事務所にて
*no side*
「所長、ちょっといいですか?」
「うん、いいよ。何?」
ナガレボシで和泉と会った翌日、恭子は約束通り藤に話を切り出した。
「私の知り合いがここで働きたいらしいんですけど」
「ほんと? どんな人?」
「えぇと……就活全滅するくらいにはバカです。けど勉強はできないけど頭が悪いわけじゃないと思います。あとバカ正直で全部顔に出るから嘘がつけないですけど、役者に憧れて演劇部に入ってただけあって、役になりきることは得意です。それからバカみたいに見えるので、人に警戒心を与えないというか、人と仲良くなるのが上手いというか、人誑しというか……」
「なるほど?」
質問に対して最初こそ何と説明するか口籠った恭子だったが、その後はつらつらと止まらず言葉を紡ぐ様子に藤は意外そうに眼を瞬いた。
「ちなみに恭子ちゃんとの関係は?」
「幼馴染の同級生です」
「男の子?」
「……そうです」
「彼氏?」
「違います!!」
「じゃあ好きな人だ」
「違います!!」
恭子は反射的にそう返したが、スッと細められた藤の目を見てすぐに苦々しげに顔を歪めた後、片手で目を覆って俯きため息を吐いた。
藤は極端に嘘を嫌う。そして、本人曰くどんな些細な嘘でも見抜けると言う。
恭子は最初それを信じていなかったが、嘘をつく度に悉く看破されたため、藤に嘘をつくことは出来ないと理解した。
「最悪……ほんっと最っ悪……!」
「まあまあ。別に誰にも言わないから」
そういう問題ではないと恭子が恨めしく睨みつけても、目の前の男はにこりと微笑んだだけだった。
「それで嘘に対するペナルティなんだけど」
「えっ!?」
「え? 当たり前でしょ? オレに嘘をついたらペナルティ。例外はないよ」
「あんな奴ほっとけば良かった!」
踏んだり蹴ったりな状況に恭子は足を踏み鳴らしながら叫んだ。同時に今度バカに会ったら絶対殴ると心に決めた。
「心配しなくてもそんな難しいことは言わないよ」
そうだなぁ、と言いながらあごに指を当てて楽しそうに考える藤の姿に、恭子もまぁ流石にこんなことで大したことは言われないだろうと投げやりに次の言葉を待った。
「そうだ! その彼への連絡はオレからする、そして面接の間は君は口出ししない。それが今回のペナルティ。いいね?」
「わかりました」
「どうせなら面白くしたいよねー」
楽しそうに面接の内容を考える藤に、恭子は和泉に対しざまあみろと胸中で鼻を鳴らした。完全な八つ当たりである。




