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雨と猫と最初の約束

作者: 明星

ノリと勢いで続編作りました。

良かったら読んでください。

挿し絵入れようかと思って調べたらよくわかんなかったので諦めました。(震え声)

でもせっかく友人が描いてくれたのでpixiv辺りに載せようかと思ってます。

って事で載せました。↓

http://touch.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=55169428

 僕がマレアと出会ってから、もう4年経っているらしい。4年前、僕は何をしていただろう。

 あの時僕はまだ3歳で、今よりももっと何も知らなかった。今も知らない事が多いけど。

 いつもお母さんの後ろをついて回っていた気がする。今もだけど、すごくお母さんっ子だったんだ。

 そう。あの時も雨の日で、お母さんと買い物に行ってた。お気に入りだった、かえるのケロ太っていうキャラクターのカッパに長ぐつ。それと同じキャラクターの傘をさして。

 今思えば、全身みどり色だったんだな。川に住んでるカッパみたいだ。

 それでお母さんが八百屋さんで野菜を選んでる時に、たまたま路地に入っていくねこを見た。

 いつもは気にならないのに、そのねこだけは気になって。

 僕は気付いたらそのねこを追って走り出していた。

「まひるっ? どこに行くの!?」

 お母さんの声が聞こえていたけど、聞こえないフリをした。

 だって今追いかけなきゃ、あのねこには二度と会えない気がしたから。

 ねこを追って路地を左、右、左、真っ直ぐの順番に進んだ。その先には、見た事がない大きな家があった。

 ドアにはプレートがかかってあった。

「まれあの……? よめにゃい……」

 かろうじてカタカナとひらがなは読めたけど、漢字なんか1つもわからなかった。

 恐る恐るドアに近づいて、コンコンとノックした。

 中から、「…誰……?」という声がしておどろいた。2センチくらい地面からういた気がする。

「だ…、だえかいゆの……?」

 カタンと音がして、ドアが動いた。目の前にあるドアではなくて、足元の小さなドアが。

 そこから出てきたのは、さっき見たねこにそっくりな黒いねこだった。

「にゃんにゃん……?」

「にゃー……、じゃないし。あんた誰?」

「しゃべった……!」

  ねこが喋るなんて思わなかったから、僕はまたびっくりして飛び上がった。

 そんな僕を見て不愉快そうに尻尾をバシバシ地面に叩きつけながら、そのねこは不愉快そうに喋りだした。

「なに? 猫が喋っちゃいけない訳? 失礼な子供」

「にゃんにゃん、しゃべゆの……?」

「というか、にゃんにゃんって名前じゃないんだけど……」

 呆れたような言い方でそのねこは喋った。

 あの時、ねこは全てにゃんにゃんと呼んでいた。ねこって単語を知らなかったから。

 そう、これがマレアと初めて会った日だ。あの時はまだ、マレアは僕の事をいやがってた。

 でも僕はこりずにまた、マレアのところに遊びにいった。雨の日にしか会えないっていうのもこの時に知った。

 でも僕はなんで、館までの行き方を覚えていたんだろう。不思議だ。

 何回か会いに行って、いつも遊んでもらえなくて。もう仲良くなるのをあきらめようかなって思い始めた頃にマレアは僕に近づいてきてくれた。

「にゃんにゃん…、あしょぼ…?」

「だからにゃんにゃんじゃないって……。……君の名前は?」

「まーくん? まーくんね、まひるなの」

「まひるね……。そう、わかった」

 マレアは僕の名前を聞くだけで、自分の名前は言わなかった。

 それでも僕はマレアが話しかけてくれた事がうれしかった。

 マレアにとびついて、ぎゅーっとするとおどろいたみたいで、いっしゅんマレアが腕の中でびくっとなった。

「にゃんにゃんーっ」

「ちょ…っ、だからにゃんにゃんじゃないってば! はぁ…、もう、しょうがないなぁ……」

 マレアはあきらめたように尻尾で僕の足ぺしぺしたたいた。

 そしてぽつり、寂しそうにつぶやいた。

「もう…、誰とも関わるつもりなかったのに……」

 マレアは昔、だれかといっしょにいたらしい。その子がいなくなってから、だれとも会ってなかったのに、と言われた。

 だから、だったら僕はマレアの前からいなくならないよって約束した時は、うれしそうに尻尾がゆらゆらしていた。

「ねー、にゃんにゃん。にゃんにゃんのおなまえは?」

「え? ……マレア。マレアだよ」

「まれあ…? あ、ぱたぱたにつぃてたなまえ」

「ぱたぱた……? あぁ、ドアの事か。そうだよ」

 マレアは小さい僕のわかりづらい言葉を理解して答えてくれた。

 ーーーマレアはずっと優しかった。僕がなにをしても怒らなかった。やりたい事をやらせてくれた。

 でもそれって、マレアはいやじゃなかったのかな。…めいわくしてなかったのかな。

 マレアにいやだって言われるのが怖くて聞けずにいるけど。

 マレアの優しさに甘えてしまってもいいのだろうか。マレアはいつかいなくなるかもしれないのに。

 前に本で読んだ。ねこと人では生きる長さが違う事。ねこの方が先にバイバイをしてしまうと。

 そんなのいやだ。バイバイは僕が一番きらいな言葉だ。不透明なその言葉を受け入れられるほど、僕はまだ大人じゃない。

 早く大人になりたいとは思う。でも大人になんかなりたくないとも思う。

 大人になってしまったらマレアに会えなくなる。だってここは、子供だけの場所であり楽園なんだから。

「まひる、何して遊ぼうか」

「うーん…、おひるねするの」

「昼寝? まぁ…、いいけど」

 温かいカーペットの上で横になると、マレアもタオルケットを持って隣に来てくれた。タオルケットを体にかけて、僕よりもほんの少し小さなマレアの体をぎゅっとして目を閉じる。

 温かいマレアの体は、抱きしめていてとても安心した。

 マレアはきっと僕よりも年上だ。だからかな。お母さんといる時みたいに安心する。

 そのぬくもりを感じながら、僕はねむった。ふわふわとした夢はおぼえてないけど、とても幸せだった事はおぼえてる。

 マレアもそんな夢をみてたらいいのにな。

 ―――どれくらいねてたんだろう。

 外が暗くなりはじめてる。ここに来た時よりも落ち着いた雨は、パタパタと音をたてて「もう帰る時間だよ」と言っていた。

 マレアに会えるのは雨の日だけだから、今度いつ会えるかなんてわからない。テレビの天気よほうなんかウソしか言わない。

 帰りたくないってわがままを言う僕に、マレアは優しく言った。「大丈夫だよ」って。

「まひる、泣かないで。また遊びにおいで」

「やだぁ…、ひっく……、バイバイきらいぃ……っ」

「まひる…、大丈夫だから。絶対また雨は降るから。ね? 今日はもう帰りな」

 それでもいやいやと首をふる僕を見て、マレアはため息をついた。

 マレアがおこったと思った僕は、びくっとして小さく「ごめんなさい」とつぶやいた。

 そんな僕のおでこに手をおいて、マレアは優しく言った。

「しょうがないまひる……。怒った訳じゃないから謝らなくていい。そんなに帰りたくないなら……、そうだなぁ。雨の日が好きになるおまじないをしようか」

「おまじ…ない?」

「そう。おまじないをしたら絶対また会える。だからまひるも帰るのが嫌にならないでしょ? 嘘なんかじゃないよ。猫はね、人間と違って嘘は吐かないんだ。……ねぇ、まひる。それでいい?」

「ほんと……? またあえる…?」

「ほんとだよ。まひる、信じて」

「ん……、わかった……」

 マレアのぷにぷにしたにくきゅうが気持ちよかった。マレアはまた優しい声で言った。大丈夫だよ、と。

 それから琥珀色のきれいな目を僕の目線に合わせて目を閉じた。

 マレアの優しい言葉で、今では当たり前になったおまじないをつぶやく。

 その約束は、僕の心を幸せにしてくれた。

 “会えなくなる日まで”

 たぶん、そんな気持ちを込めてマレアは言ったんだろう。初めて聞いた時のその言葉は今とちがって、悲しそうな色をしていた。

「また雨の日においで。約束」

 泣きすぎて赤くなった僕の顔を見て、マレアはクスクス笑った。

 流れる涙はマレアのざらざらした舌でなめられて、その部分だけ赤くなる。

「いたいよ、まれあ…」

 僕がふまんげにつぶやくと、マレアは赤くなった部分に顔をすりよせてきた。

 ふわふわしたマレアの毛は、温かくてすごくくすぐったかった。

 僕はマレアを1回ぎゅっとして、立ち上がる。カッパを着て、長ぐつをはいて、ドアを開ける。

 傘を手に持ってからふり返って、「またね」と言った。

 マレアの尻尾がゆらゆらしているのを見てから傘を開いて歩きだす。

 もう一度ふり返るとそこには、コンクリートの壁しかなかった。近づいてたたいてみても、ぺちぺちと音がなって、てのひらがいたいだけ。

「はやくかえらなきゃ、おかあさんにおこられう……」

 マレアに会いたいけど、お母さんに怒られたくない。目の前に出てきた壁の事は気になるけど、しょうがない。

 水溜まりをバシャバシャ音をたてながら走って家に帰った。

 大丈夫。マレアが約束してくれたから。また会える。また遊べる。

 明日雨、ふらないかな。そしたら、マレアに会えるのに。

 ウソつき天気よほう。きたいしてるよ。今度はほんとの事教えてね。




 ずっとずっとずっと。僕は雨がふるのを待ち続ける。

 それが僕の、楽しみだから。ーーー大人になって、会えなくなるその日まで。

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