捜査に向けて
話がまとまったところで、安藤さんをナガレボシで待たせて宮沢がどこかへ電話をかけ始めた。どうやら電話の相手に服やら化粧道具やら男装に必要なものを持ってきてくれるようお願いしているようだ。
今日ここに来るまでも視線を感じていたという話だったので、今日の帰りから宮沢が付き添うことになっている。
電話を終えた宮沢が不機嫌そうにこちらを向いた。
「今回はサポートだって言ったのに、これじゃ私がメインじゃない」
「仕方ないだろ。安藤さんにムリさせるわけにいかないし」
俺がそう言うとジトっとした視線を向けられたが、フンと鼻を鳴らした後にとんでもないことを言い出した。
「仕方がないから今回は私が対応してあげるわ。ただそうなるとバカの仕事がなくなっちゃうから代わりの仕事をあげる」
「自然にバカって呼ぶのどうかと思うぞ?」
「私が男装するかわりに、あんたは女装して男装した私のストーカーをしなさい」
「…………はい?」
意味がわからない。
「ちょっともう一回言ってくれるか?」
「一回で聞き取りなさいよ。だから、私が男装するからあんたは女装して私のストーカーをしろって言ってんの」
「聞き間違いじゃなかった! 意味わかんねーよ!! 何のプレイだよ!?」
「プレイとか言うな変態! 犯人が出てこなかった時のために離れたところから周りを探れって言ってんのよ!」
「ならそう言えよ! 女装する必要もないだろ!!」
「何言ってんのよ? 男がストーカーしてたら犯人に安藤さんのストーカーと思われて下手したら刺されるわよ?」
「クソ正論すぎて心配以上に面白がってるのがわかるのに拒否出来ない」
「少しは私の気持ちがわかったかしら?」
勝ち誇ったような顔をする宮沢にその通りすぎて何も反論できない。
が、無駄とわかっていても悪あがきさせてくれ。女装でストーカーとか何の罰ゲームだよ!?
「女装とかやったことないし。無理があるし」
「高校。演劇部。姫」
「なんで知ってんだよ!?」
「文化祭舐めてんじゃないわよ」
「見に来てたってことか!? 声かけろよ!」
「……なんでわざわざ声かけなきゃいけないのよ」
「そんなのせっかく来てたんなら会いたかったに決まってるだろ」
「ば……っっっかじゃないの!?」
真っ赤な顔で宮沢が絶叫した。うん、変わってないな。わかりやすい。
俺は宮沢が俺のことを好きなんだろうということに気づいている。これでもそこまで鈍くはない。
別にわかっててスルーしている悪い男のつもりはなく、俺なりに宮沢のことはちゃんと考えている。
好きか嫌いかで聞かれたら間違いなく好きだし、もし告白してくれたなら付き合いたいと思うくらいには俺にとって宮沢は大切だ。
しかし同時に照れ隠しのあの攻撃を日常的に受け続けなければいけなくなると考えると、どうしても自分から動くことは憚られる。決してヘタレなわけではない。
そんなわけで、俺と宮沢の関係は宮沢次第なのだ。




