修羅場
「ねぇ!!」
ホテルに入る前に2人に追いついた男は、安藤さんの肩をグッと掴んだ。
びくりと震えた安藤さんは振り向かなかったが、宮沢が鋭い目で男を睨み付けて掴んだ手を叩き落とした。
「何お前? 俺の彼女になんか用?」
その虫けらを見るような蔑んだ目で放たれた言葉に、俺は自分が言われたわけじゃないのに恐怖でぞくりと背筋が震えた。
それに対し、ハイになっているのか全く怯む様子のない男は安藤さんに向かってとんでもないことを言い出した。
「ねぇ和香ちゃん、和香ちゃんはこいつに騙されてんだよ。ねぇ見て、この子もこいつに口説かれてるんだって。和香ちゃんのこともキープだって言ってたらしいよ」
(言ってないよ!? 止めて!?)
俺は男の言葉に青ざめて咄嗟に男の腕を掴んだ。
宮沢は俺がそんなこと言わないって分かってくれると思うが、万が一それを信じて怒りの矛先がこっちに向いたらどうしてくれる!?
「わ、私そんなこと言ってない……! 私が勝手に恭太郎さんが好きなだけ……」
俺のセリフに宮沢が一瞬「恭太郎って誰よ?」って顔をした後、すぐに意味が分かったらしくじわじわと赤くなっていく。
(今そこに反応しちゃダメだって!)
俺は男に宮沢の変化がバレるのを防ぐため、更にぎゅっと男の腕を引っ張ったのだが、それが良くなかった。
男はギラギラとした目で俺を睨みながら「うるせぇ離せ!」と言って俺を思いっきり突飛ばした。
女の子(と思われてると信じたい)突き飛ばすとかマジでクズだなと思いながら衝撃に備えてぎゅっと目を瞑ったが、俺の身体は地面に叩きつけられることはなく、柔らかくて暖かいものに受け止められた。
目を開けて顔を上げるとそこにはぶちギレた宮沢の顔が。
(あ、あいつ死んだな)
俺を離して男にゆっくりと近づく宮沢の後ろ姿を眺めながら、俺は静かに男に手を合わせた。




