馬車
ヤナが昼過ぎにギルドを訪れる少し前の事、回復したガストフ支部長とエディス、そして東のドルフィ伯爵に仕える剣客アランが支部長室に集まっていた。
「しかし、驚いたでござるよ。約束の時間に来てみれば、魔物の大氾濫中の戦場のような有様でござったからな。カッカッカ!」
「笑いごとじゃありませんよ、アラン君。見に来ていた冒険者を回復するのと、訓練場の現状回復するのに大変ってものじゃなかったんですから」
アランがカラカラと笑う様に、エディスは眉間に皺を寄せながら愚痴をこぼした。
「まぁ、俺もあんな事になるとは直前まで見えなかったからな。ありゃびびったわ! ガッハッハッ!」
「……ガストフ支部長は、普通に瀕死でしたけどね」
エディスは、他人事のように笑いながら話すガストフ支部長を、半眼で睨み付ける。
「まぁ、大事なかった事ですし、良いではないですか! カッカッカ! 拙者も是非手合わせ願いたいぐらいでござるよ」
「その際は是非、シーサイでお願いしますね? ここでやったら……わかってますよね? フフフ」
「もももももちろんでござる! ここではしないでござる!」
脂汗を流しているアランからガストフ支部長にエディスは目を向け、ヤナの指定魔物討伐試験について尋ねた。
「ヤナ君の指定魔物討伐試験をキングクラーケンにする事には、異存はないです。丁度シーサイ支部も困っている事ですしね。ただ、その場合は誰が評価者に? あそこで討伐クエストとなると、全部で二週間程はかかりそうですが?」
「ん? ヤナの担当はエディスだろう? 当然、今回の評価者もお前さんだ」
それを聞いたエディスは目を見開き、怒鳴り声を上げようとしたが、先にガストフ支部長のアランへの目配せを見て、エディスは一度深呼吸をして感情を抑えた。
「……何故ですか? 理由をお聞かせ下さい」
「その額の青筋も抑えろよ……兎に角これは支部長命令だ。ギルド職員なら従え」
「……わかりました……それでは、そろそろヤナ君も来るでしょうから、受付に戻ります」
扉にエディスは歩いて行き、思いっ切り扉を蹴り飛ばして出て行った。
「あの野郎……給料から扉の修理代引いてやる」
「ガストフ支部長殿、事情は知らぬが良かったのでござるか?」
「あぁ、これが最善な筈だ」
そして、暫くするとヤナが部屋にやってきたのだった。
ガストフ支部長と話を終えた俺は、再びエディスのいる受付へと戻ってきた。
「話聞いたよ。この間より、長くなるが評価よろしくな」
「……えぇ、わかりましたよ、しっかり評価させて頂きます。いつ出発しますか?」
「そうだなぁ、シーサイまでの道を調べたり、食料やら何やら買い込んで準備したいから……明日の朝に出発でいいか?」
「えぇ、私は何時でも大丈夫ですよ。一応聞いておきますが、どうやって行くつもりですか? フフフ」
エディスさんに行く手段を、嗤い顔で聞かれた。
「だだっ大丈夫だ! 今回は、馬車を用意するつもりだからな!』
「ほほう、それは楽しみですね。それでは明日からよろしくお願いしますね」
そしてギルドで道やどれくらいかかりそうという事を調べて、ギルドを後にした俺とアシェリは別行動をとった。俺は明日からの買い出しと準備を、アシェリは今日の分の討伐クエストをこなしに行った。
俺は三人分の食料を買い込んだ後、今回の旅に使用する馬車の準備をする為に街の外に出た。そして夕方頃にアシェリから呼出があり、宿屋に戻った。
「主様遅かったですが、何処に行かれてたのですか?」
「あぁ、ちょっと明日からの馬車の準備と、また二週間程王都を空ける事をセアラに話してたら遅くなってな」
「セアラ様は、その内一緒に旅をするのですか?」
「ん? あぁ、そうだな。そういう約束をしているからな。流石に、まだ時間はかかると思うけどな」
アシェリにセアラの事は、その内一緒に旅する仲間という以外は、特に王女と言う事は言っていない。知らなきゃ知らないでいいかと思っていることと、一応一緒に旅に出るときは周りに王女とは知られない様にするつもりだからだ。
「……そうですか」
アシェリは何やら考え込んでいるが、特に気にする事なく宿屋の食堂で夕食をとり、また二週間程は部屋を空ける事を伝えた。二週間後からの宿泊予約を取り、リアンちゃんがしゅんとしている姿に悶えながら部屋に戻った。
そしていつも通りの定位置の床の上で寝ようとしていると、アシェリがもじもじしながら、ベッドの上で俺を見ている。
「どうした? 明日からシーサイに向けて出発なんだから、しっかり寝ろよ?」
「……実は主様……あの……その……」
「ん? どうした? 旅に緊張して寝れないのか?」
「はい……なので、少し横に座って頂けないかと……でも、その、主様も眠たいでしょうし、我儘言ってすみませんでした、寝ますね」
俺は、その我儘を聞いて少し安心した。アシェリも戦闘の時は兎も角、他では子供らしく我儘くらい言って欲しかったからだ。身体も心も強くないと生きていけないこのクソッタレな世界で、弱さを見せられる相手ぐらい居たって良いじゃないか。
「あぁ、そんなことか。よいしょっと。遠慮しなくていいぞ。寝るまでここにいてやるから」
アシェリを小さな子供を寝かしつける様に、身体をトントンとしてやる。
「ありがとう……ございます。主様、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみアシェリ。また明日な」
こうして新しい街に出掛ける前日の夜は更けていくのであった。
旅の当日、いつも通りの朝を迎え、朝食を済ませてからアシェリに、これからの事を伝える。
「アシェリ、先に東門を出た所に馬車の用意をしてくるから、エディスさんを連れて、門の外まで来てくれ」
「わかりました」
アシェリにエディスさんのお迎えをお願いしている間に、急いで東門から街の外へ出ていく。人目の付かない所まで遠ざかってから馬車を用意する。
「さてと、やるかな」
俺は腕輪指輪を外して、神火魔法を使用出来る状態になった。
「先ずは馬車をっと、『神火の断崖』『形状変化』『神火の馬車』『神出鬼没』『偽装馬車』!」
神火魔法を形状変化で『神火の馬車』を創り出した。このままだと、神火が神々しい輝きを出してしまい、目立ちまくるので『神出鬼没』で外観を『普通』の馬車に見える様に『偽装馬車』で誤魔化している。
当然、荷台の中に入ると神火の馬車の名に恥じない装備になっている。荷台の内装までイメージしながら形状変化するのに、昨日は苦労して予定より遅くなってしまったのだ。
「あとはこれを引く馬と御者を出さないとな、『三指』『神火の大極柱』『形状変化』『神火の騎馬』『神火の神兵』『神出鬼没』『偽装馬』『偽装御者』『自動操縦』!」
どうせ神火魔法で形状変化するのならと、盗賊や魔物に襲われた時に活躍できる様に『神火の騎馬』と『神火の神兵』を作りだし、制御は自動操縦に丸投げした。そして当然、全ての形状変化を神火魔法で行った為、心休まる暖かさを感じるのだ。獄炎魔法とかでは、ここまで快適な温度調節は出来ないのだ。
「完璧!」
そして神火の馬車で、東門にいる筈のアシェリとエディスさんを迎えに行った。
「おーい! こっちだこっち!」
東門を出た所にアシェリとシスターの格好をしたエディスさんが立っていた。
「主様!? これは……大きいですね……」
「ヤナ君……何人でいくつもりよ……こんな小屋みたいな大きさの荷台を、馬二頭でよく引けるわね……」
荷台部分は正に、夢のキャンピングカーなのである。俺の自信作に、二人は大変驚いている。
「ふふふ、中に入ればもっと驚くぞ」
俺は満面のドヤ顔で、神火の馬車の扉を開けて、二人を中に招き入れた。
「「…………」」
二人は中に入ると、その場で大きく口を開けたまま固まった。
「ハッハッハァ! どうだ! これなら文句あるまい! 台所、三人分のベッド、そして、『浄化』魔道具の付いているトイレ、更には室内は俺の『生活魔法』『空間温度調節』で室内も快適な空間を創りだしぃいいいいでだだだ! 何故にぃいい!」
「……五月蝿い。黙れ」
「……喧しいです。静かにして下さい」
「理不尽過ぎる!?」
エディスさんにアイアンクローをかまされながら、二人共から理不尽極まる事を言われてしまった。俺、すごく頑張ったのに、何故だ……
「ヤナ君、この馬車どうしたの? まさか買ったとか借りたとか言わないわよね? 正直に言わないと……このままグシャっと潰す……ぞ? フフフ」
「ひぃぎゃぁ! 創りました! 俺が! 頑張って!」
「頑張れば何でもできると思うなよぉ!」
「ぎゃぁああああ! 酷すぎるぅううう!」
兎に角、魔法で創ったという事を、何とか説明し事なきを得た。
「主様もしかして、馬車を引く馬と御者も……」
「おう! 当然創ったぞ!」
「当たり前に言わないで下さい!」
「ごふぅ! 何でアシェリまで……ボディを……げふ」
「何かイラッとしました」
「お前ら、鬼か……」
小さな子供にまで、理不尽極まる仕打ちをされ、流石に凹んでいると、エディスさんから早く出発しろと催促された。
「荒いよ……扱いがさ……ったく、はぁ、気持ちを切り替えて! 海の都シーサイへ出発!」
「はーい」
「早よいけ」
「寒い……心が……空間温度調節の温度上げよ……」
ヤナの切ない呟きと共に、一行は東の都シーサイへと旅立っていった。
↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)





