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仮面と鏡と王冠と  作者: 帝王星
世界の敵VS世界の敵
5/8

第4話

今回は少し短めです…by帝王星

 瑠禍が着替えたあと、俺たちは山脈を迂回し妖刀屋へ向かった。


 道中にてエンカウントする山賊、山賊、山賊、山賊、山賊、山ぞ(ry

 …いや山賊多すぎだっての!絶対狩りより地味にサラリーマンやってる方が稼げるって!しかも安全!

 その度に瑠禍が拷問やるから進めないんだけど!鋸で四肢切断とか勘弁してくれん?断面グロッキーだし…


 外はもうすでに暗闇だ。


「…なぁ、そろそろ俺眠くなってきたんだけど…」

「何言ってるの?これからが活動時間でしょ?」


 …この夜行性め!


「俺は朝方なんだっての…」

「役立たずだね」

「…つっこむ気力もねぇわ」


 欠伸を必死に咬み殺す。今はとにかく気力を使わないことだけに集中しろ。

 瑠禍は朝の気だるそうな様子から一変。元気100倍とでもいうようなテンションの上がりっぷりである。


「それにしても、愚かな人間が出なくなったね…残念」


 そんなに血塗れだから怖くて来れないんじゃないか?血臭すげーもん。


「足止め食らわなくて助かるだろ…」

「…」

「…俺の方見るな、今眠くて相手できん」


 まぁ、吸血鬼は夜にしか活動できないっていうし…俺みたいなピュアなフェアリーには真似できんのよ。


「つまらないね」


 …ん?

 …何か違和感がある。


 ふと後ろを振り返る。見たところなんの変哲もない森が広がっている。


「…何?」

「…いや、なんでもない」

「ふぅん」


 気のせいだろう。ともかく進むことにした。



 数時間前。


「…やはり、王族の秘術でしょうか…」


 足音を殺して歩きながら、彼…(カイ)は呟く。


「吸血鬼で陽の光を浴びても灰にならないなんて…」


 その緋色の双眸には思案の色。


「いえ、その代償はあるでしょう」


 監視している標的はゲートをくぐっていく。

 (カイ)もその後を追い、門番に通行許可証を見せてゲートをくぐる。

 出る瞬間に幻覚で姿を消し、森の中へ消えていく。



 夜中の10時。ようやく目的地に到着した。


「…」


 眠すぎて声も出ない。今すぐ布団の海にダイブしたい。


「こんばんは、夜遅くにすみません」


 瑠禍が玄関をノックし、中に声をかける。…眠い。

 すぐに玄関が開き、中から壮年の男が顔を出す。…眠い。

 …眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い!


「…そろそろ来ると思っていた」


 だから眠いって…は?


 脳が急速に覚醒していく。この男の言うことを整理すると…ここに来ることは予め知られていた?


「…おっさん、あんた…何者だ?」

「答えるほどの者でもない。しがない妖刀修理屋だ」


 …今は詮索してもしょうがないな。刕から受け取っていた妖刀を男に渡す。


「これの修理を頼みたいんだ」

「…ほう、これはまた懐かしいものを…」


 男は『勿忘草』を手に取り、旧友を前にしたかのごとく、嬉しそうに目を細めた。


「喜んで引き受けよう」

「ありがとうございます」


 …やはり、違和感がある。瑠禍は気がついていないのか、それとも気がついたうえで、知らないふりをしているのか。


「もうこんな時間だ。お前さんたちの都合がよければここに泊まっていくといい。修理もすぐ終わるわけではないからな」

「ありがとうございます」


 瑠禍が事務的に礼を言うが、その童顔も相まってサマになっていない。


「案内しよう」


 男は妖刀をしまい、俺たちに貸すらしい部屋へと案内する。

 廊下を進み、突き当たりの部屋の襖を開ける。和室だ。


「すまない、悪いが客室が一つしかなくてな…狭いところに詰め込む形になるが…」

「いえ、わざわざありがとうございます」


 …なーんて言ってはいるが、不満なのが表情にモロ出てるぞ瑠禍め。


「風呂には湯を入れておくから、もし必要ならば入るといい」

「何から何まですみません」


 俺と瑠禍は男に頭をさげる。男は照れ臭そうに手で制すると、苦笑いを浮かべながら部屋を去って行った。


「…瑠禍」

「…何?」

「たまには一緒に風呂入ろうぜ」

「…」


 俺の提案で、瑠禍は一瞬嫌そうな顔になり、それから裏の意図を察したのかため息をつく。


「…しょうがないね、それじゃ一緒に入ろうか」

「ん、サンキュ」


 念のため荷物に鍵をつけ、最小限の荷物だけを持って風呂場へ赴く。



“それで、わざわざこんな回りくどいことをしたのはなんで?”


 瑠禍は鏡に向かいながら髪を洗っている。俺はその隣で身体を洗っている。


“なにか違和感を感じる”


 俺は何でも屋の者にしか通じない暗号、目文字を使って伝える。

 瑠禍の目が細くなる。


“やっぱり、君も気付いてたんだね”


 …気のせいではなかった、ということか。


“僕が拷問して遊んでる時とか、ここに来てからも違和感を感じるね”

“俺たちを狙う人間か?”


 だが、気配は感じない。人間でこれだけ完璧に気配を消せるとなると、只者ではない。


 だが…俺が感じたのはそれだけではない。


“さぁね、誰であろうと殺すだけだけど”


 こいつは安定の平常運転のようだ。


“とりあえず、話したかったのはそれだけだ”


 話を切り上げておく。瑠禍は表情こそ変わらないものの、雰囲気から機嫌がいいのがわかる。


「…はぁ」

「…人の顔見てため息つかないでくれる?」

「いや、別に…」


 ふと後ろを振り返る。浴室のタイルの壁があるだけだ。

 …まただ、あの違和感。なんなんだ。


「…」


 瑠禍の瞳が細くなる。その眼差しが見据えるのは、俺が見ている浴室の壁だ。


「なんだ?壁に欲情でもしたか?」

「馬鹿言わないでよ、君じゃないんだから」


 表面上はいつもの他愛ないアホ話をしながら、俺たちは目文字で会話する。


“何かいる。見えないけど。確実にいる”

“そこの壁のあたりか?”

“うん、間違いない”


「ひでぇな、俺は壁に欲情したことねぇっての」


 一度妖力を薄く広げ、あたりを感知する。


「ふぅん、“どうなの?”」

「あー、もうつっこむ気力もねぇわ、“うん”そうですねー」


 …確かにいる。ぼやけてはいるが、生物であることは間違いない。


「早く湯船に浸かって上がろうぜ、眠くてたまんねぇよ」

「貧弱だもんね」

「違うっての…」


 素早く髪と身体を洗い終え、湯船に浸かる。少し熱めのお湯が疲れを癒す。


「…熱い」


 うぉぉぉおおい!水入れんなバカッ!ちょうどいい湯加減だろが!


 瑠禍が水をどんどん投入し、ぬるくなってしまった…


「何?文句ある?」

「…なんでもございません」


 …最悪だ。



 2人が去ったあとに佇む影が一つ。着物を着た男のようだった。


「…出てくるといい」


 男は何もいない空間に向かって言い放つ。反応は返ってこない。

 男の首筋に冷たい感触。


「珍しいことがこうも立て続けに起こるとは…」


 若い男の声が心底楽しそうに告げる。闇には緋い光点だけが輝いている。


「…あの妖二人を付け回して、何を企んでいる?」

「あなたには関係のないことです」


 突き立てられたナイフが薄皮を破り、血を流させる。


「まぁ、妖と知っていながら始末しないあたり、あなたも『人外の者共』なのでしょうが」


 着物姿の男…妖刀修理屋の男は何も答えない。


「どのみち、今はあなたに用はありません」


 その声を合図に、妖刀修理屋の男の体に衝撃が走る。


「ぐっ…何、を…?」

「もう大人も寝る時間ですよ」


 薄れゆく意識の中、妖刀修理屋は相手の顔を見上げた。


 闇に光る緋い双眸、月光に照らされる冷たい微笑み。背後には異様な存在感を放つ“何か”があった。


「ではまた」


 その声を最後に、彼の意識は闇に沈んだ。


―5話に続く―

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