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魔物討伐訓練出発

「あっ! 来た来た! ヤナ君おはよー!」


「おはようルイ。今日も元気だな」



 魔物討伐へ向かう日の朝、いつも通りに朝食前にトレーニングを行った時に新調した装備の確認も行った。鎧は単に革鎧(レザーアーマー)を新品にしただけなので、身体に馴染ませているだけだが、主な目的は武器の方だ。これまで鍛錬で使用していた訓練用の安物の大太刀ではなく、「無銘じゃが、其れよりはいい刀じゃよ」と今朝アメノ爺さんより渡されたのだ。俺を手に馴染ませるために、軽くアメノ爺さんの見様見真似で剣の舞で身体をほぐしてから朝食を済ませ、アニーさん(アンさんと見分ける事が出来るようになった)に集合場所の城門の所に案内されてきたのだ。


「やぁ、ヤナおはよう。今日から一緒なんだってね、よろしくね」


「おうコウヤ、こちらこそよろしくな。相変わらず勇者みたいな格好してるなぁ。キラキラ眩しいわ、主に鎧が」


「ははは、かっこいいでしょ? ヤナは、正に新人冒険者みたいな格好だね」


「実際はまだ、冒険者にもなって無いけどな。そのうち、俺もカッコいい装備揃えてみせるさ」


 笑いながらコウヤと話していると、此方に気が付いたアリスとシラユキが近づいて来た。


「おはよ、ヤナ君」


「おはようアリス。その魔女っ子ドレスで行くのか?」


「えぇ、これが私の戦闘服だから。格好いいでしょう?」


「カッコいい? あぁうん、何か日曜の朝のテレビアニメに出ていそうだな」


「うむうむ、そうでしょうそうでしょう」


 高校2年にもなってその格好で満足していていいのかアリスよと思ったが、革鎧(レザーアーマー)に二本の大太刀を腰に下げ、内心カッコいいな俺と思っていた自分にブーメランしてきそうなので、心の中に留めといた。


「あと、シラユキもおはよう」


「おまけみたいに言わないでくれる? おはようヤナ君」


「そんなことはないさ。シラユキは正に『姫騎士』って感じだな」


 コウヤの様な猛々しく勇壮な鎧という訳ではなく、鎧ではあるが女性らしく清楚なデザインの鎧と凛とした佇まいが騎士でありながらも、お姫様のような気品さも醸し出している。そんなことは口には出さ無いが。


「そんなに優雅に見えるかしら。ふふふ」


「あぁ実際、シラユキ『姫』だしな。案外『姫ちゃん』とか呼ばれてそうだな」


「な!? だだだ誰が『姫ちゃん』よ! 慣れっなれなれなれしいわよ!?」


「いや、だから『呼ばれてそうだ』ってだけで俺は呼ばねぇよ……それに冗談なんだから、そんなに真っ赤になって怒るなよ……」


(ん?『姫ちゃん』?……どっかで聞いたことある様なぁ……)


「ふん! 今度呼んだら、剣のサビにしてくれるわよ!」


「物騒だなおい……分かったから悪かったって。そんな事よりこれから、どんな感じなんだ?」


 すると近くにいたケイル騎士団長が、俺達に近づいて来た。シラユキは「そんな事ですって!?」とまだ騒いでいたが、もうスルー(無視)だ。


「それは、私から説明しよう。ヤナ殿、今回はアメノ様とエイダ殿から話は聞いている……頑張ってくれ!」


「ん? え? あっはい、勇者達よりレベルは低いですが、足手まといになら無い様に頑張ります」


 ケイル王国騎士団長から、何だか凄く力のこもった応援をされた後に、これからのことが俺たちに説明された。ここから一旦馬車に乗り込み、大体夕方ぐらいまでかかるところにあるバーカリ村という所に行くらしい。その村の近くには比較的弱い初心者向けの魔物がいる森があるらしく、まずそこで魔物を殺すことに慣れるそうだ。二日ほど森の魔物を討伐してなれたら、迷宮(ダンジョン)に潜るらしい。


 迷宮(ダンジョン)と言うのは、俺たちの世界のゲームのダンジョンとほぼ近い物らしい。階層を潜るほどに魔物は強くなっていき、倒した魔物の死骸は光の粒子になって消える為、死骸から素材は回収出来ないが、代わりにドロップアイテムというのを稀に落とすとの事だ。宝箱も出現するし罠もあるらしい。


(まんまゲームだな……違うのは死んでもやり直し(リセット)はなく即終了(ゲームオーバー)ってとこか……)


 魔物討伐に向かうメンバーは勇者達四人、俺、ケイル王国騎士団長、女性の騎士団員ミレアさんと馬車の従者一名らしい。バーカリ村に到着した日は宿に泊まるが、それからは野営をするとの事だった。それにしては馬車が一台しかないなと思っていたら、この世界には魔道具のマジックバックがある事を思い出し、野営の準備はそこに入れてあるんだなと一人で納得した。


「では、出発しましょうか。皆さん馬車に乗り込んでください」


 女性の騎士団員のミレアさんに促され、乗り込もうとした時に呼び止める声がした。


「勇者様ぁあ! お待ちくださぁあい! 私もお見送りをぉしますぅ!」


 なんだなんだと振り返ると、第二王女のエルミアが走ってきていた。エルミアの後ろには「エルミア様! はしたないです!」と言った具合に、侍女の人が叫びながら追いかけてきていた。


(セアラの一個下だから、14歳か。俺らの世界じゃ中学生だもんな。あれくらい元気でいいよな)


 ほのぼのとその光景を見ていると、今度はこっちから大声が聞こえてびっくりした。


「エルミア! 来てくれたんだね!」


 コウヤが、エルミアの方へ満面の笑みで駆け出していた。


「は? え? あいつ……まさか?」


 驚愕の表情で、後ろにいた女勇者達に顔を向けた。ルイは微笑ましくその光景を見ていたが、あとの二人は呆れた様な顔をしていた。そして、俺の表情を見てアリスが答えた。


「見ての通り、コウヤはエルミアにのぼせてるわよ?」


「そうか……まぁ、うん……エルミアは、見た目は俺らと変わらん年に見えるしな。あいつエルミアが何歳か知ってるのか?」


「知ってるわよ。全く気にしてなかったけどね」


「おぅ……そうか。まぁうん、気づかなかった事にしよう」


 俺は、エルミアが他の勇者にも見送りの言葉をしているのを、じっと待っていた。


「ヤナ様……ですよね?」


「あぁ、ヤナで合ってるよ」


 勇者様への見送りの言葉を述べた後に、エルミアが俺にも話しかけてきた。少し困っている様な、それでいて緊張している様な顔で、セアラ事を聞いてきた。


「ヤナ様はセアラ姉様とあちらの塔にいる時、お会いしているのですか?」


「あぁ、夕食は毎日一緒させてもらってる」


「どんなご様子でしたか? お辛そうでしたか?」


 エルミアが今にも泣き出しそうに聞いてきたので、少し驚いたが最近の夕食の様子を伝えた。少し笑顔を見れた事やふくれっ面した事など、きっと俺に少し慣れてくれたのだろうと。


「え!? セアラ姉様が感情をお見せになったのですか!?」


「お、おう、だがそんな分かりやすい事はないぞ。ほーんの少しだけそう見えたって感じだしな。最近俺が気配を探るスキルの効果が上がったからな、それで分かりやすくなっただけで、前から俺が気づかなかっただけかも知れないけどな」


「いえ、それでも……ヤナ様はこの城を出た後は、冒険者に成られるんですよね? もしよろしかったら、偶にでいいので、セアラ様にヤナ様の冒険譚をお話しに来てください。お願いします!」


「いやいやいや、一介の冒険者が王女様にほいほい面会できないでしょ」


「そこは私がなんとかしときますね! だからお願いします!」


 それはもう了解してくれるまで、出立させませんぐらいの勢いでエルミアが頼んでくるので、根負けしてしまった。


「わかったから、偶には来ることにするから。皆が困ってるから、な? ちゃんと約束するから」


「はい! ありがとうございます! 皆様ごめんなさい! では、お気をつけていってらっしゃいませ!」


 眩しいくらいの満面の笑みで、エルミアは俺たちを送り出した。


(クックルさんのうまい飯も食いたいしな。来てもいいなら偶には顔出すかな)


 そんな事を考えながら、馬車の中から初めて城の外の街の景色を見ていた。城下町という事もあってか活気に溢れ、道には冒険者と思われる屈強な戦士達が闊歩していた。つきなみの表現だがヨーロッパの中世をイメージさせる街並みに、他の勇者達も何だかすこし興奮している様だった。


(やっぱりいるんだな……きっとあれが奴隷だろうな)


 城下町を最後出る際に、見すぼらしい布の服を見にまとい手錠と首輪を付けた数人の集団とすれ違った。


 その様子に気づいたコウヤがケイン騎士団長に「あれは何?」と尋ね、「奴隷だろう」と特に当たり前の光景でも見る様に答えていた。


「奴隷っているのね……」


 隣に座っていたシラユキが、ボソッと呟いていた。


「以前に召喚された勇者が、奴隷解放に尽力したらしいがやはり難しかったみたいだな」


 以前にセアラに聞いた話を、少し話して聞かせた。


「そう……厳しい世界なのね……」


「そうだな……」


 城下町から街の外へでて、少しした所で馬車が止まった。どうしたのかなと思っていると、正面に座っていたケイン騎士団長が物凄い同情の目を向けてきていた。


「何だか嫌な予感がするんですけど……ケインさん?」


「うむ……申し分けないが、アメノ様からのご指示があってな、ヤナ殿は鍛錬の為に街から出たら馬車を降りよとの事なのだ」


「はぁ……まぁあの爺さんの事ですからね。分かりましたよ」


 ケイン騎士団長に言われ、俺だけ馬車を降りた。


「正直走って付いて行けくらいは、もしかしたら言われるかもと思ってましたから」


「……」


「ん? 何ですか? その、そうじゃないんだよっていう顔は……あれ? なんで馬車から馬がいなくなって……え? どうしてケインさんとミレアさんが、馬に乗ってるんですか? なんでミレアさんが、泣きそうな顔を向けてくるんですか?」


「ヤナ殿……」

「ヤナ様……」


 呆然としていると、いつの間にか馬車から降りてきた従者の人に、腰の辺りに馬車とつながったベルトを付けられ、さっきまで馬がいた場所にリアカーでも引く様な手摺が付けられており、そこに立たされ手摺を持たされた。


「ケインさん?……ミレアさん?……嘘でしょ?……」


「夜までに村につける様に……頑張ってくれ……」


「ヤナ様……アメノ様から伝言を預かっております。『儂は出来ると思うがのぉ。まぁヤナ殿が無理だと『諦めて』『倒れたら』馬車に乗せる様に言ってあるからの、安心しなされ』だそうです……ダメ……ケイン団長、私涙なしでは見てられません……」


「……あ……あの……くそ爺ぃいいいいいい! 覚えてやがれぇええええ!」


「ちなみに勇者様達は決して手伝ったり、気を使って馬車を降りたりしない様にとの事です」


 その様子を見ていた勇者達に、可哀想な子を見るかの様な目で見られる中、馬車は動き出す。


「ぐおぉおおお! 絶対馬で引くよりより早く着いてやるわ! ちくしょぉおおおお!」


 後にこの街道では、「馬より早い人力車を見た」との噂が出たとか。


 勇者達が困惑する中、事情を知っているルイは「頑張れ戦友(犠牲者友の会)……」と呟いていた。




「ぜぇはぁ……ぜぇはぁ……やったぞ……俺はやってやり遂げたんだ……」


「ヤナ殿! お見事でした!」

「ヤナ様! ダメ……涙でヤナ様が見えない……」


 馬車で引いた場合の予定通り(・・・・)に夕方に村に着き、ケイン騎士団長とミレア団員に健闘を讃えられていた。


「本当に引いてきたよ……ヤナが人力で……」

「嘘でしょ!? 馬車より速いんじゃない!?」

「ふん! 中々やるじゃない!」

「ヤナ君……異世界で手に職できたね! 人力車!」


 勇者達も、ぞろぞろと馬車から降りてきた。


「さぁ勇者殿達()……ミレア団員と宿に向かってください」


「……ケインさん?……勇者達()って?……嘘でしょう?……嘘と言ってよケインさん!」


 ガシッと肩を掴まれ、ケイン騎士団長は目に涙を浮かべながら、エイダさんからの伝言を俺に伝えた。


『ヤナ様は『冒険』しないとお強くなれませんから、宿屋に泊まるなんて勿体無い。夜の森にお一人(・・・)で過ごす事をお勧め致します。ちゃんと気配感知してないと魔物に喰われますからお気をつけて。あと気配も消す事をお勧め致します。でないとひっきりなしに魔物が寄ってきますよ? 万が一『諦めて』もう無理だと判断したら『倒れる』前に宿に尻尾巻いて逃げてくださいね。そしたら大笑いしますけどね。フハハハハ!』


「だそうです。ヤナ殿……明日また、此処でお会いできる事を祈っております……」


「……ど……どこまで……性悪なんだあのメイドぉおおおお! 絶対帰ったら叩き潰してやるぞぉおおおお! ちくしょおおお!」


 俺は泣きながら、夜の森の方に走っていくのであった。


「こうなったら魔物殲滅してくれるわぁああ!」


 俺の叫びが夜の森に、虚しく響いたのだった。

↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)

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