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第二話「何言ってるか分かりません」

 逢魔が刻を迎える頃には、空が雨雲で覆われていたこともあり、刻一刻と世界に闇が広がっていった。


 そんな中で、建物の屋根や屋上を飛び移りながら、異常な速さで移動する全身黒一色に染まる全身鎧の不審者が、通行人に目撃されていた。


「マスター、結構通行人に姿が見られていますが、良いのですか?」


「これよりは、闇が世界を支配する時間。この舞台においては、漆黒のヒーローが活躍する時間帯なんだ。ヒーローは、誰かに目撃されてこそ、ヒーローなり得るんだぞ」


「ちょっと、何言っているか分からないです」


 闇を彷彿とさせる全身鎧(フルオートメイル)に身を包む矢那に、今は獄炎の大剣へと形状変化(デフォルマシオン)しているヤナビが、明らかにイラついた口調で言葉を返した。


 そしてその言葉に、マスターと呼ばれた富東(ふとう)矢那(やな)は、頭部を覆うフルフェイスの兜の隙間から、嘆息を漏れさせていた。


「お前なぁ、ダークヒーローだって目撃されなきゃ、認知されないだろうが。確かに、縁の下の力持ち的に頑張るのも悪くないが、それは俺が憧れたヒーローではない」


「というと?」


「俺は、テレビのヒーローに憧れたんだ。異世界じゃ、テレビなんてものが無かった。結果として周りが有る事無い事を広めやがった所為で、不名誉な二つ名を付けられたが、この世界で同じ失敗はしない! ちゃんと自己アピールしながら、見せ場を作って俺に相応しい二つ名を獲得するんだよ!」


「本当に、ちょっと何言ってるか意味が分からないです」


 心底呆れた声で、ヤナビは自身のマスターを残念がった。



 昨日、全世界で同時に起きた大規模破壊行為は、所謂“魔法”を用いて行われた。日本においても、それは例外ではなかった。


 真昼間に国会議事堂が襲撃され、多数の死者を出していた。特に運悪く校外学習の一環で、国会議事堂を高校生の一団が訪れていたが、彼らが瓦礫とともに崩壊した参観ロビーに居た事もあり、生存は絶望的との報道が、夕方のニュースを占領していた。


 そして同時に、S N S、ネットニュース、地上波のニュースにおいて、事件が起きてから話題に上がり続けているのが、“魔法”の存在であった。


 国会議事堂を襲った賊は、二人であったが、何故かその二人が襲う直前からネットでは生中継が配信されおり、映画の特撮か合成映像として思えない様な光線を、黒いゴスロリ調のドレスをきた美少女が放ったところから記録されていた。


 更には、ド派手な朱色の和服を着こなす傾奇者の美丈夫が、両手に大太刀を持つ二刀流でもって、小太刀を構える美しい女性S Pと、派手に斬り合いを始めたが、これがまた人間離れしていたのだ。


 極め付けは、崩落した衆議院議場へ現れた“勇者”であった。予め、用意されていたとしか思えないドローン型のカメラが、現役総理大臣である狩川正一が、光り輝く勇者へと変化し、その場に突如現れた大型のモンスターを一刀の元に斬り捨てた様子を、しっかりと捉えていた。


 還暦を超える年齢であった筈の狩川は、光とともに少年の面影を残す青年に若返り、更には着ていたスーツから、光り輝く勇者の鎧へと変身していた。


 その映像は繰り返しテレビや、ネットで流され、それを見た矢那は目を見開き呆然としながら、呟いた。


 “カッコいいなぁ! おい!”


 その結果、総理が光の勇者なら、こっちは漆黒のヒーローだと固く決意した結果が、今のこれである。


 人に目撃されたり、写真や映像に残る程度の速度でわざと移動しているため、自宅から都心部に近づいた頃にはすっかり、日は落ちて闇夜になっていた。


 矢那本人は、暗闇と雨と言うシチュエーションが、まさにテレビで見るダークヒーローの活躍する舞台に相応しいと酔っているが、全身が黒い上に、割と高いところから見下ろしたがる所為で、背景の闇と重なり、矢那の姿は地上からは全く見えない。


 当然の事として、雨が降ってたら傘を閉じてまで、上を見る者などいない。


 ヤナビは、その事にとっくに気付いているが、テンション高めに楽しそうにしている矢那を、愛おしく温かい目で黙って見守るのだった。


「ん? あれは……魔法陣?」


 ダークヒーローが似合いそうな夜の街という本人のイメージで、歌舞伎町の雑居ビルの屋上に来ていた矢那は、路地裏に隠蔽が施された小型の魔法陣を発見した。


 街灯もない暗い路地裏に、矢那が降り立つと、目を凝らしてやっと見える程度の魔法術式が確認出来た。


「これは、小型ですが転移陣に見えますね、マスター」


「……何で勝手に剣から、魅惑の美人秘書とでも言ってほしげな形に形状変化(デフォルマシオン)してるんだよ」


「マスターの質問に、一つ一つ答えましょう。先ず、このシチュエーションが“謎解き事件風味”な空気感になった為、私も大剣型よりも人型の方が場の雰囲気にマッチしてるかと。そして何故、美人秘書かというと、マスターはナースの他にも、大人の女性のコレクションをベッドの下に隠し……」


「あぁああぁあここここれは、小型転送陣じゃないかぁああ!? 何者かが、何かをここに転送したわけだな! これは、絶対アレだ! 悪事の気配だ! 悪役(ヒール)が仕掛けたに、違いなぁいいい!」


「マスター、ちょっと煩いですし、慌てすぎです」


「やかましいわ! ヤナビが、毎回そんなネタをもってくるからだろうが!」


「では、むさいオッサンになりましょうか?」


「断る!」


「アホですね、マスター」


 全力で答える矢那に、引き気味なヤナビだったが、地面に薄く光る転移魔法陣に手で触れると、術式解析を始めた。


「【神出鬼没(隠蔽/隠密/偽装)】を使用して、初めて分かる程度の偽装術が施されてるんだ。相当、見つかって欲しくないものなんだろうけど。本気で、これが悪事用のものなのかどうかなんだよなぁ」


 今日の昼に首相官邸からの生中継を、ヤナは秋葉原の津幡屋というラーメン店に備え付けられているテレビで見ていた。自宅待機が全校生徒に命じられていたが、ヤナビがどうしても秋葉原に行きたいと駄々をこねたからだった。


 行きたかった理由は、矢那の記憶で秋葉原の記録を見ていて、異世界には決してなかった光景が印象的だったようだった。


 ここで矢那が判断に迷っているのは、ラーメン屋でみた勇者総理が、この世界において以前から、“魔法”自体は存在していた事を認めたからだった。


「マスターが知らなかっただけで、この世界に“魔法”があるのだとしたら、この転送陣ももしからしたら、そんな社会の一部の機構の可能性があると言う事ですか」


「何とも言えんな。帰還者(オリジン)って言葉すら、知らなかったしな。ただまぁ、こんな暗い路地裏に、ご丁寧に隠蔽術まで施している時点で、怪しさ満点だけど」


「どうしますか? 術式を破壊しておきますか?」


 ヤナビの問いに、腕を組み口を閉じる矢那は、徐に右手を掲げると、半透明の膜がこの路地裏一帯を包み込んだ。


「碌でもない奴の悪巧みである可能性があるからな、見張りをつけておこう」


 そして、左手を路地に向かって突き出した。


「『明鏡止水(精神統一)』『三重(トリプル)』『十指(テンフィンガー)』『火球(ファイアボール)』『形状変化(デフォルマシオン)』『火鼠(ファイアマウス)』『自動操縦(オートパイロット)』『接続(コネクト)』『案内者(ヤナビ)』『自動迷宮階層記録(オートマッピング)』」


 矢那のスキル詠唱と共に、三十匹の火鼠(ファイアマウス)を創造すると、同時に騙し絵(トリックアート)により、本物のネズミと見分けが付かないように着色した。同じ事を数回繰り返し、火鼠(ファイアマウス)の他にも、火鴉(ファイアクロウ)を創り出すと、街に解き放った。


「一先ず、こいつらが同じ術式を見つけるかもしれないから、それまで一度待機……」


「マスター、すぐに同じ術式を発見しました。しかも、こうして話してる間にも次々に見つけております」


「マジかぁ。時間がかかるが、今後の俺のヒーロー活動する上でも、瞬時に誰かのピンチに駆けつけるには、街中に火鼠(ファイアマウス)は配置しておいた方が良い訳だし……うん、取り敢えず都心部にひたすらこいつらをばら撒こう」


「特に反対はしませんが、凄く地道な活動ですね」


「派手に登場するには、ちゃんとした準備が大事なんだよ」


「それなら、私が操作できる人形をお貸しください。碌でもないものだった際の術式破壊は、火鼠(ファイアマウス)火鴉(ファイアクロウ)では出来ませんので」


 その言葉に矢那は頷くと、先ほどと同じように左腕を前に突き出すと、詠唱を口にしたのだった。


「『三重(トリプル)』『十指(テンフィンガー)』『獄炎(ヘルフレイム)の柱(ピラー)』『形状変化(デフォルマシオン)』『黒炎の(ヘルフレイム)自動人形達(オートマタ)』」


 三十もの獄炎の柱が出現した後、徐々に獄炎の形が変わっていくと、そこにはメタルブラックのアンドロイドが立っていた。


「マスター、あと十八体お願いします」


「十八体? 半端な数だが、それで良いのか?」


「むしろそれで、良いんです」


 ヤナビの言葉に首を傾げながらも、追加で十八体の黒炎の(ヘルフレイム)自動人形達(オートマタ)が現れ、合計四十八体となっていた。当然、路地裏であるが故に、相当狭い事になっている。


神出鬼没(隠蔽/隠密/偽装)】により、この路地裏全体に人避けと隠蔽術を施しているとはいえ、数が流石に多かった。


 そして、矢那は合計が四十八体になったことの意味を、やっと此処で理解する事になる。


 ヤナビが四十八体の黒炎の(ヘルフレイム)自動人形達(オートマタ)に向かって、右腕を向けると、一斉に動き出し、綺麗に整列していた。


 そして、姿がメタルブラックなアンドロイド型から、当然の如く変わっていった。


「ん? これは、ちょっと……おい! 待て! 姿を何故に黒衣の美女及び美少女ナースの集団に変える!? そしてそのまま行かせるな!」


 矢那が目の前に、まるでアイドルグループのように一人一人がポーズをとる黒衣のナース達に、ドン引きしていると、ヤナビが勝手に操作して各地に散らばせ始めた。


「マスター、もっと火鼠(ファイアマウス)火鴉(ファイアクロウ)を増やして、都心全てを調査しなくては行けません。何か、酷く大きな陰謀の予感がします」


「キリッとした顔してんじゃねぇよ。まだ、アイツらが俺のスキルだって知ってる人間が居ないから良いものの、バレたら完全にド変態の所業じゃねぇか」


「?」


「キョトンとした顔やめろ!」


 ヤナビは思う。マスターは、間違いなく変態ですよと。


「さぁ、変態の中の変態(キングオブ変態)マスター、より効率良く火鼠(ファイアマウス)や、火鴉ファイアクロウを散らせるには、上空からばら撒いていくのが早いですよ。さっさと、黒翼の天使とか何とか言いながら、翼を生やして空に上がりますよ」


「完全に主人を、バカにしてるじゃねぇか。まぁ、そのネーミングはありだから、そのうち使うけど。だがしかし高い場所か……そのまま空に浮かぶのでは能がないし、絵的に映えない。この都心で高い場所と言ったら、あそこしかないだろう」


 矢那はヤナビの言葉に苛つきを覚えながも、自分のアイデアが余程気に入ったのか、ある場所を思い浮かべながら、矢那は不敵に笑うのだった。


 その場所に立ち、闇夜に浮かぶ自分の姿を想像し、矢那は酔いしれるように不敵に笑うのだった。


 そして、ヤナビは半眼になりながらも、黒炎の大剣へと戻ると、主人と共に移動を始めたのだった。


 都心が一望出来る、その塔の天辺に向かって。


↓大事なお知らせがありますので、下までスクロールして確認してくださいぃいい!。゜(゜´ω`゜)゜。

ここまで読んで頂いているヤナファン必見の情報なのですぅううう!

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