助けて
「あれって……ヤナビ様?」
「恐らく、そうだとは思いますが……」
「お互い、本気過ぎません?」
ヤナの予選に乱入した漆黒の騎士が、予選を勝ち抜いたヤナに、本戦を賭けて勝負を仕掛けた。
当然、乱入者など誰かが止めると思いきや、警備役の冒険者や村民は止める行動を取れなかった。
「おぉおおおお! くたばれ漆黒の騎士!」
「ハハハ! ヘタレ冒険者のヤナ君に、我輩が斬れるかな?」
「誰が、ヘタレだこの野郎!」
「ん? 理由を述べてもいいのか? 美女二人と一夜を共にしながら……」
「アホかぁあああ!?」
お互い軽口を混ぜながら、激しい戦闘を繰り広げていた。
「なぁ? あの黒いの噂の漆黒の騎士だよな?」
「恐らくな、本当に居たんだな」
「乱入者だし、止めるか?」
「彼奴らを、止める? 死にたいのか?」
警備担当達は、只々終わるのを待っていた。
「ディアナ! 漆黒の騎士様よ! あの強さは、きっと本物よ!」
観覧席で、ヤナと漆黒の騎士の激しい戦闘を目の当たりにしたヴァレリーは、興奮しながらディアナに振り返り叫んだ。
「恐らくは……だが、ヤナと戦っていると言うことは、やはり気の所為だったのか……」
ディアナは、ヤナがもしかしたら漆黒の騎士ではないかと、期待していたのだ。
「ディアナ、近くに行ってきたら? 悩んでいるなら、今どっちを応援したいかを、近くで見て決めたら?」
マイナがディアナに提案するが、ディアナはその場から動けなかった。
「マイナ様、お気遣い嬉しいですが、私には、お二人の警護がありますので、ここから離れる訳には……」
「ディアナよ、行ってきなさい。お前は、もう少し自分に正直に生きて良いのだよ」
娘二人とディアナの会話を聞いていたロイド伯爵が、ディアナに向かって話しかけた。
「ロイド伯爵様!? 私は、いつでも正直に生きて参りました! 兄のような騎士に成るべく、騎士とは何かと常に考えて、行動しております!」
ディアナは、真剣な眼差しでロイド伯爵に対して、答えていた。
「ディアナよ、お前は兄が果たせなかった事を成した。良い加減、自分を認めたらどうだ? 騎士とは、自分を殺して主人に仕える者の事ではない。お前の父も、私に仕えてくれているが、同時に良き友でもある。そんな友の娘であるお前も、私にとっては、もう一人の娘のようなものなのだ」
「ロイド伯爵様……」
「お前の騎士道の話では、ないのだ。お前は騎士である前に、一人の女性なのだよ。お前が漆黒の騎士に、どんな想いを持っているのかは、お前にしか分からない。だが、今一度、自分の気持ちに正直になってみなさい。お前が何故、漆黒の騎士を想う様になったのかを、そしてヤナという男にお前は何を想うのかを」
更に、ロイド伯爵の横に控えていたディアナの父も口を開く。
「騎士である事と、女である事は別だ。しっかりと、その事を考えるのだ」
「父上……」
そして、ディアナはヴァレリーを見た。
「今なのよ! 今が、貴方の気持ちを正直に伝える時なのよ! 行くのよ! あの二人は、きっと貴方を待っている!」
「ヴァレリー様!?……私……行って参ります!」
そして、ディアナは戦う二人の元へと駆け出していった。
「二人とも、何をしているのだ!」
俺と漆黒の騎士が戦っていると、予想通りにディアナがやって来た。
「いやな、ディアナとの契約通りに、こいつを叩きのめして、ディアナに引き渡そうとしていただけだぞ?」
「どう解釈したら、叩きのめして引き渡すになるのだ……」
「おや、ディアナではないか。どうしたのかね?」
「少し、お二人に用がありまして参りました」
ディアナは真剣な表情で、俺たちを見ている。
因みに当然、予選直後の闘技場のど真ん中でこんな事をしているので、観客は勿論のこと、負けた選手までもが、劇でも見るかの様に俺たちを見ている。
「どうしたのかね? 私達に、用があるのではないのかね?」
「えぇ、私の本当の気持ちをお伝えしよう……と?……おい、貴様……漆黒の騎士様ではないな!」
「何故、わかったぁあああ!」
俺は、思わず叫んでしまっていた。
「そこで、何故ヤナが叫ぶのだ?」
「え?いや何でも……何故だ、声も姿も完璧に漆黒の騎士の筈なのに……」
ヤナビに身体を創り、漆黒の騎士と俺を同時にいるところを見せる事で、俺が漆黒の騎士ではないと証明する手筈だったのだ。
「ほほう、我輩が偽物だと何故わかったのだ」
「え? ちょ!? すぐ認めちゃうの!?」
「声も姿も全く同じである事は、認めよう。だがな! 分かるのだ、私には!理屈ではない! 魂で理解しているのだ! 貴様が本物ではないと!」
「要するに勘じゃねぇか!?」
「フハハハハ! バレてしまっては仕方がない! ソウダ、我は漆黒の騎士デハナイ!」
「待て待て! 何だその、悪事がバレた悪役みたいな話し方は!」
俺は、完全にヤナビが悪ノリしていると、確信して止めようとするが、その前にヤナビが先に行動した。
「ぐぅ!……不覚……何をする……」
ヤナビが一瞬にしてディアナの背後に回り、身柄を拘束していた。
「おい、嫌な予感がするんだが?」
「本物が来る前に、こいつを攫って戴いてシマウコトニシヨウ!」
「お前、どんなキャラだよ……」
俺が呆れていると、特別観覧席から何故か拡声器の魔道具を使い、ヴァレリーが皆に呼びかけた。
「漆黒の騎士様の偽物め! 逃げられると思わない事ね! きっと、本物が来てくれる筈よ! さぁ、皆!漆黒の騎士様を呼ぶのよ! 漆黒の騎士!漆黒の騎士!」
ヴァレリーが、皆に呼びかけ始めた。
「おい! 待て! そんな事したって……」
「「「漆黒の騎士! 漆黒の騎士!」」」
率先して叫んでいる集団に目を向けると、アシェリ達とルイ達だった。
「ノリが良すぎるだろ!」
しかも、ルイ達勇者一行が呼び掛け始めた為、観客も合わせて大合唱し始めた。
「嘘だろ……なんでこんな事に……」
俺がこの事態に迷っていると、偽漆黒の騎士が嘲笑う。
「フハハハハ! これだけ呼んでもデテコヌのだ! 本物はさぞかし、臆病者なのであろう!」
「いや、お前に煽られても別に、何とも思わんからな?」
「ふざけるなぁあ! 漆黒の騎士様は、臆病者ではないわ!」
「ディアナが、煽られてどうすんだよ……」
俺が、呆れていると更に、ディアナは言葉を続ける。
「漆黒の騎士様は、もっと大きな使命の為に動いているのだ。私如きの為に、出てくる筈がないだろう。馬鹿な偽物だ」
「ほほう、お前は本物に来てほしくはないのか? 慕っていたのダロウ?」
偽漆黒の騎士は、ディアナにそう告げた。実は、俺もそう思っていたので、不思議だったのだ。
「ふっ、頭の悪い私でも分かるさ。あの方は、私と別に本気で逢う約束をしていたわけじゃない事くらい……私が、勝手にそう勘違いしていただけだったのだ。あの時の私は、ただ逃げる先が欲しかったのだろう。自分を認めようともせず、都合の良い解釈をして、あの方に逃げたのだ」
ディアナの目からは、涙が流れていた。観客も静まり返り、誰もがディアナの言葉を聞いていた。
「だからだろう、あのお方が嘘でも私に『見えない糸』が繋がっていれば会えると言ってくれた事に、本気で喜んだのだ……偽物よ、馬鹿な女と笑うがいい。そして、ヤナ」
「……なんだ?」
「カヤミの部屋でかわした契約だが、取り下げる。ヤナにも、迷惑をかけたな、済まん」
「……いや、気にするな」
「さぁ、偽物よ! 何処へなりとも、連れて行くがいい!」
ディアナは、そう偽漆黒の騎士に告げた。
「ソウカ、潔いな。とことんヘタレの本物には、呆れるな……ではな」
偽漆黒の騎士が俺に向かってそう吐き捨てると、ディアナを連れたまま俺に背を向け立ち去ろうと歩き出した。
そして、その去り際に聞こえたのだ。
「……ヤナ……さよなら……」
ディアナのか細くも、震える声が、何故かしっかりと俺の耳に届いたのだ。
「……待てや……待てと言ってるだろうがぁ!」
俺は、大声で二人を呼び止めた。
「何か用か? ヘタレ君」
「ヤナ……」
「このやろう……あぁ、もうわかったよ! 俺が、格好悪いってことだろ? そうだよ! 格好悪かったよ!……すまん」
俺は二人に対して、頭を下げて謝った。
「ヤナ、何を謝っているんだ?」
「ディアナ、これから起きる事を許してくれとは言わない。そして、お前の気が済むまで、俺を好きにしてくれていい」
「何を言って……」
そして、俺は静かに言葉を紡いだ。
「『獄炎の絶壁』『形状変化』『黒炎の全身鎧』」
「全身鎧との違いはあるが、それは霊峰でも見たぞ?」
俺は、漆黒の騎士と同じ格好になり、ディアナを見つめる。
「もう一つ、実は出来ることがあってな……『神出鬼没』『声変換』……コレでどうだ?」
「な!? 声が! まさか……」
「あぁ、俺が本物の漆黒の騎士だ」
きっと、この人が本物なんだろう
そんなに申し訳なさそうな顔をしないで
そんなに泣きそうな顔をしないで
私には、貴方の顔は仮面で見えない
でも、手に取るように貴方の顔が分かる
初めて会った時、貴方は泣いていた
今だって、今にも泣きそうな顔をしている
そんな顔をしないで
だって
私は嬉しいのだから
貴方が貴方だと知ったのだから
「ヤナ」
「何だ?」
「助けて」
「任せろ」
俺は、静かにそう答え、偽漆黒の騎士に向かって、駆け出した。
「ヘタレでは、なくなりましたか?」
「あぁ、済まん」
そして、偽漆黒の騎士を斬り、同時にヤナビの身体を解除し、あたかも倒され消えていった様に見せた。
そして、俺の『黒炎の全身鎧』を解除した。
「済まん!」
「何故謝る?」
「これまで、黙っていてディアナを騙していた。さっさと、名乗り出れば良かったものを……済まなかった」
「別にいいさ。結局、私の望み通りになりそうだしな」
俺はその言葉を聞いて、何を言っているかわからなかった。
「望み通り?」
「あぁ、ヤナが漆黒の騎士様なのだろう?」
「あぁ、そうだな」
「ヤナビ様、さっきヤナは何て言っていました?」
俺は、ここでディアナの口からヤナビの名が出たことに、背中が寒くなった。
「マスターはこう言っていましたね。『お前の気が済むまで、俺を好きにしてくれていい』と」
「そうだな? ヤナ」
「……あぁ……」
そして、ディアナはニヤリと嗤った。
「『私の気が済むまで、ヤナに私を貰って戴く』」
「……は?」
「流石、ヤナビ様だ! 本当に『漆黒の騎士』様に、私を貰って戴けるとは!」
「はぁああああああ!?」
「やっぱり、ヤナビ様が絡んでたのね」
「主様、結局こうなりましたね」
「ヤナ様、どんどん契約者が増えてますが、身体は持つでしょうか?」
「因みに、貰うって……何を?」
「ほほう、女にそこまで言わせる気か?」
「………」
「マスター、『初めての契約』ですね!」
「ハメやがったなぁぁああ!」
「まだ、ハメてないが?」
「……『送風』」
俺は、取り敢えずその場から脱出した。
「ふふ、逃がさないぞ」
肉食女子の呟きに戦慄しながら、俺はその場を後にしたのだった。
そんな寸劇があったにも関わらず、他の予選もその後、普通に行われた。この世界の住民は、逞しい。
そして、予選を勝ち抜いた四人が出揃った。
シラユキに半眼で睨まれていたが、気付かない振りをしながら、本戦トーナメントの対戦相手のクジを引いた。
「いきなりか」
「早く決着がつけれそうで良かったぞ。この下半身節操なし男め」
俺の相手となったナルシーが、そう言い放つ。
俺が言い返す前にヤナビが、言い返す。
「それは、これからです!」
「先ず、否定しろや!」
ナルシーは呆れたような顔をして、先に闘技場の中心へと歩いて行った。
「さぁ、いっちょやりますかね」
俺も気合を入れ、闘技場の中心でナルシーと相対した。
そして、開始の合図が出たその時だった。
「オォオオオオオオオン!」
今度は、本当の乱入者が現れたのだった。
↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)





