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女王の呪い  作者: 梨本裕
3/12

呪い師

 当時私は近隣諸国を渡り歩くことを趣味にしていた。訪ねた国々で得意であった占いで路銀を稼ぐことが常だった。

 放浪の旅は実に私を満足させた。新しいものに目がない私の性に合っていたに違いない。旅の趣味は思いの外長く続き、多くの国を練り歩いた。


 悪逆非道な女王が統べるという国にも足を踏み入れた。よくない国であっても、どのような国であるのか私の好奇心がくすぐられたからだ。

 その国の町並みを眺めて、なるほどと思った。他の国にはあった陽気さがこの国にはないのだ。

 国民の誰もが荒んだ国に対する期待を失い、生きる希望をなくしているからだった。通りすがる誰の目にも活気はなく、太陽ははっきりと出ているにも関わらず、始終曇りの天候であるような雰囲気ばかりだった。


 女王はいつまでこんなことを。道を歩いている時に聞こえた台詞だった。

 女王の愚行は国庫の浪費に始まり高利の税金、自分に甘い者だけに対していい汁を吸わせるなど、典型的な暴落する国家の王の形だった。

 何年後か、何十年後かはわからないが、この国はいずれお笑い草として語られることになるだろう。そしてこのような愚かな真似をしないよう、どの国も悪い例として掲げあげるはずだ。この国の民には可哀想なことだが、歴史の一部として悪歴も必要なことと思われた。



 その日も私はいつもの旅のように、宿代を手に入れるために手ごろな食堂に入って占いを始めた。

 水晶を取り出した私の姿が珍しかったのだろう、その食堂の客全ての注目を私は浴びた。一時の有名人の心地を味わえて痛快だった。路銀を稼ぐ程度にしか占いはしないが、これでも私はよく当たると評判の占い師だった。

 手始めにこの国のことを占ってみた。そこそこの客を観客にして鼻を高くし、占いを始めた。しかしその日は不調だったのか、すぐに占いの結果が出てくることはなかった。焦った私は無理に水晶の奥を覗こうとした。真実を覆い隠すもやを振り払いながら、奥に潜むものに懸命に目を凝らした。そうして水晶の霞が晴れるのを待ち、映るものを目にして

「うわぁああ!!」

 私はひどく取り乱した。


「こ、この国は呪われている!」


 占いの結果を叫ぶと、私は人目も気にせずひいひいと悲鳴を上げながらその国から逃げ出した。あんな国に数秒たりとも居続けたくはなかったからだ。

 あれほどまでに酷いものを私は見たことがなかった。思い出すのもおぞましい。あんなものがはびこっていては、国が崩壊するのも当然だ。

 とにかく私は逃げることに必死で、平静を取り戻せたのは国境を越えてからだった。


 あれから私は放浪の趣味を止めた。あんなものを見てしまったからには、もう気ままに占いをしながらの旅などできるはずがない。それからは占いも止め、まじないの方面で仕事を始めた。

 俗に魔導師が主とする仕事に適性があったのだろう、まじないで生計を立てることは困難でなかった。

 あの国の噂は極力耳に入れないようにした。国名を聞くだけで私も呪われるような気がしたからだ。

 素人は幸せだ。あの国に取り巻くものが一体何なのか、知る由がないからだ。知らない方が幸せとはよく言ったものだと私は卑屈に思った。



 ある日私の評判を聞きつけた国外の貴族から依頼が来た。国の外の私でも名を聞いたことがある有名な貴族だった。それは例の国の貴族なのだが、報酬が割高であったので、話を聞くだけでも聞いてみようという気になった。

 依頼は手紙で寄越された。細やかな模様が入った蝋は実に貴族らしい。表、裏とじっとりと封筒を眺めてから私は封を開けた。あの国はひどく疲弊していたのに、やはり貴族はよい紙を使用していた。


「うわぁあああああ!!」

 内容を読んだ私は叫んで手紙を投げ捨てた。迫り来る陰が恐ろしく、即行で断りの返事を出してからベッドに頭から潜り込んだ。


 依頼はかかった女王の呪いを解呪してほしいとあった。冗談でなかった! もうあの国とは二度と関わり合いたくない。触らぬ神に祟りなしというものだ。




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