町民の日記
雨月十七日
今日は何やら有名な楽団が、王様のために招かれたらしい。おかげで町は祭りじゃないのに、お祭り気分だ。今日もこの国は平和だ。
風月九日
路地裏のガキどもがまた売り物を盗んでいきやがった。次に見かけたらただじゃおかねえ。
風月十三日
奉公人が皿を割りやがった。今月に入ってもう三度目だ。あのどんくさいのはどうにかなんねぇもんか。
風月三十日
今月の売り上げは先月以上だった。ちょっとぐらいの贅沢なら母ちゃんも許してくれるはずさ。
花月二十二日
国王がご崩御なされた。城下はいつもの喧騒なんぞ嘘みたいに暗く沈んでいる。この国はどうなるのだろうか……。
収穫月十三日
相次いで王族が亡くなっていく。二の王子は戦で、皇太子と一の王女は病で、三の王子は権力争いのため暗殺されたとか。他にもいた王族も次々と死んでいった。
こんなことは言いたくないが、この国は呪われているのではないだろうか?
熱月六日
庶子である王女が即位なさるらしい。顔も知られていないし、まだ成人なされていないという。そんなお人が即位されて大丈夫なのだろうか?
葡萄月十四日
町で偶然にも女王様を見かけた。話どおりまだまだ幼かったが、美しいお人だった。将来が楽しみだってのは、ああいうことを言うのだろう。
雪月二十五日
女王の政治は酷かった。逆らった者は問答無用で斬首し、国民からは税を搾り取り、生活は困難を窮めた。
前の国王ならこんなことにはならなかったのに。
芽月十九日
うちの店に来た呪い師が占いをした。そうしたらどうした。呪い師のやつは水晶を覗いた途端、「この国は呪われてる!」なんて叫んで逃げていったじゃないか。呪い師の慌てぶりは可笑しかったが、この国が呪われている。巧いことを言うもんだと思った。
実月四日
この国で革命が起こった。もちろん俺も参加した。悪逆非道な女王は民衆の前で処刑された。
革命の指導者は女王に処刑された宰相の息子だった。次にこの国を治めてくれるのはきっと彼だろう。彼ならば腐敗したこの国を正してくれるに違いない。
葡萄月七日
指導者がとんでもないことを言い出した。王族の直系の血が途絶えたことを機に、自治を始めると言ったのだ。王政の廃止? そんなこと、国民の誰もが考えたことがなかっただろう。
草月三十日
民主自治は思ったよりもうまくいっている。町から代表者を出して、議会というところで今まで王がしてきた政策をしている。まだまだ難しいところもあるが、目先いい調子なんではと思う。こうなった今、王がいた意味があったのだろうかと考えてしまう。
――ある町人の日記より抜粋。