烏賊の下足
俺たちは、浜辺沿いの街の建物を破壊しながら、中心部に向かっていく巨大イカを見て、一瞬全員が固まった。
「ヤナ君……あれって……イカだよね?」
シラユキが若干疑わしげに、聞いてきたので答える。
「あぁ、イカだな」
「ヤナ、あれって魔物だよね? 怪獣ではないよね?」
コウヤが、建物を破壊しながら進む巨大イカを見て呟く。
「あぁ、瘴気纏いキングクラーケンだな。ただ、怪獣というカテゴリーには入れても良いかもしれん」
「ヤナ、あれも倒すのよね?」
「あぁ、倒さないと街が消えるな」
アリスが驚愕の表情で、巨大イカを見ている。
「やっぱり大きすぎると、大味でおいしくないのかな?」
「……知らんがな」
ルイは、ルイだった。
「勇者様達とヤナ君、そろそろ現実を見てくださいね?」
ネミアさんと一緒に此処へ駆けつけていたエディスさんに現実に引き戻され、俺たちは巨大イカに向かって走り出した。エドリックは再び足がヒレに戻ってしまったネミアさんをお姫様抱っこして、海に向かってもらった。二人は街の危機であるため、真剣な表情で駆け出していたが、二人纏う空気は、そんな中でも幸せそうだった。
「「「爆発しろ」」」
女勇者達からの祝福の呟きを、聞いてしまったコウヤと俺は無表情で、黙って走った。
「『アシェリ! そっちはどうなってる! それとゲッソは何処だ!』」
俺は巨大イカに向かって走りながら、アシェリに呼出した。腕輪と指輪を装備しなおしてから移動している為、呼出しながら走る余裕があった。装備を外してそんな事したら、まず俺が街を破壊する自信がある。
「『アシェリです! 急に前線を抑えていた冒険者達の各パーティリーダーが、防衛側からの流れ弾で全員不意打ちで戦線離脱! そこに、瘴気纏いキングクラーケンが突っ込んできて、浜辺の防衛線崩壊! 現在市街地前の防衛線まで退却中です!ゲッソ様は、見かけておりません!』」
「『ゲッソは魔族だ! アシェリはゲッソを警戒しながら、現場の指揮をしている冒険者達に伝えろ! 勇者とエドリックからの報告だと言えば、何とか伝わるだろ!』」
「『わかりました! 主様は、これからどう動きますか!』」
「『そうだなぁ……まずは直近の危機の巨大イカの群れだな。ゲッソに関しては、勇者達に任そうと思う。あいつらまだ魔族と戦ったこと無いらしいからな。良い機会だ、奴が変身しても四人いれば大丈夫だろう?』」
「『……わかりました。それではわたしはゲッソを警戒しながら、魔族だということを周知してきます』」
アシェリとの通話を回線切断して、改めて今の状況を走りながら勇者一行とエディスさんに伝えた。
「魔族は任せてよ! ルイも元気になったし、本来のパーティで戦えれば必ず勝つさ!」
コウヤは拳を固く握り締め、気合を入れて叫ぶ。
「ちなみに追い詰めると、お約束よろしく変身するからな。まぁ大体そうだなぁ、少なくとも俺の獄炎魔法だと殺しきれないくらいの強さにはなるな」
「……勇者はきっと負けない!……よね?」
「頭だけ潰されなきゃ、ルイが治すだろ。頑張れ」
「ひぃい!?」
コウヤの目から若干色が失われた気がしたが、ピンチはチャンスなのだから、きっと喜んでいる筈だ。
「ヤナ君、なんか良い事した見たいな顔してますけど、勇者様はそんな感じには見えませんよ?」
「何を言ってるんだエディスさん。男は全て、危機を喜ぶんだぞ?」
「……もう直ぐキングクラーケン達の所に着きますが、どうしますか?」
「ちょっと待ってな……あぁ、居たな。全体を見下ろす位置に浮いてやがる。隠密系の魔法かスキルでも使っているのか? 目には見えないが確かに、巨大イカの上くらいにいるなゲソ野郎が」
俺の死神の慟哭で、ムナクソ悪い瘴気と魔族の気配を巨大イカの上から感じるが、姿は目視出来なかった。
そして、瓦礫の広場とかしている戦場へ到着した。
「おりゃぁああああ!」
到着した瞬間に、姿を隠しているゲソ野郎に向かって、走りながら作っておいた『黒炎の銛黒炎鎖付き』を投擲した。
「ギヤァアアアアア!?」
いきなり土手っ腹に俺の『黒炎の銛鎖付き』が突き刺さったゲソ野郎が悲鳴をあげた。そして銛に返しを付けて抜けないようにしてある黒炎の銛を、銛に繋いであった黒炎鎖を全力でこっちに引っ張った。
「な!? グァアアアア!?」
巨大イカの上から、思いっきり俺に地面に叩きつけられて、いきなりボロボロのゲソ野郎が目の前に転がった。
「「「理不尽……」」」
味方から褒められたところで、ゲソ野郎がヨロヨロと立ち上がった。
「グゥ……ガァ!……いきなりやってくれましたね……その様子だと、私が魔族だとばれちゃいました? あの瘴気纏いになった冒険者の、もしかして最後の言葉を聞きましたか? ここにあなた達がいるって事は、彼を殺してきたんでしょう? 酷いですねぇ酷いですねぇ! フハハハハハハ!」
ゲソ野郎がドヤ顔で、俺たちに向かって高笑いしている。
「……哀れだね」
「……何か可哀想」
「寧ろ分かっててやってるんじゃ?」
「ここはずっこけた方がいいのかな!」
勇者達が一様に、ゲソ魔族向けて哀れの目を向ける。
「何ですかその目は? 罪の無い同族を殺して、罪の意識に苛ま……」
「あぁ、良いからいいからそう言うの。ゲソ野郎は、こっちの勇者の鍛錬の為にくたばれ。俺はその巨大イカとやるから、シッシッ」
俺は手であっち行けとジェスチャーする。
「ば……バカにするなぁ! 俺を誰だと思っている! 俺は魔族伯爵のレオハル……」
「やかましい! 自称伯爵なんて、恥ずかしい事叫ぶなゲソ野郎!」
「な!? だから俺はゲソ野郎ではない! レオハ……」
「あっち行ってろゲソ野郎!」
「何遍いったらわからギャァアアア!」
俺はやかましいゲソに刺さったままになっている銛に、まだ繋がっている黒炎鎖を引っ張り勇者達が戦いやすそうな広場へと、放り投げた。
「「「「鬼……」」」」
「ほら、お前らはあっちの相手をして来い。くれぐれも気をつけ……違うな。死ななきゃ大丈夫だ、頑張れ」
勇者達に口々に鬼畜だの何だの言われた気がするが、全てスルーだ。
「な……なめやがって! グゥルアァアアアアア! フハハハ! 勇者等瞬殺シテすぐオマエヲ殺してやる!」
ゲソは吹き飛ばされた後に、強引に腹に刺さった黒炎の銛を強引に引き抜き、異形の怪物へと変身した。
「あ、もう変身しちゃったな。ちょっと勇者達に手助けし過ぎたか、チッ」
「「「「……」」」」
「ヤナ様の無茶っぷりに、勇者様方が可哀想で涙が……前が見えません」
黒幕気取りのゲソを勇者丸投げして、俺は冒険者達が必死に防衛しているキングクラーケンの群れへと駆け出した。
「主様!」
魔物と冒険者の混戦している戦場に着いたところで、アシェリと再会した。各パーティリーダーが戦線離脱したと言っても、何故ここまで現場が乱戦なっているのかと確認すると、全体総指揮官が不在な為らしい。
エドリックのおっさんが元々この支部の支部長だったらしいが、討伐隊に参加する為にゲッソ副支部長に一任していたらしい。そのゲッソもゲソ魔族にどの段階かはわからないが、入れ替わられていたか元々初めから魔族だったか何れかだった為に、この様な事態になったのだろう。
「まずいな。俺が巨大イカとやってる間に、このままだと他の魔物に押し切られそうだな」
これだけ乱戦になっていると、俺が一気に殲滅という訳にも行かずに考えていると、遠くから、その答えが走って向かってきていた。
「あ、変態ギルド長だ」
「誰がロリコンだぁあ! ネミアは、俺の幼馴染だぁあああ!」
「はぁあああああああ!?」
「ヤナ君、人魚族はエルフ族と同じで長寿の人種よ? 彼女も、見た目通りの年齢ではないわ」
俺がその事実と、ロリコンという言葉が通じた事に、驚愕と戦慄をしていると、エドリック支部長は乱戦でも響き渡る声で叫ぶ。
「バタバタするなぁ! 俺が帰ってきたぞ! 情けぇ面するんじゃねぇ!」
「「「おぉおおおお!!」」」
戦場の冒険者達の士気が一気に上がり、押されていた勢いを盛り返した。
「流石だな」
「だが、あのデカイ奴を何とかしないと厳しいな」
エドリックがそんなフリを俺にする。
「ふっふっふ、なら俺が何とかしよう」
「あぁ? お前そういや誰なんだ?」
「今回あの巨大イカを討伐したら、Bランクに上がる試験を受けてるCランク冒険者のヤナだ」
すると、エドリック支部長は目を見開き、俺を見た。
「ヤナだぁ? 全然黒くねぇじゃねぇか?」
「あぁ?……はぁああああ!? 誰が『漆黒の騎士』だ!」
「そうだ、それそれ『漆黒の騎士』。今から黒くなるのか?」
「主様……自分から名乗らなくても……」
「あ……あぁ、うん、俺は今回黒くならん」
俺は、実は今回瘴気纏いキングクラーケンの大きさの情報を聞いたときに、この事態に備えて、頭の中で何度もシミュレーションしていた形状変化を、再度頭の中にイメージを浮かべる。
「あと二人欲しかったが、勇者達はゲソと戦っているし仕方がない……アシェリ! エディスさん! 準備はいいか! 行くぞ!」
「「はい?」」
俺はおもむろに、腕輪と指輪を外した。
「『三指』『神火の断崖』『形状変化』『神火の戦闘服』!」
「これは……なに?」
「えっと……主様?」
俺とアシェリ、エディスさんを形状変化で戦隊ヒーローが来ているスーツに強制的に変身させた。神出鬼没で塗装を其々のスーツに施した。勿論俺はレッド、ピンクをどちらにするか迷ったが子供のアシェリを優先させてもらい、エディスさんはホワイトにしてもらった。
「エディスさんもピンクが良かったよな……ごめんな。今度は、アシェリと交代するからな」
「いや、色とか気にしてないですよ?」
「主様……この格好結構恥ずかしんですけど……」
「さて、お次はこいつだ!」
「「聞けぇ!」」
今の俺の耳は、全ての文句を受け付けない。全く受け付けないのだ。そして、これまでで一番の大きさの形状変化をする為、周りの声が聞こえなくなる程に集中した。
「『双子』『十指』『神火の大極柱』『収束』『形状変化』『神火の戦闘機』!』
俺はある事を前提とした飛行機型のマシンを創り出し、更に二人分も追加で直ぐに創った。
「なんだこれ……なに!? きゃぁあああ!」
「エディス様!? え!? 私もぉおおおお!」
当然、マシンには搭乗者が必要である。強制収監して、三機のマシンは大空に飛び立った。
「ナンダアレは………」
「「「………」」」
戦闘中だったゲソと勇者達も、その様子が目に入りその場に硬直する。
「まさか!? ヤナ君! アレをする気だね!」
ルイだけは、やけに嬉しそうにテンションが上がっているが。
「いやぁあああああああ! 空がぁあああ!」
「地面が下にぃいいい! きゃぁああああ!」
「『声を合わせてこう叫ぶんだ『合体』と!』」
俺は二人に通話で強制的に指示を出す。
「せぇの!」
「『合体!』」
「「『助けてぇえええ!』」
若干締まらない掛け声になったのが悔やまれるが、初めての『合体』だから仕方ないと妥協した。
「三位一体合体! 轟け! 響け! 『黒鉄の大巨人!」
三機の合体の際に、同時に神出鬼没で表面を黒鉄に渋く輝く塗装を施した『黒鉄の大巨人』が、巨大イカ怪獣の前に降り立った。
当然、合体ロボお約束のポージングをしている。
「待ってましたぁ!」
乱戦している筈の戦場に、ルイの大歓声だけが響き渡った。
「行くぜぇえええ! ここからが、クライマックスだぁああ!」
俺の咆哮と共に、再び戦場は動き出した。
↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)





