12 夜更けのこと
最近は日が高くなったとはいえ、時間が遅くなればそれも意味はない。
しかもこんな雨が降る夜ともなれば尚更だ。
塾の帰り、人気の少ない緑道の中、少女は足早に家路を急いでいた。
いつもなら母親が迎えに来てくれるが、今日はたまたま都合が悪かった。
どうせ帰るだけだしと深く考えていなかったが、こうして一人歩いていると――何だか少し落ち着かない。
すれ違う人もほとんどいないというのに、ちょっとした物音にも過敏に反応してしまう。
数少ない電灯も、手入れが不十分なのか不規則に点滅中ときたものだ。
足早に進んでいるが、跳ねる水に嫌でも気分が落ちていく。
――あーあ。
自意識過剰だ。そう思う。
それでも、怖いものは怖いのだ。
一度意識してしまえば尚のこと。
それもこれも、頭をクタクタに使った後で慣れないことをしているからだ。
早く帰ってマンガを読もう。
続きが気になっていたのに、テストが近いからと途中で取り上げられてしまっていたのだ。
母が隠している場所は分かっている。
こっそり布団の中で読んでやる。
今日はこんなに遅くまで頑張ったのだ。それくらいは許されるはずだ。
そんな決意にさらに足を速め――。
「! ……あ」
一瞬、暗がりに人影が見えた。
そう思いビクリと肩が跳ねた。
硬直する。
(……って)
よく見るとそれは単に木々の葉のようだった。
無意識に速くなってしまった鼓動を抑えつけるように、ほうと息をつく。
「もー……」
ダメだ。相当疲れている。
というか、大袈裟な反応をしてしまった。
恥ずかしい。
心なし頬が火照ってしまった気がする。
(誰かに見られていないよね?)
少女はきょろきょろと周囲を見回し――。
目の前に現れた青白い顔に、悲鳴を上げることすら忘れてしまった。
赤子が泣いた、気がした。




