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10 小さな箱は姦しく

 ちりりん りりりん

 涼やかな音が風と共に吹き抜ける。

 その心地良さを邪魔するかのごとく、小さな箱からはひっきりなしに電波に乗った音が流れ込んでくる。




『最近起きている行方不明事件……神隠しとも言われていますが、まだ続くのでしょうか』


『女児という以外、共通点が見られませんからな。何とも言えないところですが……警戒するに越したことはないでしょう』


『初めは赤子ということでしたが』


『どこからが始まりなのか、という議論もあるようですがね。時期と場所を考えると、確かに一ヶ月前の赤子が始まりとする説が濃厚でしょうな』


『次に二歳、そして五歳、七歳と続いていますね』


『小さい子はもちろん、学校帰りの子たちにも気をつけていただきたい』


『一部では本当に神隠しなのではないかという話まで出ていますね』


『馬鹿げているとは思いますが。ただ……風刺という意味では、もしかすると近いものがあるのかもしれませんな』


『というと?』


『例えば、隠れ婆という妖怪がいます』


『隠れ婆、ですか』


『隠し婆とも言いますな。隠れ婆、または隠し婆は、夕方にかくれんぼをして遊んでいる子供をさらってしまうという。しかしまあ、そもそも夕方にかくれんぼをしている子供というのは、元々人攫いに遭いやすい。昔なら尚更です』


『人攫いが、隠れ婆――妖怪として伝えられるようになったと?』


『戒めとしても使われていたようですよ。遅くまで遊んでいると隠れ婆にさらわれるぞ、と。まあ、妖怪に限らずに言えば似たような言い回しは色々あります。雷におへそが取られる、夜に火遊びをするとおねしょをする、食べてすぐ寝ると牛になる』


『迷信の類いでよく聞きますね』


『それらはやはり戒めとセットなわけで。そういったていのいい存在としての役割はあるのでしょうな』


『それが現代でも言われるというのは、やや皮肉ですね』


『そうですなぁ。それから……例えば、産女うぶめという妖怪をご存知でしょうか』


『赤ちゃんを抱いている、あの?』


『そう、それ。あれは妊婦の妖怪なんですな。死んだ妊婦をそのまま埋葬すると、産女になる。夜道に現れ、子供を背負ってくれと頼み、逃げた者は祟られるというわけで』


『よく聞く怪談ですね』


『あれは母親の強い怨念が妖怪になったとされる。今回の事件も産女のせいとは言いませんが……執拗に女児を狙うという点では、そのような怨念じみたものを感じさせますね』


『母親の怨念、ですか』


『あくまでも例えば、ですが。現状では分からないことばかりですからなぁ。ただ、そうそう、暴れた形跡はあまり見られないとされているとか。小さな子たちばかりなので単純に抵抗できなかっただけかもしれませんが』


『しかし中には血痕があったという話もあるようですが』


『いずれも被害者の血ではないことが明らかになっていますから。少なくともその場で女児が怪我をさせられたというわけではないでしょう』


『一体誰の血なのでしょうか……』


『そういったところも妖怪のせいだと言われる一因なんでしょうな』


『困ったものですね。子供たちの無事を祈るばかりです』




「ふぅん」


 九尾の狐は、頬杖をついて欠伸をかみ殺した。

 テレビではまだダラダラと話が続いている。

 意味があるようでいて、現状を並べただけのつまらない話だ。


「怖い世の中だねェ」


「コンが、言うの、変」


「んふふ。あたしだってか弱いレディさ」


 ちりりん りん


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