第七章
マリー・マリスは夕食時に “朝露の薔薇亭”でメルトローズと落ち合う約束をして、このナインテイルを一人で歩き、情報収集を行う。
途中、何人かの男に声をかけられもするが、言葉巧みにかわし危険を回避していく。
この街ですでに何十年も生きているがゆえの処世術であった。
ここには不条理や悪徳が溢れかえり、善良な者、弱き者は淘汰されていく。一握りも掬って救えるか分からない場所。
かつて目指した者とは程遠いモノに成れ果てた自分は、掃溜めのようなこの街でいつか野垂れ死ぬのだと、マリーは確信している。
だから、マリー・マリスはこの街を愛している――――
GM では、マリーはザインと会って人身売買の報告をした。
/ザイン 「なるほど、やはりあの場所でやってやがったか……。詳しい場所も掴めているんだよな?」
マリー ええ、今夜にでも行くつもりよ。
GM/ザイン 「ふむ……だったら、こいつを持って行きな」と小さなピアスを投げてよこす。離れていても会話ができる〈通話のピアス〉だね。
マリー へぇ、つまりは現場を押さえれば後は任せてもいいわけ?
GM/ザイン 「もちろん。緩衝地帯とは言っても、証拠さえあれば“シルバーフォックス”も動ける。その後は、全部任せてくれてもいいんだぜ?」
マリー さあて、どうしようかね?(愉悦の笑み)
GM/ザイン 「ま、好きにしな。……ところで、メルトの奴はなにしてんだ?」
マリー 今頃、洒落たデートでもしてるんじゃないかね?
GM/ザイン 「はっはっは、マリー、フラれちまったか?(にやにや)」
マリー (鼻で笑って)はっ。そんなんじゃないよ。
GM/ザイン 「そうかい。……なんにせよ、これからもお前らが“シルバーフォックス”の良き協力者であり続けてくれることを願ってるさ」
マリー そうでありたいものだね。
*この後、路地裏の浮浪者から、行方不明者の“割のいい仕事”はコルネロ商会が仕切っている話を聞き出す。
マリー コルネロ……聞いたことがない名前だね。
GM/浮浪者 「なんでも、近頃この街でやってきて手広くやっている商人らしいでさぁ。まあ、それ以上のことはちょいと調べられなかったんですがね」
マリー ああ、結構よ。後はこっちで調べるから。
GM/浮浪者 「そうですかい。また、なにかありやしたら声をかけてくだせえ」
マリー (MAPを確認しながら)この後は、闇市場でコルネロ商会のことでも聞いてみるかね。
GM/闇商人 「(話を聞いて)コルネロ商会っていや、このナインテイルじゃ新規開拓組なんすわ。色々な組織に高額の上納をして、シマを超えて商売をしてるってんで有名でね」
マリー へえ、なるほどねぇ。この辺りだと、コルネロ商会の支店はあるのかい?
GM/闇商人 「支店ねぇ……ああ、思い出した。
確か、先月ここに来たサヴェイ商会――なんでも、コルネロ商会に多額の借金をしているらしいですわ。前にいた町で連帯保証とかに巻き込まれてね。そいつをコルネロ商会が買い取ったらしい。だから、この地区じゃコルネロ商会の支店の一つだろうね」
マリー へぇ……サヴェイ商会、ね。有用な話をありがとう(と、立ち去る)。
(ぽつりと)――――やれやれ、この街は本当に嫌な予感ばかり当たるね(苦笑)。
*一方その頃のメルトは、娼婦のアリエールとのデートも終わり、歓楽通りに戻ってきていた。
GM/アリエール 「(嬉しそうに微笑みながら)今日は楽しかったですわ。こういったお誘いは、初めてだったもので……また、宜しければ誘ってくださいね」と少し顔を赤めている。
メルト ああ、もちろん。アリエールさえ、よければいつでも(にっこり)。
GM ……メルトはリア充というより、ジゴロっぽいよね(笑)。
(メルト いやいや、みんなのメルトさんは今日も綺麗ですからっ!)
(マリー その綺麗な男は、ダブルブッキングを気にしていたわよね(笑))
GM (シナリオを見ながら)そんな感じでデートが終わると、歓楽通りでアーディリアが待っていた……ん?
一同 やっぱり、ジゴロじゃん!!?(爆笑)
メルト あれ、なんでアーディリアが?
GM/アーディリア 「(少しむくれながら)もーっ、メルトにお願いされた引き抜きの話っ! せっかく調べてきてあげたのにぃ。忘れちゃったのっ?」
メルト (目を泳がせて)……お、覚えていたよ?
一同 忘れてた!?(爆笑)
GM/アーディリア 「頑張って調べてきたのに忘れてただなんて、ひっどいなぁ」
メルト いやいや、ちゃんと覚えてたぞ。アーディリアは偉いなぁ(頭なでなで)。
GM/アーディリア 「(頭を撫でられて)うー……ま、いっか。
――でねでね、引き抜き話なんだけど。そういうのを受ける子って、弱い子か夢を持っている子なんだと思う」
メルト なるほどな、そういうのを相手も狙っているわけか。……でも、それだけじゃ探すのは難しくないか?
GM/アーディリア 「ううん、そうでもないんだ。
そういう子って、だいたい薬をやっている子が多いんだよ。知り合いに何人かいるし、これから会いに行ってみる?」
メルト 助かるが……いいのか? アーディリアも、そろそろ仕事だろ?
GM/アーディリア 「平気、へーき。それに、やっぱさ……そういう子を狙ってくる人とかって、あたし嫌いだし、許せないもん」
メルト そっか……。じゃ、悪いけど付き合ってくれるか?
GM/アーディリア 「うんっ」
GM では、少し薄汚い娼館までやってくる。そこで、アーディリアを通じて一人の娼婦と会える。
/薬物中毒の娼婦(以下、娼婦) 「(ぼんやりと)なにか用……?」
メルト あー、実は聞きたいことがあって。娼婦の引きぬき……。
GM/娼婦 「(遮るように)し、知らないわ! なんのことか私、知らない!」
メルト (苦笑しながら)……非常に分かりやすい反応をしてくれるんだが。何か知っているなら教えてくれないか?
GM/娼婦 「知らないって言ってるでしょ!? そんな話、聞いたこともないわ!」とヒステリックに叫ぶ。
メルト (少し考えて)……実は裏でやばい組織が動いているんだ。だから、うまい話を聞かされているなら、あんたは騙されている。
(安心させるように)俺はあんたの味方だ。よかったら力になるよ――――
GM/アーディリア 「うん、この人は信用できるよ。あたしが保障するっ」……って、やばい組織って何?(苦笑)
メルト いや、こう言った方が話してくれるかなと(笑)。
GM じゃあ、この後も二人で真摯(?)に説得して、娼婦も徐々に態度を軟化させてぽつりぽつりと話してくれる。
/娼婦 「……引き抜きの話を持ってくる男は、何度か来て、それで私に声をかけてきたの。もっと、いい場所で働きたくないか? って」
メルト なるほど、そういう誘い文句か。
GM/娼婦 「だ、だって……私、このままじゃもうダメなの。終わりなの……だから、次の場所ならうまくやれるかもって」
メルト 次ならか……(苦笑)。
GM/娼婦 「もうすぐ私、30過ぎるのよ? このままじゃ借金も返済できないし、娼婦の価値もなくなってきてるし……ねぇ、私はどうしたらいいの? どうしたら助かるの? 誰か助けてよ、私を助けてよ……私は悪くない。私はなにも悪くないのに」と泣きながらうずくまる。
メルト (なんとも言えない表情で)……。
GM/娼婦 「(ぽつりと)くすり……くすりが欲しい。せめて、くすりがあれば」とふらふらと棚の方へ歩いていく。
メルト ……薬で誤魔化せるなんて、一時のことだろうに。
GM/アーディリア 「(悲しげに)でも、その一時でもないと、生きていけないんだよ」
メルト そうなのかもしれないけど、な……。
GM/アーディリア 「みんな、ここではそうだから」と薬を飲んで幸せそうにしている娼婦を見て、どこか自分を重ねて見ている。
メルト アーディリア……。
GM/アーディリア 「ね、メルト。この子のこと、引き抜きを受けようとしてたって、“シルバーフォックス”には黙っていてくれないかな?」
メルト (しっかりと頷いて)ああ、もちろんだ。言わないよ。
GM/アーディリア 「ああ、よかった。メルトがそういう人で(ふわっと笑みを浮かべる)」
*この後、今夜も来るという男を捕まえる為に、マリーと合流してその男を捕まえる算段をする。そして、娼館で待ち伏せをする――――
GM (判定もなく)あっさりと、引き抜きを持ちかけた男を捕まえることができました。
/身なりのいい男 「わ、私は何も知らない! 本当だ!?」
マリー (冷たく)そういう事は、あたしらじゃなくて“シルバーフォックス”に言いな。
メルト (男を引き渡して)んじゃま、後は頼んだわ。
GM/“シルバーフォックス”の構成員 「御苦労さまです、マリーさん、メルトさん。(一転して、低い声で)まずは軽く唄ってもらおうか、おっさん」と地下へ連れて行く。
/身なりのいい男 「ひ、ひぃい!! た、助けてくれっ!」
マリー (肩をすくめて)馬鹿だね、このシマでそんなことをするなんざ自殺行為さ。
*10分もしない内に、その男がコルネロ商会の者だと白状する。そして、“シルバーフォックス”の後ろ盾も得て、メルトたちは人身売買が行われている場所へと向かった。