? 若しくは既に打ってある刀を、買い取れればいいんだが」
「現『刀工』は、随分前に引退したと聞いていてな。一番弟子が死んだ時に自分の打った刀も全て売って隠居していると聞いている。今は何しているかわからんが、お前の師匠とやらが、『刀工』と、もし知り合いなら、聞いてみるといい」
「なるほどな。なら聞いてみるか」
「そもそもお前、また師匠に頼んで譲って貰えないのか?」
「ここ最近で、何故か師匠の持っていた刀が次々と折られてな……そんな半ベソかいてる老人に、更にくれなんて言えねぇよ……」
俺は、ちらりとセアラを見るが、本人はニコニコとこちらを見ている。
「そうか……それは気の毒だったな。あと、なんでお前また、初心者に逆戻りしたような革鎧なんて着てるんだ? まさかと思うが、瘴気纏い個体のキングオーガとロックベアで作った装備を、もうダメにしたとか言わんよな?」
「あぁ、まぁ、うん、ダメにした。瘴気纏い個体の素材は、前のがまだ残ってるんだが、またお願いできるか?」
「おい……はぁ、そうだな、前回の残りだけで充分だ。ただ、同じのでいいのか? なんか新しい素材は持ってないのか?」
「今回の魔物の大氾濫で狩った奴は、南のはギルドに引き渡したしなぁ」
そこでアシェリが、北について聞いてきた。
「主様、北の迷宮でも魔族と瘴気纏いの群れが現れて、討伐したんですよね?」
「あっちは、急いでいて鞄に入れてないな。まぁ、そもそも一匹残らず細切れにしたから、素材どころの話じゃないんだがな」
「何したら、瘴気纏いと魔族が細切れになるのよ……それなら瘴気纏いキングクラーケンがあるんじゃないの?」
エディスに、呆れられながら巨大イカの事を言われ思い出した。
「おぉ、そう言えば完全に忘れてた。瘴気纏いキングクラーケンがあるぞ。どうだ?」
「ほほう、中々キングクラーケンでもお目にかかれない所に、瘴気纏いか。よし、見せてみろ」
俺とオヤジは奥に倉庫向かい、そこで鞄から瘴気纏いキングクラーケンの素材を出した。以前にギルドで解体済みだったが、それでもでかかった。
「……でかいな……」
「好きなだけ、使ってくれていいぞ。あと金は出来上がりの際に、教えてくれればいい」
「豪気だな。まぁ、今回も素材があるからな前と然程かわらんがな。それと、こいつも消毒して行けよ」
俺は、倉庫に出した瘴気纏いキングクラーケンを神火の清めで、清めてから店内戻った。
「『ヤナだ。アメノ爺さん、今話せるか?』」
俺は刀工の事を聞くために、アメノ爺さんに呼出した。
「『アメノじゃ。大丈夫じゃよ、なんじゃ?』」
俺は、アメノ爺さんから貰った大太刀『烈風』『烈風』の現状を話した。
「『折角貰ったものを、申し訳ないな』」
「『しょうがないじゃろうて。そもそもあの時点のヤナ殿に、合うだろうと渡した刀じゃったしの。更に力が増しているヤナ殿の力には、刀自体の力不足もあったかもしれんしの』」
「『防具屋のオヤジに、この刀は"刀工"の打った物だと聞いたんだが、アメノ爺さんの知り合いか?』」
「『まぁ、そうじゃの。古い友人と言った所かの。しかしのぉ、あやつはあの時から打つのを止めてしまったからの。儂の頼みでも、恐らく打ってはくれんじゃろうな』」
俺は、一応アメノ爺さん持っている刀で俺に合いそうなものがあるか聞いてみるが、答えは意外なものだった。
「『残っている物で、ヤナ殿に合いそうなものはないじゃろな。と言うより、現状のお主に合う刀は、新しく打たないと無理じゃろう。確か、引退した時に一人小さな子供がいた筈じゃ。もしかしたら、その子が鍛治の鍛錬を続けていれば、継いでいるかもしれんの』」
「『ほぉ、一番弟子が亡くなっているとは、聞いていたがもう一人いたのか』」
「『そうさの、今ならヤナ殿と同じか少し上くらいの年頃の娘だったとおもうがの』」
「『娘? そうなのか、よく鍛冶場は女厳禁見たいな事を前いた場所では良く聞いたけどな』」
元の世界では、鍛冶場には女は入れないと言うことは、聞いたことがあるので少し驚いた。
「『当代の刀工は変わり者じゃったからな。こちらでも女は普通鍛冶場にはいれんよ。会いに行くなら、儂が一応紹介状を書こう。出立前に城へ寄ると寄ってくれるかの』」
「『それは、ありがたいな。それで、その変わり者の『刀工』は何処にいるんだ?』」
「『北都ノスティの更に北、霊峰の麓にある鍛治師の村におる。詳しい場所は行けばわかるじゃろう』」
あとで紹介状を貰いに行く事を再度確認し、アメノ爺さんとの通話を回線切断した。
「オヤジ、防具の作成にまた一週間程かかるんだろ?」
倉庫から戻ってきたオヤジに作成期間を聞く。
「そうさな。キングクラーケンの素材も色々試したいからな。それくらいは考えといてくれ。代わりの装備は貸し出すか?」
「これでいい。まだこれも使えるし、使わないと勿体無いからな」
「金持ってる癖に、変に貧乏性だな」
「やかましい。ものを大切にしてると言え」
そして、オヤジに防具作成を依頼し、前金を払い店を出た。
「よし、次の行き先が決まったな。北街ノスティの更に北の鍛治師村だ!」
「ふふ、楽しみね」
「はい、楽しみですね」
「フフフ、楽しみです」
三人も何やら、ワクワクしている様子なので、俺も楽しい気分で旅の準備を済ませ、ギルドに北に行く事を伝えに向かった。
ギルド内は、賑わっていた。王都の復興関連のクエストが多く発行されていた為と、今回の緊急クエストの報酬を皆が貰うために来ていたからだ。
「おうおう、やっぱりこう賑わってないとな」
「そうですね。一回シメたので絡んでくる輩がいないのもいいですね」
何処のレディースのお姉さんだよと呆れていると、ガストフ支部長に声をかけられた。
「きたな! 『変態の中のへ…うぉ!」
俺は、ガストフ支部長に無言で斬りかかった。
「それ以上言ったら、その首飛ばしてやる」
「いや、お前……今避けなかったら実際、斬り飛ばしやがっただろ……」
「やかましいわ! 変な二つ名広めようとしやがって!」
ガストフ支部長は笑いながら、後ろの三人を見た。
「お、全員揃っているな。『番狂わせ』、『血の雨』に対する報酬は、二人ともヤナの従者として今回参加してから、報酬はヤナの口座に振り込んであるからな。あとエディスは報酬と退職金を振り込んでおいたぞ」
「「わかりました」」
「えぇ、ありがとう」
俺は耳を疑った。
「ちょ! ちょっと待て! そんなの、俺は初めて聞いたぞ!」
「あ? 何がだ? 報酬は従者だろうと正式に参加したんだ。そりゃ支払うだろう」
「違う! そっちはどうでもいい! 何だその『血の雨』っていうのは!」
俺は、驚愕していたのだ。如何にも強そうなカッコイイ二つ名に。
「ん? お前の侍女のセラちゃんの事だが?」
「少し恥ずかしいですけど、悪い感じはしませんね、フフフ」
「何で……何でそんなに格好いいんだ! 俺にもそんな格好いい奴考えろや!」
「主様……わたしの時と全く同じ台詞を……成長してないんですね……」
そして、俺はまさかと思い、恐る恐る聞いてみた。
「おい……まさか、エディスも二つ名を持っているのか?」
「あぁ、エディスは『予想外』だったな」
それを聞いて俺は、愕然とした。
「シンプルな響きの中にも、エルフは魔法が得意と見せかけての、実際は肉弾戦で戦うというエディスの相手からしてみればまさに『予想外』な様を表しているのか……」
「正にその通り何だが……そんなに震えてどうした?」
「うるせぇ! 俺にも、そんな格好いい奴考えろや!」
「あなた……もう、諦めたら?」
俺が悔し涙を流す勢いで、三人の二つ名を悔しがっていると後ろから声をかけられた。
「お! 漆黒の騎士じゃねぇか! 今回は大活躍だったらでぃぶへぇ!」
「おい……五蓮の蛇……良いところに来やがったな……てめぇら、東の街でもその名を広めやがったな……シネ」
「「「「「ぎゃぁああああ!」」」」」
俺が五人にトドメを刺そうとした時だった。
「今『漆黒の騎士』様って、誰か言いませんでしたか!」
「あぁ? 誰が漆黒の騎士だ!」
大声で人の恥ずかしい二つ名を叫びやがった方を見ると、いつぞやの女騎士が立っていた。
「は?」
正に予想外の再会だった。
↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)





