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迷宮の崩壊

「ふざけてないで、必ず帰ってきなさいよ!」


 アリスに飽きられながら、言われてしまった。俺的には、言いたい台詞(セリフ)の結構上位なんだがな。


「まぁ実際、やってみないと分からんからな。気合をいれるためだよ。敢えてのフラグはさ。それと、迷宮核(ダンジョンコア)って簡単にこわせるものなの?」


「普通の火力じゃ無理だろうが、瘴気纏オーガを斬ったあの技くらい有れば、恐らく問題ないだろうな」


「よし! じゃあ決まりだな。ボス斬る。みんな転移脱出。俺、(コア)斬る。俺逃げる。実にシンプルで良い」


「ヤナ様、もし生きて帰ったら……お伝えしたい事が……ダメ……涙はまだ我慢よ、私」


「ミレアさん……わざとやってない……?」


 みんなで少し笑いながら、気合を入れ直す。


「じゃあ、ヤナの露払いは僕たち勇者が努めようか! ボスは瞬コロで行っちゃうよ!」


「もちろんよ! 私のミラクルマジックで、ぶっ飛ばしてあげる☆」


「私の華麗なる剣技の錆にしてくれるわ!」


「みんな頑張って! 頭だけは守ってね! それ以外は、どんどん怪我していいよ!」


「「「……」」」


 そしてボス部屋の扉を開けた。


「ブヒャアアアア!」


 扉を開けた部屋の中には、この間デカブツ(瘴気纏オーガ)と同じく黒い靄に覆われたオークエリートがいた。瘴気纏オークエリートは、俺たちを待ってましたと言わんばかりの、大きな咆哮を上げて俺たちを威嚇した。


「うるさい! 龍爪舞撃斬(斬撃って飛ぶんだ…)!」

「くさい! 聖なる雷撃砲(宇宙戦艦かよ…)!」

「目障り! 終わり無き剣戟流星群(剣戟の土砂降り…)


「ブヒャ!?ブヒャアアアア!」


「勇者って……容赦ないのな……」


 憐れにも登場から数秒で消し飛んだボスに心の中で合掌しながら、際奥の部屋へと入った。中には地面に淡く光る魔法陣と、空中に浮かぶ黒い靄に包まれたデカい魔石の結晶が浮いていた。


「これが迷宮核(ダンジョンコア)か……でかいな」


迷宮核(ダンジョンコア)は、最大級の魔石となります。ただし、あの浮いている位置から移動もできませんし、砕いても欠片もなく消滅してしまいますが」


 ミレア団員の説明では、迷宮は魔石が採れる為に、基本的には管理できる場合は大抵(コア)は壊さないという事らしい。


「さて、それじゃあやりますか」


「ヤナ殿、ご武運を」


 それぞれ応援言葉をくれながら、転移陣に入って行く。そして最後にシラユキが声をかけてきた。


「……ちゃんと帰ってきなさいよ」


「当然だろ? 俺は最後まで、絶対に諦めない男だからな」


 笑いながら、そう答える。


「そう……ならやっぱり……あの時、諦めてなんかなかったんじゃない……」


「ん? どうした?」


「なんでもないわよ! さっさと帰って来ないと置いてくわよ!」


「ははは、それは困るな。それじゃまたあとで」


「あとでね」


 俺以外の全員が転移陣の中に入り、ケイン騎士団長が転移の言葉(キーワード)を発した瞬間、淡い光に全員が包まれた。光が収まった頃には誰もいなくなっていた。


「ふぅ、強がってみたものの、やっぱり結構ビビるな……」


 鍛錬や戦闘とは違うこの死地に居る恐怖に、呑まれそうになっている心を奮い立たせる様に呟く。


「いけるいけるぞ……俺は出来る……絶対帰れる……帰ってみせる……そうだピンチは男の見せ場だぞ! 俺は何だ! 絶対諦めない(ヒーロー)だ! うぉおおおお! 疾風迅雷(早く速く疾く)! 一騎(身体/魔力)当千(回復/増強)! 本気の心堅石穿(火事場の馬鹿力)!」


 最近息をする様に使用している心堅石穿(火事場の馬鹿力)を、意識的に全力で解放した。


「一撃で斬って、そのままダッシュだ! 二刀流剣技『十文字』! せぃあああ!」


"パキィイイン"


 迷宮核(ダンジョンコア)を二刀による全力の剣戟で破壊した。



『ごめんね……あり……がとう……』



「っ!? なんだ!?」


 一瞬頭に響いた声に身体が硬直したが、迷宮核(ダンジョンコア)を破壊した直後、物凄い地鳴りと振動が襲ってきた。


「やばい! うぉおおおお!」


 俺はすぐさま、ボス部屋の扉を開けて全力で駆け出した。そして、俺と迷宮の追いかけっこが始まった。




「なに!? この音と振動は!」


「シラユキ殿、今まさにこの瞬間に迷宮核(ダンジョンコア)が、ヤナ殿によって破壊されたのです」


「そっか……」


 ヤナを除くメンバーは、転移陣により迷宮(ダンジョン)の入り口のすぐ横に転移していた。


「ねぇ? 今更だけどヤナって帰り道覚えてるのよね? 結構分かれ道とかあったけど」


「え? 覚えてるから、あんなに自信満々だったんじゃないの?」


「どうかなぁ? 結構私との鍛錬中も、勢いとノリで解決しようとする時あったしねぇ」


「強がりだったとかやめてよね……ヤナ君」


 そして、迷宮脱出を開始したヤナは焦っていた。




「蘇れ! 俺の記憶ぅううう! 階段はどっちだぁあああ!」


 四階は道を間違えることなく階段まで辿り着けたが、ヤナの記憶は一階層分の容量しかなかった。


「一階層でも覚えてた俺を、誰か褒めてぇええ! どわ! あぶねぇ!」


 当然まだ罠は生きており、ヤナは避けながら道を探しながら脱出していた。


「やばいやばいやばい! どうするどうする! 慌てるな俺! 落ち着け俺! ぐわぁ! またかよあぶねぇ! 落ち着かせろよ!」


 迷宮(ダンジョン)の罠は御構い無しにヤナに襲いかかり、移動しながらでは落ち着く暇もなかった。


「よし、思い切って停止! 俺の記憶は当てにならん! もうスキルに命を預けるぞ! 道を間違えたら死ぬぞ! 俺死ぬぞ! 危ない俺! 危機危機! 全力の死神の(危険/気配)慟哭《自動感知》! ゾワッとしない道を選んで脱出だ! お願い死神ちゃん!」


 自分の記憶は諦めて、スキルに頼り駆け出したヤナだったが、これが功を奏した。


「うおっしゃあ! 階段めっけ! あとニ階層! うぉおおおお!」


 その後も順調に一階層への階段も発見し、少し安心した矢先だった。


「おいおいおい……マジかよ……お前ら(魔物)も生存本能ってやっぱあるんだな」


 下層から逃げ出してきた魔物達が、一階の通路を所狭しと埋めていた。しかも、我先に外に出ようとしているため、道は大量の魔物で混乱している。


「ははは……ダッシュの後は速斬り選手権ってか?……上等だぁ! どぉけぇええええええ!」


 狭い通路で魔法を使うと視界が余計悪くなる為、刀のみで押し通る判断をした。しかし、ただ走るのと違い斬りながら進むのは、確実に時間が掛かっていた。


「どけどけどけぇえええ! てめぇらどかねぇえかぁああ!」


【威圧を取得しました】


「やかましいわぁあああ!」


「ギャギャ!?」


 今のは完全に魔物の所為では無いのだが、魔物はヤナの『威圧』により萎縮してしまっている。


「よし! そのまま道を開けてろぉお!」


 すでにヤナの後ろの通路は崩れだし、土砂に埋まりながら迫ってきていた。


「あれか!」


 ヤナの前方に迷宮(ダンジョン)の入口だと思われる光が見えた。


「よし! 間に合いそう……だ? おいおいおいおい! なんで塞り始めてんだよ! まだ通路は崩れて無いぞ!」


 ヤナは知らなかったが、迷宮は一階層の大部分が崩落し潰れると、迷宮にいる生物を逃さぬように、確実に最後は入口が閉まり完全に閉じてから死を迎えるのだ。そして外でも、入り口が狭まってきているのをアリスが気が付いた。


「ねぇ! 行く入口が狭くなり始めてる!」


「あの入り口が完全に閉まると、迷宮に死が訪れたという事なのです」


 ケイン騎士団長が険しい顔をしながら説明する。そうしている間にも入り口は、少しづつ狭まり、あと子供が通れる程しか開いていない。


「ヤナ! 早くしろよ! もう締まるぞ!」


「ヤナ君! フラグなんていつものことでしょ! 早くぶち壊してよ!」


「ヤナ様! あなたの為に、悲しみの涙なんて流したくないですよ!」


 コウヤ、ルイ、ミレア団員が其々にヤナを呼んでいた。


 そして、遂にその時は来てしまった。


「「「……閉まった……」」」


 |そして、皆の想い虚しく迷宮ダンジョンの入り口は、完全に閉まった。そして静寂が訪れ、外にいる者達は皆が無言になっていた。もしかした直ぐに飛び出て来るんじゃないかと思い、入り口のあった場所から視線が外せなかった。体感的に五分、十分と待てどもヤナは出てこない。既に入り口は閉じているのだから当たり前である。


「シラユキ様……そろそろ行きましょうか……」


 シラユキは、その場にへたり込んでしまっていた。


「まだもう少しだけ……待って……」


「シラユキ様……もう入り口も閉まってしまいました……もう……」


「あいつは!……ヤナ君は……絶対諦めないって言ってたもん!」


 シラユキの目からは、涙が止めどなく流れ落ちていた。


「シラユキ……みんな悲しいのよ。それでも、ずっとここにはいられないの……」


「アリスちゃん……う……うわぁあああん!」


「よしよし。思いっきり泣きな……私も泣いてあげるから……ヤナのバカ……」


 アリスがシラユキを抱きしめ、二人で涙を流していた。コウヤもケイン騎士団長もミレア団員も、目を瞑り険しい顔をしていた。


「ヤナ君……遅れて登場は……ヒーローのお約束だよ?……みんな貴方(ヒーロー)を待っているんだよ……早くド派手に登場してよね!」


「ルイちゃん……」


 ルイの泣きながらの慟哭を聞いていたシラユキが、一番最初に異変に気付いた。


「ねぇ?…なんの音?」


「ん? なんか聞こえるの? 僕には聞こえないけど……いや! まって! なんか聞こえる!」


 何か地面を削るような音が、少しづつ大きくなって聞こえてきた。


「今度は何!?」


 もしかしたらと全員が入り口の方を見た瞬間、全員の背後(・・)に、轟音が鳴り響いた。




「ドリルは漢のロマァアアアアアンン! ぬあ! 眩し! うおぉおお! 貫通ぅううう!」


「「「「……」」」」


「あれ? 今度は姫ちゃん以外も泣いてたのか? 案外泣き虫ばっかだな」


 ヤナは、笑いながら皆元へ近づいていった。


「「「うるさーーーい!」」」


「うお! なんで三人して怒るんだよ! ちゃんと帰ってきただろうが!」


「おそい!」

「うるさい!」

「カッコつけるな!」


「ひどい!」


「ははは! ヤナ! おかえり! 何してたんだよ! 心配したんだぞ!」

「ヤナ殿、よくご無事で! 流石変態ですな!」

「ヤナ様! 嬉し涙で前が見えません! ちなみに特に伝えたいことはありません!」


 他の三人には心配して貰えたらしく、他の三人との差もあってヤナはひどく感動していた。


「確かに入り口が閉まったのが見えて焦ったが、咄嗟に焔魔法を形状変化(デフォルマシオン)で『ドリル』を創り出して掘り進めたんだが、なにせ上下左右がわかんなくてさ。迷っちゃった! ははは!」


「「「笑うな!」」」


「ひぃ! なんなのあの三人……俺、ちゃんと約束通り帰ってきたよね?ね?」


「ははは! それだけヤナを心配してたってことさ! さぁヤナの大冒険も終わったし帰ろ!」


 何故か釈然としない思いをしながらも、全員で無事に帰ることが出来た事を喜びながら、ヤナは翌日に城への帰路に着いた。


「「「キリキリ走れ!」」」


「お前ら鬼か!?」


 もちろん帰りも、ヤナが馬車を引いてだが……


「俺って……嫌われてるんだろうか……」


 若干メンタルにダメージを負いながら、城へ向かって馬車を引くヤナであった。


「本当に……心配したんだからね……このバカ……」


 誰かの震える声での小さな呟きは、馬車の音に掻き消されるのであった。


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