平穏な時間
「ほら、私はこっちよ!」
シラユキちゃんが、私を逃がす為に囮になり駆け出した。
「ダメ! シラユキちゃん!」
シラユキちゃんを追いかけようとした時、空から叫び声が聞こえてきた。
「ぎゃー! しぬー! ヤナのばかやろー!」
「夢……これは落ちてる夢よね……夢だと言ってー!」
「あははは! 脳筋なんて大嫌いだぁあ!」
「あぁ、もう涙が枯れたわ……」
「みんな来てくれたんだね! 超特急って感じだね!」
「「「「誰か止めてぇえええ!」」」」
みんなが叫んでいると、他にもう一人の声が聞こえて来た。
「ルイ! 俺以外を衝撃緩衝障壁で受け止めろ! 俺はデカブツに直接ぶち込んでやる!」
「わかったよぉ! いってらっしゃぁあい!」
他の四人を衝撃緩衝障壁で無事受け止め、ヤナ君を見送る。
「「「「死ぬかと思った……」」」」
四人が大丈夫なのを確認して、瘴気纏オーガを見る。
丁度その時、瘴気纏オーガがシラユキちゃんに巨大な剣を振り下ろそうとしていた。
「ヤナ君! やっちゃえぇええ!」
そして、同時に一人のヒーローが参上しようとしている場面が、私の目には写っていた。
「うぉおおお! 『火壁』『『形状変化』『火の鎧』『部分的』『形状変化』『火の翼』!」
俺は四人をルイに任せて、火壁を火の鎧に変化させ、背中に生やした火の翼によって更に速度をつけながら、デカブツに向かって行った。
「おいおい、ありゃギリギリだな。っと、あのやろう……女を泣かせやがって」
急降下しながら、先程のデカブツを両断した『巨人の紅蓮剣』を作り出し、大きく振りかぶりながら『挑発』する為に、大声で叫んだ。
「『こぉのただデカイだけの木偶の坊がぁ! 女を泣かしてんじゃねぇええ! てめぇの相手は俺だろうがぁああ!』」
こっちを振り返り俺を見上げるデカブツに、そのままの速度で思いっきり『巨人の紅蓮剣』で袈裟斬りに斬りかかり、一刀の下に相手の身体を両断し吹き飛ばし、地面へ横滑りしながら着地した。
「二匹目なんぞに、ちんたら構ってられるかい!」
シラユキが呆然としていたので、無事かどうか確認する為に話しかけた。
「おーい、シラユキ大丈夫かぁ?……おーい……ったく、『姫ちゃん』おーきーてー」
「……えっ、うん、大丈夫だよ。『姫』起きてるよ」
「「……」」
そして、みるみるうちに顔が赤くなるシラユキが我に返ったと思ったら、口をパクパクしながら、こちらを見ていた。
「どうした姫ちゃん? もう泣き止んだか?」
「泣いてなんかないわよ! それに姫ちゃんて呼ぶなぁ!」
「さっき自分こと『姫』って言ってたけど?」
「気がどどど動転してたのよ! とととにかく私は『シラユキ』よ!」
茹でタコかってくらい顔を真っ赤にして怒って来たので、少しは元気になったと判断して、からかうのをやめた。
「分かった分かった。それでシラユキ大丈夫か? 見た感じ大きな怪我はなさそうだけど、一応『応急処置』!っと、これで大丈夫だろ」
「あっ…….あ……ありがと……」
「ん? なんて?」
「ありがとって言ったのよ! みんなのとこ行くわよ!」
「素直じゃないねぇ、全く。でもまぁ、間に合ってよかった」
一人でスタスタとルイ達の方にシラユキは先に行ってしまい、一人俺は呟いた。
結局この後散々崖に突き落とした面子から「落とした意味ないだろ!」と散々文句を言われながら、ケイン騎士団長の案内で崖から上がり村へ戻った。村へ戻ると頼んでいた大量の魔物の死骸の解体が終わった所で、素材と肉を受け取った。肉は余りにも多く処理出来ないと村長さんに話し、村の人達とその日の夜は魔物の肉を使って宴会をした。その時に今回の魔物の群れの討伐依頼の金貨十枚も貰った。遠慮してもどうせ相手も引かないだろうと分かっていたので、素直に貰っておいた。
この世界は十五歳から酒を飲んでも良いらしく、俺らも飲めるらしいが、流石に鍛錬中だしやめておいた。その代わり飯をたらふく食べて満足した。そして寝る段階で、俺だけ『村の宿で寝るの禁止令』により何故か一番頑張った俺が野宿のはめになるオチ付きだった。村人達は必死に止めてくれていたというのに、「鍛錬の為なんです」とケイン騎士団長が説明をしてくれやがったために、妙に納得した村人達が、野営のテントやら毛布やらを貸してくれた。人の温かさって素晴らしい。
「ケインさんが瘴気纏いの魔物が出たってことで、国の兵がこの村に駐屯すると言ってたし、とりあえずは大丈夫そうでよかった。あっ! そうだレベルあがったかな?」
デカブツ二匹とか魔物の群れ百体以上とか倒したし、上がってないかなと期待して自分のステータスを確認してみる。
「自己診断」
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ヤナ・フトウ
17歳
状態:
豪傑殺しの腕輪【発動】
魔導師殺しの指輪【発動】
ジョブ:
冒険者Lv.16 New!
称号:
召喚を要求した者
スキル:
不撓不屈【発動】
心堅石穿【発動】
死神の慟哭《自動感知》New!
生への渇望
一騎当千
臥薪嘗胆
能工巧匠
疾風迅雷
言語/文字理解【発動】
二刀流剣術(我流)
気配隠蔽 New!
夜目 New!
焔魔法
生活魔法
収納魔法
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「お!一つレベルがあがってる! よしよしいい感じだな。それにしても何かゲームとかだと、もっとこんなレベル低い時なんて、あれだけ倒せばもっと上がりそうなもんなのにな」
ジョブによって鍛錬の方法が異なるとアメノ爺さんとかも言っていたのて、『冒険者』というジョブが上がりにくいのかとか考えていたが、答えは出そうに無いので、寝る為に横になった。
寝てても死神の慟哭《自動感知》が反応してくれるはずだと判断し、今日は普通に横になって寝ることにした。寝る場所も村の出口のすぐそこだし、何かあれば気付くし大丈夫だろうと思ったことも大きい。
昨日の夜とは違いちゃんと毛布の上に横になりヤナが眠りについた頃、村の宿では勇者三人が女子会の真っ最中だった。
「今日は、色々あって大変だったね!」
「ルイは、今日のあれの感想が軽いわね……一応死にかけたわよね? 私なんて崖から突き落とされたし」
「ふふふ、楽しそうに落ちてたよねぇ、みんな。慣れると落下感が楽しいよねぇ」
「全く慣れたくないわよ……」
ルイとアリスが今日の出来事を振り返っていると、シラユキが惚けている事に二人が気がついた。
「シラユキも、斬られたり落ちたり結構な体験してたわよね」
「えっ? あぁうん、結構ダメかと思ったかなぁ、あの時は」
「崖の下であのオーガにとどめ刺されそうになってたもんね、シラユキちゃん」
「え! そんなにピンチだったの? 私は崖から落ちてる最中は、地面しか見てなくてシラユキ見てなかったわ」
「うん! 絶体絶命のピンチだったんだよ! あぁもう駄目だ! って思った時にね、空からね?」
ニヤニヤししながら、ルイがシラユキを見ていた。
「あ……うん……まぁ、助けられたかな一応」
「ん? ヤナが助けたんでしょ?」
「そうなんだよ! 紅い翼を広げ! 頭上には紅蓮に燃え盛る大剣を掲げ! 颯爽とヒロインのピンチに現れるヒーローのように!『女を泣かしてんじゃねぇええ!てめぇの相手は俺だろうがぁああ!』って言いながら、シラユキちゃんを助け出したんだよ!」
「ほほう、そんな事になってたのね。あのオーガが、真っ二つになってる死骸しかみてないから知らなかったわ」
アリスも、ニヤニヤとシラユキを見ている。
「なななな何よ! べべべべ別に、カッコよかったとか思ってないわよ!」
「誰もそんなこと言ってませんよ?」
「これは落ちたのか? ん? 堕ちました?」
「どこに堕ちるのよ! もう崖なら落ちたわよ!」
「「恋に?」」
「!?」
シラユキは、真っ赤になって鯉のように口をパクパクさせていた。
「図ったように現れるあのタイミングは、ヤナ君は流石わかってるよねぇ。横から見てても痺れたよ!」
「ヒロインを助けるヒーローかぁ、案外幾つになってもそんなのされたら、コロっといきそうね」
「二人して、何よ! もう寝るよ!」
「「嫌!」」
「なんで!?」
「まだからかってないじゃない。ねえ、ルイ?」
「ね? そうだよ、これからだよ?」
「いやぁああ!」
こうしてキャッキャと騒がしい女の夜は更けていく。
「明日こそ頑張ろう……」
そしてコウヤは一人寂しく、一人部屋で反省会をしながら過ごしていた。
翌朝からも、勇者達とヤナは森で魔物討伐を続けた。他にも瘴気纏の魔物がいないかどうかの調査も兼ねながらの訓練であった。そのため、当初では野営も勇者に経験させるつもりだったが、夜には村に戻り宿で寝泊まりした(ヤナを除く)。森では順調に勇者達は魔物の討伐を重ね、レベルも五から六は上がっていた。ヤナも二日目以降も一日魔物を狩っていたが、レベルは上がらなかった。
「勇者殿も順調に魔物討伐の経験も積まれ、レベルもある程度上がりましたし、明日は近くにある初心者用の迷宮を探索し今回の訓練は終わりにしましょう」
「どんな基準で、初心者用って区分けなんだ?」
ケイン騎士団長が説明するのは、まず階層が少ないこと、致死性の罠がない事、ボスがきちんとパーティーを組めばさほど危険ではない事等らしい。
「まぁ、今回の訓練のおまけみたいなものだと思ってくれて構わないね。城を出立し、本格的にレベルを上げていく中で、迷宮都市デキスにくことになるが、その為の迷宮の事前説明みたいなものなんだよ」
そして俺たちは訓練の最終日、駆け出しの冒険者が経験の為に探索する程度のおまけの初心者迷宮訓練に出掛けるのであった。
↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)





