01-03 さあ―――チュートリアルを始めよう
飛行船がアースに着き、俺は飛行船専用の駅に降り立った。
駅は大きい桟橋のような形になっており、木の足場の先にたくさんの飛行船が停泊している。
そして足場は浮いており、下に雲が見えている。
きれいな景色を一通り見渡してから、俺は駅を出ることにした。
しばらくして、駅からすぐ近くの広場に到着。
広場にはたくさんの新規プレイヤーたちで混み合っていた。
「とりあえず、街を散策したいな」
「街中を見て回りたいのかい?」
男の人の声がした。
声がした方を振り向いてみると、茶髪の人が好さそうな人族の男性がいた。
振り向くと同時に視界の隅でアイコンが点く。そのアイコンは「 ! 」の形をしていた。
(この人はNPCか……)
何故その人がNPCだとわかったか。
それは、この Sky Field Online でNPCが反応したりといった、特定のシステムの行動にアイコンが反応するようになっているからだ。俺はその表示で見極めることができた。
ちなみにアイコンは多数の種類があり、先程のようなNPCと対話しているときの「 ! 」や、敵がこちらを認識しているときの「 Enemy! 」などがある。
「俺がこの街を案内してあげようか?」
と、今度は「 ? 」のアイコンが出た。このアイコンはクエスト発生の合図だ。
目の前にクエストの内容が書かれたウィンドウが出る。
《Quest》
「 初めての探検 」
おや、見たところ君は旅人になったばかりのようだね。
もし君が良ければこの街の周りを案内するけどどうだい?
クエスト達成条件:案内人に連れられてこの街の周りを巡る。
クエスト報酬:500フォグ
※このクエストはチュートリアルです。
(チュートリアルか……、面白そうだからやってみようかな)
少し悩んだ結果、受諾することにした。
「はい、案内して欲しいです。ええと、名前は……」
「ああ、俺の名前はシュードって言うんだ」
「じゃあシュードさん、案内お願いします」
「わかった!じゃあ、他にも案内する人がいるから三分後に案内を始めるよ。向こうに君と同じように初めて来た人がいるから、一緒に待っていてくれないかな?」
話しかけてきた男性―――シュードさんの指す指の方向を見る。
既に二十人ぐらいプレイヤーが集まっていた。
「……えと、もしかしてあの人たちも一緒に案内するんですか?」
「うん、皆初めてこの街に来たような表情してたからね」
「シュードさん、あなたいい人過ぎますよ……」
三分後。シュードさんは言葉通り、クエストを受けたプレイヤーにこの街を案内し始めた。
この街はアース最大の街にしてアース周辺に勢力を持つエンプティネス王国の首都、王都アースリル。
王都の中心には大きく美しい城がそびえ立っており、その周りにはたくさんの店や家が立ち並ぶ。
今現在アースリルはアースで一番活気のある街だ。
「ここでは武器を買うことができるんだ」
とある店の前でシュードさんは言った。
店の看板には大きく「 武器屋 」と書かれ、中にはたくさんの武器が飾られている。
「護身用にここで買っておいた方がいいよ」
途端にプレイヤー達は武器屋に群がった。
いや、皆さん行くの早いですって。どれだけ武器が欲しいんですか。
「……まあ、俺も武器が欲しいから加わろうかな」
結局俺もその集団に加わり、武器を買うことにした。
「いらっしゃい、どんな武器が欲しいんだい?」
武器屋に入ると黒髪の店の中にいた黒髪の女性に声を掛けられた。
彼女がこの店の売り子らしい。
「とりあえず俺でも装備できるものが欲しいです」
「了解。その要望だったらこれぐらいの武器だね」
すると俺の胸あたりでウィンドウが開く。
ウィンドウには一種類の剣が映し出されていた。
<木剣>
木で作られた剣。よく剣の稽古に使われる。
切れ味は無いが叩かれると痛い。
値段:300フォグ
「始めたばかりだったらこんなもんだよね」
味気のない木の剣だった。
だけどその武器しか装備できないので、躊躇わずに購入ボタンを押す。
もともと持っていた500フォグ(フォグはこのゲーム内での通貨)から300フォグが払われ、代わりに木剣を手に入れた。
「お買い上げありがとうね」
購入が終わると黒髪の売り子は間伸びした声を出した。そして他の購入に来たプレイヤーのもとへ去って行った。
武器は買ったのでシュードさんのところへ戻る。シュードさんは一人でプレイヤー達皆の買い物を待っていた。
「シュードさん、武器買ってみました」
「お、良い武器じゃないか。早いかもしれないけれど装備してみたらどうかな?」
「わかりました、じゃあ早速メニューを開いて……」
「メニュー、と言えばメニューが出るからね」
「……シュードさん、メタいですよ!?」
意外にもシュードさんはこの世界の理を知っていたようだ。
言われたとおりにメニューを開く。
視界の視界の真ん中あたりに幾つかの項目が出現した。
「ステータス、アイテム、キャラクター情報……装備。あった、これだ」
探していた選択肢を見つけ、すぐに装備する。
機械質な輝きと共に、腰に木剣が括り付けられた。
腰に木剣の本差。俗に言う侍スタイル状態である。
「き、君、その姿はもしかして……NINJAかい?」
「いえ、SAMURAIです。ってNINJAのところだけ発音が流暢なのは何故なんですか!?」
シュードさんは武士道を勘違いしているみたいだった。
いや、確かに似てるけど。どちらも刀持っているけど。
街中は一通り案内してもらい、今俺たちは街の外れに来ていた。
街から少し抜けただけの場所なのにも関わらずそこは平原と呼んでもいいところだった。
平原へ続く道からやってきた風が俺の横を通り、柔らかく周りの草たちを撫でていく。その風は清々しく感じられた。
ここは「 ファンディ平原 」。俗に言う初心者の草原。
シュードさんは最後にここへ連れてきてくれた。
この場所にはモンスターが出現する。
案内がてら俺たち新米の旅人に戦闘訓練をさせようってのがここに連れてきたシュードさんの魂胆なんだろう。
数メートル先に数十体ほどモンスターが現れ出た。
少し小さい野牛のような姿をしているモンスターだった。
「皆、モンスターが出たぞ。焦らずに落ち着いて行動してくれよ。まずは二人一組でパーティーを組むんだ。メニューを開いてパーティー設定を選んでくれ」
シュードさんは早々と的確に指示を飛ばす。
その指示に従い、プレイヤー達はすぐにパーティーを組むために動き始めた。
俺もパーティーを組もうと他のプレイヤーに声を掛けようとするが、
「すみません、俺とパーティー組んでもらえま……」
「ごめん、もう組んじゃった」
「あっ、大丈夫です」
「すみません、俺とパーティー組んでもらえま……」
「あっと、今この人とパーティー組んでるから組めないです。ごめんなさい」
「あっ、大丈夫です」
既に違うプレイヤーとパーティーを組んだ人がほとんどだった。
全ての誘いを断られ、途方に暮れる。
周りのプレイヤー達は早速、挨拶がてら素早く自己紹介を始めていた。
一方俺はもう諦めの状態に入り、その人たちを羨むように眺めていた。
ぼっちになったのはしょうがないよな……。
そんな思いが頭を過ぎる。
しかし、そこでパーティーを諦めるのはまだ早かった。
もうそろそろモンスターとの戦闘が始まるだろうとした時、
「あの……私とパーティーを組みませんか?」
後ろから救世主の声がしたのだ。
更新は二週間に一度を目安としています。