私を照らす月光
「『堅固な壁』は馬車を守る防御障壁を展開しろ! 『『疾風の三本矢』は、どれだけの魔物が何処から来てるかを探ってこい! ただし深追いはするな! そして、同時に退路を探せ! 俺を含めた『五蓮の蛇』は、全員の補助だ! ヤナ! 火力の仕事してこい! 但し絶対死ぬな! 危なくなったら障壁内に戻ってこい! いいかぁ! 全員生き残るぞぉおおお!」
「「「おぉおおおお!」」」
五蓮の蛇リーダーのクロが、魔物の大群を俺が感知したことを受け、瞬時に全員に指示を出す。商隊のメンバーは『堅固な壁』の指示に従い馬車の中へ避難している。
俺たちは本来の野営地が、何故か荒らされ使用不可能になっていた為、以前に崖崩れが起きたことで廃棄された旧野営地に向かった。そして、周りが薄暗くなった頃に到着し野営の準備を始めた時に、突然の魔物の大群の襲撃を受けたのだ。
流石にBランクパーティのリーダーだけあって、クロは慌てることなく指示を全体に出している。そして何より今回、五蓮の蛇は俺と戦った時よりも成長しており、頼もしかった。
「うん、やっぱり髪型、装備のカラーリング、被らないキャラ付け等きちんと個性が前回よりも明確になって、こういうの時程、見ていて安心するな」
「……主様、それ今の状況に対する安心感に、繋がりますか?」
アシェリが不思議そうな顔をしているので、簡単に説明した。
「人は危機の時には、正義のヒーローを待っているからな。そしてヒーローはお約束を外してはならないのだ!」
俺は拳を固く握り締め、熱く熱く言い放つ。
「主様、私はどうすればいいですか?」
「サクッとスルーしないで……そうだなぁ、取り敢えず俺が迎え撃つが、数が数だけに全ては迎撃できそうに無い。だから、アシェリが倒せそうな奴は、全部後ろに流して行くからそいつら頼むぞ?」
「……倒せそうな? まさかと思いますけど、鍛錬ですか?」
「危機は好機って言わないか? 言うよな? これって実戦の好機だろ?」
「鍛錬の好機って……」
「あと通信魔法は、俺と繋ぎっぱなしにしとけよ? 危なかったら、最後は助けるから心配するな」
「最後はなんですね……」
「さて、行くぞ? ピンチはチャンスだ!」
「この変態主ぃいいいい!」
俺は、野営地に現れた魔物の大群に向かって走り出しながら戦闘態勢に入った。本来、人の生き死にがかかっているこの状況では、全力で殲滅したい所だが、筋力の加減が出来ない状態で、過去に崖崩れが起きたこの場所で俺が全力を出すと寧ろ味方を危険に晒すと判断した。
「皆んなで踏ん張れば、何とか出来るってもんよ! 『双子』『十指』『獄炎の柱』『形状変化』『黒炎の自動人形達』」
そして自分に『黒炎の鎧』と、大太刀『烈風』『涼風』に獄炎を付与とさせ、準備万端揃った。
「さぁ! 獄炎祭りの始まりだぁ!」
次の瞬間、俺と魔物の大群が激突した。
「リーダー……アレ嗤いながら、殲滅してるけど?」
「見るな、任せておけ。見ると色々思い出すぞ……」
「ヤナちゃんが連れてきてたちっちゃい獣人奴隷ちゃんも嗤いながら、ヤナちゃんが後ろに逸らした魔物狩ってるわよ……?」
「今度は、泣いたら許してもらえるかな……」
「俺この護衛クエスト終わったら、奴隷にも優しくするんだ……」
ヤナとアシェリは自分達が、若干引かれている事には全く気付かず、魔物の殲滅を続けるのであった。
「この調子なら今の所問題なさそうだが……ん? おいおい、いきなり魔物の気配が別方向に現れたぞ!? 『ヤナだ! クロ! 今度は、横からも気配が増えやがったぞ! そっちまで手がまわらねえ! 何とかしろ!』」
「『なんだと! わかった! 俺らで受け持つ! 堅固な壁! 馬車出発準備急がせろ! すぐ護衛しながら離脱だ! 疾風の三本矢は、こいつら何処から湧いたか分かったか!』」
「『アウだ! 馬車の先導はコウがする! 堅固な壁はコウに付いて馬車を護衛してくれ! 魔物の湧いた原因だが、魔法陣から湧いて出てきている! こりゃ魔物召喚だ!』」
急に気配が湧いてくるのは、別の場所から魔物を召喚しているかららしい。
「『チッ!マズイな。召喚系魔法陣は術師からの魔力の供給が止まるか、陣を破壊しないと召喚が止まらん。アウ、破壊出来そうか?』」
「『クロすまない。俺ではあれだけの魔物の中心ある魔法陣を、破壊するだけの力はない……』」
「『いや、無理するな。魔法陣がある事が分かっただけで十分だ。さて、どうするかな』」
「『それなら、俺が魔法陣を壊してくる。五蓮の蛇は俺が行くまで馬車の殿で退却しろ。正面からくる魔物の召喚陣を破壊したら、横から湧いでた方も魔法陣を破壊しに行く』」
現状それが出来そうなのが、俺だけだろう。
「『それしかないだろうな。きつい役割だが、頼んだぞ『|漆黒の騎士《ジャックブラック』に成ったお前が頼りだ。お前が来るまで殿は任せておけ』」
「『漆黒の騎士は止めろ……殿にはアシェリも付かせるから、任せるぞ』」
「『おぉ!あの『番狂わせ』をこっちに寄越してくれるか! 大分心強いな!』」
「『おい……その『番狂わせ』って、うちのアシェリの事か?」』
「『そうだな。あのちっこい身体で、自分よりでかい魔物を二刀のナイフで細切れにしてる姿は、まさに予想外!『番狂わせ』に相応しい!』」
他の冒険者からその戦いっぷりを評価され、指導する立場としてとても嬉しく思い、誇らしく思う。しかし、その戦いぶりから付けられた『二つ名』に俺は思う所があった。
「『何で……何でそんなに格好いいんだ! 俺にもそんなの考えろや!』」
「『喧しいわ! お前はそんな恥ずかしい二つ名で、悶えてろ!』」
「『あ!? てめぇ! 恥ずかしい二つ名ってわかってて広めやがったな!』」
「『ざまぁみやがれ! これからも俺たちが行く先々で広めてやるからな! 何処いってもお前は『漆黒の騎士』だ!』」
「『ふざけるなぁああ! てめぇボコボコにしてやるから、必ず俺を待ってやがれよ!』」
「『はん! 望む所だ! 返り討ちにしてやるわ! お前こそ、必ず逃げずに戻ってきやがれ!』」
お互い捨て台詞を言い合ってから、クロは他のメンバーへの指示出しをし始めた。
「『アシェリ! 馬車の殿を奴らと一緒に頼んだ! 俺は魔法陣を叩いて回る! 最悪やばい時は俺を遠慮なく呼べ! いいな!』」
「『はい! 主様もお気をつけて!』」
そして俺は死神の慟哭で魔物の気配が、濃い方へ突っ込んだ。
「おらぁああああ! どけやぁあああ!」
そしてわたしは、主様の指示通りに馬車の殿を彼らと勤めていた。
「だっしゃぁあああ! はぁはぁ……お前の主人様に、嫌な役を押し付けちまって悪いな」
「せやぁああ! ぜぇぜぇ……そんな事ありません。主様は絶対魔法陣を破壊して戻ってこられますから! それに恐らくピンチはチャンスだと嗤いながら、今頃魔法陣に向かっていると……思います! せりゃぁ!」
「ハッハッハ! そうか! アレはやっぱり変態だったか! どっせい!」
わたしは主様の事は、本当に心配していない。あの主様が倒れる姿は、想像出来ないからだ。だが、わたしの心には何やら気持ち悪い不安が粘り着いていた。まるで、とても気持ち悪い何かに見られているかの様な、そんな気味の悪さだった。
「おぉ! 大分開けた場所にでたな! ん? おい、さっきまで追ってきていた魔物共は何処いった?」
クロ様が周りを見ながら警戒している。わたしは全身の毛が逆立つ様な、嫌な気配を感じていた。
「ハッハッハ! 平民の屑共ぉ! もうここから逃げられねぇぞぉおおお!」
商隊は、三体の異形の者の叫びに止められた。周りの景色をよく見てみると地面も含めて薄い膜に包まれている様な感じだった。
「貴様らは、ここの隔離結界に誘い込まれたバカな獲物だ! 俺らに狩られている事も知らずにノコノコと誘い込まやがって! 俺をバカにした平民共は死ねぇえええ!」
「おい、あの身体異様に膨れ上がってるアレだが、顔はザコルじゃねぇか?」
「そうねぇ、その横にいる奴は多分その取り巻きね」
クロ様とクピン様が話している事を聞いていると、どうやらあの異形の者はザコルという貴族で、同時に冒険者でもあるらしい。そして主様が宿屋の家族をあのザコルから助けた時に、ボコボコにしたらしい。
「おいザコル! とうとう盗賊にまで堕ちやがったか! 流石に、親父も大臣も庇ってちゃくれねえぞ!」
「うるるるるせぇえええ! 平民は全員コロスぞぉおおお! それにそこの獣人奴隷ぃいい!て めぇはぁあ最後のお楽しみだぁああ!」
ザコルは明らかに異常な雰囲気だった。身体も薄く瘴気の様な霞が覆っている。
「なんだかよくわからんが、狂ってそうだ。取り敢えず、取り押えるぞ!」
「「「おぉ!」」」
『五蓮の蛇』と『疾風の三本矢』が一斉に、ザコス達に向かっていった。
「雑魚どもがぁあああ!」
「え?」
一瞬で飛びかかった筈の八人が、吹き飛ばされていた。そして、全員沈黙していた。
「「「ぐぁあああ!」」」
「きゃあああ!」
八人の吹き飛ばされた方向を振り返った隙に、今度は馬車の方から悲鳴が上がった。『堅固な壁』のメンバーが同じく吹き飛ばされて、地面に転がっていた。
「フハハハ! 次は獣人奴隷の貴様をボロボロにして、ご主人様に届けてやるよぉ!」
わたしは、ザコスの悪意と殺意にあてられて動けなくなっていた。
ゆっくりとザコス達が歩いて近づいてくる。
これから何をされるかを考えると、心がどんどん沈んでいく。
身体が動かない
逃げる事も出来ない
戦う事も出来ない
ザコスが遂に目の前まで、やって来た。
下卑た笑い顔で、わたしを見下ろしている。
「さぁ、お楽しみの時間だぁ。だぁれもお前なんて助けになんかこないゾォ? お前の主も今頃さっさと逃げてるゾ? ハァハッハッハッ!」
「そんな事はない! 主様は、今も此方に向かって来ている!」
「でもなぁんで来てないのかなぁ? だってここには来れないカラァ」
「何を言って……」
「フハハハ! ここの空間は隔離されているのダ。四方を完全に結果で閉じているからなぁ。ここを開けた時は、散散俺らに玩具にされたオマエと、それ以外の死骸だよ? キャハハハッ!」
「ボッチャン、もうガマンデキナいゲス」
「早くヤッチまいゴス」
もう正気の目をしていない三人から悪意の威圧と殺気で、もう何も出来なくなっていた。
そんな時に、主様から呼出があった。
「『アシェリ! 無事か! すまん、こっちでちょいと嫌がらせにあって、通信魔法が強制的に切られた!』」
「『主様! こちらは……』」
「『主様だぁ? 会話できる魔法かぁ? ギャハハ! こっちはもう全滅だよぉ? それに今からオマエの獣人奴隷で遊んでやるから、飽きたら返してやるよぉ! それまでお外で順番待ってなぁ! もうビビっちまって漏らしそうな、カワァイソウな奴隷をなぁ! ギャハハ!』」
その通りだった。
「『ほう……アシェリお前戦っていないのか?』」
「『……はい。相手の悪意と殺意で心が……』」
「『俺はまだ、其方には間に合わないぞ?』」
その言葉が、わたしの心に突き刺さる。
「『間に合いませんか……そうですよね。そんな都合良くありませんよね……』」
その言葉を聞いて、ザコスが喜ぶ。
「まだコナイノカよ! オセェなぁオセェなぁ! こっちはもう準備できちゃったよぉ!」
いよいよかと全身が強張って、わたしは目を閉じようとした。
「『アシェリ、今迄お前誰と鍛錬していたんだ? 誰と毎日斬り合いをした? 誰の殺気と威圧を受けながら斬り合ってたんだ?』」
「『主……様……?』」
「『そうだ! 俺だ! 俺の殺気と威圧を受けながらアシェリは、俺を斬り、俺に斬られていたんだ! 俺の殺気と威圧をなめるなぁ! そんな雑魚共よりも何倍も強烈だっただろうがぁ! 忘れるぐらいなら、次は腕輪と指輪装備外した全力で、お前を死にたいと思うまでオイコムゾ?』」
通信魔法だと言うのに、理不尽な迄の主様の強烈な殺気と威圧を感じる。
「『ひぃ!? 鬼ぃいいい!』」
私の目の前のザコス達が、私の叫びを聞いてビクッとなる。
「『それでだ。アシェリの目の前にいるのは何だ? 俺の威圧と殺気を上回るナニかが、そこにいるのか?』」
主様の問いかけを受ける時には、私の身体から恐怖は消えていた。
「『いいえ、主様。私の目の前には、雑魚共しかおりません』」
「『そうだ。所詮雑魚は雑魚だ。俺が行くまでに斬り捨てろ。ピンチは?』」
「『ふふ、チャンスです』」
「『そうだ。嗤いながら戦え。お前の二つ名は『番狂わせ』だ』」
貴方は私の何なのでしょう?
貴方は私に温かさをくれました
貴方は私に戦う勇気をくれました
貴方は私に戦う力をくれました
貴方は私の願いを叶えてくれているですか?
貴方は私の月
貴方は私を月光で照らす
ならば私は月光に狂い舞う、月狼となりましょう
↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)





