失敗者
幕間の物語も終わり
第四章『自由な旅路』開幕ベルが鳴る
お楽しみご覧あれ
「はぁ……何で奴隷解放を『拒否』するかな、全く」
「まぁいいじゃないですか、主様」
悪神の聖痕を清めたせいか、笑顔が眩しく、何より尻尾がふるふると振れている姿に、俺の心が悶える。
「くっ! 卑怯だ!」
そんな事をしていると、ガストフ支部長がこちらへ歩いてきた。
「ハッハッハ! お前は、いつも朝から騒がしいな!」
「いやいやガストフ支部長も、大概うるさいぞ」
アシェリの奴隷解放の為の証明を頼んでいたのだが、アシェリの奴隷解放命令『拒否』の事を話すと更に笑われた。
「ダァッハッハッハ! 奴隷解放命令を『拒否』される奴を、初めて見たわ! 普通、奴隷の行動制限で『命令は聞く』様にしとくもんだろうが、ブワッハッハッハ!」
「うるせぇ! 笑いすぎだ!」
「まぁ、いいじゃねぇか! それだけ慕われてるって事よ。それはそうと、お前さんBランクアップ試験受けねぇか?」
ガストフ支部長が急に真面目な顔で俺を見て、Bランクアップ試験について尋ねてきた。
「は? この間Cランクに上がったばっかなんだけど、俺」
「まぁ、そうなんだがな。今回の護衛クエストがな、瘴気纏いになった人間と魔族の同時襲撃、魔物の大群の出現と一気にクエスト難易度が跳ね上がってな。その高難易度クエストを護衛対象を無傷で守りきった事で、Bランクアップ試験を受けるに値する所まで評価が上がったわけだ。それに大量の魔物討伐の持込で発生した討伐クエスト達成もあるしな」
「なら他の連中も、同じくランクアップ試験を受けるのか?」
「打診はしたんだがな、連中は護衛クエスト自体は達成しているから受けられると言ったんだが、高難度クエスト原因となった理由のうち、瘴気纏いと魔族に対しての貢献をしていないと言って辞退したな」
クエストが途中で高難易度変わる場合も、度々発生する。初めての魔物討伐訓練の時に、遭遇した魔物の群れから村を守ったのも、元々村の護衛クエストを受けていた冒険者にとっては、魔物の群れが襲ってきた瞬間、元々の難易度から跳ね上がったという訳だ。当然、その条件で達成すれば、ギルドの評価は上がる。
「そうか。折角だ、受けられるもんは受けるよ。戦闘試験と指定魔物の討伐か?」
「そうだな。戦闘試験官なんだがなぁ、お前の担当は、今回俺がする事にした」
ガストフ支部長がそう発言すると、ギルドのフロントにいた冒険者達とエディスさんまでもが驚愕していた。
「はぁ!? あんたがヤるってのか! 確かに此処には現役のAランク以上はいないが、それなら本部から試験のために呼べばいいだろ! ヤナをボロボロにする気か!」
俺達の話声が聞こえた冒険者達からも、俺に対して同情の目線が飛んできていた。
「へぇ、ガストフ支部長ってそんなに強いのか?」
「ガストフ支部長は、現役時代『失敗者』と呼ばれた元Sランクの冒険者だ」
「ほぉ、元Sランクだったのか。ってか、『失敗者』? あまり良さそうな二つ名には聞こえないが」
「呼び名の由来の一つは、ガストフ支部長が戦闘試験官をした時は、全員条件を達成出来ずに『失敗』するからだ」
エディスさんは、眉間に皺を寄せガストフ支部長を睨みながら『失敗者』の意味を説明する。
「所謂、達成不可能クエストってやつだ。一度上には上がいる事を身体で覚えさせて、もっと精進しろよって言われる類の奴だな。それで、本当に心が折れる奴も結構いたがな」
「一つはって事は、まだ『失敗者』の理由があるのか?」
「それは、戦ってみれば分かる……というか、戦って見ないと分かりませんよ」
「……エディスさん、やっと落ち着いてきたのか……本当にそれ何の意味があるんだ?」
落ち着いてきたらしく口調が丁寧になったエディスさんに、呆れた目を向ける。
「煩いですよ? それで、どうするの?」
「ん? 勿論受ける。貰えるもんは貰っとく主義だからな」
俺は嗤いながら、そう答える。
「貰う?」
「この試験受けた後、『失敗者を失敗させた男』の二つ名が貰えそうだからな」
そして、ガストフ支部長も同じく嗤う。
「ほほう、言うじゃないか。久々に燃えてくるな、ガッハッハ!」
「変態共が……」
エディスさんの心外な呟きが聞こえたが、スルーしてガストフ支部長とギルドの訓練場へ向かう。
「先に行ってろ。準備をしてくる」
そう言い残し、ガストフ支部長は自分の支部長室に入っていった。
俺は、先に訓練場に入りガストフ支部長を待っていると、話を聞きつけた冒険者で観客席が埋まっていき、ガストフ支部長が来た時には満員状態だった。
「ほほう、お前さん中々人気者じゃないか」
「俺じゃなくて、観客のお目当はあんたみたいだぞ?ぽっと出の新人がボコられる姿でも見に来てるんじゃないか?」
「期待に応えないとな、ガッハッハ!」
「フフフ、予想外な事が起こると、もっと盛り上がるんだぞ?」
お互い嗤い合い、次第にこの場がピリピリした空気変わっていく。
「エディス! 始めるぞ! 合図を頼む!」
「分かりましたよ……はぁ……それでは、Cランク冒険者ヤナのBランクアップ戦闘試験を行います。達成条件は『ガストフ支部長に一撃加える』、失敗条件は『受験者が戦闘不能になる若しくは諦める』です。良いですね?」
「『一撃加える』のが達成条件ってのは、俺を舐めてる訳では……無さそうだな」
エディスさんや観客の雰囲気を見ても、その『一撃加える』事が受験者を舐めている訳ではないと伝わってくる。
「あぁ、至って真剣だぞ? お前こそ引退した冒険者だと舐めてかかると、一瞬で終わるぞ?」
ガストフ支部長が、不敵に嗤う。
「この空気で、舐めてかかるとか阿呆だろ。試験官が、受験者に向ける殺気じゃねぇよ」
「「フフフ」」
「あぁ……ダメだこりゃ。観客席ぃ! きいつけろよ! あの変態共の攻撃、もしかすっと防御障壁破るぞー! っと……では、試験始め!」
エディスさんの開始の合図と同時に、一気にガストフ支部長に詰め寄ろうと踏み込む脚に力を入れた瞬間だった。
「どぅわ! っぶねぇ!」
「ほらほら、ぼさっとしてると蜂の巣だぞ?」
ガストフ支部長から、魔法弾が連射されて来ていた。開始直後に何でこんなに速く魔法の連射が出来るんだと、魔法弾の嵐を回避しながらガストフ支部長を見ると、元の世界で漫画やテレビで見た事のある武器を持っていた。
「銃だと! うわっ!」
俺の頬をガストフ支部長が持つ銃から放たれる魔法弾が、掠めていく。
「ほう、これを知っているのか、見せた事は無かったはずだが? 俺の相棒の『魔銃』だ。カッコいいだろ?」
喋りながらも連射してくるガストフ支部長に、こちらも回避しながら話しかける。
「いや、似たようなものを、知っているだけさ! せぁあ!」
「ほほう、もうこれぐらいの発射速度なら弾丸を斬ってくるか」
ガストフ支部長の小手調べは終わったらしく、銃撃も嵐が一旦止まった。
「てかさ、魔法弾って事は、ガストフ支部長はもしかして魔法職なのか?」
「ん? そうだが?」
「そんな筋肉の塊みたいな身体と、厳つい顔で魔法使いだとぉ! 詐欺だ! 他の魔法使いに謝れ!」
「なんだとぉ! この鋼の肉体から放たれる数々の魔法弾! 最高にカッコいいだろうが!」
「うるせぇ! 見た目詐欺が多すぎんだよ!……エディスさんとか……」
俺は話している間に、疾風迅雷を神出鬼没で発動の気配を隠しながら、身体を強化した。
「やかましいわ!……エディスは……そうだな……」
「……あいつら……ツブす」
エディスさんから不穏な呟きが聞こえた瞬間、全力で踏み込んだ。話しながらも、ガストフ支部長の魔法銃から目を離していなかった為、今度は出鼻を挫かれる前に駆け出せた。
そして、その勢いそのままにガストフ支部長に一撃斬りつけた……はずだった。
「『失敗』したな?」
そんな呟きが聞こえた瞬間だった。『死神の慟哭』が一気に警告を鳴らした。同時に『生への渇望』が発動し死角からの二丁の機関魔銃の乱射から、致命傷は避けられた。だが、それでも数という暴力が襲ってくる。
「うぉおおおおお! さっきより……数も速さも……多すぎる! ぐぁああ!」
嵐と言うには生温い程の弾幕が、俺を襲い続ける。
「おい! ヤナを殺す気か!」
「主様!」
「ぬあぁ! 『獄炎の絶壁』『形状変化』『黒炎の防弾盾』!」
何とか『黒炎の防弾盾』を前面立てて、銃弾を土砂降りから雨宿りする事が出来た。
「さっきと銃の種類が変わらなかったか? どこに入れてたんだよ?」
「おいおい、そんな事教えると思うのか? ほらほら、どんどんそれ削れてるぞ!」
「んな事わかってるよ! 『双子』『十指』『黒炎極球』『形状変化』『黒炎の大剣』『自動操縦』『攻撃停止条件:戦闘不能』『対象:ガストフ支部長』! 行ってこぉおおい!」
『黒炎の防弾盾』の後ろから二十本の『黒炎の大剣』をガストフ支部長に向かって放つ。更に俺は大太刀『烈風』『涼風』に獄炎魔法を魔法付与させ、追い打ちで剣技を放つ。
「『狂喜乱舞』『黒炎暴雨』!」
黒炎を纏った斬撃が、荒れ狂う暴雨の如くガストフ支部長に降り注ぐ。
「ガストフ支部長を殺す気か!?」
「主様……攻撃解除条件を戦闘不能って……」
勿論、ガストフ支部長はこの攻撃で死んでいないし、戦闘不能にもなっていない。自動操縦が解除されないからだ。
「おいおい、何だありゃ?」
ガストフ支部長は俺の剣技を交わした無傷で躱したばかりか、今も襲い続ける二十本もの黒炎の大剣を躱している。
「躱しているって言うのか、あれは?」
斬撃が襲いかかると直前に、ガストフ支部長は特に早くもない動作で、攻撃されたであろう場所から移動しているだけなのだ。
「全部『失敗』だな?」
そして二丁の機関魔銃で、全ての黒炎の大剣を破壊し、手に持っていた二丁の機関魔銃が一瞬にしてロケットランチャーの様なモノに変わった。
「な!? 換装か! しかも何てモノ出してきやがる!」
俺は離脱しようと、その場から駆け出した。
「知ってたぞ? そっちに逃げるのはな」
俺がする離脱した場所にまるで、先回りするかの様に発射された弾道が放たれていた。そして自分からあたりに行くように、俺は着弾した。
「ぐぁああああああ!」
身体をバラバラにされる様な衝撃と全身を炎に包まれた。
「もうそれじゃ戦えんだろ? 諦めるか?」
諦めるだと?
まだこれからだと言うのに?
「え!? はい、わかりました! エディス様ここから逃げますよ! 早く!」
「え!? アシェリちゃんどうしたの? 私は審判だから逃げられないわよ?」
「それなら、なるべく身体強化をかけてご自身を守ってください! 幸運を祈ります! では!」
「一体なんなの……?」
無事にアシェリが訓練場を出て行ったのを見て、俺は安心した。出来ればエディスさんも万が一に備えて出てって欲しかったが、元Aランクだというし大丈夫だろう。
「お前さん痩せ我慢も大概にしろよ? その傷で続けると、本当に死ぬぞ?」
俺はふらふらになりながら、訓練場の真ん中に歩いて行った。
「あんた……未来でも見えるのか……?」
「言うと思うか?」
「そうだよな……いやな?……もし見えるなら、これからどうなるか周りに教えてやった方がいいかもなってな」
「お前、何言って……」
俺はボロボロの瀕死の状態で応急処置もしないで、二刀の刀を構える。
「『神殺し』『天下無双』『起死回生』!」
神殺しで身体強化の限界を無くし、全力の天下無双で身体強化した後、瀕死にまで窮地に至っている俺が起死回生を使用すれば、腕輪と指輪を外さない状態での最高の身体強化になる。
「おいおいおいおい! 何する気だ! な!? やばい! 全員退避ぃいいい!」
「もう遅えよ……逃げる隙間すら残さねぇ……『狂喜乱舞』『隙間無』」
俺を中心に全方位に隙間が無くなる程の無数の斬撃を放つ。ギチギチと音を立てながら、俺以外全てに襲いかかる。
「これは!? やばい! 躱せる場所が見えない! ぐぅああああああ!」
ガストフ支部長に『隙間無』が直撃した。例え未来が視えるのだとしても、この限定された空間を埋める程の斬撃を放てばいいだけと、単純にに考えたのだ。
当然斬撃を全方位に放った訳であるからして、ガストフ支部長に当たった斬撃以外は、それ以外に飛んでいく。
「障壁にひびが!? やばいぞ!」
「逃げる先がねぇ!?」
そして、観客席を守っていた障壁はほんのすこしの時を稼いだ後に、粉々に砕け散った。
「ぎゃぁああ! 斬撃が止まねぇ!」
「隙間が! 斬撃の隙間がねぇえええええ!」
「助けでぇげぎゃぁああああ!」
障壁を破壊したせいか、剣戟の威力は下がっていたみたいだが、見事に観客席含め俺の周りは死屍累々と化していた。
そして、血達磨になりながらもその場で堪えたガストフ支部長に歩み寄り、聞きたい事を尋ねた。
「さて? 何撃当たったかな?」
「……ごふっ……数えてねぇよ……ご……合格だ……」
宣言通りに、『失敗者を失敗させた男』と俺は成ったのだ。
そして新しい二つ名が俺に加わった。
『全てを破壊する者』と…
「いやぁあああああああ!」
「主様……」
↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)





