宮沢恭子
宮沢と俺は、いわゆる幼馴染みというやつだ。家が近所で、小、中と同じ学校だった。彼女は根はやさしいのだが、意地っ張りで人見知りのため、小さなころはよく周りから誤解されていじめられていた。そんな彼女を俺の祖父母も気にしていて、俺は男の子なんだから守ってあげなさいと言われていたため、単純で祖父母が大好きだった俺はいつでも彼女を守れるようにいつも一緒にいた。
ただ、それは本当に小さかった頃の話。彼女は俺に守られてばかりなのが不満だったようで、小学二年生のころから空手を習い始め、小学四年生の頃には自分をいじめた子たちを一人残らず返り討ちにできるようになっていた。ちなみに彼女の空手の一番の被害者は俺である。照れ隠しで繰り出される凶悪な攻撃を受けて育ったため、打たれ強さと反射神経は随分と鍛えられた。
それから中学生にもなると、男女ということで周りの目を気にするようになり、次第に一緒に行動することは無くなった。そして学力に天と地ほどの差があった俺たちは当然同じ高校に行くわけもなく、家が近所なのにも関わらず中学卒業以来一度も会わなかった。
「おはようございます、菜摘さん」
菜摘さんに挨拶を返しながら近づいてくる宮沢から目が離せないでいると、視線を感じたのであろう彼女が俺を見て、目が合った。
あ、まずい。
幼少の頃の経験でそう判断した俺は、咄嗟に座っていた椅子から飛びのいた。振り返ると、真っ赤な顔をした宮沢の放った上段蹴りが、先ほどまで俺の頭があった位置に繰り出されていてぞっとした。
「ひ、久しぶり、宮沢」
「……なんでバカがここにいるのよ」
久々に会った幼馴染みは相変わらず照れ屋で凶暴なようだったが、赤い顔に僅かに隠しきれていない嬉しそうな表情を見つけて、思わず俺も嬉しくなって笑ってしまった。彼女は確かに強くなったし、もういじめられてもいないのだろうけど、今でも俺にとっては守ってあげたい大切な幼馴染みには変わりはないのだ。
「そうだ! 和泉くん、さっきの話、恭子ちゃんに頼んでみたらどうかしら?」
「……あー……」
「さっきの話?」
それまで俺たちの様子を微笑ましく見守っていた菜摘さんが、にこにこと笑顔で提案した。確かにそうしたいのは山々だが、その場合就活全滅というカッコ悪すぎる話もしなければならなくなるわけで、そこはあまり知られたくないなぁなんて思うわけで。
「和泉くん、就職できなかったんですって。だから、藤くんのとこで働かせてもらえないかしら? 確か人手が欲しいって言ってたわよね?」
俺がうだうだ悩んでいるうちに、菜摘さんはあっさりとばらしてしまった。悪気はないのはわかっているが、宮沢の可哀想なものを見る目が痛い。
「……ほんとに働く気があるんなら所長に聞いてみるけど、どうする?」
「お願いします」
ものすごく情けない気持ちになったものの、生きるためには仕方がない。後日連絡するからと宮沢と連絡先を交換した後、よかったわね、ととても嬉しそうに言ってくれた菜摘さんに見送られて帰宅した後、俺はようやく何の事務所なのか聞いていなかったことに気づいたのだった。




