どっちがどっち
「が……ぐ……僕は一体……何を……」
僕は混乱していた
聖剣から腕へと伝うこの血は、一体誰のものだというのか
目の前で優しく微笑むこの女性が誰なのか、僕は分かりたくなかった
「エイダ……さん?」
エイダの優しく微笑む顔は、口から一筋の血が流れ落ち、まるで血の気が無いかのように白くなっていた。コウヤは更に今の自分が炎の中にいる事に気づくと、混乱しながら聖剣から手を離すと、思わずエイダから逃げるように後退していた。
エイダの身体は炎に包まれたままだったが、その場所から離れたコウヤの身に炎は宿っていなかった。しかし、コウヤが纏っていた瘴気の鎧は跡形もなく消え去っていた。
「僕は……ボクは……!?」
「「戻って来なさぁあああい!」」
コウヤが血に濡れる手を見ながら、身体を震わせていたところに、ルイとアリスがコウヤに聖玉を持ちながら突っ込んだ。そして聖玉は、アリスとルイの勢いそのままに、コウヤの胸に正面から叩きつけられたのだった。
「ぐ……は……これは……何を……したんだぁああ!」
よろめきながら、コウヤは胸を抑えると、怒りの表情を二人に見せながら敵意を向けた。
「コウヤ! 勇者の中の勇者が、なに闇堕ちしてんのよ! さっさと、正気に戻りなさい! ルイは、エイダさんをお願い!」
「うん! わかってるよ! 【聖癒砲】!」
アリスはコウヤの瘴気が確実に聖玉により浄化されていく様子を見ながら、それでもなおコウヤの正気が戻っていない事に不安を覚えた。そしてルイは、困惑していた。
「エイダさんの傷が……治らない!?」
未だ空中に浮いているエイダは、炎に包まれながら胸にはコウヤの刺した聖剣があったままであった。そしてルイの聖癒砲は、確かにエイダに届いていた。回復が効いているのであれば、胸に刺さった聖剣は抜け落ちながら傷が癒える筈だったが、聖剣は微動だにせずにそのまま留まり続けた。
そしてルイを自分の後ろで護る形でコウヤと対峙しているアリスは、自分の不安が的中している事を確信した。コウヤは自分達に攻撃こそしてこないものの、未だコウヤが召喚した聖剣はエイダの胸に刺さったまま消えず、ヤナビが対応している勇者の盾もまた消滅していない事から、アリスは聖玉がコウヤを侵食している瘴気を完全に排除出来ていないと判断したのだった。
「ルイ様! エイダ様は、今の状態は一切回復魔法は効きません! アリス様と一緒に、コウヤ様に語りかけ、正気に戻る助けを! 今のコウヤ様の状態は、瘴気が原因ではもうありません!」
「は?」
「え?」
「瘴気をきっかけとしてしまいましたが、完全にガチで闇堕ちルートに乗っています! 何とかして光の当たる道に連れ戻してください!」
「「えぇ……嘘ぉ……」」
必死に勇者の盾の包囲網から離脱をはかろうとしているヤナビの声に、二人は完全に呆れていた。
「なんだよ、二人とも。君達も、ボクが男ならしっかりしろとか思ってるんだろ!」
「そんなことは、思ってないわよ。さっさと、その面倒くさい常態から戻りなさいとは思ってるけど」
「私もそんなことは思ってないよ! ただ、面倒くさいなぁとは思ってるけど!」
「面倒くさいって言われたぁああ!…………もう嫌…………」
コウヤは、先ほどまで滾らせていた怒りが一気に萎むと、今度は目から涙を流しながら四つん這いになった。
「えっと……ルイ、とりあえず殴ったら治ると思う?」
「どうかなぁ? いつもみたいに殴らせてくれるならいいけど、今のコウヤ君ってアレだけど、私達が殴れるだけの隙はなさそうだよ?」
何とも気が抜けた様にすすり泣くコウヤであったが、それは自分の力が二人に対して負ける事は無いと分かっているからであった。勇者達はあくまでパーティーとして、其々が役割を持ち力を発揮していた。壁としてコウヤ、前衛にシラユキ、後衛にアリス、そして回復と補助にルイ、それぞれの長所を生かした陣形だった。
前衛であるシラユキがいれば、三人の連携でコウヤを殴り正気に戻すという案は一考の価値があったかもしれない。しかし、前衛役が可能なヤナビが動けない今は、後衛と回復の二人では今のコウヤであっても、先程のような完全なる隙がなければ、攻撃を至近距離で当てるのは難しかった。
「私達でコウヤを元に戻す方法……ある?」
アリスは、瘴気で狂ったわけでもなく素で闇堕ちしたコウヤに対し、何をすれば良いのかわからなくなってしまっていた。いつこの隙を狙ってまた悪神が、コウヤに対して何かしてくれば、打つ手がなくなってしまうと焦っていた。
「アリスちゃん、焦らないで。こんな時に焦ったら、負けだよ」
「ルイ……なんか、妙に自信有り気に話してるけど、なんか方法でも思いついたの?」
ルイはしっかりと胸を張りながら、アリスに向かって声をかけた。その自信に満ちた表情を見たアリスは、首をかしげながらも何かを期待するかのように、ルイに尋ねるた。
「物理攻撃魔法攻撃も、今のコウヤ君には届かない。であるのであれば、残る手段は一つだよ。それは……」
「それは?」
「精神口撃だよ!」
「えぇ……」
アリスは、ルイの発言を聞いて思うのだった。RPGで言えばラスボスの前まで来ているのに、私達は何をやっているのだろうと。
現実は、シェンラは自分と同等の力を持つ古代竜と戦っており、エイダはコウヤに心臓を聖剣で刺され、ヤナは活動停止中、巫女達は安否不明と、現場は混乱と危機の中にあった。しかし、そんな中でもルイの迷いの無い声は思わず苦笑してしまう程に、真っ直ぐだった。
「はぁ……まぁ、いいわ。ルイの案に乗ろうじゃないの。で、精神口撃って言ったって何をするつもりよ」
「それはやっぱり、悩み相談?」
「威勢良く言い切っておいて、疑問系って何よ。相談聞いてる時点で、口撃になってないじゃない。ってか、そもそも今のコウヤが話を聞くの?」
「まぁまぁ、細かい事はいいじゃない! コウヤ君!」
ルイが呼びかけると、コウヤはルイに答えるように顔を向けた。その反応をみたルイは、コウヤに話が通じると判断し、更に口を開いたのだった。
「コウヤ君の好きな人って、どんな人!」
「……恋話するの!? そんな話に、こんな状況で乗ってくる訳……」
「ボクの好きな人……とっても厳しいけど、誰よりも優しくて、それなのに実は強がっていて、でもそんなところがカッコいい人」
「……答えるのね……って、ん? そんな言い方だと……」
ルイの問いに素直に答えるコウヤの言葉に、アリスは違和感を感じた。
「うんうん、そうだよね! やっぱりカッコいい人が良いよね! コウヤ君は、その人とどうなりたいの?」
「どうなりたい……? そんなの決まってるよ。ボクは……みんなと同じように、彼に見られたいんだ」
泣きそうな顔をしながら、コウヤは答えた。そしてその願いは叶わないと分かっているかのように、その目に希望の光はなかった。
「ルイ? 今、コウヤ……"彼"って……」
「うん……やっぱりそういう事なんだね」
「やっぱりって……え? は? うん? えっと……ん?」
コウヤの答えに、ルイは納得し、アリスは混乱した。そして、コウヤとルイは同時に口を開いたのだった。
「コウヤ君は、身体は男、心は女。そして、ヤナ君が好きなんだよ!」
「ボクは、身体は女で、心は男。そして、ヤナが好きなんだ」
「……ん? どっちが、どっちって?」
魔王城跡地でアリスは、ますます混乱しながら立ち尽くすのだった。
↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)





