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09 「私、綺麗?」

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『今日はコートを新調しました。その帰り、新しくできたドーナツ屋さんでお昼です。もちもち具合がサイコーにゃ〜(*^▽^*)』

『あなたのハートを裂いちゃうゾ♪ なんちゃって(笑)画像どーんっ』


コメント

『サッキーさん今日もかわいい!』

『サッキーに毎日でも裂いてもらいたい』

『サッキーの画像を見すぎて彼女に怒られちゃった。でもやめらんない! 応援してるよ!』


コメントへの返信

『わぁい♪ いつもありがとうございます(*^▽^*)』

『サッキサキにしてやんよ☆』

『もう、二人の仲までは裂けませんよ~(笑)でも、応援ありがとう♪』




「……随分とキャラ、違いますね」


「いやああああ見ないでええええ」


 ――とりあえず口裂け女のことを知ろう。

 そう思い、ツブヤイッターの履歴を見ながら率直な感想を述べれば、口裂け女は顔を真っ赤にして悶えていた。


「人がべっこう飴を食べてる間にそんな……鬼みたいな子だわ……!」


「そんなこと言われても」


 口裂け女はもはや半泣きだ。悪いことをしてしまったような。

 そうこうしている内に、苦笑した秀に「そろそろ返してな」とワイフォンを取り上げられる。

 元はと言えば彼が見せたものだというのに。解せぬ。


「うう……私、元からあまり自信なくて……だけどネット上なら少しは違う自分になれるかなと思って……ほんの遊び心で始めてみたら、思ったよりみんな優しくしてくれて、それで……」


「何だか色々あるんですね……でも自信って?」


「だって私……」


 もじもじしていた口裂け女は、ちらと秀を見た。

 きょとんとした面持ちで見返した秀に、彼女は潤んだ瞳を向ける。


「その……」


「ハイ?」


「……わ、私」


「ハイ」


「……き、き」


「き?」


「綺麗?」


 ――そういえばそういう都市伝説だったな、と今更のように思い返す。

 しかしどもりすぎだろう。不慣れにも程がある。

 呆れていると、凛花の表情を読み取ったらしい口裂け女が「だっていつもは子供相手ばかりなんだもの」と泣きそうに囁いてきた。


「そっすねー。綺麗だと思いますケド」


「えっ。あ、ぁ、こ、これでも」


「まずその黒髪、スゲー綺麗ですよね。サラサラしてるしツヤツヤしてるし? アジアンビューティーっていうんすかね? 長いのに重苦しく見えなくてスゲー似合ってると思うっす。あとやっぱ目は印象的ですよね! 黒目がちなのが引き込まれそうっつーの? アイドルとして人気あるのも分かるなぁって納得しますわ。あーあと、そですね、詳しくないんすケド肌も綺麗なんじゃねーかな? パッと見て、おっ、て思いますもん。まー何より滲み出る人柄? みてーなのが……あ、でもこれは綺麗っつーより可愛らしいって感じですケド」


「……ふぁぁぁぁ!!」


 煙を出しそうな勢いで顔を真っ赤にした口裂け女は、外そうとしたマスクから手を離した。

 ぶんぶんと顔の前で振り始める。


「え? サッキーさん? 大丈夫っすか?」


「や、やめてぇ……! もういいです、も、十分ですぅぅぅ……!」


「秀殿はタラシであるな」


「テンさん!?」


「秀さん、ハウス」


「凛花ちゃんまで何言ってんの!?」


 無自覚だというのだろうか。だとすれば恐ろしい男だ。

 凛花にはどうでもいいことだけれど。


「うう……本当は自分の顔と、あと男性への耐性に自信がないって言いたかったんだけど……」


「少なくとも男性耐性についてはよく分かりました」


 というか、本題はそこではないのだ。


「とにかく、あなたには聞いておきたいことがあるんです」


「え……? 私の追っかけじゃなかったの?」


「違いますよ!?」


「ポマード持って迫ってきたからてっきり……そういうプレイを強要されるのかと……」


「そんな変態じみたことやりませんよ!」


「まーまーまー」


 口裂け女の脳内妄想に任せていたらとんでもないことになる。

 思わず食ってかかると――「ひぃ!」と叫んで震え上がられたのでこちらが悪者な気分になる――秀が間に割って入った。

 彼が間に立つと、背丈がそれなりにある分、凛花と口裂け女は互いに見えなくなる。


「まーほら、ビックリさせちゃったのは確かだからさ。あ、一応自己紹介なんすケド、オレ、えーと……【シュウ】って言って伝わります?」


「シュウ……?」


「多分ツブヤイッターでサッキーさんとは相互フォロワーなんすケド。んー、サッキーさんはフォロワー数多いし把握してないかも?」


「……え、もしかして、あの!? あのシュウ君!?」


「うはは、あのシュウかは分かんねーっす。とりあえずアイコンはこれなんすケド」


「……! 握手してください!」


「ぶは、ちょ、顔上げて」


「ていうかアイドルはあなたの方なんじゃ」


「言ったろう、秀殿はその界隈じゃ有名だと」


「どの界隈ですか」


 平伏しそうな勢いで手を差し出してきた口裂け女に、三者三様反応を返す。

 この秀という青年は妖怪の間で一体どのような存在になっているのだろう。

 凛花としては驚くと共にドン引きしそうになる。


「ちなみにこっちの可愛い子が凛花ちゃん。女子高生」


「ど、どうも」


「こっちのイケメンは天狗のテンさん」


「お初にお目にかかる」


 凛花と天狗が頭を下げると、慌てて口裂け女も頭を下げてきた。

 妖怪相手に和やかに自己紹介だなんてシュールだ。

 どうも調子が狂う。


「んで、ビックリさせたお詫びついでに、凛花ちゃんも言いましたケド聞きたいこともあるんで……この先のパフェ屋で休憩しながらお話、っつーのはどうっすか?」


「「えっ」」


 声を上げたのは、凛花と口裂け女、同時だった。


「ま、まあ……私は、その……大丈夫、だけど……」


「……私は手持ち、ありませんよ」


 学校帰りで、普段は寄り道などしない。

 ましてや妖怪たちとパフェを食べに行くだなんて考えもしなかった。

 所持金は無いに等しい。

 だが、表情を暗くする凛花に対し、秀はあっさりと笑ってのけた。


「ふは。まーまー」


「まぁまぁで何でも済むわけでは……」


「パフェくらいならお兄さんが奢っちゃるって。これでもバイトしてるんだし」


「……!」


「凛花ちゃん?」


「あ、」


「ん?」


「あなたが神か……っ」


「ぶはっ。ちょ、なになに、凛花ちゃんキャラ違うんだケド」


 秀が思い切り笑い飛ばしてくるが、構わない。

 今ではその煩わしい笑い声さえ美しい神の御声に聞こえてくる――は、言い過ぎだが。


「そうと決まればさっさと行きましょう。善は急げ、時は金なりです」


「凛花ちゃんぐいぐい来るね!?」


「さあ行きましょう。さあ! もたもたしてられませんよ!」


「分かった分かった、ちょ、引っ張んないで!」

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