遠吠え
俺は、斬り捨てた『瘴気纏い盗賊頭』だったモノを見る。
(斬ったのは怪物だった……でも、コレがその結果か……)
斬り捨てた瘴気纏いとなった盗賊頭が、地面に倒れた後にただの人間に戻る所を見てしまった。頭が真っ白になり、俺は思わずそのまま、倒れてしまいそうだった。
しかし、倒れる事は『不撓不屈』が許してくれない。人を殺した重みに、心が折れそうだった。それも『不撓不屈』が許してくれない。
「くそったれ……」
俺がそんな事を考え、そこに立ち止まっていると、目の前にいた三人に見られていることに気づいた。俺はまだこの時に、作製した自信作『怒りに燃える魔王様』の全身鎧を着たままな事に気付いていなかった。
「大丈夫か?」
「その姿……その悍ましい声……貴様、魔族だろう! 何故、我々を助けた!」
「は?」
そこで俺は、もう一つ解除するのを忘れていた事がある事に気付いた。
(『神出鬼没』で、声もそれっぽく『声変換』してたのの忘れてたぁあああ!)
「え? いや! これは……」
「先程の力……私では敵わないでしょう……お二人! しかし、私がこの魔族を抑えてみせます! この命にかけて! その隙に先に出口へ!」
「いや、だからね?」
「ディアナ……必ず私の元へ帰ってくるのよ? これは命令よ?……帰って来なかったら……許さないんだから!」
「ヴァレリー様……このディアナ! 必ず帰ります! このディアナが……約束を破った事などありましたか?」
「結構破ってるけど……ううん、貴方を信じて先に行ってるから! 出口で待ってるから!」
「何これ……」
俺は、さっきまでの緊張感が嘘の様に脱力していた。溜息でも吐きたくなっていると、小柄な少女が二人のコントをほっておいて俺を、じっと見つめていた。
「ありがと」
「偶々だ。気にするな。それより、あの二人何とかしてくれ」
「あぁなったら、もうこの設定は変えられないよ」
「マジかぁ……はぁ、分かったよ……やりゃあいんだろったく……フハハハハハハ! 貴様等、我輩が貴様等を逃がすわけがないだろう!」
「頑張ってぇ」
酷く間の抜けた声で、小柄な少女に応援された。気分はヒーローショーだ……
「やはり……貴様は魔族だったか! せぇいやぁああ! さぁ今のうちに、後から必ず追いつきます!」
「必ずよ! 行くわよマイナ! ディアナの想いを、無駄にしちゃダメ!……グス……まだ泣かないんだから!」
「まぁけるなぁー」
そして俺は、盗賊頭が持っていた明らかに高価そうな不釣り合いな剣を拾ってきて、ディアナと呼ばれた女騎士の目の前に投げつけた。
「これは……私の剣だ。何のつもりだ」
「フハハハ! 知れたこと! 全力の貴様を倒さねば意味があるまい! さぁ……かかってこい!」
「後悔するなよ! 『乙女の怒り』『乙女の意地』!」
そして、俺はエディスと誰も見てないヒーローショーの悪役を演じるのだった。
エディスは、かなりの強さがあった。スキルによる底上げと、剣術の腕は中々の物を持っていた。まだ俺と同じくらいの年に見える彼女は、これからもっと鍛錬を重ねれば、今日の瘴気纏い盗賊頭にも勝つ日はきっと来るだろう。
「くっ! 殺せ!」
「…いいだろう! その潔さにせめて一撃で葬ってや……ぐ……ぐあぁああああ!」
「なんだ!?」
「くっ……まさか貴様の攻撃が、今になって効いてくるとは……ぐぅうう……今日の所はこれで勘弁してやる! 次こそは、必ず息の根を止めてやろう! フハハハハハハ!」
「なっ!? 待て! おい! ぶはぁっ! なんだこれ! げほっ! ごほっ!」
俺は『送風』で洞窟内の埃や砂を舞い上げ、その隙に『神出鬼没』で、来た時と同じく姿を隠したのだ。
「フハハハハハハ! さらばだ! 美しき騎士よ! 待っておれよ? また我は其方に会いに来るぞ!」
「まっ待てぇ! ううううううう美し人だとぉおおおお! また逢いに来ると言ったな……わ、私はディアナ! 北の都ノスティを治めるロイド伯爵様に使える騎士だ! また……絶対お逢いしましょう! せめて貴方のお名前を!」
「名前!? えっと……そう! 我の名は|『漆黒の騎士』だ!」
「ジェット……様……また必ず!」
若干何か違和感を感じるも、そのままじっと天井に張り付き、ディアナが出口の方に消えていくのをしっかり待ってから地面に降り立った。
そして、無事に洞窟の外でディアナは二人と再会していた。
「ディアナ! 無事だったのね! あの魔族はどうしたの!? 倒したの?」
「いえ……手も足も出ずに死を覚悟しました……ですが、彼は私を見逃したのです」
「ん? 彼?」
「そして去り際に……『また逢おう。美しき人よ』と……私は!……魔族と逢瀬の約束をしてしまいました……」
「なんですって!……でも、彼は魔族なのよね……魔族との禁じられた恋……有りね! ディアナ! ありよ! あのお方のお名前は、聞いたの!?」
「ヴァレリー様! 聞きましたとも! 『漆黒の騎士』様と仰っていました!」
「分かったわ! 帰ったら早速、ジェット様の情報を集めるのよ!」
燃える恋する乙女は、止まらない。
その様子をみていたマイナは、一人静かに呟いた。
「この設定は止まりそうにないよぉ。頑張ってぇ」
「!? なんだ!? すごい背中がゾワっとしたぞ!?」
俺はこれからどうするか、悩んでいた。
「盗賊団討伐は完了したって事で良いんだろうけど。まさか全滅すると思ってなかったからなぁ。アシェリに聞いて貰うか」
仕方ないので、アシェリに『呼出』した。昨日の内にアシェリを『通信魔法』で『友達登録』しておいたのだ。
「『はい、アシェリです。主様?』」
「『そう、ヤナだ。ちょっと悪いが、今からギルドに行って貰えるか? 盗賊を討伐した場合は、どうしたらいいか聞いてきてくれ。ちなみに、二十人全員死んでいる』」
「『!? 全員……ですか……わかりました。今から向かいます。すぐ行きますので、このまま繋げときますね』」
すぐにアシェリはギルドに向かった様だ。ギルドに入ったら、俺の名前でガストフ支部長にその事を伝えどうしたら良いか聞いてもらった。
「『今から、其方に迎うそうですよ。少し待っててくれと言われました』」
「『え?少し? 馬車じゃ結構かかると思ったんだが……』」
「『転移術師と行くそうですよ? 主様にも伝えてあるから、知っているだろうとガストフ支部長様に言われましたが?』」
「『えぇっと……あ! そんな事、確かに言われた記憶が蘇ってきたわ。分かった、助かったわ。死体なんぞ、鞄に入れたくなかったしな』」
きちんとアシェリに回線切断させて、通話を切った。それから洞窟の前で少し待っているとガストフ支部長、エディスさんともう一人知らない冒険者の女性がこちらに向かってきた。
「案外早かったな。わざわざありがとうな」
「いや、こっちこそ連絡入れてもらってよかった。丁度、ヨウがギルドに居たからな。すぐどっかに転移で行っちまうからな」
「初めましてヤナ君。転移術師のヨウです。同じCランクなのでよろしくです」
蒼色の髪の毛でおさげの少女から、挨拶を受けた。
「あぁ、こっちこそよろしく」
「で、ヤナ君? 今日は下見じゃなかったんですか?」
エディスさんに聞かれたので、今日のあらましを伝えた。下見のつもりで来ていた事。そしたら三人が捕まっていた事。明日には二人は売られること。一人は夜には襲われること。そして、俺に追い込まれた盗賊頭が瘴気が染み込んだ腕輪を装備し、瘴気纏いになったこと。瘴気纏い盗賊頭が子分を皆殺しにしたこと。
そして、その盗賊頭を俺が殺した事。
「その瘴気纏いに変貌させた腕輪ってのは、キナ臭いな。現物はないんだったな?」
「あぁ、瘴気纏い盗賊頭がご丁寧に粉々に砕いて見せてくれたよ」
やはりガストフ支部長も気になる所は同じらしく、俺と二人何処から入手したのか検討していると、エディスさんが助けた三人について尋ねてきた。
「助けたご令嬢と騎士は誰だったんですか?」
「えっと、北の都ノスティのロイド伯爵に仕えるディアナってのと、そのディアナが二人のお嬢様をヴァレリーとマイナと呼んでいたな」
「なんだと! ヴァレリーとマイナって言ったら、正にお嬢様だぞ! ロイド伯爵の娘だからな」
エディスさんが素になるくらいの事らしい。俺的には変な二人とまともな少女が一人って感じだったが。
「しかもディアナと言えば、若いがかなりの強さをもつ騎士だと北では結構有名みたいだが。そのディアナが護衛していて、盗賊に捕まったのか?」
ディアナの強さは相当有名だったらしく、ガストフ支部長の訝しげな顔をしていた。
「確かにあの強さなら、ただの盗賊だったら訳なかっただろうな。ただ、あの瘴気纏い盗賊頭にはまだ鍛錬が足りないかな」
「お前、戦った事あるのか? ディアナと」
「あぁ、さっき成り行きでな。『くっ!殺せ!』なんて言われたが、ちゃんと無事に帰したぞ? 特に叩きのめした以外は何もしてないしな。助けた時に正体も隠してたし、偽名を教えたから大丈夫だろ」
「「お前何してんだ…」」
「あぁ、ヤナ君てこんな感じの人なんですね」
ガストフ支部長とエディスさんに呆れた様な顔をされ、ヨウさんには何か誤解された気がしたがスルーした。
俺たちは取り敢えずまず、盗賊団の死骸の所へ向かった。そこで、事前情報通り二十名の盗賊団の死骸をガストフ支部長達に確認してもらった。討伐指定盗賊団と確認できた為、最後は俺の獄炎で子分達は燃やし尽くした。そのまま放っておくと、アンデッド系の魔物になるらしい。
そして盗賊頭は、一度瘴気纏いになっている為、一応神火魔法で燃やす事にした。盗賊頭の前で腕輪と指輪を外し、皆に背を向ける位置で自分が殺した死骸を見下ろした。
「……『神火の祓い』……」
俺は神火が盗賊頭を燃やし尽くすまで、その炎を見ていた。とてもじゃないが、今の顔を誰かに見せる気にはなれなかった。死骸が燃え尽きると、神出鬼没で自分の表情を『普段通り』に『偽装』してから振り返った。
「さて、あとは宝物庫か。俺も開けてないな、あの部屋。盗賊の宝はどうなるんだ?」
「それなら、全部お前さんの物だ」
「へぇ、そうなるのか。ならちょっと見に行くか」
俺は鍵のかかっていた部屋の扉を壊し中に入った。指定盗賊団らしく結構金や宝石を溜め込んでいた。それを全て鞄にしまい洞窟を後にした。そしてヨウさんのが転移魔法で移動し王都のギルドに戻った。
「お疲れさん。今回の指定盗賊団討伐報酬と、さっき渡された盗賊の宝の買取の鑑定結果は明日でいいな。あと、今回かなりの金額をお前さんに渡す事になるが、ギルドに金を預ける個人口座作ってくれるか?」
「ん? あぁいいぞ? そんなのあったのか? 最初の説明で、そんなの言ってなかったけど」
「あぁ、ギルドに個人口座を作るのは、普通Bランク以上だからな。その辺のランクになると報酬額もでかくなってな。金貨を個人で溜め込まれても、困るからな」
「あぁ、そう言うことか。わかったよ、今回の討伐報酬と宝をギルドに売った金は全部そっちに入れといてくれ。あと、この盗賊団の金も」
受付カウンターに麻袋に入った金貨を、回収した分だけ出してエディスさんに渡した。
「お金持ちですね。どうしますか? 夜の街でも行って、派手に遊んでみては? フフフ」
「ははは、確かにこんだけあったら相当遊べそうだな。考えておくよ」
「……そうですね。それでは確かにお預かりしました。これから報酬は、口座に入金で良いですか?」
「あぁ、そうしてくれ。それじゃ、お疲れさん。また明日な。ガストフ支部長と、ヨウさんもお疲れ」
「あぁ、お疲れさん。ゆっくり休め」
「えぇ、ヤナ君もお疲れ様」
そして俺は、宿に戻ろうとギルドを出ようとした。
「ヤナ!……君。ちゃんと寝なさいよ? 寝れなければ、夜の街で遊んできなさい」
「寝れなかったらな。じゃあ、おやすみ」
「えぇ、おやすみ」
そして、俺は宿屋に戻りいつもより少し遅めの食事を取り、アシェリが待つ部屋に戻った。
「あ!……お帰りなさい主様。何時になるか分からないからとエディスさんに言われ、宿の部屋に戻っていました」
「別にいいぞ? 奴隷らしいことなんて、何もする事はない。俺はただの保護者だからな、自由にしてくれ」
「あ、はい。主様、お疲れですよね? 大丈夫ですか?」
「ん? 全然大丈夫だ。それに今日だけで、金持ちになったらしい。当面クエスト頑張らなくても食って行けるから、アシェリの鍛錬に集中してやるからな。覚悟しろよ? くっくっく」
「……はい。分かりました。主様は、今日はもう寝たほうがいいですよ?」
「そうだな。なんだかんだと、結構な移動距離だったからなぁ。もう寝るか。おやすみ」
「おやすみなさい、主様」
そして俺は、いつも通り床に毛布を引き、目を瞑った。
ギルドの支部長室ではガストフ支部長とエディスが、今日の事について話していた。
「人の瘴気纏いか……また厄介なもんが現れたもんだ」
「……そうだな」
「ヤナが気になるのか?」
「あぁ、まぁそうだな。あれは、恐らく人を殺したのは初めてだな」
エディスはヤナの表情がいつもと変わらなかったが、纏う雰囲気が違う事は分かっていた。
「夜の街で、発散してくりゃいいんだがな。何ならお前が夜這ってこい。大事な新人が潰れてはかなわん」
「おい……冗談だよな? 殴るぞ?」
「まぁ、あながち冗談でもないんだがな……暫く様子を見るこったな。初めては、皆多少なりともショックを受けるもんだ」
「そう……だな」
エディスはそう呟き、ヤナのいる宿屋の方角へ視線を向かわせるのであった。
そしてその日の誰もが寝静まった真夜中、宿屋から気配を消して出てくる人物がいた。その人物はゆっくりと街の外へと向かった。
荒野を進み街から離れ、周りに誰もいない事を確認した。
そして、人知れずに慟哭した
大声で身体から何を吐き出すように叫んだ
皆がいる前では、決して見せることのなかった涙を流した
人を殺したという事実に、心は穏やかではいられなかった
傷つけられる事は鍛錬で慣れた
傷つける事も鍛錬で慣れた
魔物を斬る事にも鍛錬で慣れた
魔族を斬る事は割り切れた
しかし、人を殺した事には恐怖した
あの時躊躇えば、ディアナ達が死んだ。
結果、その男は人を殺した。
クソ野郎を斬っただけだと、男は納得出来るものではなかった。
その男は二刀の剣を抜き、心のままに舞い踊った。
悲しく哀しくどうしょうもない心を写すかのような剣の舞に、見ている者の眼からは涙が溢れ出ていた。
主様が寝ていない事も、部屋から気配を消して出て行ったことも知っていた。
今日帰ってきてからの主様は、顔の表情は『普通』だった。
ただ目は違っていた。とても哀しい悲しい目をしていた。
主様は、とても優しい人だ。会って間もないが、私の心がそれを理解してしまっている。私を守ってくれたあの炎はとても温かかった。まるで、とうさまとかあさまに、抱きしめられている様だった。
そんな温かい炎をくれた人の心が、冷え切っている。
私は姿を変えて、主様から離れ匂いを辿ってついて行った。あまり近づくと主様は気づいてしまう。
荒野に出てからは、狼の振りをしてある程度まで近づいた。主様は気がついていない様だった。
そして、主様は泣いた。
苦しそうに叫び、悲しそうに哀しそうに泣き続けていた。
今すぐ抱きしめてあげたかった
大丈夫だよと安心させてあげたかった
でも、そんな事をしたら主様が、私の大事な人になってしまう。
そしたらまた、失ってしまう。
そして主様は、剣を抜き舞い踊った。
とても悲しい顔で、哀しい目をして、泣きながら舞い踊った。
私は、耐えられなかった。
心が張り裂けそうだった。
「ウォオオオオオオン」
私は月に向かって吠えた。
私は貴方を見守っていると
私は貴方を救いたいと
私は月に願いを掛ける様に、吠えることしかできない。
そして月と狼の物語は狂り狂りと進んでいく。
"みぃつけたぁ"
↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)





