今の想い
第二章『錬磨』は、このお話で閉幕でございます
さてはて、今の想いとはなんでございましょう?
前の想いはなんだったのでございましょう?
最後までお楽しみご覧あれ
「ヤナ様……お姿が……神々しいですが……一体何が?」
力を解放前は『獄炎魔法』を『形状変化』で創った『黒炎の鎧』姿だったのだが、現在の俺は神々しい光を発する白色の神火に包まれていた。
「あぁ、おそらく力の解放時に『獄炎魔法』が『神火魔法』に能力進化したからな。意識はしてなかったが、『黒炎の鎧』を『神火の鎧』に置き換えたらしい」
「神の火……だと?……そんな魔法は、聞いたことがナイ!」
「聞いたことないって言われてもな。それに今、聞いただろう? 目の前のこれが『神の火』らしいぞ? その汚らしいどっかの腐れ神の火とは違って、この火は正に『本物の神』の炎と言ったところだな」
「フザケルナぁ! そんなもの、力で潰してくれるワ!」
異形の怪物は俺に向かって、恐らく何か攻撃しようとしたのだろう。だがそれは、叶うことはない。
「ん? どうした? 何かしてくるんじゃなかったのか?」
「ワレノ……右腕がぁああああ! ドコへやったぁああああ!」
「右腕だけか? 彼処に転がってる二本は、誰ぁれのだぁあ?」
「はっ? う……ぎゃぁあああ! なんだ!? しかも再生が始まらナイ……痛いイダイイダイイダイぃいいい!」
異形の怪物の両腕の斬り口には、俺の神火が纏わり付いついている。あれが再生を許さず、絶えず痛みを与え続けているのだろう。
「許しを請うまで、痛めつけてもいいんだがな。そんな事してお前の汚い声なんぞ叫ばれても五月蝿いから、さっさと終わらせるぞ?」
「そんなバカ……な……我は魔族四公爵のガルガオウであるゾ……悪神様より力もイタダキ、それは魔王様にも並ぶではなかったのカ!」
「知らんよそんな事。因みに今からお前を殺すのは、唯の袈裟斬りだ。なぁああああんも技も使わない。その辺の雑魚魔物を殺す様に、特に全く何も気負うことなく、ただ作業の様に斬って終いだ」
「ワレは……雑魚では……雑魚ではなぁああああい!」
目の前の怪物は半狂乱になりながら、叫びだした。そして俺は、その奥の悪の親玉に話しかける。
「おい、見ているんだろう? 悪神だか何だか知らんが、必ずてめぇを斬りに行くぞ? 俺は『諦める』事をどっかに忘れてきた男だ。この喧嘩買うよな? 無理やりでも押し売りするけどなぁ! 玄関の鍵でも閉めてガタガタ震えてやがれ! 必ず呼び鈴鳴らしてやるからな!」
再び俺の気持ちに呼応する様に、神火の鎧が輝き出した。
「っと、その前に……セアラこっちに来てくれるか?」
「はい、なんでしょう?」
セアラを近くに呼び寄せて、あるお願いをする。
「悪神の野郎の聖痕とやらを見せてくれるか?」
「え?……でも、あんな穢れたものをヤナ様にお見せするなんて……」
セアラは、本当に苦しそうにそう告げてくる。
「まぁ、うんあれだ、恥ずかしいと思うけど、ちょっと我慢してさ、な? お願い!」
「恥ずかしいとかでは無いのですが……ふふ……これです」
セアラは俺に背中を向けて、着ていた服を少しずらし背中を見せた。そこには、禍々しく燃える様な黒い炎の火傷痕の様な傷があった。
「クソ神め……女の身体に、こんな傷なんて付けやがって。セアラ、少し我慢しろよ?」
「え?」
「『神火の清め』」
「ヤナ様? 何を? 何か背中が暖かく……ん……えっ!? なに!?……あぁああああ!!」
セアラの背中の悪神の聖痕が、神火により清められていく。そして、綺麗さっぱり悪神の聖痕はなくなった。その場にぐったりと崩れ落ちたセアラが、俺を見上げている。
「ヤナ様……?」
「あとで、鏡で背中を見てみるといい。きっと、良い事が起きてるぞ?」
「キ……貴様ぁアア! 何をした! 何故、巫女から悪神様ノ呪いが感じられなくなったのダ!」
その様子を見ていた怪物が五月蝿く叫ぶ。
「さっきからうるさいよ、お前は。見てたか、悪神よ? お前の汚い傷は綺麗さっぱり俺が消してやったぞ? 他にもいるんだろう? お前が汚い傷を付けた女が。俺が全て、消し去ってやるよ。お前のチンケな『絶望』なんぞこの俺が『希望』に変えてやるよ」
俺は、大きく息を吸い込んだ。
「知ってたか?」
そして、大声で叫んだ。
「女を泣かせるお前は、俺に倒されるのが、お約束だ!」
「おぉのレぇええええ! 悪神様を愚弄するなァア!」
「さぁ、言いたいこと言えたし。お前、もういいや。だけどな? 例えまた悪神から生み出されても、その次もその次も次も次も……俺が次のお前に『絶望』を届けてやる。さぁ……安心して逝け」
俺は、今迄で一番抑揚の無い声で、全力の威圧と殺気を叩きつけながら、囁く様に言い放った。一歩一歩ゆっくりと近づき、目の前で刀を振り上げる。
「く…来るなぁァア! イヤだぁああああ! ぎゃぁああああ!」
唯の袈裟斬りで、その異形の怪物を斬って捨てた。そしてそのまま死骸は斬り口から神火が燃え上がり、灰も残さず消え去った。そして塔周辺を覆っていた膜も消え去り、再び青い空が広がっていた。
「ヤナ様……私……」
「「「セアラ様ぁ!」」」
セアラが何かを言いかけたところで、三人が雪崩れ込んできた。エイダがセアラを抱きしめ、それをクックルさんが更に抱きしめ、アメノ爺さんがそれを見守っている。そして三人が、揃ってセアラの綺麗な背中を見た。
「セアラ様のお背中が!? 『氷鏡』! 見てください! セアラ様!」
エイダさんが器用に、氷魔法で全身鏡を作り出していた。性悪メイドは、何でも出来るらしい。
「え!?……無い……あの傷が……無い! ヤナ様!?」
セアラがどんな表情を作っていいかわからないと言った様子、でこちらを見ていた。
「セアラ、これからは思いっきり、笑って泣いて、楽しくて泣いて、悲しくて泣いて、嬉しくて泣いて良いんだ。我慢する必要なんてないんだ。だからな? 今は、嬉しくて泣いて良いんだぞ? 既にお前の周りの三人なんて、言われなくても号泣してるぞ? ほら」
「え?」
「「「セアラ様……」」」
「私……わたし……うわぁあああああん!」
セアラは、思いっきり泣いた。三人に温かく見守られながら。これまでの想いを全て洗い流うように、泣いたのだ。
その後、隔離結界が解けた影響で流石に騒ぎになった。俺は、アメノ爺さんとエイダさんにどうやって隔離結界を超えたのだと聞かれたので、ドヤ顔で答えた。
「地面を掘ったのだよ。フハハハ、やっぱりドリルは浪漫だな!」
「「は? 掘った?」」
結局正面突破は出来なかったのだ。そして結界の前でクックルさんを見つけたので、クックルさんを連れて迷宮を脱出した時と同じように、地面を掘って進んだ。地面の中には結界が発動していなかったのも運が良かった。
あとは神隠しで、隠れながら二人を助け、自分にも黒炎の鎧やスキルを発動状態にし、魔族の周りに隠蔽した「黒炎の大剣」を展開したところでセアラの助けに入ったのだ。
そして結局説明やらなんやらと色々ドタバタしてて、俺は昼まで城を出ることが出来なかった。
「え!? 王様と昼食!? 俺、謁見さえしたことないぞ?」
俺がエイダに王と昼食を共にして欲しいと言われ、驚いているとエイダは続けて話してきた。
「王はセアラ様の呪いを解いてくれたヤナ様に、大変感謝しておられます。謁見の間でも良かったのですが、王より是非に共に食事をとの事です。その場にはサーレイス大臣も同伴を希望され、王は許可しております。また、セアラ様とエルミア様も勿論ご一緒されます」
「げぇ! あの大臣もいるのかよ……食事は誰が作るの? クックルさん?」
「勿論、クックルでございます。クックルは本来、王宮料理長ですから」
クックルさんは、見た目通りの凄い人だった。王宮料理長兼ボディガードだろ、あの見た目なら。
「なら行こうかな。クックルさんの食事も、城の外に出たら食べれなくなっちゃうしな。そもそも王の食事の誘いを断るとか、色々怖いわ」
「ありがとうございます。それでは、ご案内致します」
塔の広場からエイダさんに案内されながら、食事の場所へ向かう。歩きながら、エイダさんは俺に話しかけてきた。
「ヤナ様。改めて私からも、セアラ様のことありがとうございました」
「あぁ、いいよ礼なら散々言われたし、たまたま取得した魔法で、清める事が出来ただけだよ。セアラの運が良かったのさ」
「それでも言わせてください。本当にありがとうございました」
立ち止まり俺に身体を向けて、そう言いながら深々と頭をエイダさんは下げた。
「十分だよ。俺もセアラには色々救われた所もあるから、お互い様ってことでいいだろ?」
「ふふふ、そうですか。それは良かったです」
エイダさんは、これまでで一番自然で、素敵な笑顔で俺を見ていた。
その笑顔に見惚れてしまい、思わず聞いてしまった。
「そういえば、エイダさんて歳って幾つなの? 若そうだけど……ひぃ!」
エイダさんが先ほどの笑顔でなく、嗤っていた。
「聞きたいですか? 女の歳をオキキナサルノデスカ?」
「いえ! いいです、大丈夫です! もうエイダさんは、綺麗なお姉さんってことで全てを片付けます! だから、その顔で嗤うのやめて! 怖い!」
「そうですか? 教えてあげても良かったのですよ?……その後どんな事をしても記憶を消しますが……ウフフフ」
「絶対に! 聞きません! だから! もう嗤うな!」
そうこうしているうちに、会食の部屋の前まで辿り着いた。俺は一応学生服に着替えてはいるが、なんとも言えない場違い感が辛い。
「はぁ、王族と公爵と食事とか気が重い……」
「さぁ、しっかりなさってください。開けますよ」
エイダさんがドアを開け、席に案内された。王様と会うなんてしたことないので、どうしたらよいかわからず、席の横で立っていると、王様から声をかけられた。
「ヤナ殿、まずは座っていただけないか。せっかくのクックルの料理が、冷めてしまう」
「あ、はい。それでは失礼します。この度はお食事にお招きして頂き、ありがとう御座います。何分作法などわからない為、無礼等ご容赦頂けると幸いです」
俺の無い知識の中から、精一杯の目上の人に対する態度を頑張った。
「ん? おいおい、聞いていた感じと言った違うぞ、セアラ? なんぞもっと無礼な感じと聞いておったが?」
「……セアラ、何を言ったんだコラ……」
「そうそう、その感じだ。ハッハッハ! それでよい! この場の俺は、唯のセアラの親父だ!」
「いやいやいや、王様にそれはまずいでしょ……」
初日に王族に対する無礼を怒られたサーレイス大臣をチラリと見て、ギョッとした。
「えぇ!? なんで大臣が笑顔で泣いてるの!? 気持ち悪い!」
「ヤナ殿、初日の非礼をどうかお許し下さい! そして、セアラ様を助けて……下さり……ぐぉおおおお! ありがどうごいばずぅううう!」
サーレイス大臣がいきなり席を立ち上がり、俺の席に駆け寄り頭を下げて謝罪したかと思いきや、それはもう号泣しながら抱きついてきた。
「やめ! やめて!? 気持ち悪い! ぐぉ! なんだこの人の力つよ! いやぁあああああ! おっさんの油汗と涙がぁああ!」
なんとか引き離してもらい、再び席につく。また誰か来てもすぐに逃げれるように、密かに疾風迅雷使っているのは内緒だ。
そこからは、和やかな食事が始まった。王様は気さくに話しかけてくれ、塔での鍛錬の日々の事を話したり(顔がひきつっていたが)、魔物討伐訓練での迷宮からの脱出劇等は大いに盛り上がった。エルミアなんかは大きな声で「わぁ!」「それから、どうなったんですか!?」と騒いでいた。セアラは終始話を聞きながら、穏やかな顔で聞いていた。唯、塔でのセアラとの夕食の様子を話した時だけ、何故か王と大臣の目が据わって怖かったが……
「それで、これからどうするのだ? ヤナ殿は」
「この後、城を出て先ずはは冒険者ギルドで登録かな。その後は、悪神とやらに派手に喧嘩売ってやったからな。悪神が殺そうとしている巫女を探して助けて、悪神の所在を調べて殴りこみってとこかな」
「ハッハッハ! セアラから聞いていたが、本当に神に喧嘩を売ったのだな! 神に喧嘩を売る男を大っぴらに国として支援することは出来ぬが、セアラの父としては助けたいところだ。何か望むものはないか?……当然、セアラ以外でだがな!」
ゴゴゴという効果音が聞こえてきそうなオーラを出しながら、そんな事を言い放つこの親父に呆れながら、何がいいか考える。
「この親バカのおっさんは……そうだなぁ金は別に要らんし、装備貰ったし……うーん、特にないんだが……そうだなぁ、俺は特にないからセアラ『やらん!』……ちげえよ……セアラの願いを、叶えてやってくれ。それが俺の望みだ」
「ヤナ様……」
セアラが瞳を潤ませながら俺を見てくる。
「はは、泣き虫になったのか、今のセアラは。くくく」
「ちっ違います!……ヤナ様はいじわるです……」
王のいる方角から、おっさん二人の呻き声が聞こえてくるが完全スルーだ。
「私の願いは、ヤナ様との旅ができる様に"アメノとエイダに鍛えて欲しい"です。父上、お願い致します!」
「ぬぅ、本来なら大反対なのだが……セアラも悪神の聖痕は消えたが、悪神に女神様の巫女だということは知られておる。現状では勇者一行かヤナ殿と一緒にいるのが、危険ではあるがここにいるより安全かもしれんし……しかし、男と一緒に旅に出る為に、強くなるだと……ぐぬぬぬ」
王が血の涙でも流しそうな顔で悩んでいると、セアラが王に近づき囁く。そして、瞳に一杯の涙を浮かべ上目遣いで『お願い』する。
「父上……お願い……します……」
「ぐはぁ!……だ……だが、アメノとエイダの許可が下りるまでは……許さんぞ……」
「許可が下りれば……いいの?……じーー」
「ぐぬおぉおお……きょ……許可する!」
「やったぁ! 父上ありがとう! 大好き!」
セアラに抱きつかれ、親父の顔は緩みっぱなしだ。
「王よ! 何を許可してるんですか!?」
「うっ、うるさいサーレイス! セアラにあんな目で『お願い』されたら、断れる訳ないだろ!」
「何を馬鹿なこと……「じーー」……し……城にある最高の装備を、セアラ様にご用意するのだ!」
「……案外逞しかったんだな、セアラって……」
俺はセアラの『お願い』の威力に戦慄していると、今度は今までで一番の笑顔でこちらを向いた。
「ヤナ様も! 約束ですからね! ぜぇったいついていきますから!」
「ははは、約束だ。必ず一緒に旅をしよう」
この笑顔に逆らえる人がいるなら、見てみたい。
こんな幸せそうで、希望に満ちた顔で言われたら、こちらまで笑うしかないだろう?
私は、絶対ヤナ様と一緒に旅をするんだ
こんなにも、幸せな気分にしてくれた人の横を一緒に歩くんだ
私を救ってくれた様に、もしこの人が危ない目にあったら私が助けるんだ
もっと私はこの人のことを
大好きになりたい
それが今の私の想いだ
↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)





