一件落着?
「二度と和香子に近づくんじゃねーぞ」
「ハイ…………」
宮沢の脅しに辛うじて返事を返した男はまるでボロ雑巾のようになっている。
確かに宮沢は正当防衛ならボコボコに出来ると言っていたが、明らかな過剰防衛じゃないだろうか。
まぁ安藤さんの彼氏ヤバイって思わせる為にはこれくらいで正解……ということにしておこう、うん。
しかしそれはそれとして、ボコボコにされてぴくりとも動かない男を見ていると、普段宮沢にサンドバッグにされている身として、ついでに俺を突き飛ばしたことによって2、3発増えてしまったダメージのことを思って少し同情してしまった。
だからつい、そんな行動に出てしまったのだ。後悔ならめちゃくちゃしてる。
「あの、大丈夫ですか?」
俺は男の側にしゃがみこんで声をかけた。
男はゆっくり視線を動かし俺の顔を見たが、その目には生気がない。
「私、今ので恭太郎さんがどれだけ彼女さんのこと大切にしてるかが良く分かりました。こんな私を助けてくれるなんてやっぱり優しいなって思いましたし、まだ好きですけど……好きだからこそ彼の迷惑にならないようにキッパリと諦めようと思います。私に先に進むきっかけをくれて、ありがとうございました」
そう言ってにこりと笑いかけた俺を見て、それまで黙って話を聞いていた男がヨロヨロと身体を起こした。
(わかる。宮沢のダメージって慣れてないとけっこー長引くんだよな。めっちゃわかる。俺もそうだった)
流石にストーカー男に手を貸してやるほど親切ではないのでただ見守っていると、何とか上体を起こした男がじっとこちらを見たと思ったら、がしりと俺の手を掴んできた。
「なっ、何……」
「いず子ちゃん、いず子ちゃんの優しさに俺は感動した」
「え、いえ、そんなことは……」
「酷いことをした俺に対してこんな優しい言葉をかけてくれるなんて……」
(あ、一応悪いことをしたって自覚はあったんだな)
「俺も今回のことで、彼女のことはキッパリと諦めようと思う」
「! そう、ですか。お互い辛いですけど、頑張りましょうね」
(言ったな!? よっしゃミッションコンプリート!)
諦めると決意したらしいからこれで依頼達成だな、と清々しい気分でいたのだが、話はこれで終わらなかった。
「良ければ一緒に頑張らない?」
「…………はい?」
「同じ痛みを味わった者同士、慰め合った方が早く立ち直れると思わない?」
「いえ、あの……」
「ねぇ、連絡先交換しようよ」
「えっと、その……」
「いず子ちゃんっていくつ? 俺は今21歳なんだけど、俺より年下だよね? もしかして高校生?」
「あの、えっと……」
(めっちゃグイグイ来るじゃん!! キャラ設定失敗した!!)
助けを求めようと宮沢の方を見ると、バカにしたようにフッと笑ってから安藤さんの手を引いて去ってしまった。チクショウ自業自得ってか!!
「恋を忘れるには、新しい恋をするのが一番だよ」
男がついにそんなことを言い出すもんだから全身にブワッと鳥肌が立った。
衝動的に男から手を奪い返し勢いよく立ち上がると、「失礼します!!」と叫んで俺は自己最速記録を更新するスピードで逃げ出した。




