いつまでも
「このぉお! バカコウヤぁあ! 【極大千熱放射砲】!」
「アリスちゃん!? コウヤ君、死んじゃうよ!? あ、瀕死にさせて生かさず殺さず回復させて、大人しくなってから瘴気を浄化しちゃうんだね!!」
「……二人とも、すっかりダーリン色に染まってしまいましたね。ですが、流石に『勇者の中の勇者』を『変態の中の変態』が鍛えただけあって、正に最強の勇者といったところですか」
瘴気を纏っているコウヤは、一心不乱に動きを止めているヤナを斬ろうとしていた。それをアリスとエイダが魔法の弾幕により近づけさせないようにし、それでも弾幕をすり抜けて飛んでくる斬撃に仲間が傷ついた時は、ライが瞬時に回復していた。
「それにしても、この妙なイラつきは何なのでしょうね。何かダーリンの身に起きている事は間違いなさそうですが……あのヤナビ様のあの様子を見るに」
「えぇ……怖いわね」
「うん……綺麗な人がガチ切れした時の顔って、あんなに怖いんだね」
エイダの呟きに、アリスとルイがどん引きしながら言葉を漏らしていた。三人の目に映るのは、両腕を刀に変化させながら、烈火の如くコウヤに斬りかかっているヤナビの姿だった。
その表情は、見る者を恐怖に陥れるほどに、鬼のような怒りの表情であった。実際、瘴気に身体を支配されている筈のコウヤでさえ、その憤怒の顔に後ずさった程だった。
「……あのクソ女神……一回は仕方がない……一回は……それ以上は……職権乱用だろうがぁあああ!」
「ヒギィ!?」
「あ、バカコウヤ、ビビって更に後ろに下がったわね。エイダさん、あの鬼のフォローお願いしますね。私とルイは、今から聖鎧化の力でコウヤの瘴気を祓う準備をするわ」
まるで苛立ちを全てコウヤにぶつけんとするヤナビの勢いに、コウヤは更に後ろに引き下がった。そして嵐の如く、ヤナと見紛うかという剣撃の雨を降らせてくるヤナビに、防戦一方になったコウヤの隙をアリスは見逃さなかった。
瘴気に対抗できる手段は、ヤナの神火だけではない。騎士国スーネリアの一部の上級騎士が扱える聖鎧化は、瘴気を祓う事が出来た。悪神の聖痕を消し去るほどの力は無いが、瘴気纏いになった者でも、身体が変化までしていなけれ、十分に通用する力であり、勇者達は騎士国スーネリアにてこの力を習得を試みた。
瘴気纏いとなったドワーフ族との戦闘が起きたことで完全に習得する時間はなかったが、その後の宇宙船艦ヤナトでの鍛錬により身につける事に成功していた。しかし、ルーイ程の熟練度は未だなく、聖鎧化を全身に施すには短時間ではあるが集中する時間が必要であり、尚且つアリスとルイの二人は、コウヤから瘴気を追い出す為に、一度全身に纏った聖鎧化した魔力を、高濃度に濃縮する方法を取ろうとしていた。
その為、ヤナビの近接戦闘によるコウヤの抑え込みは、非常に都合がよかったのだ。
何故、あれほどキレているか、聞く勇気は三人にはなかったが……
「あれは精神世界……アレは精神世界……そう、所詮は肉体を持たない者の悪あがき……と、納得する訳ないだろクソ女神ぃいいい!」
「……ヤナビ様?」
「あぁ!?」
ヤナビは隠しもせずに、女神に対して呪詛を吐きながらコウヤを滅多斬りにしようとしていた。そこにエイダが空中を浮遊しながら近づいて声をかけるが、額に青筋を立てたヤナビは噛み付くように
「……この際、何にそこまでお怒りになっているかは聞きません。それに都合も良いようですから、その怒りを思う存分にそこの勇者コウヤ様にぶつけてください。ヤナビ様がその調子でコウヤ様を足止めしていてくれると、私も魔法をぶつけやすいので」
「ヒグゥ!?」
「ここまでのタメがいる魔法は、中々普通は撃たせてもらえないのですが、ヤナビ様が引きつけてくれてる今なら……勇者コウヤ様、死ななきゃ大丈夫です。ルイ様がいますので………はぁああああ! 『九頭龍の息吹』!」
「フグハァア!?」
ヤナビは壁役をしているわけではなかったが、コウヤの勇者としての本質が"護る"事にあった為、瘴気に侵食され正常な思考が出来ないコウヤはひたすらにヤナビの猛攻を受けていた。その結果として、アリスとルイは聖鎧化した魔力の圧縮を行い、エイダはタメが長い術を放つ事に成功していた。
エイダの肩や背中から九頭龍が出現すると、それぞれの龍の顎から息吹が放たれた。異なる属性の息吹は、ヤナビを避けながらコウヤへと殺到し、大爆発とともに直撃した。そしてそのまま中心地は、七色に輝く炎に包まれていた。
コウヤがただの手練れ程度であえばそのまま殺してしまう程の破壊力であったが、二人は微塵もコウヤがこの魔法で死ぬとは考えておらず、実際に二人は炎の中心にしっかりとコウヤの気配を察知していた。
「滅多に発動させない術でしたが……流石、勇者の中の勇者というところでしょうか。しっかりと耐えられたようですね」
「そのようです。流石、マスターが鍛え上げた勇者です。しかし、それがここに来て敵の手に堕ちるとは……もしかすると、既に悪神はコウヤ様に対して仕掛けを施していたかもしれません。女神の使徒であり、護りの象徴である【勇者】を堕とすにしては、成功までの時間が短すぎす」
「……もう、お怒りはよろしいので?」
「えぇ、同じことをマスターの肉体でさせて頂く事で、自分を納……得はしませんが、楽しみに待つ事にしました」
相変わらずヤナビの瞳には怒りの業火が、額には青筋が浮いていたが、会話が出来るほどには冷静になる事が出来ていた。
「ヤナビ様の身体は、ダーリンの神火で創られている筈ですが、コウヤ様の身体の瘴気を祓う事は出来そうですか?」
「あの勇者の盾を掻い潜り、直接コウヤ様に私が触れることが出来ればあるいは……しかし、その方法を行使すると私の身体の元となる神火は、全て神火の清めで使用する他なく、失敗した場合に皆様の壁役を出来なくなり、戦線を維持できなくなる可能性が高くなるでしょう」
「しかし、ヤナビ様も感知しておられるでしょうが、コウヤ様が纏う瘴気が時間の経過とともに濃くなっております。このままでは……」
エイダがコウヤの変化を危惧した瞬間、コウヤを包んでいた炎が爆散し、その中心部にはまるで瘴気を鎧の様に纏うコウヤが立っていた。
「まるでマスターの、漆黒の騎士の様ですが……」
「ダーリンの漆黒の騎士は、もう少し可愛げがありますが、コウヤ様の今の姿は、見ていて痛々しいですね」
ヤナが獄炎の纏う漆黒の騎士に似た姿になったコウヤだったが、その足元には血溜まりが出来始めていた。
「不味いですね……あの状態では、恐らく私の身体を創りし神火で浄化出来るのは、瘴気の鎧のみでしょう。コウヤ様を自身の内部にこびりつく瘴気までは、間違いなく足りない。かといって、マスターを待つにしては、コウヤ様の時間が足りなくなってしまう」
「ならば、残りの勇者様に賭けますか」
エイダは後方で高まる魔力の塊の気配を感じながら、ヤナビに提案した。
「それしか現状では、方法はないでしょう。となれば、私達はお二人の聖鎧濃縮丸とも言えるものが完成するまでに時間稼ぎに加え、瘴気鎧の浄化を聖鎧濃縮丸の完成のタイミングに合わせなければなりませんね」
「ふふ、それは正にSS級クエストと言っても、差し支えなさそうですよ! 疾い!?」
ヤナビとエイダがこれからの方針を話していた時、当然二人はコウヤから意識を逸らしてはいなかった。しかし、それでもコウヤの踏み込みにエイダは身体の反応が遅れ、十分にコウヤの間合いから離れていた筈だったが、コウヤに接近を許した。
「させません!」
咄嗟に身体ごとコウヤに体当たりしたヤナビだったが、それでもコウヤの勢いは止められず、コウヤの持つ瘴気に包まれし黒き聖剣は、エイダの持つ世界樹の杖でも受け流しきれず、エイダの左腕を斬り飛ばした。
「ぐ……『氷鏡世界』!」
エイダの左腕を斬り飛ばし、更に追撃に襲いかかろうするコウヤに、ヤナビ今度は斬りかかりながらぶつかりエイダをコウヤの間合いから離した瞬間、エイダがすぐさま『|氷鏡世界《コピーワールド』を発動させた。自身の姿を写した氷の鏡から、次々とエイダと寸分変わららないが左右反転した氷像が現れ、コウヤに向かって氷柱を飛ばして始めた。
「エイダさん! 腕が! すぐに治しま……」
「ライ様は、聖魔力の濃縮に集中するのです! 今のコウヤ様に残された時間は、多くありません! 恐らく悪神は、コウヤ様の……勇者の身体を殺してでも奪おうとしています! 私がどうなろうと、勇者を悪神に渡してはならない!」
左腕の斬り口を氷で止血したエイダは、自分に回復魔法を放とうとしたルイを止めた。自身よりも勇者であるコウヤの奪還を優先しろと諭し、ヤナビと共にコウヤの相手を続けていた。
全身が神火で身体を創られているヤナビと異なり、エイダは生身の身体であり、それを理解しているコウヤは、完全にエイダを標的に攻勢を強めていた。ヤナビがコウヤを止めるべくコウヤに斬りかかっているが、勇者の盾が複数出現した上にそれらが自動追尾化しヤナビを完全に封じ込めていた。
その為、氷鏡世界で守りながら魔法の弾幕でコウヤを牽制するエイダであったが、身体でには凶刃が届く様になっており、白銀のローブは徐々に紅い色へと変化していた。
「エイダさん……コウヤ君……」
「ルイ、耐えるのよ……今の私達に出来る事をやるの……必ず、コウヤを取り返すんだから」
ルイとアリスは、文字通り盾になりコウヤを止めているエイダと、瘴気を身に宿しエイダを斬りつけるコウヤに涙を止める事は出来なかった。
そして、その時が遂に訪れた。
「エイダ…さん!」
「完成よ!」
アリスとルイが向かい合うその間に、人の頭ほどの大きさの光球が浮かんでいた。その光が発する清らかな聖気は、瘴気とは対極に存在するものだと一目でわかるほどだった。
「そう……ですか。何とか間に合いましたね……」
身体中を聖剣で斬りつけられ、片目も斬られながらも、しっかりとコウヤを見据えていた。そして最後の力を振り絞り、エイダは声をだす。
「ヤナビ様、予定変更です。そのまま『勇者の盾』を全て引きつけておいて下さい。コウヤ様が同時に発現させる事の出来る盾は、それで最大な筈です。今、ヤナビ様が止まるとルイ様とアリス様の創りし聖玉が、勇者の盾に防がれます」
「それは……く……そうですが! それでは鎧の瘴気を神火で剥がせませんよ!」
烈火の如く、両腕の刀を振るいながら、勇者の盾を相手にしているヤナビが叫ぶが、エイダは慌てることなく話を続けた。
「私の奥の手をを使います。出来れば悪神と対峙するまでは使いたくなかったですが、ここが最適な時なのでしょう……ルイ様! アリス様! 今からコウヤ様の鎧の瘴気を私が何とかします! 何が起きてもお二人は、怯まず成すべきことを成すのです!」
エイダの強き言葉に、二人は戸惑ったが、すぐに力強く二人は返事を返した。
「「はい!」」
「良い返事です……それでは、行きますか」
エイダは二人の返事を聞くと、優しく微笑んだ。そして、己の決意を固めると、誰に聞こえないほどの声で呟いた。
「ダーリン……後は任せました。そして、もし生きて逢えたら、私も貴方と同じ時間を、共にいつまでも生きましょう」
エイダは氷鏡世界を破壊しながら、エイダの隙を絶えず狙っているコウヤに対し、わざと氷鏡世界を乱れさせ隙を作り出すと、向かってくるコウヤに対して無防備に身体を差し出した。
その結果、躊躇うことなく勇者の瘴気に穢れし聖剣は、世界樹の守護者の心臓を貫いた。
その光景を見たルイとアリスは、予想外の事に動きが固まった。しかし、ヤナビは今までで最高速度で勇者の盾に剣撃を放ち続けながら叫んだ。
「何を止まっているのですか! 世界樹の守護者の言葉をお忘れか!」
「アリスちゃん!」
「ルイ!」
ヤナビの言葉に我に帰り、二人は聖玉を維持しながらコウヤとエイダの元へと駆け出した。そして同時に、突如不死鳥の鳴き声が響き渡ると、エイダとコウヤが炎に包まれたのだった。
↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)





