少女の涙
「グラァアアアアアアア!」
「やかましいわ! 『十指』『火球』『形状変化』『片手剣』! 取り敢えず、これでも喰らっとけ!」
十本の火の剣を、デカブツに向けて放った。
「グラァアア!」
「うぉ! 当たってやがるのに、無視して突っ込んで来やがった!」
「こんなナマクラ! 避けるまでもないわ!」
「ふふふ、そうじゃなくちゃこっちも張り合いがないわ! それなら、すこぉしだけ本気を出してやろう」
あと数秒のうちにお互いの接近戦での間合いに入る、その直前に新たに魔法を発動した。
「十指』『焔豪球』『形状変化』『大剣』! おらぁ! これならどうだぁ!」
火魔法よりも威力の高い焔魔法による紅蓮の大剣で、再度斬りつける。
「ぐあ!! なんのこれしきぃ!」
「やるじゃないか! だが俺の刀も忘れるなよ? 疾風迅雷! 足を貰うぞ!」
急加速で一気にデカブツの背後に旋回し、後ろから両膝の裏を大太刀で斬り付ける。
「ぬあ! ちょこまかと鬱陶しい!」
「はん! 鬱陶しくて結構だね! オラオラ! 俺だけ見てると火傷するぜ!」
「小癪なぁああ!」
「おらぁああ!」
その戦いの様子を見ていたコウヤが、ケイン騎士団長に尋ねる。
「……ケインさん? 僕には『グラァアア』にしか聞こえないんだけど? ヤナはなんで、魔物の言葉を理解して喋ってるぽいの? スキル?」
「いや……コウヤ殿……あれは恐らくですが、ヤナ殿の魔物語脳内変換です……」
「え? それって……」
「えぇ、ヤナ殿はもう手遅れなんです……もう完璧な『脳筋』なんです」
「ダメ……涙でヤナ様が見えない! アリス様! 私の代わりに、戦いの行方を見守って下さい!」
「ミレアさん、憐れみ過ぎでしょ……」
そして、戦いは佳境を迎える。
「くそ、見た目通りタフだな。デカすぎて致命傷にならんぞ。攻撃はあたってるんだがな」
二階建ての建物ぐらいありそうな大きさがある為、どうしても急所への攻撃が入りにくい。紅蓮の大剣で頭部を攻撃しつつ俺が足を攻めているお陰で、時折膝を折る時に首元を狙うが流石にそこは丸太の様に太い両手で防御されてしまう。
「フハハハ! 軽いのだよ攻撃が! 虫に刺されている程度だ!」
「言いやがったな! そんなに言うなら重いのくれてやるさ! 『収束』『紅蓮の大剣』『形状変化』『巨人の紅蓮剣』!」
デカブツの頭上に十本の『紅蓮の大剣』を収束し、形状変化によって巨大な紅蓮に燃える剣に変化させた。
「なんだとぉお!」
「これで終いだぁああ! 『魔剣技オーガブレイク』!」
「ぐあぁああああ!」
デカブツは、肩口から『魔剣技オーガブレイク』により両断され絶命した。
「ふん、魔剣技を使わせたお前は、中々やる方だったよ」
「魔剣技って言ってたけど、あれ唯デカイ炎の剣振り下ろしただけじゃ?」
「コウヤ、そこはあれよ、きっとアレなのよ」
コウヤとアリスの勇者コンビから生温かい目を向けられていたが、森では使えなかった技を使う事が出来た戦闘の余韻に浸っていた俺は、その目線に気が付かなかった。そして勇者達に駆け寄り、気になっていた事を聞いた。
「見た感じ取り敢えずお前ら大丈夫そうだけど、ルイとシラユキはどうしたんだ?」
「そうだった! やばいよ! やばいんだよ!」
「テツロウさん、落ち着けよ」
「誰がテツロウだ!僕はコウヤだ!」
「わかったから落ち着けって。アリスどうなってんだ?」
アリスは大丈夫だろうと声をかけるとこっちはこっちで、俺の顔を見るなり泣きだした。
「ルイと……シラユキがぁ……ヒクッヒクッ……ふぇええん!」
「……えっと、ケインさん? どうなってんの?」
結局使い物にならない勇者二人をほっといて、ケイン騎士団長に状況説明を求めた。
勇者達一行は順調に魔物討伐を行なっていたが、突然魔物の群れが襲ってきたらしい。森の中で視界も悪く、囲まれる前に撤退し何とか離脱出来た所までは全員一緒だったとの事だった。そこまで話をした所でケイン騎士団長が、顔を顰めながら呟いた。
「おそらくあの群れの行き先には、我々が昨夜泊まった村があっただろう。あの数が一気に雪崩れ込んでは、もう跡形も無いだろうな。ヤナ殿がここにいるという事は、あの群れとは入れ違いになったのだな。運が良かったな」
「いや? ばっちり鉢合わせたぞ?」
「え?」
「あれだろ? その魔物の群れってやつ。村が雇っていた冒険者が逃げたから、代わりにその場で依頼を受けたんだわ、俺が」
殲滅した魔物の群れの山積みの死骸を、俺は指差した。
「はい?……えぇえええ!」
今度はケイン騎士団長が、大量の魔物の死骸を見て呆然となっている。
「ケインさんもかよ……ミレアさん、続きをお願いします」
「えっ! えぇ、えっとぉ、そうそう、魔物の群れから離脱した所までは全員一緒だったんですが、直後にさっきのデカイのに襲われたんです」
魔物の群れから逃れたものの、逃れた先が森の中の崖の近くだったらしい。更に浮き足立っている所に運悪くデカブツに突然襲われ、かなり混乱したらしい。特にこの辺は村人も言ってた様に、高位の魔物は出たことが無いくらい穏やかな所だと認識していた為、ケイン騎士団長も反応が遅れたそうだ。その結果、一番近くにいたルイにオーガの大剣が振り下ろされた。
「とっさに近くにいたシラユキ様が、ルイ様を庇いオーガの剣戟を受け、背中に重傷を負いました。更にオーガが二人を思いっきり蹴飛ばし、近くの崖に二人が一緒になりながら落ちて行かれたのです。正直かなり厳しい状況かと……その後、オーガと応戦しながら森の外へ退却した所で、ヤナ様が『挑発』してくれた為、そちらの方にオーガが向かって助かったという訳です」
「ルイとシラユキが、一緒に落ちたのか?」
「はい。それは間違いありません。傷つき倒れたシラユキ様を、ルイ様が抱き締めながら落ちて行くのを見ましたから」
「なんだ、なら大丈夫だろ。てっきりもう、さっきのデカイのに喰われたかと思ったわ。なら、その落ちた崖とやらに、迎えに行けばいいだけだろ? 焦らすなよ、全く」
俺が何をそんなに暗い顔をしてるんだと本気で思っていると、コウヤとアリスが叫んだ。
「ヤナはシラユキさんが斬られた時に、噴き出した血の量を見てないから、そんな風に思えるんだ!」
「そうよ! 更にそのあと崖から落ちたのよ! 助かるだなんて思えないわよ!」
まるで俺がおかしな事を言っている様に、二人が噛み付いてきた。俺はそれが理解できずに、再起動したケイン騎士団長に尋ねた。
「二人は何をそんなに焦ってるんだ? 怪我したのはシラユキで、ルイと一緒に落ちたんだろ? 問題ないだろ?」
「ヤナ殿、シラユキ殿は即死はしていないと思いますが、かなりの深手を負った上に、あの崖はかなりの高さでした。希望は少ないかと……」
「はい? えっと、まず即死はしてなさそうなら大丈夫だろ。だってルイが俺とアメノ爺さんとエイダさんと一緒に鍛錬してる時、腕や足の一本や二本ぐらいなら、俺が斬り飛ばされてるが即座に回復してるぞ? 一度熱くなったアメノ爺ぃに俺の心臓を貫かれた時も、即座に治してもらったしな。それにエイダさんには、炭化させられていない身体の部位はないくらいだし」
「「「は?」」」
「崖に関しても、全く問題ないだろ。エイダさんに鍛錬中、結構頻繁に風魔法やら爆発魔法やらで結構な上空まで、ルイも俺も吹き飛ばされてたぞ。そんな時は、うまく空中に障壁系の魔法を発動して、最近じゃ普通に戦線復帰してたしな。俺はそのまま落下して酷い怪我して、ルイはそれを笑顔で回復しやがるが……ありゃ、鬼だ……」
「「「えぇえええ!?」」」
「だから、流石に頭からガブリと食われたら無理だろうが、そう言う訳じゃなけりゃ、ルイと一緒なら大丈夫だと思ったんだが。お前らだって、普通にそれくらいの鍛錬してるんじゃないのか?」
「「「………」」」
勇者達が、俺に背を向けヒソヒソ話を始めた。
「ケインさん……普通って、それくらいするの?」
「コウヤ殿、間違ってもアレを普通だと思わないでください。それに思い出して下さい、ヤナ殿達が鍛錬している塔の広場は、騎士団の訓練所のような即死無効や痛覚軽減効果のある結界はありません。普通に斬られたら痛いってもんじゃないですし、普通に死にます……変態なんですよあの人達……」
「あ!? そう言えば、結界無いってルイが言ってたわね……でも今腕とか足とか……心臓とか斬られたって言ってたけど……?」
「アリス様、みなまで言わないで下さい。既に、涙でヤナ殿が見えません。はっ! ということは、ルイ様まで既に脳筋に……そう言えば、ヤナ殿に対する仕打ちや行動に一人落ち着いて見ていらしていたような。おいたわしや、ルイ様。もうきっと、手遅れなんですね……」
「……お前ら普通に聞こえてるからな……脳筋は、あのくそ爺ぃと性悪メイドだけだ! 俺とルイはインテリだ! 多分! 絶対! きっと!」
「……ヤナ殿、質問があります。問題解決に、必要なものはなんだと思いますか?」
「ん? 火力だろ?」
「……それでも、解決が困難な時は?」
「そしたら、解決出来る火力を手に入れるまで鍛錬だろ?」
「……その際の鍛錬方法は?」
「死ぬまで自分を追い込んで追い込んで、オイコンデ……ダロ?」
「「「「ひぃ!」」」」
「ルイが、いろんな意味で危ないわ! 色んなものから、早く助けないと!」
何やら違う意味で慌てだしたように見えたので、再度落ち着かせてルイ達を救出しに行くことにした。丁度村長さんが俺たちの所へやってきたので、瘴気纏いオーガと魔物達の解体をお願いした。百体以上の死骸があったので迷惑かなとおもったが、村の恩人の頼みなら喜んでと言ってくれて快諾してくれた。ルイ達を救出して戻ったら、解体した肉でバーベキューでもお礼に振舞おうと考えながら、例の崖のところまで到着した。
「この崖下に降りられるのか?」
「確かこの先に行ったところに、下に降りられる道があるはずです」
「ケインさん、この森詳しいの?」
「えぇ、コウヤ殿。実は若い頃に当時の剣術指南役とここで鍛錬を……うっ! 思い出すと頭が……ぐぁああ!」
なんとなく事情を察していると、崖の下からあの咆哮が聞こえてきた。
「グルアァアアア!」
「おいおい、もしかしてデカブツが、まだ他にも居たのか。 ん? よく見りゃ、あいつら戦闘に入ってるぞ」
「見えるの!? よく見えるね……じゃなかった! アレと一緒なら、やばいんじゃないの、ヤナ!」
「ん? シラユキは火力職だろ?大丈夫じゃないのか?……あぁ、ありゃダメだな。大丈夫じゃなさそうだ」
「え!? なら早く援護に行かないと! ケインさん! 下に降りられる道は近いの!?」
ケイン騎士団長は、険しい顔で答える。
「ここからだと降りる道に行くだけでも、一時間はかかります……」
「道に行くだけで一時間!? 全然間に合わないよ!」
俺以外の四人から、絶望の気配が漂い始める。
「あの距離なら……見た感じ、ルイも無事そうだし……勢いつけていけば……うん、いけるな多分」
「ヤナ様? 何をブツブツ言っているのですか?」
ミレア団員が俺を訝しながら様子を尋ねてきたので、俺にいい考えがあると伝え、崖下が見える形で崖前に四人を整列させた。
「ヤナ殿? 良い考えがあると言っておりましたが、なぜ刀を逆刃にして両手で持って広げているのですか?」
「後ろを見ずに、前だけ見とけよ?」
「ヤナ?」
「嘘でしょ?」
「怖くて泣けてきました……」
「アメノ様の関係者は、絶対変態しかいない……」
俺は少し四人から下がり、救出のイメージを描きながら、逆刃にした刀を持ち両手いっぱいに広げて走りだした。
「目を瞑るなよ! 行くぞぉおお! どっせいい!」
四人を自分の身体と刀で後ろから勢いよくぶつかり、崖に飛び込ませ、すぐさま俺も飛び込んだ。
「「「「いやぁあああああ!」」」」
「助けに行くなら、最短ルートぉおおお!」
その頃、崖下のルイとシラユキは、デカブツと対峙していた。
「くっ! 相手が大きすぎて、私の今の攻撃じゃ致命傷にならないわ!」
「頑張ってシラユキちゃん! 頭さえ無事なら、何とかできるから!」
「……怖いこと言わないでよ……きゃぁ!」
「シラユキちゃん!」
オーガの横薙ぎの一閃を受け止めきれず、シラユキは壁に吹き飛ばされた。すぐさま、ルイが駆け寄り回復をかける。先ほどから、何度も繰り返されている光景だった。
「ルイ……ありがと……あのオーガ、私を痛めつけているようにしか思えないわね……まるで私が、諦めるのを待っている様ね」
「シラユキちゃん、諦めないで! きっと、もうすぐみんなが助けに来るよ!」
「ふふ、背中を大きく斬られながら落ちるとこをみんなが見てたのよ? きっとみんな、私たちのこと諦めてるわよ。このオーガは執拗に私だけを狙っている様だし、時間を稼ぐからせめてルイは逃げて……ほら! 私はこっちよ!」
「ダメ! シラユキちゃん!」
シラユキはルイから距離を取り、瘴気纏オーガをルイから遠ざけた。
「はぁ……ゲームじゃないんだから、現実はこんなものなのかな……ぐぅ! がぁ!」
瘴気纏オーガの剣戟を、ギリギリで受け流しているもののシラユキの心は、既に生き抜く事を諦めていた。
「はぁはぁ……せめて……ルイだけでも……逃げれたらいいけど……」
そして再度、シラユキは態勢を崩され、瘴気纏オーガが巨大な剣を最上段に掲げ構えていた。
「はぁはぁ……ここまでかな……はは……やっぱ怖い……怖いよ」
シラユキの目からは、涙が流れ落ちていた。
「……助けて……こんなわるもんやっつけて……」
そして、絶望は振り下ろされる……筈だった。
「『こぉんのお! ただデカイだけの木偶の坊がぁ! 女を泣かしてんじゃねぇええ! てめぇの相手は俺だろうがぁああ!』」
『挑発』された瘴気纏オーガは、聞こえた方向を見上げていた。シラユキもまた、声が聞こえた空を見上げた。
そこには紅蓮の大翼を広げ、瘴気纏オーガの持つ剣よりも更に巨大な紅蓮の大剣を振り上げている男がいた。
「きれい……」
その時、少女の涙は止まっていた。
↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)





