何故貴方は泣いているの
「薬草採取、スライム討伐クエスト共に達成です。これが、報酬の銀貨五枚です」
「ありがとうございます」
夕方になり、ギルドにアシェリだけがクエストの報告にやって来ていた。
「アシェリちゃん、ヤナ君は?」
「主様は、ご自身の指定クエストの下見に行くと仰って飛んで行きました」
「そんな飛ぶ様に急ぐクエストなんて、いつの間に受けてたのかしら? 私からじゃないとすると、ガストフ支部長かしら?」
エディスはヤナの担当である自分の知らないクエストを、ヤナが受けている事を訝しんでいた。
「エディス様?」
「ん? いいのいいの。まぁ、ヤナ君なら大丈夫でしょう。アシェリちゃんも、初クエスト達成おめでとう。また明日も頑張ってくださいね」
「はい、頑張ります」
アシェリはエディスと別れ、ギルドを出て行った。エディスは、アシェリがいなくなった後に、ガストフ支部長室に向かった。
「ヤナに指定クエストっては、どういう事だ! あたいは聞いてないぞ!」
「エディスか……ノックくらいしろよ、全く。それに、もっと感情を抑えろ」
「あぁ……わるい。で? ヤナの指定クエストってのは、何だ?」
エディスは胸元を手で抑え、深く息を吸い落ち着いてから、ガストフ支部長に尋ねた。
「あぁ、アレの件か。俺から、直接あいつを指定して頼んだ」
「なんで、あたいを通さなかった。何がある、このクエストに」
「別に何もないさ。ただのチンケな盗賊団の討伐だ。あいつなら、死にゃせんよ」
「……他の奴なら、そうじゃないってか……」
「まぁ、そう言う事だ。通常なら、他のCランクとパーティを組ませるとこなんだがなぁ。あいつなら何とかするだろ、多分」
それを聞いて、エディスは眉間に深い皺を作り、ガストフ支部長を睨んだ。
「はぁ? 相手の人数は、何人なんだ?」
「確か二十人位で、ドリゲス盗賊団だったかな?」
「はぁ!? 二十人!? しかも、ドリゲスって言ったら、北で名が知れた盗賊団じゃねぇか! それをCランクになったばかりというか、冒険者になりたての新人一人に任せただと! 何考えてんだ、あんたは!」
「心配でも、お前は付いて行くなよ?」
「チッ! あいつはもう、下見にいきやがったよ!」
エディスは舌打ちをしながら、扉を蹴り開けた。
「それなら、流石に彼奴も真っ正面から行かんだろ。頭は悪そうじゃなかったし、罠でも張ったりして数を減らすんだろ」
「そうだと、いいがな!……あいつは、甘ちゃんだから、きちんと殺せるかどうか……」
それだけ言い残し、エディスは部屋を出て行った。
「そうだな……あいつはどうするかな? いざって時に躊躇うと、思わぬ事になるからな」
ガストフ支部長は、そう呟きながら自分の右腕を摩っていた。
その頃、ドリゲス盗賊団は今日の襲撃の結果に酔いしれていた。
「頭ぁ、今日の奴らはたんまり持ってましたねぇ! アジトを変える前の日にたぁ、俺ら運がいいですねぇ」
「あぁ、まさかあんなに金持ってやがるとはな。その分護衛は中々出来る奴だったがな。まぁ、俺にしてみりゃ雑魚よ! ハァーハッハッハ!」
「ただ、頭が暴れたせいで、他の侍女達が死んじまったのが、勿体なかったなぁ」
「ガハハ! そいつは悪かったな! アジトを移動したら、使い捨ての奴隷共でも買ってやるよ。それに今日は、滅多に喰えない女騎士様だぞ? お前らにやるから、好きにしろぉ!」
「「「おぉおお!」」」
洞窟内は下卑た笑い声がこだましていた。
そして、遂にその時は、訪れた。
「ぎゃぁあああああああ!」
下卑た笑い声が一瞬で止まり、全員が入り口の方を見た。入り口の方から、二人の新人盗賊が全員の元へ、走りこんできた。
「なんだ! 顔が青いぞ? お前らも随分酷い事してきたからな、その女でも化けてでたか? ギャハハ!」
「「助けてくれぇ!」」
二人は真っ青な顔をしながら、地面に這いつくばった。
「なんだ! 何があった!」
ここで漸く他の盗賊達も、何かが来ているのだと理解した。
もう、遅いのだが…
"カツーン"
"カツーン"
"カツーン"
二十人も人が集まっているというのに、その足音はやけに響いた。
「だ……だれだぁ!」
ソレは姿を表しながら言葉を発した。
「誰でもいいじゃないか。偶々そこで綺麗な夕焼けをみていたのだが、どうも五月蝿い獣の声が聞こえてね」
「は?」
「黙らせに来たのだよ」
盗賊達には姿を見せた瞬間から、威圧と殺気を叩きつけている。
「ひぃ! かかかか頭ぁ! 早く逃げましょう! アレは、やばいですって!」
「中々いい殺気を放つが、見掛け倒しだろあんなもの! 俺にはアレがあるからな! 野郎共! 盗賊が殺気如きでビビるな! 二十人もいるんだ! 囲んで武器で殺せぇ!」
「「「へい! おぉおおおお!」」」
「うむ、これは失礼した。きちんと一人ずつ相手は用意してあるのだよ」
「何を……」
そして、ザッザッザッと行進しながら『黒炎の自動人形達』が現れる。
「なんなんだ……なんなんだ、お前らはぁ!」
「だから言っているだろう? 偶々、そこを通りかかっただけさ。五月蝿いという理由が、お前らが潰される理由だよ。他には別に何もない。別に騎士団でも、冒険者でも、敵討ちでもない。只々、ここにお前達が居て、この近くを俺が通り、五月蝿いなと思った。それだけだが?」
「ふざけるなぁ! そんな理由で、俺の盗賊団を潰されてたまるかぁ!」
「そんな理由でいいだろ? でもまぁ、流石にそれではかわいそうか。うむ、ならこうしよう」
激昂している盗賊団の頭に、さも良い考えが浮かんだとばかりの声色で語りかけた。
「夕食前の暇潰し」
そして、『理不尽』が『理不尽』に蹂躙され始めた。
そして盗賊団の悲鳴が、洞窟の出口から奏でられることになる。
突然の悲鳴の大合唱で、私は、目を覚ました。尚も引き続く悲鳴に、自分の今の状況を思い出した。直ぐ様、護衛対象の名前を叫ぶ。
「ヴァレリー様! マイナ様! ご無事ですか!」
「ディアナ! 目が覚めたのね! 貴方は大丈夫!? こっちは、二人とも大丈夫よ!」
「私も大丈夫〜」
お二人からお元気そうな声が聞けて、少し安心した所でハッと自分の格好を見るも、着衣の乱れはない事に安堵した。
「「「ぎゃぁあああああああ! もういやだぁああああ!」」」
なおも続く悲鳴に、私は状況が分からずに焦る。
「くそ! 何が起きてるんだ!」
私は手枷も足枷も付いていなかった為、起き上がり力を貯めて鉄格子に向かって体当たりをした。
「『乙女の意地』! うおぉおおおおお!」
鉄格子の扉部分は、私の身体強化と、痛覚耐性を発動した状態の力には耐えられなかった。鉄格子の扉は私の体当たりで大きな音を立てながら、吹き飛んでいた。
「ディアナ! 鉄格子から出れたのね! って、顔から血が出てるわよ! 大丈夫!?」
「大丈夫です! 顔からぶちかましたので! これ位は、怪我ではありません!」
「何で顔から!?」
「さぁ、お二人とも扉から離れてください! はぁああああ! どっせい!」
「だから顔からぶつからないで! 見てるこっちが痛い!」
無事に鉄格子の扉を破壊し、お二人を助けることが出来た。
「私、よく面の皮が厚いって言われてるので、ご安心を! さぁ今のうちに脱出です!」
「そういう意味じゃないんじゃないかしら!?」
流石に私の剣は牢屋にはなかったが、あいつ以外なら素手でも対処できる自信があった為、探すことはせずにできるだけ気配を消して通路を歩いた。
牢屋から道は一本道で、進めば進むほど誰かの悲鳴の声が大きくなっていく。
「一体何が……」
兎に角警戒しながら進んでいくと、一際大きな空間に出た。そしてアレを目にしたのだ。
「魔族……」
俺は、『黒炎の自動人形達』を自動操縦で、盗賊頭以外の相手を『攻撃設定:非殺傷』『攻撃停止状態条件:無し』でけしかけた。『殺さない攻撃』で『気絶しても何しても止まらない』ということだ。
「もう許し……ぐべば!」
「だずでで……ぐぎゃ!」
「……ぐべば!……ぎゃばだ!」
結果、当然こうなる。この世界は回復魔法や薬草がある上に、レベルやスキルがある。死ななきゃ大抵は治る為、こっちも容赦しなくていいのが楽でいい。
「お前……悪魔か……」
「死んでないんだ、優しいだろう?」
「ふざけるなぁ! ぶっ潰してやるわぁああ!」
盗賊頭はそう叫びながら、瘴気に染まる腕輪を取り出し自分に装備した。
「う……ウガァアアアア!」
「頭ぁ! やっまえ! ってこっちじゃないるぐぺ!」
「頭ぁ! 敵はあっちぎゃぺし!」
盗賊頭が瘴気に染まる腕輪をつけた瞬間、身体の筋肉が異常に膨れ上がり、身体は青く目は紅く爬虫類の様な獰猛な目に変わった。そして俺ではなく、既に弱っている子分立ちを虐殺していった。俺の『黒炎の自動人形達』の隙間を縫ってだ。
「おい! お前、何してんだ!」
「んー? ナニか文句でもアルノカ? 弱ってるヤツからツブすのは、当たり前ダロウ?」
俺がその光景に呆気に取られていると、此方に向き直った。
「フハハハハハハ! 彼奴ら弱いカラナ! もうイラナイ! イラナイツブす!」
どんどん盗賊頭だったモノが、瘴気に覆われていく。瘴気の濃さに比例して、盗賊頭の理性も低くなっている様に感じた。
「おいおい……人も瘴気を纏うのかよ。あの腕輪を斬れば、元に戻るのか?」
取り敢えず『烈風』『涼風』に獄炎を『魔法付与』し、二刀を構える。
「腕ごと、それをくれよ!」
俺は腕輪を装備しているヤツの右腕ごと、斬ろうとした。
「んー? コレが欲しいノカ? もうイラナイけどぉホシイ? ほしい? でも、あぁゲナイ!」
腕を斬りに放った俺の斬撃を躱して、更に腕輪を腕から外していた。そして、腕輪を粉々に自ら砕いたのだ。
「てめぇ……」
「ヒャハハハ! モウコレいらナイ! モドラナイ! ヒャハ! ヒャハ!」
もう盗賊頭の面影は全くなく、異常に筋肉の発達したでかいゴリラとワニを足した様な怪物が目の前いた。
「ヨワイヤツからツブス!」
「まずい!」
瘴気纏い盗賊頭は、今度は牢屋へ続く道へと駆け出した。そこには、三人の気配があった。少女二人と女騎士が牢屋から移動してきているのは、死神の慟哭で勿論把握していたが、彼女らは一応気配を消して様子を伺っていたので、敢えて無視していたのだ。
「『神殺し』『天下無双』『疾風迅雷』! 間に合えぇえええ!」
腕輪と指輪を外した状態の身体的な力加減が出来ない状態で、洞窟内じゃ腕輪と指輪無しの全力は出せない。その為、今の全力を『神殺し』で取っ払い『天下無双』で底上げし、『疾風迅雷』で駆け出した。
私達は、『黒い全身鎧』と盗賊頭を空間の入り口の所で隠れて見ていた。あまりにもあの『黒い全身鎧』に隙がなく、後ろを隠れて移動する事など出来る気がしなかったのだ。
「え!? 盗賊頭が黒い靄に……あれは瘴気! しかもアレは、私を倒したヤツか!」
怪物になった盗賊頭は、子分の頭を潰して回り始めた。
「「ひぃ!」」
「お二人共見ちゃダメです!」
『黒い全身鎧』がいつの間にか怪物がいた所へ斬りかかっていた。しかし、怪物は知らぬ間に別の場所で笑っていた。そして一瞬、その怪物と目があった気がした。
「!? お二人ともお逃げ……」
「ヒャハ! 潰れチャエ!」
既に目の前で、怪物が両腕を頭の上で組んでいた。そのまま、私達を叩き潰すつもりなのだろう。
そして、祈る時間もなくソレはやってきた
騎士になった時からソレは覚悟はしていたのだ
だけど、だけど……
「女神様……」
せめて涙を流す時間ぐらいは欲しかった
「ギャアアアアアアアア!」
突然、断末魔と共に、目の前の視界が割れた。
割れた視界の先に、あの『黒い全身鎧』が立っていた。そして地面には、真っ二つに斬られた盗賊頭が転がっていた。
「くそったれ……」
顔も鎧で覆われ見えない筈なのに
私には『黒い全身鎧』が泣いている様に見えた
↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)





