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01-02 キャラ設定は飛行船の中で

とても読みにくい話になってしまいました。

 VR(仮想現実)―――。

 実際にはないコンピュータによってつくられたデータ世界のことを指す。

 数十年前までは空想の一つだったそれは、近年の脳科学技術の進歩により現実のものとなっていた。

 さらに初期にはVRを体験するには大型のマシンが必要だったが、数年前から家庭用ゲーム機の一部として小型のマシンが発売され、今では簡単にVRに手が届くようになった。

 小型のマシン一つで自分の世界とは違う世界に意識だけが飛べることが話題となり、VRは今世界で最も熱いトレンドの一つである。






 脳に白い光が広がるように俺の意識は覚醒した。


仮想空間接続(リンク)に成功したのかな)


 閉じられていた瞼をゆっくりと開く。

 するとそこは木造の電車の中のような場所だった。何列も続く長椅子が置かれ、床と壁、天井は頑丈そうな板に覆われている。

 もちろん電車っぽく、長椅子の横ごとにに窓が付けられていた。

 そして俺はその長椅子に座っており、手の上にはハードカバーの分厚い(マジで魔法書みたいな)本が開かれていた。


「今日は魔法書に縁がある日だなぁ」


 苦笑ものである。

 そのまま魔法書を眺めていると後方から高めの足音が聞こえた。足音はだんだんと近くなり、俺の横で止まる。

 首を捻って見てみると、赤色のベレー帽を被りピシッとした白いシャツを着ていた女性が立っていた。


「失礼します、お客様。私はこの船の係員のクリ―、と申します」


 金髪碧眼の係員、クリーさんは丁寧な口調で訪ねてきた。

 そしてクリーさんは結構美人だった。


「失礼ながら、お客様の素性を教えて頂けませんか?ただ今、乗船手形とご本人の確認を行っておりますので」


 キャラクター設定だろうか。

 俺は了承の合図に首を振った。


「それでは最初にお顔を拝見させてもらいます。あら、お客様は―――」


 会話が途切れた。

 すると手元の本が淡く光る。何かと思い覗き込むと、キャラクターモデルと幾つかの項目が本の紙面に浮き出てきた。

 キャラクターモデルは馴染みのある黒髪と紅目の中性的な顔立ちの少年の姿をしている。VRゲーム内での俺のキャラクターだった。

 このキャラクターは現実の俺と容姿はあまり変化は無い。変わっているところは紅目のところだけ。

 マシンが感知する脳波の関係により、現実の自分と容姿を80%以上同じにしなければ仮想空間接続(リンク)した時、感覚に違和感が生じてしまう。目の色だけしか変えていないのはそのためである。


 一通りキャラクターモデルを確認し終わったので、俺はモデルと一緒に出てきた幾つかの項目に目を移す。

 項目には、" 種族を選んでください "と書かれていた。


(そういえば種族システムがあるんだっけ)


 種族。英語にすると、トライブ。

 この世界には7の種族が住んでいるといった世界観になっており、プレイヤーはその中の一つの種族になってこの世界を冒険していく。

 七つの種族には種族ごとに個性があり、それぞれ違うスタイルで遊べるのだ。



 《人族(ヒューマン)

 斬新なアイデアと適応力で繁栄を続けてきた種族。

 能力が劣るところはなく、どんな役割でもそつなく熟す。

 容姿は特に変化なし。


 《森精人族(エルフ)

 精霊の血を受け継ぎ、森に暮らす神秘の種族。

 精霊と心を通わすことができ、魔法の力を司る。

 容姿は耳が長くなり、背が高くなる。


 《小人族(ホビット)

 妖精に好かれ、高い技術力を持つ小柄な種族。

 手先が器用で道具製作の技能には天賦の才を持つ。

 容姿は背が低くなる。


 《獣人族(ビースト)

 獣の精神を持ち、本能のままに生きる種族。

 素早い動きが得意で、第六感も兼ね備えている。

 容姿は獣の耳や尾が生える。


 《龍人族(ドラゴニュート)

 龍の血をひく、誇り高き種族。

 龍由来の強靭な身体と剛の力を併せ持つ。

 容姿は竜の鱗や尾が生える。


 《機械族(マキナ)

 堅甲な鋼鉄の身体に魂を宿した種族。

 持ち前の堅い装甲と高機動の駆動慣性が売り。

 容姿は体に装甲を纏う。


 《古人族(フィルマ)

 古代より浮遊大陸に住んでいたとされる種族。

 浮遊大陸文明より培った知恵を勝負に立ち回る。

 容姿は顔や体に謎の紋章が刻まれる。



 普通は能力や容姿などで悩むところ。だけど、俺はもう決めていた。


(俺は……この種族にするッ!)


 とある種族の項目を選択し、OKをつける。

 と、止まっていたクリーさんが動き出す。


「―――……お客様の種族は、古人族なのですね」


 俺が選んだ種族は古人族だった。知恵に秀でた、古人族。

 幾つかの種族を選べる中で、俺は何故この種族に決めたのか。

 それには、ある訳がある。それは―――


(古人族限定の紋章が格好良かったからッ!)


 ……それだけです、はい。






「プレイヤーネームかぁ。……えっと、大地(ダイチ)です」


 種族選択が終わりクリーさんが名前を聞いてきた。本に浮き出たプレイヤーネームの入力欄にプレイヤーネームを入力し、答えを返す。


大地(ダイチ)、様ですね。了解しました」


 俺の名前を繰り返しながらクリーさんがにっこりと微笑む。


「さて、これで本人確認は終了ですが、お客様、失礼ながらお客様の特技を教えて頂けませんか?お客様から何か、徒者ではないという感がいたしますので」


 ……この係員さんも徒者ではない。

 また本が淡く光る。今度は" スキルを五つ選んでください "と浮き出てきた。


 スキル制。

 このゲーム、Sky Field Onlineの大きな特徴の一つである。

 従来のMMOではよくレベル制を採用しているが、このレベル制はVRMMOには相性があまり良くない。

 レベル制のゲームはどうしても自分のレベルを上げるために、プレイヤーが経験値集めの効率化を図ろうとする。つまりは作業ゲー( 、 、  、  、)になる。

 そうした作業ゲーは自分の感覚を共有するVRゲームで行うと、長い時間同じことを自分の身体で何百回も繰り返す状態になり、精神的にも感覚的にもとてつもない苦痛になるのだ。ましてや現実のゲームでやる作業ゲーなんてまだ可愛いほどに。

 そうした状況があり、最近ではスキルに関連した行動を行えば行うほど能力が育つスキル制のゲームがプレイヤーには好まれてきている。

 Sky Field Onlineもその流れに乗ったようだ。


 さて、俺のスキルに話を戻そう。

 結論から言えば、最終的に俺のスキルはこのようになった。


<剣> <感覚> <栽培> <釣り> <採取>


<剣>は戦闘用スキルとして選択。他四つは、面白そうだからといった理由をもとに選んだ。

 面白いは正義、である。


(……まあ、ゲームは基本的に楽しむためのものだからね)






 それから能力値の設定、操作の設定などを行い、この世界での俺のキャラクターが完成した。

 キャラクターの詳細は以下の通り。



 《Status》

 プレイヤーネーム:大地

 種族:古人族 性別:男


 スキル:<剣Lv1> <感覚Lv1> <栽培Lv1> <釣りLv1> <採取Lv1>


 STR:Lv1 VIT:Lv1 AGI:Lv1

 DEX:Lv1 MND:Lv1 INT:Lv1



 キャラクターをつくり終わり、本から顔を上げるとクリーさんが隣に居なかった。いつの間にか前方に移動している。

 その場所でクリーさんは柱に備え付けてあったマイクらしきものを手に取り、大きく息を吸って話し始めた。


「ただ今乗船中の皆様にご連絡申し上げます。もうまもなく致しますと目的地、浮遊大陸アースに到着します。皆様、近辺のご自身のものをご確認ください。忘れ物がないようにお願いいたします。」


 もうそろそろ向かっている場所に着くらしい。気になったので窓から外を覗いてみた。


「どんなところ何だろ……う」


 絶句する。

 何故かと言うと、俺が宙に浮いていたから。いや、この場所が空を飛んでいた。

 俺は航空中の飛行船の中に居たのだ。

 船の下は何処までも白い雲が広がっている。その雲はずっと眺めていても穴が空きそうにないほど、厚く掛かっていた。


 そのまま外を眺めていると、遥か前方にうっすら緑色のものが見えてきた。

 それは近づいて来ているような気がする。


「目的地、浮遊大陸アースでございます」


 クリーさんのアナウンスが船内に響く。

 緑色のものの正体は今、飛行船が向かっているところだったらしい。

 そして窓の外では浮遊大陸アースがだんだんと飛行船に迫っていた。


「それでは皆様。この世界での自由な冒険へ、行ってらっしゃいませ」

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